光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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今回で2巻のメインは終わりですね




 世界中を繋ぐネットワークは、今や情報をリアルタイムで共有させ、地球という場所を小さくした。

 解放された情報の濁流を止める術などもはやなく、世界中が知るところとなった。そして、その当事者達は――。

 

「…………」

「あんな……私はやっとヒーローになれると思ったのに……あんな、あんな痴態を世界中に………」

 

 放課後の部室。慧理那と鏡也はお互いに隣り合って顔を伏せていた。尊は職員会議で不在だ。

「しかし、凄い反響だわ……悪い意味で」

 ニュースの国会中継映像では総理がさんざん責められている様子が映されていた。テイルブルーに続きテイルイエローが現れたせいで、テイルレッドが危険だとか、そもそも何故ツインテイルズなのかとか……愛香が、国会に襲撃しそうな程に殺気を漲らせたとか、それはもう大変な事態だ。

「これなんて物凄いですよ、ほら」

 

『ひぃいいん! きゃいいいいん!』

 

「きゃああああ!」

 空間モニターいっぱいに恍惚の顔をしたイエローが映し出され、慧理那が慌てて隠そうとした。

「うぅ……穴があったら入りたいです」

「慧理那さん。穴は入る場所ではなく入れてもらう場所ですよ?」

 トゥアールが手近な穴――ゴミ箱に顔面を突っ込まされた。

「大丈夫よ、会長! 一緒にダークヒーローとして頑張りましょう!」

「何で慧理那さんには優しい言葉を掛けるんですか!? あと愛香さんはダークヒーローというよりも邪悪そのものじゃないですか!」

 ゴミ箱から復活したトゥアールが、再びゴミとして処分された。

「はぁ……何でこんな事に」

 今朝から鏡也の周囲はそれはもう大変だった。家では天音に「責任をもってとはいったが、こういう意味じゃない」とそれはもう怒られた。末次も自分の教育が間違っていたかと悩みもした。

 そして学校に来れば来ればで、視線の刺さること刺さること。針の筵という言葉はこういう時に使うものだと、嫌というほど思い知らされた。

「ネットでも凄いですからねぇ……ほら」

 トゥアールがノートPCを開いてあるページを見せた。よくあるネット掲示板の纏めスレッドだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

No,223:名無しのツインテール

 

新戦士テイルイエロー登場。しかしまさかのドMww

 

 

No,224:名無しのツインテール

 

最初はかっこよく登場したのに、見事にヘッポコだったな。だがその後のスパンキングで覚醒するとは・・・素晴らしいMっぷりだ。

 

No,225:名無しのツインテール

 

せっかくブルーと違ってまともなのだと思ったのに、がっかりだよ。公衆の面前でアヘ顔晒すとかありえんわ。

 

 

No,226:名無しのツインテール

 

いや、だが考えようによってはブルーと違って見るところがあるだけでも。

 

 

No,227:名無しのツインテール

 

>226

確かに眼福ではあったな。

 

 

No,228:名無しのツインテール

 

取り敢えず拝んでおこう(-人-)

 

 

No,229:名無しのツインテール

 

ナムナム。

 

 

No,230:名無しのツインテール

 

ナムル

 

 

No,231:名無しのツインテール

 

ナムル美味しいよね。個人的にはユッケと一緒に食べるのが好きだ

 

 

No,232:名無しのツインテール

 

ここは焼き肉スレじゃないぞww

 

 

No,233:名無しのツインテール

 

美味しそうな肉はあったがな(キリッ

 

 

No,:234名無しのツインテール

 

ああ、美味しそうだったな。良い胸肉だった。A5相当だな

 

 

No,235:名無しのツインテール

 

胸など尻の代わり・・・だ。

 

 

No,236:名無しのツインテール

 

校長帰れよww

 

 

No,236:名無しのツインテール

 

校長はさておき、ブルーといいイエローといい、どうしてまともなのが少ないんだ?

 

 

No,237:名無しのツインテール

 

レッドたん以外にいたか、まともなの?

 

 

No,238:名無しのツインテール

 

ナイトグラスターとか

 

 

No,239:名無しのツインテール

 

あぁ・・・まとも、というか微妙に影が薄い?

 

 

No,240:名無しのツインテール

 

眼鏡だから透けているんだろ?

