光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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今回、いよいよ酷いことになります。原作とはまた違ったテイストを模索しつつ……ブルーが酷い。




 凄惨を極めたHRは、尊の「では、これから他のクラスにも出向かねばならないので、失礼する」という言葉で終焉を迎えた。

 ダメージは半端ではないが、立ち直れない程ではない。生徒達は自身の精神の回復に務めた。

「あの人、ああやって他のクラスにも婚姻届配っていくのかな……?」

 総二が何気なく言った一言が、クラスをまたお通夜にしてしまったりしたが、今は放課後である。

 朝の出来事は犬にでも噛まれたと忘れ、総二たちは部室に集まっていた。

「さて、今日からツインテール部も正式に活動開始だな」

「改めて思うが、部活名が活動内容を全く推測させないというのも凄いな」

 鏡也がそう言うと、心外だとばかりに総二が鼻息荒く主張した。

「何でだよ。分かるだろ? ツインテールを守り、世界を守る。こんなに分かりやすい内容、他にはないぞ?」

「分かった分かった。愛香も、それで問題はないんだな?」

「あいつら引っ切り無しに来るしね。()るなら徹底的にやってやるわ」

「なんですかね……今、「やる」が物騒な漢字に変換されたような気がしたんですが」

 愛香のやる気に、何故かブルッと肩を震わせるトゥアールは白衣のポケットからヌルリと、宅配ピザの箱程のケースを出した。最早、ツッコむ意義さえない。

「それで、その箱は何だ?」

「よくぞ聞いてくれました。ツインテール部開始記念にと作ったんです」

 トゥアールが箱を開けると、そこにはスマートフォンに似た物が4つ入っていた。トゥアールはそれを総二達に配った。

「これはトゥアルフォン。ツインテイルズ用通信端末です。建物内から地下、秘境、深海、火山、氷河、宇宙に至るまで。どこでも通信可能な優れ物です。更には変声機能、成分鑑識機能などなど、便利ツールを標準搭載。アップデートなどで追加もできます」

「何で宇宙で使うことまで想定に入ってるんだ? ギアもそうだけど、宇宙に行く予定でもあるのか?」

「ありませんよ。ですが総二様。科学者たるもの、自分の発明品は宇宙で使うことを前提にするべきなのです」

「そ、そうなのか?」

「そうですよ。OPで宇宙に行ってたけど、原作ですら地上シーンしかない、某女性にしか使えない強化スーツだって、宇宙での使用が前提なんですから」

「おいバカやめろ」

 それ以上はいけない。総二は本気で止めた。

「今までの通信では、鏡也さんのテイルギアTYPE-Gでも通信には問題がありました。人混みなど第三者がいる時には怪しまれるから使えない、という点です」

「たしかに。俺のも聞くだけはまだしも話すのは無理だな」

「そこでこのトゥアルフォンには、リアルタイムでの暗号化機能が備わっています。例えば『街にエレメリアンが現れた!?』という言葉を、総二様が発します。するとトゥアルフォンは、それを全く違う『今夜のおかずはトゥアールだって!?』に変えて周囲に届けるんです。勿論、通信先には本当の内容が聞こえます」

「ほう。それは凄いな」

「確かにすごい技術だな。ただ、本当にその変わり方をした場合、別の意味で俺は怪しまれるというか、社会的に終わりそうだけどな」

 物は試しと総二は既に登録されているトゥアールの番号にかける。

 

「もしもし、トゥアール。聞こえるか?」『ツインテールツインテールツツツツインテールツインテール!?』

「はい、聞こえますよ」『ハァハァ。私、今あなたの後でスケスケランジェリーで胸を揉みしだいているのぉ』

 

