そろそろ二巻のお話も折り返しですかね。
断罪の日と呼ばれる日があった。人類の実に8割という巨乳を滅ぼした、惨劇。全ては人工知能〈パイオツネット〉による反乱によるものだった。
全ての巨乳を滅ぼすべく、自動殺乳兵器を投入する〈パイオツネット〉。人類は僅かな巨乳を守りながら、反抗を続けた。
最早、巨乳の滅びは風前の灯か。だが、そこに一人の救世主が現れた。彼は人類軍を組織し、機械達の反乱に追い詰められた人類の希望になった。
奪還されていく巨乳。排除されていく機械達。長い戦いの末に〈パイオツネット〉は追い詰められた。メインサーバー〈トゥルーフラット〉を囲む人類軍。しかし、〈パイオツネット〉は最後の切り札を用意していた。
時空跳躍。過去の改変。自身の最悪の敵を、歴史そのものから排除しようとする途方も無い計画。その計画を察知した人類軍は、一人の美貌の戦士を過去へと送り込む。
彼女の名はトゥ・アール。目的は一人の少年。後の救世主に連なる血を守るために。
少年の名はソージ。トゥ・アールと出会い、互いに心惹かれていく。だが、運命は冷酷にその時を告げる。
慈悲無き機械達が送り込んだのは、最悪の存在。人の似姿を持ちながら、その力は恐るべき。
機械の体には、魂に変わり、巨乳を抹殺する使命のみが宿る。
揺れる青いツインテールは死神の鎌か。凹凸無き体は全てを寄せ付けない壁のごとく。
人型巨乳抹殺兵器――『PTK―72』。
またの名を――――〈Mernaitor〉。
(デデンデンデデン。デデンデンデデン。)
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「どうですか、これ! ちょっと思いついてフルCGで作ってみたんですよ! 本物っぽくないですか? ねー、愛香さん?」
「そうねー。まるで実写だわー」
ツインテイルズ地下基地。常に快適に保たれているはずの基地内は、キチガイじみた寒さだったと、観束総二は後に語ったという。
◇ ◇ ◇
そんなこんながありながら、いよいよ完成の目処が見えた新型テイルギア。
「いや、あれをそんなこんなで済ませるなよ。お前は家違うから良いけど、俺は自宅の地下なんだぞ?」
「いやまぁ、俺には被害ないし。それより、愛香の精神は大丈夫なのか?」
男二人。学食にて向かい合い、カレー南蛮をつつき合う。そのつまみの内容がまた殺伐としている辺り、いよいよ毒されている感が否めない。
だが、総二の話が続くとその殺伐さすら温かいという恐ろしさ。
愛香にわざわざお茶を入れさせ、それを笑顔で「何が入ってるか分かりませんから、飲んで下さい」と言い放ち飲ませる。
ツインテイルズの食玩(当然無許可)をわざわざコンプリートして並べて「シークレット入れて全7種。テイルレッドが6種、レアがテイルブルー。でもブルーがレアじゃ、嬉しくないですよね~」などと、愛香の前で言ってみたり。
「俺さ、トゥアールが実は余命一ヶ月とかじゃないかって思うんだ。だってそうじゃなきゃ、あんな崖っぷちで自分の命をリフティングするみたいなこと、出来るわけ無いって」
「分かった分かった。肉を一つやるから元気を出せ」
「安いな俺の元気」
とはいえ、貰えるものはありがたくと、総二が肉一つとついでにネギを取った時、凛とした声が食堂に声が響いた。
「御雅神! 何処に居る!?」
「何だ? 呼ばれてるぞ、鏡也?」
「ん?」
顔を上げて入り口を見やれば、ブロンドをポニーテールにした女生徒の姿。後ろには大柄な体躯の男子生徒も見える。
向こうも鏡也に気付き、ツカツカと向かってくる。その迫力に生徒達は自ずと道を開け、さながらモーゼの十戒のようになっていた。
そうして鏡也のところまでやって来た二人。女生徒はツリ目気味の青い瞳に。自信があふれる輝きを宿している。後の男子生徒も、自負の念に溢れたいかつい顔付きだ。
「どうも、姫騎士先輩。それとオーク先輩」
「誰が姫騎士だ! 私は姫岸だ!」
「大久だ。お前といい、他の奴といい……どうして俺達をそう呼ぶんだ?」
「知ってますよ。
「あ、俺もそれ聞いたことがある」
「「それが一番意味不明だ!!」」