 

 

No,241:名無しのツインテール

 

実際まともそうだけど影薄いよな。あんま出てこないし

 

 

No,242:名無しのツインテール

 

イケメンわ氏ぬべきだと思う

 

 

No,243:名無しのツインテール

 

嫉妬乙

 

 

No,244:名無しのツインテール

 

流れぶっただけど、例の男子についての話聞きたい奴居る?推測かなり入るけど

 

 

No,245:名無しのツインテール

 

ほう。気功ではないか

 

 

No,246:名無しのツインテール

 

オーラパワーは引っ込めておけ。存分にどぞ。つ④

 

 

No,247:名無しのツインテール

 

支援ありがとう。前のスレでテイルレッドが来た時の話があったろ?

 

 

No,248:名無しのツインテール

 

というとこれか? つ『テイルレッドを語るスレ14~20』

 

 

No,249:名無しのツインテール

 

一日でスレが7つも一気に埋まった伝説のあれかw つまりそれの続きということか・・・wktk

 

 

No,250:名無しのツインテール

 

支援サンクス。テイルレッドが例の男子・・・仮にK としよう。Kとの話の中で仲間はすぐに来るってしていた。それで来たのがブルーとイエロー。

 

 

No,251:名無しのツインテール

 

ブルーは比較的早かったが、イエローはもっと遅方だろう?

 

 

No,252:名無しのツインテール

 

まあまあ焦るな。ここは初めてかボーイ?

 

 

No,253:名無しのツインテール

 

実はブルーとKは接触していたらしい

 

 

No,254:名無しのツインテール

 

mjk!? ここに来てとんでもない情報だな

 

 

No,255:名無しのツインテール

 

これ祭りの可能性があるな。総員、まな板を用意せよ。

 

 

No,256:名無しのツインテール

 

※このスレはテイルブルーに監視されている可能性があります。書き込みには十分注意して下さい

 

 

No,257:名無しのツインテール

 

>256

なにそれこわい

 

 

No,258:名無しのツインテール

 

>255

生き急ぎやがって・・・。

 

 

No,259:名無しのツインテール

 

続き。

どうやらブルーとの接触は上手く行かなかったらしい。となれば次は身長にならざるをえない。

所で話が変わるが、Kの家は相当のお金持ちらしい。一等地にデカイ一軒家があり、学校も小中高大一貫。

 

 

No,260:名無しのツインテール

 

お、何やらきな臭さが漂ってきたぞ。

 

 

No,261:名無しのツインテール

 

金持ちってことは、色々用意も出来るわけ。例えば誰も来ないような郊外のごログハウスとか、誰にも声が聞こえない地下室とか

 

 

No,262:名無しのツインテール

 

おいおい。シークバーがMAX目前じゃないかww

 

 

No,263:名無しのツインテール

 

SEEKと飼育を掛けるなww・・・・それで?

 

 

No,264:名無しのツインテール

 

テイルイエローはあの見た目ですし、性格も生真面目っぽかったでしょう?Kにとっては騙くらかしやすい、丁度良いい相手だったでしょうね

 

 

No,265:名無しのツインテール

 

おい、ちょっと待てキ◯ヤシ。まさかお前が言いたいことって・・・

 

 

No,266:名無しのツインテール

 

そう! つまりテイルイエローはずっとKによってドMにTKされていたんですよ!

 

 

No,267:名無しのツインテール

 

ΩΩΩΩω<ナ、ナンダッテーーーーーー!?

 

 

No,268:名無しのツインテール

 

キタ---------!

それなら確かに、イエローが遅かった理由もあのリアクションも説明がつくな

 

 

No,269:名無しのツインテール

 

まじかよK、絶対にに許せねぇ!!

 

 

No,270:名無しのツインテール

 

>267

変なの混じらせるなww

しかし、とんだ名探偵がいたものだ。一部の隙も見当たらねぇ。

 

 

No,268:名無しのツインテール

 

(*´ω`*)<これは祭りだな

 

 

No,269:名無しのツインテール

 

>268

たとえ祭りでもその顔文字は流行らないし流行らせない

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「………これはひどい」

 書き込みを見た総二は思わず呟いた。そして鏡也はキーボードをおもむろに押した

 

『つ』

『つまりテイルイエローは』

 