 確かに、内容が暗号化されていた。だが、その内容に愛香と鏡也は何とも言えない顔をした。

「なんだろうな……怪しまれないための暗号化の結果、より怪しまれる結果になりそうなのだが」

「トゥアールはいつも通りとして……ちょっと総二! それじゃまるで古代ツインテール語じゃないのよ!?」

「なんだって!? 古代ツインテール語!?」『ツインテール!?ツツツインテールツインテール!?』

「総二。まずはそれを外せ」

 鏡也が総二の手からトゥアルフォンを取り上げる。やっと日本語を取り戻した総二はしきりに古代ツインテール語について、愛香に迫っていた。

「何で総二はツインテールなんだ?」

「総二様のツインテールは最早学内の常識になりつつありますし、この方が自然かなと」

 鏡也の問いにトゥアールは曇りのない笑顔で返した。本気でそう思っているようだ。

「そのままご町内全てに広げそうな勢いだがな。さて、俺と愛香はどうなって……おい」

「なんですか?」

「いや……うん。何でもない」

 総二、鏡也、トゥアールとあって、愛香の名前がない。代わりにあったのは『ビッチ』。トゥアールの笑顔に百万が一の間違いではないのだなと確信しつつ、これだけではないだろう愛香のトゥアルフォンに掛けてみた。と、同時に愛香と鏡也は互いのトゥアルフォンを投げ渡しあった。その瞬間、「あ」とトゥアールが零した。

 

「どうだ、ちゃんと聞こえるか?」『ゲハハハハ! 肉だ! 生肉が食いてえんだよぉおおおおお!』

「大丈夫。ちゃんと聞こえるわよ」『きーちくきーちく。きちくめがーね♪』

 

