光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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基本的にアニメ展開と原作展開をミックスしつつ、やっていきたい方針です。
主人公に真面目にボケさせるためにも、頑張ります。

総二の負担? さて、知りませんね?w




「ふん!」

 最早一刻の猶予もないと、鏡也はシャツを引き千切り、拘束を解く。総二とともに立ち上がり、周囲を取り囲むアルティロイドを一瞥した。

「クソ、アホなことやってる間に……! どうする、鏡也?」

「どうするも何も……戦う以外にないだろう?」

「だよな……よし。――おい、化け物! お前らが奪ったツインテール……今直ぐに返しやがれ!!」

 腹をくくって、総二はビシッとリザドギルディを指差し、強く睨みつけた。

「ぐ……ぐおぉおおおおおお!!」

 突然、リザドギルディが吹っ飛んだ。まるで目に見えない何かに圧倒されたかのように。

「がはぁ――!!」

 そのまま無防備に地面へ落ちた。受け身も取れていない。きっとあれは相当に痛い。

「「………」」

 あまりにも唐突な展開に、二人は目を瞬かせた。

「……おい。今、なにかやったのか?」

「いや……え? あれ……?」

 総二は自分の指を凝視し、振ったり摘んだりしている。だが、おかしいところは何もない。

 もしかしたら霊◯的な攻撃でもしたのかと思ったが、そういう類のそれではなさそうだ。

「ググ……なんという幼気だ。流石はこの星最強の、究極のツインテール……!」

 リザドギルディは四肢に力を込めユラリと立ち上がった。総二は未だに指鉄砲とか構えて色々やっている。

「行けぃ、アルティロイド! 究極のツインテールを我等の手にするのだ!!」

「「「モケー!!」」」

 リザドギルディの号令の元、一斉にアルティロイドが迫り来る。

「おい、来たぞ! ――何時までやってんだ!?」

「あでっ! ……え、何だ………うわわわ!!」

 頭を叩かれてようやく我に返った総二だったが、押し寄せる黒いモケモケの群れに目をこれでもかと見開いた。

「来るぞ、構えろ!」

「ちょ、待てよ! そんないきなり――!」

「モケ―ッ!」

「うわぁ! 来るなぁ!!」

 総二は必死になって、短くなった両腕をバタバタと振るった。その腕にアルティロイドがぶつかり――。

 

 

 バッカァ――――ン!!

 

 

「うおっ!?」

 鏡也の目の前を、アルティロイドが砲弾の如く吹っ飛んでいく。そのまま車、展示場の天蓋などに叩きつけられ、軽い爆発とともに光の粒子となって消え去った。

「お……おぉおおおおおお!?」

「なんと! アルティロイドを一撃だと……!?」

 総二はマジマジと自分の腕と消えたアルティロイドを見比べる。感覚的には軽く触れただけだったのだが、それだけでもアルティロイドが一撃で倒せたのだ。その事実は総二に一つの確信を与えた。