「お前の自演じゃないか」

「あぁあああああああああああああ! どうして速攻でバレるんですかぁあああああああああああああ!?」

 パイプ椅子に貼り付けにされ、逆さで壁に立てかけられるトゥアール。だがそんな事をしても無意味だ。

「あんまり気にするなよ鏡也?」

「そう思うなら、お前も自分の顔晒してみろ。ただでさえ色々言われてるのに、女の尻を叩くのが趣味な変態扱いだぞ?」

「だったらしなけりゃ良かっただろう?」

「そんな事言われても……あの時は、自然とそうしていたというか」

「総二様、それは無理というものです」

 総二のもっともな意見を、帰ってきたトゥアールが否定した。一体どういうことかと問う総二に、得意げに説明を始めた。

「総二様。総二様は目の前にツインテールが落ちていたなら、それを無視できますか」

「出来るわけないだろ!」

「そう。出来ないのです。総二様がツインテールを無視できないように、鏡也さんがドMの慧理那さんを無視することなど出来る訳がないのです! 磁石のSとM……ではなく、SとNが強く引き合うように!」

「言おうとしている事は分かるけど、その喩えがおかしいと思わないの、そーじ!?」

 ツインテールに喩えれば、全てを理解してしまう総二を、愛香が必死に止める。こういう時に率先してツッコミを入れる鏡也は、絶賛役立たずだ。

「これは推測ですが、鏡也さんと慧理那さんの属性力は元々、共依存の関係にあったのではないでしょうか? 子供の頃から一緒であったようですし、お互いの素養が属性力となったか……それとも、片方の属性力がもう片方の属性力を生むに至ったのか」

 考えるだけなら幾らでも出来るが、あまり意味のないことだ。大事なことは、二人の属性力が相互関係にあるという一点だ。

「今後のことはさておいて」

「さておいていい話じゃないでしょ!? むしろそこ大事だから!」

「今の一番はこの世界に侵攻しているアルティメギルの部隊ですね。戦力が整った今なら、どうにか出来るでしょう。次こそ、決戦です!」

 一人が役立たずなせいでツッコミの負担が愛香一人に伸し掛かる。だが、今の愛香など恐れるに足らずと、トゥアールが華麗にスルーする。

 

「……あの。一つ聞いてもよろしいですか? 鏡也君にもあるのですか……属性力?」

 

「「「「…………」」」」

 思わず言葉が止まった。すっかり忘れていたが、慧理那はナイトグラスターどころか、鏡也の属性力についても説明していないのだ。

 鏡也は慎重に言葉を選びながら、説明した。

「あ……えっと、俺が使ってる剣は知ってるよね?」

「はい。テイルレッドをサポートしている……トゥアールさんに作ってもらったものですわよね?」

「そう。あれも属性力の武器なんだ。変身はできない、残念ながら変身はできないけど、あれを使える程度には属性力があるんだ」

「そうだったのですか。私はてっきり、もしかして鏡也君がナイトグラスターなのかと思ってしまいましたわ」

「いや、そんな訳無いでしょう? だって、鏡也にはそんな属性力ないし……ねぇ?」

「そうだぜ、会長。ナイトグラスターはトゥアールと同じように別の世界から来たんだ。鏡也な訳ないじゃないか」

「それもそうですわね。ごめんなさい」

 どうにか慧理那も納得したようで、皆揃って安堵の溜息を吐く。特にトゥアールは正体バレ=即アポンなので気が気ではない。

「総二。俺は暫く、部から離れる」

 鏡也がやおら立ち上がり、そう宣言した。唐突過ぎる話に、全員の視線が鏡也に集まる。

「ど、どうしたんだいきなり?」

「自分をコントロール出来ない状態では、何があるか分からないからな」

 床に置いてあったカバンを引っ掴んで、出口に向かう。

「それにこれ以上、自分の名誉を貶す訳にはいかない」

 それは余りにも切ない一言だった。誰も何も言えない。ネットで悪評渦巻く渦中にある以上、さっさと75日が過ぎて欲しいと願わずにはいられない。特にブルーと違って生身なので。