「――さて、何か言い残すことはある?」 

「慈悲は……慈悲はないんですか……!?」

「慈悲ならあるわよ。介錯してあげるから、ハイクを詠みなさい」

「アイェエエエエエエエエ!?」

 ギリギリと愛香に顔面を締めあげられ、ギリギリなラインで喘ぐトゥアールを余所に、鏡也はお茶でも淹れようかと、急須にお茶っ葉を入れた。

「待て、皆。……ツインテールの気配だ」

 総二が唐突に気が触れたようなことを言い出した。鏡也は湯呑みに茶を注ぎながら、生温かい視線を送った。

「総二。何をいきなり、あのトカゲエレメリアンみたいなこと言い出してるのよ」

「お前が言うなよ! 日常的に気配を巡らせて危機を察知できるなんて、人間業じゃないだろ!? ……とにかく、誰かがこっちに来てる」

 直後、コンコンとドアがノックされた。

「もしもし。生徒会長の神堂慧理那です。入っても宜しいですか?」

「生徒会長!? は、はい! ちょっと待って下さい! ――何か見られてヤバイものはあるか!?」

「いや」

「こ、ここに永劫隠蔽されるべきものが……」

 総二は慌てて三人に聞いた。鏡也は首を振り、トゥアールは愛香を指した。そして愛香はトゥアールをたたんだ。

「さて、もう良いわよ」

「お、おう……」

 真顔で返された総二はドア向こうの慧理那に声を掛けた。ドアが開き、慧理那が姿を現すと、総二は否が応でも興奮してしまう――その、見事なツインテールに。

「お邪魔いたします」

 一歩、足を室内に踏み入れると空気が一変した。しゃなりしゃなりと進むその姿は、後ろに控えている尊も相まって、一国の王女のようだ。

「正気に帰れ」

「あてっ」

 心がツインテールに飛びつつあった総二の頭を叩いて、現実に帰ってこさせると、鏡也は慧理那に口を付けていないお茶を差し出した。

「どうぞ。そこに座って下さい」

「それで、今日はどうしてここに?」

 鏡也は慧理那に座ることを薦め、総二は襟を正して用向きを尋ねる。

「新設の部活動……『ツインテール部』の活動に関して、幾つか確認をしたいと思いまして」

 慧理那も背を正し、真っ直ぐに総二を捉えた。

「活動内容には『ツインテールを研究し、見守ること』と、ありますが?」

「間違いないです」

「観束君は……ツインテールが好きなんですか?」

「大好きです」

「タイムラグ無しで答えるな。それとツインテールを見て話すな」

 鏡也も今更過ぎるなと思いながらも突っ込まずにはいられなかった。

 慧理那は少し悩むような素振りを見せる。その様子が鏡也には引っかかった。

「どうして、ツインテールが好きなんですか? それも、部活動にするほど」

「逆に聞きます。ツインテールを好きになるのに、理由が要りますか?」

「総二。お前は何を言ってるんだ?」

 ツインテールに対する総二の異常な熱意は、テイルレッドになるようになってから加速度的に上昇していた。純真なまでにキラキラとした瞳の奥にツインテールが見える程だ。

 そんな熱意に戸惑いを感じているのか。鏡也には、慧理那は言葉を詰まらせているように見えた。

「そうですか………えぇ、わかりました」

「……?」

 絵理奈が深く頷き、そう答えたが、その言葉には何か含みのような物を感じた。

「何か、活動内容に問題が?」

「いいえ。問題はありませんわ。ツインテールを愛する部活なら、ツインテイルズの応援にも繋がりますし」

 愛香の問いに慧理那は首を振った。

「それよりも、鏡也君がツインテール部に入っていたことの方が驚きですわ。てっきりフェンシング部に入るものだとばかり思っていましたもの」

「色々と思うところがあって。別に特待でもないから、問題はない筈だけど?」

「そうですけど……真里亞さんと大吾君が怒ってましたよ?」

「あー。そうですかぁ」

 慧理那の言葉を聞いて鏡也は思わず天を仰いだ。

「誰?」

「フェンシング部の部長と副部長。うちは男女合同でやってるから」

 総二に疑問に答えながら、近いうちに起こるであろう面倒事に、鏡也は頭を押さえるのだった。

「では、そろそろお暇しますね。――あ、そうですわ」

 席を立った慧理那は総二の右腕に視線を落とした。

「いくら部活中でも、派手なアクセサリーは禁止ですわよ」

 

『ッ――!!』

 

 唐突に落とされた爆弾に、総二は右腕を庇うように胸に抱いた。愛香も体で隠すように腕を回した。

「テイルレッドのデザインですわね。最近、発売されたものですか?」

「え、えっと……」

「お嬢様。そろそろ時間です」

 尊が小さく告げると、慧理那はコクリと頷いて返した。まだ予定があるようだ。

「それでは。ツインテール部のこれからの活躍と躍進を祈っておりますわ」

 ニコリと陽だまりのような笑みを残して、慧理那は部室を去った。そして、誰ともなく、深い溜め息を吐いた。

「どういうことだ、トゥアール!? 認識撹乱が効いているんじゃないのか?」

「そ、その筈ですよ? 現に今も機能していますし……でも、だったらどうして?」

 さしものトゥアールもこの状況にはすぐに対応できず、戸惑っている。何か問題があったのか、一時的な機能不全か、そんな推測ばかりが並べられていく。

「とにかく、一度メンテナンスしてみます。特にブルーのブレスは念入りにしましょう」

「何でよ?」

「人気がないのを気にしているんでしょう? 防御力を落として、ちょっとした攻撃一つで服が破けるようにすれば! あ、せっかくだから脱衣機能とか付けます? でも、あの格好から脱いだって誰得って感じですかね! アハハハ!」

「必殺ガチ殴り!!」

「サイタマッ!?」

 愛香のワンパンチで血の海に沈んだトゥアールは見ないことにして、鏡也はふと、慧理那の戸惑いに違和感を感じていた。

(姉さんはもしかしたら、何かを無意識にでも感じていたのかもしれないな)

 とはいえ、こちらからアプローチを掛ける訳にも行かないので、リアクション待ちにしかならないと、何度目か分からない溜め息を吐くのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その日、エレメリアンが出現した。現場となったのは大手デパート前に設けられたアイドルオーディションの会場。

