光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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いよいよ、原作主人公の胃がやばくなっていきます(Lv1)


エピローグ

 太陽が沈み、闇に染まる――夕闇の刻。まるで闇を体現したかのような少女が発した言葉は、テイルレッドを困惑させた。

 少女はレッドを真っ直ぐに見つめ、トゥアールと言った。何故、トゥアールを知っているのか。何故、自分をトゥアールと呼んだのか。そもそも、彼女は何者なのか。

 黒縁のアンダーリムと両肩を通して前に垂らされるツインテール。そのプレッシャーを発するは、只者ではない。

 背後にいるトゥアールに気配を向けるが、どうにもこっちも戸惑ってるようだ。

「君は……誰だ?」

 もう一度、問いかけた。するとダークグラスパーと名乗った少女は、少しだけ寂しげに瞳を伏せる。

「そうか、わからぬか……。だが、仕方あるまい。あの頃のわらわは手足も伸びておらぬ幼女であったからな。面影が見えぬも仕方ないこと」

 幼女。その言葉が出た瞬間、レッドの中に嫌なものが生まれた。一瞬だが、何かが見えたような気がしたのだ。具体的に犯罪の香りが。

「しかし、こうしてようやく貴女の愛を受け止められるようになったというのに、今度は貴女が幼女になってしまうとは……カムフラージュか、それとも世界移動の弊害か……どちらにせよ、皮肉という他あるまい」

 言うや、ダークグラスパーはそのマントを脱ぎ捨てた。そのしたに見えていた鎧が、白日の下に晒される。

「そ、それは……!?」

 光を帯びる筈がないのに輝いている純黒の鎧。畏怖さえ超えて尊大ささえ感じさせる力の結晶。それは紛うことなき――。

「テイル……ギア?」

「いいや。これは〈眼鏡装甲グラスギア〉。眼鏡を愛する力――眼鏡属性を宿した、最強の鎧。貴女のテイルギアをコピーして作ったのじゃ。ツインテール属性を使わなかったのは、偏に貴女への敬意ゆえ」

 グラスギア。ツインテール属性を使わない――同じ技術を持って作られた鎧。

「そして、今のわらわはアルティメギル首領直属の戦士――ダークグラスパーじゃ」

「っ……!?」

「もう一度言おう。わらわと共に来て欲しい。共に戦って欲しいのじゃ、トゥアール」

 魂さえ吸い込みそうなそのレンズには、テイルレッド――トゥアールだけが映っていた。

(――総二様。そのまま後ろに手を)

「………」

 囁くようなトゥアールの声。レッドは戸惑うふりをしながら左手を後ろに回す。そこに何かが置かれた。

(トゥアルフォンのボイスチェンジ機能を使います。総二様はこちらに合わせて一芝居打って下さい)

 分かった。と、小さく頷く。困惑の表情を浮かべながら口元に手をやり、唇を隠す。

「……どうして、あなたがこの世界に居るのですか……イースナ?」

 イースナ。レッドの声を借りたトゥアールがダークグラスパーをそう呼んだ。

「おお! やはり思い出してくれたか! そうじゃ、貴女の一番の信奉者であったイースナじゃ!」

「見かけだけでなく、性格も随分と変わりましたね。それもその、グラスギアとやらの影響ですか?」

「その通りじゃ。グラスギアを纏ったわらわは、貴女の隣に立って恥じることなき一流の戦士。本当のわらわ、デビューじゃ!」

 一昔前のコンタクトレンズな台詞を吐いて、ダークグラスパーは目をキラキラとさせ――いや、ギラギラかも知れない。

「属性力が喪失せずに健在だという事は、私達の世界が侵略される前にアルティメギルについたんですね?」

「………」

 ダークグラスパーが一転して表情を曇らせ、小さく頷いた。

「でも、どうやってテイルギアをコピーしたのです? この技術は私のオリジナル。アルティメギルが有している筈がないのに」

「それは我が愛じゃろう。ずっと……ずっとずっとずっとずっとずっと、トゥアールを見ておったからのう。見続けている内、眼鏡に不思議な力が宿っておった。そしてその眼鏡を変身ツールに改良した。つまり、この神眼鏡(ゴッドメガネ)を!」

「………」

 神眼鏡。絶妙に微妙なネーミングセンスだと総二は思った。もしかしたら、異世界では標準のセンスなのだろうか。

「わらわにも教えてくれ。どうして貴女は幼女になってしまったのじゃ? あれから一体、何があったというのじゃ!? 確かに、貴女が幼子を愛する戦士であったことは世界中が知っておった。じゃが、だからといってどうして……?」

「……あの日。世界が侵略され尽くした後のことです」

 トゥアールが神妙な声で語り始めた。レッドも合わせて辛そうな表情を作る。いや、ある意味では本気かも知れない。トゥアールの想像を超えた幼女マニアぶりにドン引き、という点では。

「自分の世界を守れなかった私は、贖罪の意味も込めて、自分の愛した幼女の姿になることを選びました。そうして他の世界を守ることで、罪滅ぼしをしたかった。でも、小さな体に変わっても、私はそれを受け入れてしまっていた……むしろ、悦んでさえいた!」

