翌日。鏡也は何時もより遅く起きた。体力はバットギルディの属性玉で回復した筈なのだが、何故か頭と首と背中と腹にダメージが残っているのだ。
更にいつの間にか属性力が戻っていて、またテイルギアを使えるレベルになっていたとトゥアールから教えられた。
どうして属性力が回復したのか。何かきっかけがあったような気がしたが、どうにも思い出せなかった。
鏡也はコキコキと首を鳴らして、調子を確かめつつ、ケースから眼鏡を取り出す。テイルギアは再調整のためにトゥアールが預かっているので、これは普通の眼鏡だ。
朝食を終えると支度を整え、学校へと向かう。道すがら通り過ぎる人達は、昨日の戦いのことなど知らず、平和な日常を過ごしている。
誰知らずとも、それでいい。誰もが変わらない時間を過ごしていけるなら、戦う意味は十分にあるのだから。
学校そばの信号で総二たちと合流する。
「おう、鏡也」
「お早う総二。……愛香、何で総二の後ろに隠れる?」
「気にしないで」
更に総二の影に隠れる愛香。まるで見知らぬ人を警戒する子犬のようだ。
「いや、凄く気になるんだが……」
「鏡也さん。実は昨日、鏡也さんが愛香さんを押しt」
「推して参る!!」
「へぶはぁ!?」
「で、何でトゥアールがうちの制服を着てここに居るんだ?」
「今度こそ、うちに転入するんだって」
「………大丈夫なのか?」
愛香とトゥアール。塩素と酸を混ぜるぐらいのデンジャラスさがあるが、果たして学校は大丈夫だろうか。具体的には壁とか床とか。
「ええい! いい加減、いつまでもやられてばかりではないんですよ! 見なさい、愛香さん迎撃用特殊兵器アンチアイカ第一号! ファイヤー!」
トゥアールが胸のホルスターから、これでもかという程に光線銃なデザインのものを抜いて、愛香目掛けてトリガーを引いた。
「なにこれ? 全然弱いじゃない」
「腕組みついでで全部片手でブロック!? 何処のバスターマシンですか、あなた!?」
「そのままバスターアームロック」
「そんな技はなぎゃぁあああああああああああああああ!」
本当に。本当にこれが校内で繰り広げられるようになって、大丈夫なのだろうか。具体的には校舎とか、校庭とか。
そんなそこはかとなくない不安に駆られ、それをごまかすように、二人は空を見上げた。
『うわ―――ははは! ツインテイルズ、そしてこの世界の者共よ! 我が名はタイガギルディ。この世界の属性力――母なる水にその身を委ねる衣……すなわちスク水こそ、星の意思を継ぐ属性力! ドラグギルディの盟友たる俺が、それを全ていただく!!』
「「「………」」」
昨日の今日でこれである。まるで雨後の筍だ。
「総二様。エレメリアン反応です。場所は近隣の小学校です」
「予鈴まで後、20分。諸々を考慮して……10分か」
総二は時間を確認し、一息。そしておもむろに振り返った。
「なぁ。皆、部活は決めたか?」
「まだ決めてないわよ。ずっとゴタついてたし」
「俺も希望を出しただけで入部はしていないな」
「トゥアールは? 希望する部活とかあるか?」
「私は総二様と一緒がいいです。個室、二人きり、放課後……ウヘヘ」
愛香によってトゥアールは強制的に黙らされる。
「……じゃあ、本気で作ってみないか? ツインテール部を」
総二は腕のブレスを空に向ける。それは新たな敵に向かっての宣戦布告か。
「――で、活動内容は?」
愛香がやれやれといった風に尋ねると、総二は待ってましたとばかりに笑った。
「勿論、世界中のツインテールを守ることさ!」
「やっぱりね。それじゃ、ちゃっちゃと片付けるわよ」
総二と愛香がテイルブレスを起動させ、ツインテイルズへと変身する。
「では私も、変身――!」
トゥアールも、仮面ツインテールへと変身する。
「おい。仮面つけただけで変身なのか?」
「何言ってるんですか、鏡也さん。宇宙探偵とか破壊魔とかディスってるんですか?」
「誰だそれは? ともかく、気をつけてな」
そう言って見送ろうとする鏡也を、何故か三人は首を傾げた。鏡也も首を傾げる。
「いや、一緒に行こうぜ?」
「アホか。俺は今、丸腰だぞ? テイルギアだってまだ調整中だし。なのにどうしてわざわざ、虎口に飛び込まにゃならないんだ!?」
「大丈夫です。こんな事もあろうかと、これをご用意しました!」
トゥアールが白衣のポケットから、ズルリと60センチ程の何かを取り出した。何処にそんなの入ってたとか野暮なツッコミはもう誰もしない。そもそも、仮面だってどっから出したのか分からないのだ。
「何だ、これは? ……剣?」
「属性力を使用した特殊装備。名づけて『サディステイックサーベル』です。鏡也さんのサディステイック属性をそのまま攻撃力に出来ます。エレメリアン相手は難しいですが、アルティロイド程度なら余裕ですよ余裕!」
「これなら自分の身は守れるな。良かったな鏡也!」
「あぁ、そうだな。だから俺の腕を今すぐに離せ」
気付けばレッドの小さな手が、しっかりと鏡也の腕を掴んでいる。
「レッド。急がないと時間ないわよ」
「よし。それじゃ、ツインテイルズ出動だ!!」
ブルーがリボンの属性玉を使い、レッドとトゥアールの腕を掴んで、一気に空高く舞い上がった。
「だから俺を連れて行くなぁああああああああああ!!」
青空に、一人の青年の魂の叫びが虚しく吸い込まれていった。
これにて第一巻は終了となります。
ほぼ思いつきで始めたせいで、色々と手間取った部分も多かったです。
次回はいよいよ、第三のツインテール戦士。そして、あの黒い子も顔見せする2巻の話です。