 ――その時、けたたましい警報が鳴り響いた。

「これは……エレメリアン反応です! 以前に現れたリヴァイアギルディとクラーケギルディのようです。場所は……町外れの工場跡ですね」

「何だってそんなところに?」

「恐らくは相手もここで決着を着けるつもりなのでしょう。皆さん、出撃を!」

「良し、ツインテイルズ出動だ!」

 総二の号令の元、ツインテイルズが変身する。転送用カタパルトの偽装であるロッカーが開き、そこに光が満ちる。

「鏡也君はここに居てくださいね。今回は危険ですから」

「分かってるよ」

 テイルイエローは鏡也にしっかりと言い聞かせ、光の中に飛び込む。

「取り敢えず、向こうで合流しよう。じゃあな」

「分かった」

 慧理那がいなくなったので、改めて合流の確認をしてからテイルレッド、テイルブルーが転送カタパルトに飛び込んだ。

「よし、転送位置を変えてくれ。俺も出る」

「わかりました。座標を少し変更して……と」

 トゥアールが座標を三人から若干離れた場所に定め、鏡也も変身を――。

 

「すまない、遅くなった」

 

「「っ―――!!」

 驚きの余り、トゥアールはロッカーを閉めて鏡也も眼鏡を外した。間一髪。本の数秒の違いがあれば、ここは修羅場と化していただろう。

「どうしたのだ、二人共? お嬢様は?」

 乱入者――桜川尊は首を傾げた。

「ね、ねえさんたちは……アルティメギルが出現したんで出撃しましたよ」

 人生最大の動悸と動揺を抑えつつ、鏡也はそう答えた。尊は厳しい顔をする。

「大丈夫なのか? 前の事といい……お嬢様は戦えるのか?」

「それは問題ないと思います。私達も基地に移動しましょう」

 額の脂汗を拭いつつ、三人は転送カタパルトで基地へと移動するのだった。

 

『……ということで、俺達は基地からそっちをモニターする。油断するなよ?』

「分かった。3対2だし、なんとかなるさ」

 尊のせいで鏡也が出撃できないことを暗に伝え聞くと、レッドはそう答えた。そして、目の前に立つ強大なオーラを漲らせる二体のエレメリアンに向いた。

「いつぞやの決着……今日こそ付けようぞツインテイルズ!」

「姫よ! 今日こそは我が愛を!」

 リヴァイアギルディが手にした鉄塊を振るい、クラーケギルディは全身からまたもや触手をウネウネと出した。その瞬間、ブルーが短い悲鳴を上げた。

「くそっ!」

 レッドはブルーを庇うように前に出る。だが、その瞬間クラーケギルディが動いた。

「幼子よ、今は引っ込んでいよ!」

「なっ――うわぁ!?」

 鞭のようにしなって切り離された触手が、まるで自我を持っているかのように飛翔する。不意を突かれたレッドはそれを回避できず、全身を絡めとられてしまう。

「うぐ……! 何だよこれ! ヌルヌルで、固くて、なのに微妙に弾力があって……千切れない!?」

『むはー! いいですよその表情! 触手に絡め取られて悶える幼女! これはもう4K画質で即保存ですよ!』

 通信越しの酷い声に、酷い音が重なった。硬いもので頭を殴られたような音と、その衝撃で固いところにぶつかった様な音だ

「レッド、大丈夫ですか!?」

「よそ見をしておる場合か!」

「っ――!?」

 イエローの真上から、巨大な影が迫った。反射的に飛び退いたその場所を、リヴァイアギルディの鉄塊が粉砕した。

「そんな重そうな武器を持って、なんてジャンプ力ですの」

「ふん。新たなる戦士よ。貴様に、その見事なる巨乳に相応しいだけの力があるか?」

 鉄塊を突きつけ、リヴァイアギルディがギラリとその牙を光らせる。

「いいですわ。それを今から証明して差し上げますわ! ヴォルティック・ブラスター!」

 イエローがフォースリヴォンを叩き、雷光の銃を抜き放つ。銃身にはツインテールの力が満ちており、以前とは輝きが違った。

「行くぞ、テイルイエロー!」

「勝負ですわ、リヴァイアギルディ!」

 

「ごめんイエロー! 相手変わって――――!!」

「どうして逃げられるのですか、姫――――!!」

 