 トゥアールの法螺話にレッドはちょっとだけ共感してしまった。ちょっとだけ、ちょっとだけだ。本当に先っちょだけだ。

「でも、そうして幼女の体を受け入れてしまった時、私は元の姿に戻れなくなってしまったのです。もう、あなたの知るトゥアールは死んだ……死んでしまったのです!」

 レッドは反省した。ずっとはダメだ。やはり人間、メリハリが大事だ。

「何じゃと……!? では、おっぱいは? あのそそり立つような二つの美山は何処に行ってしまったのじゃ!?」

「逆ですイースナ。体がオッパイを拒絶したのです。オッパイは……時空の彼方に消え去りました」

「何じゃとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 凄いトンデモ話だ。だが、ダークグラスパーはそれを信じて絶叫している。

「そういう訳ですので、私のことはもう忘れて新しい恋でも見つけて下さい」

「な、なんの! ならばわらわがおっぱいを取り戻す! なんならわらわのおっぱいをやる!」

「私が膨らんでないのが好きだって知ってるでしょう?」

「ぐぬぬ……!」

 なんだこれ。最初の緊張も何処へやら。レッドはチラリと後ろを見てしまった。視線の先――ブルーの方へ。何故、そっちだったのか、それはきっと神の悪戯だ。

「……時に、トゥアールよ。そこに倒れている女は何故、貴女の前のギアを着けてるのじゃ? 一瞬、青いアイロン台にテイルギアが着せてあるのかと思ったぞ?」

「ああ。その辺の貧乳にテイルギアをくれてやる事で、嘗ての未練を断ち切ったのです。太陽と豆電球みたいな差を見れば、センチな気持ちなどなくなりますからね」

「むむ……なんという潔さじゃ」

(一瞬、すごい殺気を感じたんだが……)

 意識を失っている筈だよなと、もう一度ブルーを確認するレッド。パッと見、変化は――コンクリートが、指でえぐれていた。

「………」

 見なかった事にした。

「とにかく、もう私のことは忘れて下さい。今のあなたなら引く手数多ですよ」

「いいや!」

 ダークグラスパーがスマートフォンを取り出す。劣化の度合いからして相当に使い込んだもののようだ。

「これに登録された、たった一つのアドレス……貴女は世界を離れた時に捨ててしまったようじゃが、わらわのものは前のままじゃ。どうか、今のアドレスを教えてくれぬか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――沈黙。まるで世界が音を拒絶したかのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワタシイマ、ケイタイ、モテナイデス」

 ここに至って、凄い陳腐な大嘘であった。レッドの手にある物が凄い重い。

「バカな!? トゥアールが携帯を持っておらぬじゃと!? 幼子にアドレスを配り周り、写メを送って欲しいと懇願していた貴女が!? 皆、貴女に気に入られようと必死になり、挙句に過激な自d」

「うぼっふぉんえぇええええええっふあぁああああ!!」

 デロデロの痰でも絡んだサラリーマンですらしないような咳払いが、ダークグラスパーの言葉を上書きした。

「違います何言ってるですかあれはあれですよそう一種のケアですよケアお姉ちゃんはいつでもあなた達のそばにいるよってそういうアレですから決してやましい理由があるわけじゃないんですからね勘違いしないで下さい!!」

 必死に言い訳するトゥアール。だが、その相手はどうにも違うように聞こえたなら、きっとそれは正しい。

「とにかく! 今の私はただ戦うだけ……心のケアなど、おこがましいにも程があるのです!」

「それでもわらわは! 遠慮などしないで欲しいのじゃ。貴女のためならば24時間365日何時如何なる時でも三分以内に返信すると誓う! 今度はわらわに貴女のケアをさせて欲しいのじゃ!」

「それ以上言っても無駄です。今のあなたにアルティメギルを今すぐ止めて欲しい。そう説得するのと同じように」

「うぐ……! そこまでの決意……ならば今日はここまでにしよう。――もう一つ、済ませねばならぬ用があるのじゃ」

「もう一つの……用?」

 

「――眼鏡!」

 

 突如、ダークグラスパーの眼鏡が光った。同時に工場のドーム状の天井が爆発を起こした。

「なっ……!?」

 何が起こったのか。レッドも、その後のトゥアールも、爆発の方へと視線を送った。

「いつまでコソコソと隠れているつもりじゃ。我が神眼鏡が気付かぬと思うてか?」

 ダークグラスパーの瞳が敵意に細められる。同時に立ち昇る鬼気。今まで見せてさえいない、敵意を剥き出しにする。

 

 

「――ほう、気が付いていたのか。その眼鏡、伊達ではないという事か」

 

 

 爆煙の向こうから、揺らぐ影が現れる。闇の対極――光を纏った騎士だ。それを見据えたダークグラスパーの口元が半月状に歪む。

「この感覚……ようやく逢えたのお……ナイトグラスター」

「この眼鏡の疼き……やはり貴様か、ダークグラスパー」

 

 光と闇。相反する眼鏡の輝きを持つ者同士の邂逅は、黄昏の中から始まった。

 




光と闇が合わさって最強に見える。

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