「こりゃあれだ……ドンと来いって感じか?」

 ニッと笑う総二に釣られて、鏡也も笑う。

「ハハ――ッ。それじゃ、行くぞ! 鬼退治ならぬ、トカゲ退治だ!」

「おっしゃあ!」

 迫るアルティロイドに向かって二人は一気に駆け出す。二人のフォーメーションは至ってシンプル。

 敵を倒せるがリーチの短い総二を、鏡也が手数とリーチでフォローするというものだ。

「ハッ!」

 鏡也の剣がアルティロイドの侵攻を、一瞬だけ留まらせる。

「おりゃあ!」

 その隙に、総二の飛び蹴りがアルティロイド数体を纏めてふっ飛ばし、更に巻き添え付きで撃破する。

 複雑な動きなどない。だが、互いの呼吸が少しでもズレれば互いの動きを阻害しかねないのシビアなタイミングで、二人はアルティロイド相手に立ちまわった。

「おい、ところで武器とかないのか?」

「武器? いや、知らない」

「何で知らないだよ!?」

「しょうがないだろ!? 知ってる人が教えられる状態じゃなくなっちゃったんだから!」

「……愛香か」

「……うん」

 せめてそういうのは、必要事項全部聞き出してからにして欲しかったなぁ。と、鏡也は思った。

『ちょっと聞こえる?』

「っ……愛香か!?」

 総二の耳に唐突に愛香の声が飛び込んできた。辺りを見回すが愛香の姿は無い。と言うかあったら、リザドギルディが即刻反応しているはずだ。

『トゥアールが通信機持ってて――ちょっと! なに――』

『総二様、頭にあるリボン型のパーツを触って下さい! そうすれば武器が出ます! あ、ちょっとやめて下さい! 私はゴリゴリの洗濯板を背中に押し付けられる趣味は――ごほぁ!?』

「………えっと、こうか?」

 最後に聞こえた悲鳴を聞かなかった事にして、総二はツインテールを押さえるリボン型のそれに触れた。

 瞬間、リボンが光ると総二の手に炎が生まれる。それは螺旋を描きながら天へと真っ直ぐに伸び、同時に総二の脳内にイメージと名前が浮かび上がった。

 黒い柄をしっかりと握りしめ、総二が高らかにその名を叫ぶ。

「ブレイザーブレイド!!」

 炎が解け、その中から真紅の刀身が姿を現す。両刃の西洋剣。刀身はブロードソード程度だが、総二の今の体格と合わさって、ずいぶんと長く映る。

「ほう。見事な剣だな」

「へへっ。ちょっとテンション上がった」

 幼女になってもやはり男。ツインテール常愛者である総二も、こういう展開は心が踊ってしまう。

「うぉりゃあ!」

 飛びかかってきたアルティロイドを一閃。更に剣を切り返し、その切っ先を円状に振りぬくと、炎が吹き出し、包囲していたアルティロイドを半数以上、一気に焼滅させた。

「熱っ! お前、もうちょっと火力を抑えろ!!」

「あ、悪ぃ」

 アルティロイドに紛れて鏡也もちょっと焼けていた。火傷はないが、シャツと共にネクタイもご臨終である。享年7時間。短い生涯であった。

 ズシン! という響き。二人が反射的に向けば、そこには最初の号令以降不気味に沈黙していたリザドギルディが数歩、歩み出ていた。

 ついに動くか。二人に緊張が走る。

「ぬぅ……っ!」

 リザドギルディはわなわなと、その体を震わせていた。量産型っぽく見えるとはいえ部下は部下。それをここまで倒した総二達に向かい、怒りの――

「余りに美しく、身動きできなかった! ただでさえ、花園で踊る女神の如き麗しさであったが、それをより際立たせているのがそこの騎士! 本来ならば邪魔であるはずが、息のあった見事な動きがコントラストを演出するとは……! なるほど、姫と騎士……まさに! 神話世界の王宮がかいま見えたぞ!!」

「「歪んだ幻想を見るな!」」

 怒りなんてなかった。むしろ感涙していた。感動が頂点を越え、涙を拭き、リザドギルディはその手をワキワキと動かしながら迫ってくる。

「つ、ツインテール……その毛先をちょっと摘んで『えいっ』と可愛らしい声と共に我が頬をペチッとやってくれぬか……!」

「ひ、ひぃ!!」

 欲望がバースト状態で目を血走らせるリザドギルディの異様に、総二はブレイザーブレイドを落としてしまう程の生理的恐怖を覚えた。

 ツインテールを求めて、ハァハァと息を荒らげ、欲望のままに突き進む姿。それが無意識にさえツインテールを求める自分の姿に重なって見えてしまった。

 何と見るに耐えない醜悪。ツインテール好きとは皆こうなのか? 他人から見れば皆、こう見えているのか? もしかしたら、自分もああいう風に見えていたのではないか?

 かつてツインテールに熱く語り、結果として不審な視線を送られた事が何度もあった。

 自分にとってはただ好きな髪型の事を喋っていただけだったのに、相手からすればこういう風に見えていたのか?