「え? え?? ちょっと、ブルー!?」

「クラーケギルディ! 真面目にやらんかあああああ!!」

 いざというその時、ブルーがその背に抱きつくように隠れた。更にそれを追いかけてクラーケギルディまで向かってくる。

 イエローは虚を突かれて戸惑い、リヴァイアギルディはまたもや暴走したクラーケギルディを蹴り飛ばしていた。

「貴様、またしても姫との邪魔を!」

「少しは冷静になれ! 我らの立場を忘れたか!?」

「っ……! そうだった。今の我らはもう引く道なきと定めて、この戦場に赴いたのだったな」

「不退転。それが今の我々だ。いつまでもまな板のような貧乳にうつつを抜かしているな」

「まな板だと? リヴァイアギルディ、貴様にはあれがそう見えるというのか!? あの、エメラルドのようにつややかな平坦を!?」

「エメラルドでもタイルでもどちらでも構わん。平らであることに違いはあるまい」

「大違いだ! 貧乳とは自然力学にも通じる、自然の造形美だ! 空気抵抗を考えれば、なだらかさを追求していくことになる! つまり、貧乳こそが自然の摂理なのだ!」

「いい加減にしろ! 古来より山々を神として敬うように、巨乳こそ神が生み出し給うた芸術だ! ………いや、今はそんな話をしている時ではない。話の続きは、この戦いの後だ。よいな、クラーケギルディ?」

「むう……承知した」

 エキサイトした二体の論戦は一時休戦となった。改めて、二体はブルーとイエローに向かった。

「仕切り直しだツインテイルズ。巨乳とツインテールの為、お前達に勝つ!!」

「姫! たとえどれだけこの思いを否定されようとも、あなたへの愛を貫き通しましょう。我が触手と、世界一の美しさを持つ――その貧乳にかけて!!」

 

「………っさい」

 

「え?」

「む?」

「ぬ?」

「……ブルー?」

 ゆらりと、ブルーが前に出た。だが、その姿は正気とは思えない。ウェイブランスも抜かず、ダラリと両手とツインテールを下げたままだ。

 小さく呟かれた言葉を聞き取れず、その場の全員が揃って首を傾げた。そして――悲劇が起きた。

 

「貧乳貧乳うるせぇんじゃボケがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 全身からツインテールのオーラを噴き上がらせ、ブルーがクラーケギルディに跳びかかった。

「姫! お止めくだださい! 姫!?」

「退けい、クラーケギルディ!」

 反応の遅れたクラーケギルディを突き飛ばし、リヴァイアギルディが割って入る。

「ぬう!」

 ブルーの貫手を喰らったリヴァイアギルディの手から鉄塊が零れ、その巨体が地面をこするように滑っていく。

「うがぁあああああああああああああああああああああああ!」

 間髪入れず、ブルーがリヴァイアギルディに襲いかかった。その姿、正に猛獣。

「凄まじい力……ならば、我が槍を受けてみろ!」

 リヴァイアギルディはその体に巻きつけていた触手を解放した。

「それ、もうちょっと後ろに付けられなかったのかよ!?」

 レッドは思わず叫んでいた。何故ならリヴァイアギルディの触手は股間から生え、そそり立っていたからだ。

「我が槍の冴え、刮目せよ!」

 リヴァイアギルディの槍が凄まじい速度でブルー目掛けて繰り出される。触手を苦手としているブルーがこれを躱すことは――。

「何――っ!?」

 紙一重でブルーはそれを躱した。怒りが恐怖を完全に駆逐し、触手を物ともしない羅刹へを進化させていたのだ。

 リヴァイアギルディは槍を一瞬で引き戻し、その凶悪な攻撃を連発する。突き出し、引き戻しをそれぞれの勢いさえ利用して繰り出される連撃は、さながら連射される大砲だ。だが、その尽くをブルーは躱していく。