二人の声が重なった。自分すら知っている有名人が、まさかこんな愉快そうな人達とはと、総二もびっくりしていた。
「……ごほん。とにかく、高等部に上がってフェンシング部に来ると思っていたのに何だ。何故、ツインテール部などという意味の分からん新設の部に入っている!? 慧理那から聞いた時には耳を疑ったぞ?」
バン! とテーブルを叩き、怒りを露わにする真里亞。カレー南蛮が零れないように反射的に器を持ち上げたまま、鏡也は鼻先まで寄せられた真里亞の顔を真っ直ぐに見る。元々、感情の激しい人柄だが、ここまで人前で声を荒げるのも珍しい。それだけ、鏡也の選択に憤っているのだろう。
「ちょっと待ってください。ツインテール部は正式に認められた部活動です。それを意味が分からないってどういう事ですか?」
ツインテールの事となれば黙っていられないと、総二が立ち上がった。
「君は?」
「ツインテール部部長の観束総二です」
「そうか、君が。それで、御雅神――彼がどういう生徒なのか、知っているのか?」
「知ってますよ。クラスメートですし、何より幼馴染ですから」
総二がハッキリと言うと、真里亞は「なるほど」と、頷いた。そして鏡也の前に一枚の紙を置いた。
「……入部届?」
「文化系なら、運動系との掛け持ちが出来る。どうせ、部活申請に名前を貸しているだけなのだろう? ならば、話は簡単だ」
つまり、ツインテール部に席を置いたままでいい。フェンシング部の入部届を書けということのようだ。鏡也はどうすれば穏便に済ませられるかと頭を回す。が、答えが出るより早く、またしても総二が動いた。
「名前だけじゃありません! 鏡也は立派なツインテール部の部員です!」
「……そうなのか?」
真里亞が鏡也を訝しげに見やる。
「いやまぁ、そうですかね?」
いささか誤解もありそうな気もするが、そう答えた。すると真里亞はキリリと整えられた眉を釣り上げた。
「腑抜けたか、御雅神! 今日の放課後、顔を出せ! 文句は言わせないぞ!」
「――了解しました」
気の強さも意地の強さも”姫騎士”と呼ばれる所以である。こうなった真里亞は言葉ではどうにも出来ない。現に、後ろに立つ大吾も首を振っている。
真里亞は来た時と同じようにツカツカと去っていった。その後を大吾も続く。嵐の過ぎ去った食堂はゆっくりと喧騒を取り戻していった。
「……はぁ、面倒なことになったな」
「これって、もしかしてあれか? ツインテールを賭けた決闘か?」
「ぜんぜん違う」
ツインテールが絡むと途端に思考がおかしくなる幼馴染に頭を抱えつつ、鏡也はカレー南蛮に箸を戻すのだった。
◇ ◇ ◇
アルティメギル基地。相も変わらずクラーケギルディ隊とリヴァイアギルディ隊の中の悪さに辟易するスパロウギルディの執務室に一人のエレメリアンが現れた。
「スパロウギルディ隊長代理。出撃許可を頂きたい」
「どうした、ホークギルディ? 随分といきり立っているな?」
「なるのも当然です。クラーケギルディ隊とリヴァイアギルディ隊のせいで、我がタイガギルディ隊も要らぬ被害を受けているのです。毎日毎夜、やれ巨乳の素晴らしさ、やれ貧乳の尊さと……頭が痛くなります」
基本、アルティメギルのエレメリアンは他者の属性力には寛容だ。だが、部隊という背景がついた時、それは時に横暴となる。
貧乳と巨乳。相反する御旗を掲げる者同士、他勢力を取り込もうとしているのだ。これもまた、頭の痛い話である。
「こうなれば我々の手でツインテイルズを倒す以外に、道はありますまい! というか、巨乳でも貧乳でも……乳は乳でしょう!?」
ガン! と、テーブルを叩くホークギルディ。冷静沈着が信条のホークギルディの有様を見て、これではいけないと改めて思う。スパロウギルディは少しの後、口を開いた。
「分かった。出撃を許可する」
「ありがとうございます、スパロウギルディ隊長代理! では、早速!」
深々と一礼し、ホークギルディは執務室から出て行く。その背を見送りながら、スパロウギルディはさて、問題の隊長たちにどう説明しようかと頭をまた悩ませた。
◇ ◇ ◇
放課後。陽月学園第2体育館。ザワザワとする館内の中心に二人はいた。総二らと違い、テイルギアを隠していないので、外して総二に預ける。