 今までのツインテールを巡る苦い思い出が、総二の中でグルグルと巡り、戦意が見る間に萎んでいく。

「ぬ……っ!」

 その時、リザドギルディから総二をかばうように鏡也が立った。

「生憎だが、おさわりは厳禁だ」

 鏡也はリザドギルディから視線を外さないように気を付けながら、後ろの総二に語りかける。

「何やってるんだ、しっかりしろ!」

「鏡也……俺……おれは……!」

 横目で見れば、総二の顔が青い。動揺が手に取るように分かる。

「おい。今更、何を怖気いてる。ツインテールを取り戻すんだろう!?」

「っ――! 鏡也……?」

「どうせお前のことだ。愛香が止めるのも聞かず飛び出したんだろう? だったらさっさと立ち直れ」

「でも、アイツが……!」

「まさか『アイツと自分が重なって見えた。もしかしたら。自分もああだったんじゃないか?』とか、バカな事考えたんじゃないだろうな?」

 そう言うと、総二は言葉をつまらせた。やはりそんな事だったかと、鏡也は呆れ気味に溜め息を吐いた。

「いいかよく聞け。お前は確かに、あの怪物にも匹敵するだろう程の変態的ツインテール馬鹿だ。本当に救いようないし、そのせいで自爆と黒歴史をどれだけ積み重ねてきたか、もう覚えておくのも面倒くさいぐらいだ」

「おい待てこら」

「――だが、それでもお前はあいつらとは違う」

「っ……!?」

 総二の瞳が大きく見開かれる。その顔が面白く、鏡也はついつい笑いを噛み殺した。

「あいつらは自分達の欲望のために、相手の想いを踏みにじる。だが、お前はどれだけツインテールが好きでも、誰かから奪うなんて絶対にしない。それが唯一、絶対の違いだ。……だろ?」

『そうよそーじ! そんなキモい奴、さっさとやっつけちゃいなさい! ここまでやって逃げ帰ったら、本当にそいつらと同じになっちゃうわよ!?』

『ぐえ……ちょっ、おっぱいはそんなに捻じれな………!』

「愛香、鏡也………そうだな」

 通信の向こうで属性力とは別の何かが失われているような声が聞こえたが、総二は聞かなかったことにした。

「それでも不安なら……お前がたとえ世界中から爪弾きにされても、俺と愛香は最後まで傍に居るって、約束してやるよ」

 鏡也が落ちたブレイザーブレイドを拾い、総二の前へと突き出す。総二は強く頷いて応え、その柄をしっかりと握りしめた。

 総二は武道家であった愛香の祖父に指導を受けていた時、「お前は雑念が多い」と、よく言われていた事を思い出した。

 確かにその通りだ。力をもらって、ツインテールを守るために戦うと覚悟を決めて、それなのにこの動揺。

 総二は自分の不甲斐なさに呆れてしまった。そして改めて決意し、全ての迷いを振り切る為に、高らかに吠え猛る。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

『おっぱいがちぎれるうううううううううううううう!』

 

 決意の咆哮が、悲痛な断末魔によって台無しになった。またちょっと心折れそうになりながら、総二は剣先をリザドギルディに突き出す。

「お望み通りペチッてやるぜ! ただし、俺のは半端じゃ無いぞ!!」

「言葉の意味はよく分からんが、とにかく凄い気合だな」

「いいだろう。その気合、正しく戦士! 我が名はリザドギルディ。アルティメギルの切り込み隊長にして、少女が人形を抱くその愛らしい姿にこそ、男子は心をときめかせるのだという信念の元に戦う、武人の端くれよ!」

「ちょっと待て。お前、何で俺の時より自己紹介が詳細なんだよ!?」

「麗しき戦士よ、その名を聞こう!!」

 鏡也が物言いをつけるが、リザドギルディの目には総二しか映っていなかった。

 リザドギルディの言葉に総二は一步前に、強く踏み出して剣を大きく振りかざした。火の粉が舞い散り、夜天の星の如く煌めく。

「よく聞きやがれ! 俺は――!」

 一拍の間を開け、総二がその名を――

「――あれ、なんだっけ?」

 

 どんがらがっしゃ―――ん!!

