光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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最近暑いですね。この暑さと昼夜逆転生活ですっかりへばっておりますw


迫る脅威、新たなる襲撃者達!


「こうして改めて見ると、色々と思うものがあるな……良い意味でも悪い意味でも」

 4月もいよいよ終わりが見える29日の放課後。鏡也は空き教室の前にいた。目の前では、総二が昼休みを利用していそいそと作ったある物を、教室入り口に付けていた。

 

 ツインテール部。

 

 思い立ったが何とやら。総二はすぐに部活創設申請を出した。部員は総二、愛香、鏡也だ。一応は文化系なので運動系のような人数規制はなく、申請は滞り無く進められた。後は書類が正式に受理されるだけである。

「今度から、ここが校内での拠点になるんだな」

 プレートを付け終わった総二が、感慨深げに頷いた。

「ツインテール……本当に不思議な言葉だよな。ふとした時、気が付いたら呟いちまってる。この文字一つ取っても、まるで宇宙を哲学するみたいな途方も無い物を感じるよな」

「すまん。俺には原子一個分すら理解できない。それより、愛香達は中なんだろ? いつまでも突っ立ってないで、入るぞ。今日中に掃除をしておかないと」

 ツインテールに思いを馳せる総二を尻目に、鏡也はドアをガラリと開ける。

「いい加減にして下さい! まかりなりにも人間の姿形しているんだから、ホモ・サピエンスらしい言動をしてくださいよ!」

「そういうのは自分の今の姿を見て言いなさいよ! 胸はだけてんじゃないわよ!」

「総二様が入っていた瞬間を見計らって『きゃ、総二様のエッチ!』ってやろうとしたのを邪魔するからじゃないですか!」

「するに決まっとるわぁああああああああ!!」

 ドアを開けた向こうには、キャットファイトを繰り広げる雌が二頭。一頭は肉食獣。もう一頭も別の意味で肉食獣だ。ただ、キャットファイトと言っても一方が一方を蹂躙する展開で、試合としては確実に成立しないだろう。

「あーあ。せっかく後ちょっとだったのに」

「総二。いよいよこういうのに慣れてきたな」

 休み時間の度にちょこちょこと掃除をしてきて、後は床と窓だけだったのだが、室内は見るも無残な状況になっていた。

「大体、何でまだ校内にいるのよ!? 手続きとか終わったんなら帰りなさいよね!?」

「良いじゃないですか! これから総二様と毎日愛を通わせる場所なんですから、じっくりと調べないと行けないに決まってるじゃないですか! 主に人目につかない場所に関して!」

「何をする気なのよ、そこで!」

「え? 愛香さんわかってるでしょ? どうせ愛香さんだって同じことしているんだから! ていうか何時まで乗ってるんですか! さっさと降りてくださいよ!! 何が悲しくて愛香さんに騎乗位されなきゃならないんですか!?」

「き、騎乗位じゃないわよ! マウントよマウント!」

「あー、赤くなってますね! 頭の隅から隅までピンク一色な愛香さんが今何を想像したのか当ててあげましょうか!?」

「当てんでいい――――!」

 愛香がツインテールを揺らしながら、トゥアールの頭を激しく揺さぶっている。その様子――愛香のツインテールに心揺さぶられている総二を余所に、鏡也は今朝の出来事を思い返しつつ、端に置かれているバケツを手に取った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 登校する児童がチラホラと見える小学校のプール前。毎度おなじみとなったアルティロイドを引き連れて、虎の姿をしたエレメリアン――タイガギルディが天に向かって高らかに咆哮した。

「ぬぉおおおおおお! スク水がおらん! 何故だぁあああああ!!」

「モケモケ、モケ!」

「何? 時期的にまだプール開きしていないから仕方ない? バカモノ! そんなのは分かっておるわ! それでも、こう……あるだろう!?」

「も、モケ~……」

「分かっておる! このような藻だらけのプールで戯れる訳がないと……だが、それでも、こうあるだろう!?」

 

「「「そんなんあるかぁあああああああ!」」」

 