 現着したツインテイルズとナイトグラスターが見たのは、屋外に設けられたオープンステージから、悲鳴とともに見目麗しい少女たちが逃げてくる光景だった。

「……あ~、何かしら。この、魂の奥底からふつふつと上がってくる冷たいマグマみたいなものは」

「ブルー。それ、絶対に外にだすなよ? 出したらもう、その時点で終わりだからな?」

 よりにもよって、オーディションは水着審査中であった。胸弾む未来を求める少女達の弾む胸があちらこちらに。

「胸糞悪い。ここって空気悪いんじゃない……? さっさと終わらせましょ」

「いや、さっさと終わらせるのには賛成だけど……」

 不穏な気配を発するブルーに一抹の不安を感じながら、レッドは敵を見やった。

 筋骨隆々といった大きな体躯に、頭部にはL字のような太い角。野牛――バッファローを思わせる風体だ。

「ふん。どいつもこいつも見掛け倒し。真の巨乳は此処にもおらぬか」

 失望したとばかりに頭を振るエレメリアンはツインテールを確保するように、と指示すると、アルティロイドがツインテールの少女達を囲んだ。

 そんな絶体絶命の状況なのに、それでもカメラを意識している様にレッドには見えた。これぐらいの気概がなければ、芸能界は渡っていけないのかも知れない。

 そんな伏魔殿の闇を覗きつつ、囚われのツインテールを救出するべく動く二人。その前にエレメリアンが立ちはだかる。

「邪魔はさせぬ! 我が名はバッファローギルディ。世に巨乳の平穏のあらんことを願うリヴァイアギルディ様に仕える者だ! 巨乳属性を広めんが為、我が命を掛けてお前達を倒そうぞ!」

「リヴァイアギルディだと? まさか、クラーケギルディっての以外にも、来ているのか?」

 まさかの二部隊の同時侵攻にレッドは驚き、そしてブルーの頭部に四つ角が浮かんだのを本能的に感じ取る。

 こいつは、ブルーとは相性最悪の属性だと。

「レッド、ブルー。少女達は私に任せろ。お前達は存分にやるがいい」

「おい、ちょっと待て! 察して逃げようとするなよ!?」

 同じく不穏を察したナイトグラスターはアイドル候補の少女をあっという間に助けだすと、それを庇うようにしながら、そそくさとブルーから離れようとする。

「巨乳属性……つまり、アンタを倒せば、巨乳属性の、属性玉が、手に入るのね」

「お、おいブルー……?」

 レッドは思わず後退った。ブルーから闇色のオーラ――殺意ならぬ殺乳の波動が立ち昇る。

「お前の属性玉をよこせぇええええええ!」

「ぬぅ――!?」

 

 

「お嬢様、お早く!」

「待ってください、尊! テイルレッドのフィギュアが!」

 デパート内で避難しようとするメイドと少女。もう少しで出口というその時――。

 

 ドガシャァアアアアアアアアアアン――――!!

 

 ガラスを突き破って飛び込んできたのは、野牛の如きバッファローギルディ。そして、野獣の如きテイルブルーだ。

「うがぁあああああああああ!」

「おのれ! 乳の余裕が無いと、心さえ荒むか!」

「じゃかましいわぁああああああ! ――げっ!?」

 視界の端に映った人影が、巨乳に狂ったブルーを正気に返す。その一瞬をついて、バッファローギルディがブルーを掴んだ。

「飛べい! 我が属性力で!」

 そのまま、吹き抜けに向かってブルーをぶん投げる。

「きゃ――――っ!」

 一瞬で最上階まで飛ばされて消えたブルー。バッファローギルディはそのまま体勢を変えて着地した――二人の前に。

「お嬢様、お下がりを!」

 少女を庇うメイド。その姿を見とめ、バッファローギルディが鼻を鳴らした。

「むぅ……素晴らしい巨乳。後の少女も見事なツインテールだ。よもや、このような偶然が在ろうとは。鴨が葱を背負って来るとはいうが、これは正に”巨乳がツインテールを運んでくる”ということだな。やはり、巨乳こそツインテールと並び合う存在なのだと、強く確信した!」

「意味分からん事のたまってんじゃねぇえええええ!」

「うごはぁ!?」

 炎をまとった鋭いキックがバッファローギルディを盛大にふっ飛ばした。

「大丈夫ですか、すぐに――っ!?」

 レッドは二人に声を掛け、そしてまさかの見知った顔に驚いた。神堂慧理那と桜川尊だったからだ。

「ど、どうしてこんな所に……?」

「えっと、このデパートでこれを販売するというので……」

 そう言いながら見せたのはハイグレード仕様テイルレッドfi◯maだった。顔や手、剣などの付属パーツは勿論、エフェクトパーツも充実。自由にポーズを決められ、必殺のグランドブレイザーも完全再現出来る。