「ぬうん!」

 渾身の力を込めた一撃。ブルーはそれを躱しや、躊躇なくそれを掴んだ。そして雷を握り潰すかのように握撃。そのまま一気に引っ張る。

「ぐおおお!?」

 リヴァイアギルディの体が宙に浮く。其処に繰り出されるブルーの鉄拳。

「貧乳で悪いか貧乳がなんだ誰が貧乳の星のプリンセスだぁああああああああああああああああ!!」

「落ち着けブルー! そっちは貧乳貧乳言ってない方だぞ!?」

 レッドの制止もしかしブルーには届かず。ブルーの無惨無慈悲無情のラッシュが叩きこまれていく。

「ダラララララララララララララララララララララララァアアアアアアアアアア!」

「ぐほばぁああああああああああああああああああ!?」

 渾身の神の手の一撃(ゴッドハンドスマッシュ)を喰らったリヴァイアギルディが吹っ飛び、工場の壁に盛大にめり込んだ。

「リヴァイアギルディ――!」

「がふっ……小が大を兼ねられぬように……貧は巨を兼ねられぬのだ……だから……ひげ……きが」

 ガクリと、リヴァイアギルディの頭が落ちた。そしてブルーもまたその力を使い果たし、その場で倒れてしまった。

「リヴァイアギルディ――! ……くっ、私はなんと愚かなのだ! 敵を姫と讃え、本質を見失い、戦友を失った……この身の何と愚かなことだ!!」

 慟哭とともにクラーケギルディが腰の剣を抜く。

「リヴァイアギルディよ。我が貧乳の剣にかけて誓おう。奴らのツインテールを必ずや手中に収めると!」

 全身からオーラを漲らせ、空気さえひりつくような殺気とともに、クラーケギルディの触手がうねりを上げる。

「行くぞ、ツインテイルズ! 今の私は悪魔よりも恐ろしいと知れ!」

「ならばこちらも、正義の力を思い知らせて差し上げますわ!」

 その前に立ち塞がったテイルイエローが、背後のレッドに向かい、言う。

「レッド。ここは私に任せて下さい。ブルーの、異形に身を貶して尚、正義を貫こうとする心、感銘を受けました! ならば、私も負けてはいられません」

「いや、出来るならこの触手を取ってから――」

「行きますわよ、クラーケギルディ!」

 号砲一発。戦闘が始まる。イエローが一気に駆け出す。

「何で距離を――はっ!?」

 射撃型だから、遠距離でと思わせての不意打ち。クラーケギルディもその動きを読み切れず、接近を許してしまう。結果、触手を自在に振るえず、その剣で対応せざるを得ない。

 リヴァイアギルディと同じように触手を武器にするクラーケギルディはこれだけで戦闘力を大きく殺された。

「ぬう!」

「はぁああああ!」

 直線攻撃のイエローには自爆など注意の必要もない。トリガーを引けばどの距離でも威力は同じだ。至近距離の攻防は、クラーケギルディが触手を使って大きく後退することで終わる。

「やるな。だが、我が触手の真なる力を思い知れい!」

 全身全ての触手を広げ、それらが一斉にイエロー目掛けて襲いかかる。躱すにも防ぐにも、その数は多く、鋭い。

「ならば道は一つ!」

 イエローが両足のスタンスを広げた。そしてツインテールが地面に伸びて突き刺さる。

「ツインテールがアンカーになった!?」

「見せますわ、全力全開の――私の全てを!!」

 全身の火器を展開し、一斉砲撃を放つテイルイエロー。触手のそれを遥かに上回る大火力が、爆炎を巻き起こす。

「バカな! 我が触手が……!?」

「今だイエロー! お前の全部を叩き込んでやれ―――!!」

「承知しましたわ、レッド!」

 そう叫んだイエローが、全身のアーマーをパージした。そしておもむろに、ヴォルティック・ブラスターを宙に向かって放り投げた。その銃身に収まるかのように、全てのアーマーが合体した。

「オーラピラー!」

 主砲以外の全砲門から一斉にビームが発射された。それは螺旋を描いてクラーケギルディを襲い、爆発とともに光の結界に閉じ込める

「う、動けん……! これがオーラピラーか……!!」

 もがくクラーケギルディ。イエローがツインテールを利用して跳躍する。

 その背中に向かって、主砲から強大なエネルギーが放たれた。

 

「ヴォルティック・ジャッジメント―――――!」

 