 戯言を吐き続けるタイガギルディの顔面に、三本の足が突き刺さった。

「ぐはぁああああああぁぁぁ……っ!」

 ザッパーン。と派手に水飛沫を上げて、タイガギルディがプールに落ちた。

「思わず蹴り飛ばしてしまったけど……とりあえず、これ以上の悪ふざけは許さないわよ!」

 スタッと降り立ったテイルブルーが、深緑の底に沈んだタイガギルディ目掛けて指差した。だが、聞こえていないであろう。

「よし。アルティロイドを蹴散らすぞ。行くぜ、鏡也!」

「まったく……何でこうなった。だが、来てしまった以上は手抜きはしない!」

 テイルレッドがブレイザーブレイドを抜き、先陣を切る。鏡也はゆっくりと歩きながら、手にした剣――サディステイックサーベルを鞘から抜き放った。

 緩やかな反りの入った黒鉄の軸に銀色の刃が備えられたその剣は、護拳という半円状の鍔を持つ。一振りして具合を確かめ、鏡也はその足を徐々に速めた。

 鏡也に向かって、数体のアルティロイドが飛びかかった。

「ふっ」

 横薙ぎの一閃。ただの一振りでアルティロイドが消滅する。その切れ味、フォトンフルーレにも劣らないと感じ、思わず吐息が漏れた。

「さすがだな。――これは、いい剣だ」

 鏡也の口元が歪む。まるで剣に魅入られたかのように瞳に、心に、加虐の火が灯る。同時に鎬の部分に、加虐の属性力を示す紋章が現れた。

 それによって更に切れ味と速度を増した剣撃が、アルティロイドを更に葬る。タイガギルディがプールの底の藻を引き切って浮上してくる時には、殆どのアルティロイドは倒していた。

「お、おのれ! かくなる上は!!」

 タイガギルディはその身から猛獣の如き属性力をみなぎらせ、テイルレッドに迫る。来るか、とテイルレッドが剣を握る手に力を込めた。

 その力はドラグギルディやフマギルディと比較すれば弱い。だが、それ以外とは比べるまでもない程に強い。そして何より、属性力の生み出す特殊能力次第では苦戦するかも知れない。

 時間もない以上、速攻でケリを付けなければならなかった。

 タイガギルディはゴロンとその筋骨隆々な体を転がし、無防備にも腹を晒した。何かの攻撃を仕掛ける予備動作か。

 

「後生だ! スク水の如き衣を纏うテイルレッドよ、我が腹を海と見立ててどうか元気いっぱい泳いでくれい!」

「ぎゃああああああああああああああ! コイツ気持ち悪いぃいいいいいいいいいいいいい!」

 