「えぇ……。肖像権とかどうなってんの……?」

この国の法律とか、そろそろヤバイ気がしてきたレッドの前に、復活したバッファローギルディが戻ってきた。

「ぬぅ……苛烈なる蹴りよ。流石は究極のツインテール。だが、そう慌てるな、テイルレッドよ。お前とていずれは立派になろう。私には分かる。いずれブルーなどとは天地の隔たりが在ろうほどに、育つと!」

「お前らどうしてそうブレないんだよ!?」

「お嬢さまのツインテールに手を出せはせん。そしてこの胸はナイトグラスター様のものだ! 失せろ、怪人め!!」

「こっちもこっちで何を言い出している!?」

属性玉(エレメーラオーブ)――体操服(ブルマ)!!」

「うぐぁ!? な、なんだ、体が……持ち上がっていくだとぉおおおおお!?」

「――あ」

 バッファローギルディの巨体が吹き抜けを真っ直ぐに上がっていく。レッドが見上げたその先には――鬼がいた。

 鬼はバッファローギルディがガラス天井を突き破ったのを見計らって、仕掛けた。

「オーラピラー! でもって、エグゼキュートウェーブ!」

「えげつねえ!!」

 情け無用とばかりにぶち込まれた必殺の一撃に、バッファローギルディが爆散。ブルーはそそくさと、落ちてきた属性玉をキャッチした。

「巨乳属性の属性玉……ふふ……フフフ……!」

 その喜びを抑えられないのか、ブルーの口元が緩んでいく。そして感極まったブルーが青空を仰いだ。

「ア―――⌒( ゚∀゚)⌒ハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \!」

 顔文字さえ見えそうな笑い声が、さわやかな空に響き渡った。その光景が、オーディションの取材カメラによって撮影されているとも知らずに。

 

「ブルー、また好感度下がるぞ?」

 すでに手遅れな心配をするナイトグラスターは、尊に見つかる前に基地へと帰るのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「巨乳属性を使ったテイルギア?」 

『そう! 前にドラグギルディを倒して手に入れたツインテール属性と組み合わせて、巨乳になれるテイルギアを作ってもらえることになったの!』

「そ、そうか。良かったな……愛香」

 その日の夜。風呂を出た鏡也が自室に戻るとトゥアルフォンがけたたましく鳴った。

〈メガネコソガセイギ! メガネコソガセイギ!〉

 取り敢えずこの着信音は変えることをしっかりと誓って、鏡也は愛香からの電話に出た。

 そして伝えられたのが新しいテイルギアの事だ。今日入手したバッファローギルディの属性玉と合わせたハイブリッド仕様のギアで、そろそろ戦力アップをと考えていた未春(何故か)からゴーサインが出たらしい。

 だがしかし、あのトゥアールが。愛香を弄るためならば自身の命さえ厭わない、芸人根性レベル99なトゥアールが、そんな素直に、愛香が喜びそうなものを作るだろうか。

 先日も、部室でアンチアイカシステム2号〈アイカトラエール〉を起動させ、愛香を封じ込めたと高笑い、その後にはあっさりと高々と打ち上げられたあのトゥアールが。

 絶対に、何か裏がある。総二の貞操を賭けても良い。それぐらいの自信が鏡也にはあった。

 だからといって、賭けたら賭けたで、本気で使えそうなのを作りそうだが。

「ともかくあれだ。その………頑張れ?」

『ありがとう! あたし、頑張るから!!』

 凄い張り切って、愛香は電話を切った。鏡也はその手で総二に連絡した。

 数コールの後、総二が出た。

「総二。愛香の事なんだが……」

『あぁ、聞いたのか。実はさ――』

 総二から語られるのは、基地で起こった壮絶な一幕だった。

 巨乳になりたいばかりにトゥアールに、血涙まで流しながら土下座し、それに絆されてトゥアールがギアを作ることになったと。

 だが、総二は見てしまった。トゥアールが邪悪な笑みを浮かべていたのを。

『……なぁ、今からでもトゥアール止めた方が良いかな?』

「………。やめとけ。藪をつついても得はないぞ?」

『…………そうだな』

 こうして男二人は、全てに封をする事に決めた。その先にあるのが凄惨を極めた悪夢であろうことは想像できるのに。

 

 

 

 誰だって、巻き込まれるのは嫌なのだ。

 




トゥアール――地雷原でタップダンス。

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