 金色の雷光に包まれたイエローの姿は、まるで雷神であった。放たれた豪雷はイエローのキックと共にクラーケギルディを粉砕した。

 最後の最後――ラストブレッドはイエロー自身だったのだ。

「がは……! 巨乳なぞに……我が剣が……ぁああああああああああああああああああああああ!」

 爆発の中に散る、貧乳の騎士。残されたのはその結晶たる属性玉だけだった。

「はぁ……はぁ。やりましたわ、レッド……っ」

 ガクリと膝をつき、その場に倒れてしまうイエロー。あれだけ苛烈な攻撃を連発したのだ、ブルーと同じく力を使い果たしてしまったのだろう。

「……しかし、俺って今回、何にもしてないな」

『いいんじゃないか、たまには』

 通信越しに聞こえる鏡也の言葉に、レッドは思わず――。

「何――!?」

 突如として、体に巻き付いていた触手が飛んだ。それはリヴァイアギルディの元に飛び、その頭部に融合した。

「あいつ、まだ生きてたのか!」

『総二様、敵から今まで以上の属性力を感知しました! 気を付けて下さい!』

 言われるまでもなく、レッドがその肌で感じ取っていた。

「まさか、触手でツインテールになるとはな」

「「流石はドラグギルディ、そしてフマギルディを退けた戦士……我が最後の命の輝きをもって、相手をしよう!」」

 リヴァイアギルディとクラーケギルディ。二つの声が交じり合って響く。

「っ――!」

 襲いかかる触手ツインテール。ブレイザーブレイドで一瞬受け止めようとしたレッドだったが、触手とはいえツインテールを傷つけることを躊躇し、その一撃を喰らってしまう。

「ぐあぁあああ!」

『総二、しっかりしろ! あれはツインテールじゃない!』

「あ……あれはツインテールじゃない……?」

『そうだ。ツインテールとはなんだ? 髪型だ! アレは髪じゃない!!』

「……そうだった。ツインテールは……髪型だ。あいつのアレは髪じゃない!」

 尚もくるツインテール触手を切り払うレッド。だが、その強度も上げた触手は、剣撃さえ物ともしない。

「これだけの力……最初から力を合わせてりゃ、やばかっただろうにな」

「「巨乳と貧乳……相容れぬ。それは別の存在なのだから!」」

「同じ胸だろうが! 俺はどんなツインテールだって愛する! 個人個人の違いがあっていい。それさえ、ツインテールなんだから!」

「「それだけの高みに誰もが居るわけではない!」」

「人間を舐めるんじゃねぇ!!」

 襲い来る触手を躱し、弾き、防ぎ、カウンターを叩き込む。その鋭い一撃がリヴァイアギルディをふっ飛ばした。

「「貴様は知った筈だ。世界の真実を! 容易くゆらぎ、踊らされて生み出される属性力を! その儚さを! なのにどうして戦える!?」」

「分からないのか?」

 レッドはブレイザーブレイドを正眼に構える。

「――だから、戦うんだ!」

「「理解できぬ! 我らと違い、属性力を失っても生きていける人間が、その生命を秤にかけてでも戦う理由とは何だ!?」」

 三本の触手を全力を込めて飛ばすリヴァイアギルディ。それらを躱し、エクセリオンブーストから炎を噴出させ、レッドが空に舞い上がる。

「そんなの――秤にかけようがないんだよ! オーラピラー!!」

「うがぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 炎の螺旋が海魔を封じ込める。そしてブレイザーブレイドがその力を解放する。

「グランド――ブレイザァアアアアアアアア!」

 必殺のグランドブレイザーが、触手ごとリヴァイアギルディを両断した。

「生きるってのは、ただ命があれば良いって訳じゃない。そんなのは生きながら死んでるのと同じだ」

 ヒュン。と、剣を振るい、テイルレッドはリヴァイアギルディにその答えを示す。

 

「俺のツインテールは―――生命だ!」

 

 豪炎の中に崩れ落ちていくリヴァイアギルディ。最後の声が響く。

「「ならば……その命の輝きが何処までのものか……この星とともに見続けよう。何処まで、その邁進が続くか……!」」

「お前達がツインテールを愛する限り、ずっと見られるだろうさ」

 そして、爆発が全てを吹き飛ばした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 全てが終わり、レッドは深く息を吐いた。

「どうだ、トゥアール? 二人の様子は?」

「どちらも力を使い果たしただけです。このまま基地に運びましょう」

 空が夕焼けに染まる。まるで焼けるているようだ。郊外とはいえこれだけの騒ぎ、いつマスコミが来るかもしれない。レッドがブルーを抱えようとした。

 

『見事じゃ。更にツインテールの輝きを増しておるのぉ』

 

「っ――!?」

 思わず振り返っていた。徐々に闇が染まりつつある世界に、蜃気楼が生まれる。そしてその向こうから、黒い――闇が現れた。

 全身をすっぽりと包むフード付きのマント。チラチラと覗く黒い鎧を纏った少女――だろうか。

 今までに見たことがないほど、恐ろしい属性力をみなぎらせながら、少女はその顔をレッドに向けた。

「君は……誰だ?」

「そうか、分からぬか。いや、仕方あるまい。あの時とは姿も大分違っておるしな」

 そう言って、少女はその瞳を覆う眼鏡を光らせた。

 

 

「我が名はダークグラスパー。貴女を迎えに来たのじゃ、トゥアールよ」

 




いよいよ現れた暗黒眼鏡。残すはエピローグだけです。

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