 

 全員、盛大にコケた。

『よし◯と新喜劇か!!』

 愛香の痛烈なツッコミが光る。鏡也が力のすっかり抜けた体を必死に起こし、ガシッと総二の両肩を掴んだ。

「お前なぁ……! ここでそれか!? ここまで盛り上げておいて、そこで落とすか!?」

「いやだって、今気づいたんだし! そんなの聞いてないから!!」

「ぐぬぬ……油断した。なんと恐るべき攻撃だ。力が抜けてしまった」

「ほら見ろ! 向こうも色々台無しじゃないか! お前この空気何とかしないと本気で怒るぞ!?」

 ガックンガックンと盛大に総二の体が揺すられる度、ツインテールもガックンガックンと揺れる。ついでにアルティロイドの首もガックンガックンと揺れた。

「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」

「今つけろ! 今名乗れ! 何とかレッドでも、かんたらファイヤーでも、エースでもフェニックスでもヒートでも何でも良いから!!」

「――じゃあ、決めた!!」

 総二はもう一度リザドギルディに向き合い、今度こそ名乗りを上げる。

「俺の名は――〈テイルレッド〉だ!!」

「確かに聞いた! 行くぞ、テイルレッド!」

 再び切られる戦いの口火。アルティロイドが怒涛の如き勢いで突っ込んでくる。状況の先がまったく読めない以上、これ以上は時間を掛けられない。

「ああクソ! そ……テイルレッド! 俺が道を作るから、お前はリザドギルディを倒せ!!」

「分かった!」

 鏡也は言うが早いか、テイルレッドの前に飛び出し、剣を引き絞るように構えた。

「――とっておきだ。喰らいやがれ!」

「「「モケ―――!?」」」

 瞬間、光が爆ぜた。アルティロイドが十数体纏めて吹っ飛び、そして消滅する。

 実際に剣が光ったのではない。そう見えてしまう程、剣が速かったのだ。

 中身の入ったスチール缶を、一切ブレさせないで貫通させる速度の神業。電極さえ壊し、切っ先が相手を貫くため、危険過ぎて競技会では使えない鏡也の禁じ手――その名は『閃光(フラッシュ)』。