「こうしてみると、フェンシングのユニフォームも久しぶりだな」
グローブの感触を確かめる鏡也に、真里亞は厳しい言葉を飛ばす。
「その様子ではろくに練習もしていなかったのだろう。いくら才能が在ろうと、努力なき者が勝てる程、フェンシングは甘くないぞ?」
「……それで、種目は?」
「エペだ。ルールは三本先取。私が勝ったらツインテール部などというふざけた部活を辞め、フェンシング部には入れ。良いな」
「わかりました」
剣を取り、構え合う。その瞳が鋭さを増す。
「あの、エペってどういうルールなんですか?」
部員の問題故、総二を含めたツインテール部全員が揃い、端に並んでいた。総二は自分の横に立つオーク――もとい、大久大吾に尋ねた。
「エペとはフェンシングの種目の一種だ。フェンシングは種目によってルールが色々違うのだが、エペは最も攻撃的な競技だ。攻撃は突きのみ。攻撃有効は全身。攻撃権はなし」
「攻撃権?」
「攻撃権のない選手の攻撃は無効だ。フルーレとサーブルは、攻撃を捌くか間合いから逃げられると攻撃権が移動する。野球の様なルールだと思え。エペはそれがない、サッカーのようなものだ。だから、攻防が一瞬で逆転する」
「なるほど。野球とサッカーですか」
分かりやすい説明に大体のルールを把握し、改めて二人を見やる。
攻撃的、という説明の割には二人に目立った動きはない。前後に動きながら、手にした剣を動かしている。素人目にはわからない攻防、駆け引きがされている。
「シッ!」
真里亞が動いた。地を這うほど低さから、跳ね上がる切っ先。それを鏡也は半歩下がりながら、刀身で受け流す。そのまま手首を返して、鋭い突きを繰り出した。だが、その切っ先が触れるよりも早く、真里亞は間合いを離していた。
仕切り直し。そう誰もが思う。真里亞さえもだ。
「っ――!?」
ずん。と真里亞の体に突き刺さる感触。左肩だ。何がと思う刹那、影が動いた。鏡也が一歩、間合いを離したのだ。
「……今、いつ踏み込んだんだ?」
「気付いたら、もう間合いに入ってたような……」
ギャラリーがざわめく。遠巻きにしている者にも、その動きは見えなかった。
「まずは一本。次、良いですか?」
「くっ、御雅神……!」
真里亞が歯噛みながら、吐き出す。記憶の中の鏡也の動きとはまるきり違う。速度も、鋭さも、桁が違う。とても、練習から離れていた者の動きではない。
自分の見込みの甘さを痛感し、真里亞は剣を構え直した。
(さて、ここからだな)
鏡也は真里亞の気配が一変したのを感じ取った。”姫騎士”とは、ただのアダ名ではない。スイッチの入った彼女の剣は、正に”騎士の剣”なのだ。
此処から先、さっきのような不意打ちは通じない。一瞬の油断さえ許されない。本当の勝負はここからだ。
prrrrr――!
「何だ?」
総二のトゥアルフォンが音を響かせた。同時に、体育館のガラスが砕けた。
トゥアールが総二に耳打ちする。
「総二様! ここにエレメリアン反応です! センサーから警報が届いたんです!」
「なんだって? まさか――!」
体育館に飛び込んできた何か。それはゆっくりと立ち上がった。バサッと巨大な翼を広げ、高らかに叫んだ。
「感じる。感じるぞ。気高き我が属性の波動を!」
「え、エレメリアンだ!」
混乱する館内を、我が物顔で進むエレメリアン。その行先には――姫岸真里亞。
「な、何……?」
「ぬん!」
エレメリアンの腕が振り抜かれる。マスクが切り裂かれて床に落ちた。
「やはり……我が本能が正しかった! 素晴らしい……正に”姫騎士”だ!!」
館内を、沈黙が支配した。
「だ、誰が姫騎士だ! お前達のような変態にまでそんな呼ばれ方をする謂れはないぞ!」
「ふははは! だが、感じるのだ! 私はホークギルディ。気高さと気品を兼ね備えた”姫騎士”属性のエレメリアンだからな!」
「ニッチにも程がある!?」
総二は思わず叫んでいた。そして鏡也のトゥアルフォンを掴み思いっきり投げた。
「鏡也、受け取れ!」
「すまん! ――抜剣、Sサーベル!」
テイルギアとトゥアルフォンを受け取るとマスクを外し、ストラップとして付けていたSサーベルを起動。手に握られた刃を、ホークギルディに向ける。