 背筋をマッハで駆け上がる怖気に身を震わせ、無意識に手近にあったものの影に隠れた。

「た、確かにこれはクるものがあるな……」

 自分の影に隠れたテイルレッドを庇うようにしながら、気持ち悪さに顔を歪める鏡也。その横をクルクルと槍を回しながら、テイルブルーが過ぎる。

「そんなのいつものことでしょ。さっさとケリをつけるわよ」

 動揺の一切ないブルーを見るや、タイガギルディがその瞳をクワッと身開いた。仰向けのままで。

「失せろ、汚らわしい! そのような布面積の少ないものなどスク水に比べれば尻紙も同然!! それを理解したなら今すぐ土下座してテイルレッドに謝罪せよ!」

 その迫力。まさに猛獣。しかし、タイガギルディの覇気はしかし、怪獣の殺気よって粉砕されてしまった。

「じゃかましいわぁああああああ!」

「うぼはぁあああああああああああ!?」

 全力でその腹にウェイブランスを叩きつけられ、タイガギルディが悲鳴を上げた。ついでに下のコンクリートも砕けた。更にブルーはタイガギルディを蹴り飛ばし、槍を翻した。

「エグゼキュートウェイブ―――ッ!!」

「ぬがぁあああああああああああ! す、スク水ぅううううううう!!」

 ウェイブランスに貫かれ、タイガギルディがプールに再び落ちた。そしてその変態ぶりだけを晒して、爆発した。

「………無惨だ」

 その最期に、鏡也はポツリと呟いた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「どうした鏡也?」

 我に返ると総二が首を傾げていた。その後ろでは愛香がトゥアールの首をあらぬ方へと傾けさせている。

「……いや、この前の小学校の出来事を思い出してな」

「それって、あのタイガギルディってやつの事か?」

「あいつはドラグギルディよりも大したことのない奴だったが、しかしそこいらのエレメリアンとは比較にならない力を持っていた。間違いなく幹部級だ」

「そうなのか? でも、早過ぎる気もするぜ?」

「元々、近い所にいたのかは知らんが……途方も無い早さだ」

「――これから厳しくなるな」

 後ろで更に厳しくなるトゥアールを余所に、総二は呟く。

「だが、同時にチャンスでもある」

 最早チャンスすら無いトゥアールを一瞥もせず、鏡也は総二に向く。

「数が無数にいる以上、全てを倒すことは難しい。だが、それぞれの部隊を率いる部隊長……幹部級エレメリアンだけに狙いを絞れば、こちらにも勝ちの目が見える」

「そ、そうか……そうだな!」

 敵がどれだけ居るかは不明でも、それらを率いる存在となれば数はそれ程でもないだろう。そしてそれらを倒していけば、後は組織が勝手に瓦解するだろう。

 それに先んじてトゥアールが瓦解しそうだが、それらをスッパリ見ないふりをして、総二はギュッと拳を握った。その後ろで愛香がトゥアールの顔をギュッと握っていた。

「さて、少しばかり先の展望が見えた処で……掃除をしよう。このままじゃ日が暮れる」

「……だな。よし、やるか!」

 総二も立て掛けてあったモップを手にした。

 

「そ……そうじさま……そろそろ………こちらもきにかけて………」

 

 先の展望も見えぬまま、本気で愛香によって瓦解しそうなトゥアールであった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「っ……ぬぅ」

 異空間に浮かぶアルティメギル秘密基地。その基地にて一人頭を悩ませているのはスパロウギルディである。彼の視線の先にあるのは、アルティロイドが記録したタイガギルディの最期である。

「………なんということだ」

 何とも言えない顔で頭を抱えこみ、再び唸る。この際、あの余りにも余りにもな最期には目をつぶるとして、それを差し置いても唯一つ。

「強すぎる……ツインテイルズは、強すぎる!」

 ドラグギルディ隊の参謀を務めるスパロウギルディは勿論、属性力の拡大、拡散からの刈り取りという、組織の作戦を知っている身である。だが、その最終過程でドラグギルディが倒され、そして今またタイガギルディまでも。

「それだけではない。奴らはあのフマギルディ殿さえ退けているのだ……このままでは」

 ここに来て、部隊を構成する者達の脆弱さを浮き彫りにしてしまった。殆どの部隊の力関係は部隊長を頂点とした完全なピラミッドだ。絶対強者の部隊長と、属性力流布のための部隊員。

 隊長が倒されれば、属性力を狩れない。こんな馬鹿な状況を打破する術もないのだった。

 何も知らない者達は弔い合戦だと息巻いているが、このままでは尽く犬死にだ。それはスパロウギルディの望むところではない。

 二部隊を抱え込んで、如何にすべきか。思案するスパロウギルディの元に、一つの連絡が飛び込んできた。通信画面が開かれる。

『スパロウギルディ殿! 新たな部隊がこちらに!』

「……何処の部隊だ?」

『リヴァイアギルディ隊です!』

「何だと――っ!?」

 スパロウギルディは驚きの余り、声を裏返した。

 リヴァイアギルディ。ドラグギルディとは同期で、その実力は彼に比肩するとさえ言われている猛者だ。

 分厚い暗雲から光明が差し込んだと、スパロウギルディが色めき立っても仕方ない。だが、報告はそれだけではなかった。

「それと、クラーケギルディ隊もこちらに!」

「何だと――っ!?」

 スパロウギルディが再び声を上げた。だが、先程とは別の意味でだ。

 クラーケギルディ。常に自らが前線に立つ超実戦主義者であり、その実力はリヴァイアギルディにも並ぶ程。だが、この両名――いや、両部隊は決定的に相性が悪い。それは互いに掲げる属性力故に。

 決定的に相反し、絶対的に相容れることのない――それは宿業だ。

 どちらかだけならば頼もしい事この上ない。だが、その両部隊が同時にこの場に向かってきているという。そこにあるのは新たなトラブルの火種であることは、想像に容易い。

 にも拘らず、二部隊を統合するという事実がどうしても理解できない。

「せめて、何事も起こらないで欲しい……」

 決して叶うことのない願いを、それでもスパロウギルディは願わずにいられなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 喫茶アドレシェンツァ地下にある、ツインテイルズ秘密基地〈アイノス〉。トゥアールによって鏡也の前に差し出されたのは眼鏡であった。