『い、今のは……属性力!? まさか、生身で属性力を使った……!?』

 トゥアールが通信越しに信じられないとばかりに、声を絞り出した。だが、そんな事を気にかけている余裕は二人にはなかった。

「今だ! 行け、テイルレッド!」

「おぉ!」

 鏡也と入れ変わるようにテイルレッドが駆け出す。そのまま全力で踏切り(・ ・ ・ ・ ・ ・)ジャンプする。

「おぉ……っ!」

 ツインテールを靡かせ颯爽と宙を舞うテイルレッド。そのまま一気にアルティロイドを越え、リザドギルディに向かって――

「おぉ……!?」

 ――そのまま飛び越えた。

「おわぁあああああああ!?」

 テイルレッドは手足を必死にバタつかせるも、そんなもので勢いが落ちるわけもない。目の前にはマクシーム宙果のガラス天井。

「うわぁああああああ―――ヘブ!!」

 テイルレッドが潰れたカエルみたいな悲鳴を上げて、潰れたカエルみたいな姿で、潰れたカエルのように天井にぶつかった。

「うわぁ……あれはひどい」

 その姿に鏡也も思わず吐き出す。それ程に無残だった。

「うぅ……さっきまではちゃんと動けてたのに、何でだ?」

 ベリッと顔を天井から剥がし、テイルレッドは頭を振った。痛みは全くないが、何とも心が痛い。

 脳内に〈フォトンアブソーバー〉という文字が浮かぶ。

 外部からの物理的干渉に対して分子レベルで介入し、ダメージを極限まで相殺する、防御フィールド。テイルレッドに変身した時から全身がこれに守られているのだ。

「うわー、すごーい」

 という説明を、この間抜けな状況で知ってしまったという事実に心が耐えられなかった。

『総二様。そのテイルギアは総二様の意志で生み出されたものです。ですから強い意志を以ってすれば、御せない道理はありません!』

「強い意志……そうか、なるほど」

 死線を強い意志で無事に乗り越えたらしいトゥアールの声に、テイルレッドはようやく合点がいった。

 最初と今、どっちも制御など考えもしないで全力で踏み切っていた。だからこんな事になったのだ。

 そうと分かれば話は簡単だ。制御に気を付けて、リザドギルディに向かえばいい。

「よし――行く」

「はぁはぁ、ツインテール……!」

「ギャアアアアアアア! キモい! そして近い!!」

 振り返った瞬間、そこに鼻息荒いリザドギルディの顔。ホラー映画よろしく、テイルレッドは悲鳴を上げて飛び上がった。天井を駆け上がり、必死に距離を取る。

 すぐさまリザドギルディもその後を追いかける。決着の舞台は整った。

「そっちは頼むぜ、テイルレッド」

 敵の目的は属性力。奪われた少女達がこれ以上狙われることはない。

 自分に出来る事はこれ以上、ツインテールを奪われることを防ぐ事だと、鏡也はアルティロイドを突破し、囚われている少女達の元へと走った。

「そら、お前らの相手はこっちだ!」

「モケ!?」

 誰もがリザドギルディとテイルレッドに意識を向けたその隙を突いて、鏡也の剣がアルティロイドを一蹴する。

 少女達を押さえていたアルティロイドを纏めてふっ飛ばして、鏡也は大きく叫んだ。

「今だ、全員走れ! 逃げるんだ!」

 二度、三度と叫ぶと、少女達は慌てて走り出した。意識に体がついて行かず、足をもつれさせながら、必死に逃げる。

「むぅ!? 者ども、ツインテールを逃すな!!」

 異変に気づいたリザドギルディが命令を飛ばす。すぐにアルティロイドは逃げたツインテールの少女たちを追いかけるが、その鼻先を銀閃が掠めた。

「モケッ!?」

「おっと、此処から先は通行止めだ。素直に来た道を戻れば良し。そうでないなら、俺の剣から痛烈なキスを受けることになるぞ?」

 ヒュン! と剣先を翻し、騎士は少女達の盾となる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ぐぬぬ……っ! おのれ、騎士め……!」