「そこまでだ、エレメリアン。皆、早く避難を! 姫岸先輩も早く!」
鏡也の声にホークギルディが振り返る。そして、猛禽の瞳が僅かに揺らめいた。
「貴様、もしや御雅神鏡也か!」
「あぁ。お前達が血眼になって探している、御雅神鏡也は俺だ! さぁ、ついて来い!」
「こんな所で出会おうとはな……逃がすか!」
駆け出す鏡也を追い、ホークギルディが大きく羽ばたいた。飛びかかる鋭い爪を躱して、鏡也は外へと転がるように飛び出す。
校庭に出れば、そこにはすっかり増えたツインテールを追いかけ回すアルティロイド達。近くにいるアルティロイドを一蹴し、更に走る。恐らくはすぐにツインテイルズが駆けつけるだろうが、それまでは自分に引きつけないとならない。
「アルティロイド! 御雅神鏡也を捕らえよ!」
果たして目的通り、アルティロイドが一斉に鏡也目掛けて襲いかかる。足を止めれば瞬く間に囲まれると、鏡也は正面に飛び込む。
「属性玉――〈ハイレグ〉!」
「どわ――!」
いきなり目の前のアルティロイドがいきなり地面ごと薙ぎ払われた。巻き込まれた鏡也はゴロゴロと校庭を転がらされた。
そしてその原因が空から真っ直ぐに降りてきた。
「ツインテイルズ参上よ!」
「ちょ、大丈夫か鏡也?」
「………これが大丈夫に見えるか?」
地面を転がされ、土まみれのホコリまみれ。挙句に目も回っている。散々たる状況に苦笑しつつ、テイルレッドが手を差し出した。
「……命に別状って意味では」
「そこまで行ってたら訴えてるぞ?」
それを掴んで立ち上がろうとすると、ぐらりと視界が揺れた。
「うわっ!」
膝から崩れ落ちた鏡也の体がレッドに覆いかぶさってくる。それを支えようとレッドは両手を伸ばす。すると自然に抱き合う形になった。
「す、すまない。頭がクラクラするせいか、上手く立てない」
「あー、無理すんな。そのままちょっと休んで――!?」
ろ。と言おうとしたレッドだったが、その相手がまた地面を転がっていったので言いそびれてしまった。
「きょ、鏡也大丈夫か――っ!? 何やってるんだよ、ブルー!?」
「あ、ごめん。属性力変換機構が残ったままだったわ」
「あ、頭がクラクラする……二重の意味で」
こめかみを押さえながら痛みに悶える鏡也。もしかしたら命の別状も危ういかもしれない。
「それより、さっさとやっつけるわよレッド!」
「この惨状を”それより”の一言で片付けるなよ!?」
レッドのツッコミを、しかしブルーは右から左に聞き流す。もしかしたら、好感度云々をまだ気にしているのかも知れない。
そんないつものコントを繰り広げている間に、ホークギルディが二人の前に立ちはだかった。
「テイルレッド……なるほど、凄まじいツインテールよ! 立ち昇る気概、誇り高き気品……正しくお前もまた”姫騎士”に相応しい!」
「お前何言ってんだよ!?」
「ちょっと! レッドを勝手に豚の餌みたいに言うんじゃないわよ!」
「お前も何言ってんのか全然わかんないんだけど!?」
「だまれ、
「誰がバーサーカーじゃ、こらぁああ!!」
ブルーは怒り心頭と、ホークギルディに向かっていった。これ以上は止めても無駄だなとレッドも諦め、アルティロイドを蹴散らし始めた。
「うりゃあああ!」
「ふんっ!」
振り抜かれたウェイブランスを羽撃き一つで空に舞い上がって躱すホークギルディ。
「属性力変換機構――〈髪紐〉!」
リボンの属性玉を使い、それをすぐに追いかけるブルー。学園上空での戦いが始まった。
「テイルブルー! タイガギルディ隊長の仇、討たせてもらう!」
「…………え?」
「…………え?」
「…………レッド。タイガギルディって……誰だっけ?」
「お前は自分が倒した相手の名前も覚えてないのかよ!? つい最近だぞ!?」
レッドの本気の声が響いた。そしてブルーは本気で首を傾げていた。
「ブルー。小学校のプールで倒した奴がいただろう? スク水属性の。あれの事だ」
「あぁ、スク水属性の奴ね。思い出したわ」
鏡也に説明をされ、ブルーはやっと思い出したと頷いた。
「そんなもいたっけ。まぁ、覚えてない時点で大した相手じゃなかったってことね」