「先のデータを含めて、バージョンアップしました。ギアの出力も一割ほど上昇しています」

「それは助かる。さすがにフマギルディ並の奴がゴロゴロ出てくるとは思えないが、それでもパワーアップはありがたい」

 早速、鏡也は眼鏡を掛け変えた。鏡也の属性力との相性か、その収まりは素晴らしいと感嘆の吐息が零れる。

「それで、新しい機能が追加してあります」

「新しい機能? ……これか?」

 鏡也は視界に映し出されたものを注視した。それは周辺の地図と三次元座標のようだ。他にも細かい情報が表示されているが、意味するところはわからない。

「これは網膜転写型転送システム、名付けて〈転送レンズ〉です!」

「まんまだな。……で、どう使うんだ?」

「眼球の動きや電気信号の流れ……ぶっちゃけ、こうしたいああしたいと考えたり見たりすれば、動きますから」

「ほほう。では早速………よし、転送!」

 一瞬にして鏡也の姿が消える。そして――。

「ぐえっ!?」

 一人の痴女が、踏まれた。

「おぉ、成功だ」

「何で人の上に座標セットしているですか!? 思わず潰れたカエルみたいな声出しちゃったじゃないですか!!」

「……少しぐらい潰れたほうが、愛香に握り潰されなくて済むぞ?」

「嫌ですよどっちも! ていうか早く退いて下さい!」

 今後の被害を減らせる良いアイデアだと思ったのに。と、呟きながら鏡也はトゥアールから降りた。手を貸して立たせると、トゥアールは服をパタパタと叩いた。その度に胸部が揺れるのだが、生憎とそれに殺意を覚える人物は基地にはいない。

『――ねぇ。今さ、すっごい不愉快なことがあった気がするんだけど?』

 その筈なのに、何故か愛香からの通信が飛び込んできた。

「気のせいだ」

 鏡也はバッサリと切った。基地内で殺人事件を起こさせる訳にはいかないのだ。

「ともあれ、転送システムは有難いな。いちいち自転車を飛ばさなくて済むし、何より転送ペンと違って、目立たないのがいい」

 転送ペンの場合、転送位置の指定にコンソールを使用する。だがこれは人の目があるところでは使用できない。目立ち過ぎるからだ。

 だが、鏡也の転送レンズは手で覆うなどすれば人前でも使用できる。座標を予め決めておいて、人気のない場所で使用すれば、時間の短縮になる。

「……で、あいつは何で頭を抱えてるんだ?」

 チラリと見れば、総二が頭を抱えて唸っている。ブツブツと何か言っているようだが、二人の位置ではよく聞こえない。

「えーと……鏡也さんはお店の方は見られましたか?」

「いいや。裏から入ってそのまま来た。………店に何かあったのか?」

「何かあったどころじゃねーよ!」

 バシン! と、机を叩いて総二は立ち上がった。その表情は色々と追い詰められている様に見えた。

 ここまで動揺するところは鏡也も知らない。

「――で、何があったんだ?」

「……今日、店が繁盛していたんだ」

「ほう。珍しいが良い事じゃないか」

「客の全部が中二病でなかったらな」

「………は?」

 総二が言うには、店の客が尽く、尽く中二病だったという。自称タイムトラベラーだったり、自称吸血鬼だったり、自称凄腕ハッカーだったり。勿論、そんなわけもない。そういう設定を楽しんでいるのだ。

「お義母様の中二病属性が高まったせいで、そういう属性をもった人が集まってきているんですよ。同じ属性同士は呼び合うものですし」

「類友というのだ、それは」

「愛香なんて余りのショックで石化しちまって……あいつにはツインテール喫茶を薦めてやるべきだったかな」

「積極的に止めを刺しに行くな。……ま、いずれは慣れるだろうし、我慢するんだな」

「なんか名言ぽいこと言われて、『死にそうなほどの大ピンチになったら思い出して』とか言われたんだけど?」

「思い出してやれば良いだろ?」

「だから死にかけって言ってんだろ!? 何でそんな状況に積極的にならないといけないんだよ!?」

「それが親心というものじゃないのか?」

「そんな親心はいらん!!」

 総二はガックリと肩を落とし、椅子に力尽きるように座り込んだ。身内の黒歴史(本人はそう思っていない)が現在進行形ではダメージもでかかろうと、鏡也はそっとしておくことにした。

「それじゃ、今日は引き上げる。何かあれば連絡をくれ」

 トゥアールにそう告げて、鏡也は基地を後にした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 いつもの様に自転車を漕ぎ家路につく。今日はアルティメギルの襲撃もなさそうだし、何よりテイルギアが帰ってきたので心に余裕があった。