 リザドギルディはギリリと歯軋りした。捕らえたツインテールが逃げ出し、追いかけさせたアルティロイドは鏡也によって阻まれている。

 だが、究極のツインテールを手に入れられれば目的は達せられると、テイルレッドへと向き直った。

「行くぞ! 顔とツインテールは可能な限り傷つけぬよう努力するが……多少の怪我は覚悟せい!」

「いらない心配だ! お前はここで、俺が倒すんだからな!!」

「ぬぅん!!」

 リザドギルディがその掌から光線を放つ。だが、それは防御姿勢を取ったテイルレッドに触れた瞬間、粒子となって掻き消えた。

「そんなもん、効かないぜ!」

「おのれ! ならば、これはどうだ!!」

 そう言って、リザドギルディはその背に生えた杭にも似た背びれを切り放つ。微細な電気によってリザドギルディ本人と繋がったそれを、高速で射出する。

「はぁっ!」

 テイルレッドはブレイザーブレイドで背びれを切り払う。真っ二つにされた背びれが炎に包まれ、爆散する。

「まだまだぁ!」

 リザドギルディは両手を掲げる。背びれがテイルレッドを中心に渦を巻き、全方位から飛び掛かる。

「ク――ッ! いちいち数が多い!」

 テイルレッドは大振りの剣だけではなく、四肢に炎を纏わせて次々に叩き落としていく。だが、それでも手数の差からか、テイルレッドの表情に焦りが見えた。

 テイルレッドは剣で背びれを一気に振り払うと、大きくジャンプ。リザドギルディとの間合いを離す。

「ならば、これでどうだ!」

 リザドギルディの周りに幾つものぬいぐるみが現れる。その一つ一つがバチバチとスパークし、それがリザドギルディの両手に一つのエネルギーとして収束していく。

「我が秘技――〈人形(ドール)に抱かれて眠りし少女がお花畑で遊ぶ夢の中、ふとした時に溢れる微笑みの如きスパークボール!!〉」

「長い上にキモいわ! ――オーラピラー!!」

 胸のコアが光り輝き、ブレイザーブレイドが紅蓮の炎を灯す。それが切っ先で火球となり、高速で撃ち放たれる。

「っ――! ウォオオオオ!!」

 スパークボールを放つ直前、火球が弾けて紅蓮の帯となってザドギルディを包み込む。炎はそのまま紅き御柱となり、リザドギルディの身体を拘束した。

「ググ――う……動けぬ! 拘束(バインド)か!?」

完全開放(ブレイクレリース)!」

 ブレイザーブレイドの刀身が中心から割れ、業火が包み込んで倍の伸長に変化させる。テイルレッドのウエストアーマーが火を噴き、その身を重力の楔から解き放つ。

「ウォオオオオオオオ!」

 裂帛の咆哮とともに、テイルレッドが天高く舞い上がる。豪炎の刃を振り上げ、その瞳は真っ直ぐにリザドギルディを捉えた。

「グランドブレイザ―――ッ!!」

「グォオオアアア―――ッ!!」

 滑空からの一閃。炎刃が結界をすり抜けて、リザドギルディを袈裟懸けに切り裂き、豪炎が結界内を奔る。

 必殺の刃を受けたリザドギルディの体に、バチバチという放電が奔る。最早、決着は付いた。

 究極のツインテール。それを持つ強者。炎を纏って戦う戦姫。滅する運命がもう避けられぬリザドギルディの心に、新たな火が灯る。

「ぐぉぉ……! 見事だ……テイルレッド。俺はやっと……ツインテールの強さと美しさを知ることが出来た……!」

「………」

「ふははは……! 麗しきツインテールに頬を撫でられ、そして果てる! 我が生涯に一片の悔いなし!!」

「おい、こら! ちょっと待て!!」

 リザドギルディは笑った。心の底より。いち武人として、漢として、胸を張って散れるのだ。笑わずにいられようか。

「さらばだ、麗しきツインテ――――――――――――ル!!」

「最後の瞬間まで、変態発言してんじゃねぇええええええええええ!!」

 テイルレッドの最後の美声を手向けと受け取って、リザドギルディは爆炎の中に消え去った。

 噴き上がった爆炎は結界の中で膨れ上がり、天空へと放出された。

「………なんだか、疲れる相手だったな」

 ブレイザーブレイドを元に戻しながら、テイルレッドはリザドギルディのいた場所を見た。その場所は爆発の威力に比べ、少しばかり焦げ跡が付いているだけだった。これもまた、オーラピラーの効果なんだろうとテイルレッドは思った。

 と、そこに浮かぶ何かに気付いた。菱型の、煌めく石のような物。

『総二様。それを回収して下さい』

「回収……あっ」

 左手を伸ばしそれを取ると、脳内に〈人形(ドール)〉と見えた。其れはそのまま、左腕部のアーマー内に吸い込まれた。

 下を見るとアルティロイドがバラバラと逃げ出していくのが見えた。

『総二様。あのリングを破壊して下さい。それで奪われた属性力は開放されて元の持ち主に帰ります』

「――分かった!」

 テイルレッドは一足に跳躍し、憎きリング目掛けてブレイザーブレイドを振り下ろした。

 金属特有の甲高い音を立てて、リングが真っ二つになる。そのまま跡形もなく消滅すると、光が雨のように降り注ぎ、解かれたツインテールが再びその美しい姿を取り戻していった。

 その光景にテイルレッドは深く息を吐き、そして微笑んだ。

 

「これで、一件落着――だな」

 

 己が役目は終えたと、テイルレッドの手から紅き聖剣が粒子となって消えていった。




戦闘描写は書き慣れているので良いのですが、展開中にボケを挟むのが本当に難しいです。
気を付けるべきは、「登場人物はどこまでも真面目」。この一点ですが、そこがまた……。

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