『もしかして、今までのエレメリアンも、属性玉で覚えてるんじゃないでしょうね……?』
トゥアールがそら恐ろしいモノを見るかのように呟いた。まさかそんなと言い切れない辺り、テイルブルーの恐ろしさだ。
「空中で私に勝てると思うな!」
ホークギルディが羽撃いて加速する。それを追って飛ぶブルー。翻ってぶつかり合う両者。だが、徐々にブルーがホークギルディを追いきれなくなってくる。
「こいつ……なんて速いの!?」
「フォクスギルディの属性力で空をとべるようだが、その程度の速度では話にもならん!」
更に加速するホークギルディは、完全にブルーの飛行速度を上回っていた。
「フハハハハ! 空は良い! 実にイイぞぉ!! やはり戦うならば空の上だぁ!!」
「きゃあああ!」
ついに決定的な一撃を見舞われ、ブルーが地面に落とされた。ダメージ自体は大したことがないものの、ブルーの動揺は大きい。
「我が属性力は気高さと気品とを併せ持つ、天よりも見下ろす者の属性! 故に空に限れば、私は隊長以上の力を発揮できるのだ! 下品なる狂戦士は無様に這いつくばっているが良い!」
「だったら地に落としてやるわよ! 属性力変換機構〈体操服〉!」
重力球を飛ばすブルー。だが、それらもあっさりと躱し、ホークギルディはブルー目掛けて真っ直ぐに突っ込んできた。
「終わりだ、テイルブルー!」
繰り出される鋭い蹴り。それをブロックするブルーの体が地面に沈み込んだ。
「これは――!?」
「言ったでしょ、地に落とすって!」
ブルーはホークギルディを捕まえ、地面の中に沈んだ。重力球を投げるのに紛れて、属性力変換機構〈スク水〉を発動させていたのだ。その特性は〈地面などに水のように潜れる事〉。いかに速く飛ぼうとも、地面にめり込ませてしまえば詰みだ。
「し、しまっ――」
「くらえ、エグゼキュートウェーブ!」
ゼロ距離から必殺技を叩きこまれ、ホークギルディが爆発。その余波は校庭を破壊するに十分だった。
果たして見事に壊れた校庭から飛び出したブルーがドヤ顔で胸を張った。
「どうよ、この頭脳プレーは!」
「頭脳プレーを名乗るなら、被害を考えてやれよ!? 校庭がぐしゃぐしゃじゃないか!」
「アハハハ、ごめん。さ、さっさと引き上げるわよ!」
周囲の被害を笑ってごまかし、ブルーはレッドを捕まえて空に舞い上がった。一人残された鏡也は「やれやれ」と、溜め息を吐いた。そこに真里亞と大吾が走ってきた。
「御雅神、大丈夫か?」
「えぇ、なんとか。それで、勝負のことですけど……」
「いや、それはもう良い。どうして部に入らなかったのか……何となく納得したからな」
「……すいません」
エメレリアンの標的にどうしてか自分がなっている以上、事情を知り、アルティメギルと戦うツインテール部意外の部活動には、どうしても入れない。
要らぬ戦いに巻き込んだり、今日のように不意の遭遇などで変身できないまま戦う事態に陥ることもあるからだ。
後者は知らない事情だが、前者を察した真里亞は鏡也の肩をポンと叩いた。
「だが、もしも事情が変わったなら……何時でも戻ってこい」
「……ありがとうございます」
温かな申し出に、鏡也はただ小さくそう返した。
◇ ◇ ◇
日も沈んだ頃。地下基地に集まった面々。
「今回は正にタイミングの悪い襲撃でしたね。空を得意とするエレメリアンに、接近戦しか出来ない我々。相性の面では最悪だったと言えるでしょう」
トゥアールの言葉に、総二達が頷く。ツインテイルズの弱点として、後方からの支援や、遠距離を戦える存在がいないという部分がある。今後の戦いを考えるに、この点はクリアするべき問題だ。
「なので、新型のテイルギアは射撃、砲撃戦をメインとした装備にしてあります」
その言葉に愛香が色めき立った。
「それってつまり、新型が出来たってこと!?」
「後は最後の調整をするだけですから、明日には」
「そう、そうなんだ………ウヘヘヘ」
不気味に笑う愛香。その愛香から見えないように不気味に笑うトゥアール。
新型テイルギア。黄色いリングはまだ、開発室の中で静かな眠りについていた。
姫騎士属性とは一体…ウゴゴゴ。