「Sサーベルがあるが……エレメリアン相手には不足だしな」

 鏡也は携帯を取り出し、そこのストラップとしてぶら下がっている物を見やった。剣をモチーフにした飾りがついている。それこそ、Sサーベルの待機状態だ。

 

 ――prrrr。

 

「ん? 姉さんから?」

 携帯を仕舞おうとした処で着信があり、足を止める。

「はい、もしもし?」

『――あ、鏡也くん? 慧理那です』

 電話の向こうから聞こえてきたのはやはり慧理那の声だった。

『急で申し訳ないのですが、今度の土曜日……予定はありますか?』

「いや、何もないけど……どうして?」

『実はその日、買い物に行くのですが……付き合ってもらえないかと思いまして』

「買い物? 別に良いけど……何を買うつもり?」

『え、えっと……それは………』

 慧理那は言葉を濁らせた。それだけで何を買うつもりなのかを鏡也は察した。

「今度は何の玩具を買うつもり?」

『………とある特撮の超合金ロボットを少々』

「………姉さん」

 やっぱり。と、鏡也は溜め息を吐いた。変わっていない。昔から本当に変わっていない。

 両親に連れられて初めて出会った時、特撮ヒーローの変身ベルトを付けて「目覚めて、私の魂!!」と叫んでいたのは今でも誂いのネタのぶっち切りトップだ。

「でも、買い物なんて大丈夫なの? 姉さん、今まで何度も襲われてるじゃない?」

『えぇ。尊にも控えるように言われているのですが……やはり、こういったものは自分の足で出向いて買わないと!』

「そういうものなのか?」

『そういうものなのです!』

 電話の向こうで、きっとドヤ顔しているだろう慧理那に苦笑する。

『それで、どうしてもというなら護衛を付けて……あと何故か、鏡也くんも一緒に来てもらうようにと』

 

(囮にする気だ――――!!)

 

 あまりにもド直球な狙いに鏡也は内心で叫んでいた。だが考えてみれば、自分の身を守る術を持っている上、何故かエレメリアンに優先的に狙われる鏡也は、慧理那を守るための囮としてこれ程に相応しい人選もない。

 尊の最優先は慧理那の身の安全だ。この判断は間違っていない。実際に、あの後も慧理那は何度かエレメリアンに襲われ、その度にツインテイルズが助けている。

 二度目以降はまだしも、最初の襲撃の時は相当に怖い目に遭った。それなのに慧理那は積極的に外に出ている。普通ならもっと警戒するだろうに。

 

 ――尤も、神堂家の屋敷も襲撃されているので何とも言えないが。

 

「買い物の件は了解。で、時間は?」

『朝の7時。ショッピングモール前で待ち合わせで』

「早いな!? ……わかった」

 多分、整理券待ちだなと思いながら、鏡也は頷いた。

 

 家に入るとリビングに天音がテーブルに幾つもの紙を広げていた。

「ただいま。……何してるの?」

「あら、おかえりなさい。ふふ、ちょっとねー」

 天音はえらくご機嫌な様子でハサミを動かしている。どうやらスクラップを作っているようだ。

 何をそんなにと覗いてみる。

 

『敵か味方か!? ナイトグラスターに迫る!!』

『テイルレッドに迫る影。ナイトグラスターとは何者か? 専門家が検証』

 

「………………………は?」

 何故? どうして? 何でナイトグラスターの記事をスクラップを作っているのか。

 嫌な予感をそこはかとなく感じながら、鏡也は天音に尋ねた。

「母さん。何でそんなものを………?」

 ナイトグラスターのファンだとか、そういう答えを希望して。

「あら。せっかくの息子の晴れ姿なのだから、記録を残すのは当然じゃない」

 そして、希望は裏切られた。何を馬鹿なことを言っているのとばかりに小首を傾げる天音は歳不相応に可愛らしい。

「な、何のことかなぁ……?」

「この子ったらとぼけちゃって。息子を見分けられない母親なんていないわよ……あ、そうだ。聞きたかったんだけど、ツインテイルズって、もしかして私の知ってる子? だったら愛香あたりちゃんが怪しいんだけど……レッドは誰かしら? でも変身しているんだから、見た目に騙されちゃダメよね? ………総二くんとか?」

「やめて! それ以上、詮索しないであげて!!」

 認識阻害さえ超える母の眼力に恐怖して、思わず声を上げてしまう鏡也であった。

 




いよいよ問題のある人達がアップをはじめる頃ですw

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