光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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すっかり遅くなってしまいましたが、いよいよ佳境の第4話です。




「どりゃあああ!」

 地を蹴って舞い上がるテイルブルー。手にしたウェイブランスを、真っ直ぐに振り下ろす。

 だが、その一撃は地面を打つだけだった。眼前にいた筈のフマギルディは一瞬で掻き消えていた。ブルーは咄嗟に槍を背後に向かって振るった。

 その柄が何かに当たる。が、そこからビクともしない。一瞬で背後に回ったフマギルディの右手が、ウェイブランスを掴んでいた。

「コイツ!」

 振り返りざまに足を振り上げ――られない。その上からフマギルディの足に踏みつけられてたからだ。

 まるで先の先さえ見据えられているかのような、不愉快さ。一対一ならばまず一切の勝ち目がないと、嫌でも思い知らされる。だが――。

「よそ見は感心しないな」

 その背後。鋭い剣閃が煌めく。フマギルディは左手で腰の物を抜き放つと、ナイトグラスターの剣を弾いた。その隙を突いて、テイルブルーの腕がフマギルディを捕らえる。

「ぬ?」

「捕まえたぁ!」

 腕を握り潰す勢いで、スピリティカフィンガーがパワーを上げる。ギリギリと腕を締めあげられながら、然しフマギルディの表情から不敵な笑みは消えない。

「うりゃ――!」

「はぁ――!」

 左右からの同時攻撃。ブルーの拳とナイトグラスターの剣がフマギルディを襲う。

 フマギルディはしかし、それを悠然と躱す。ブルーの攻撃を身を反らして躱し、ナイトグラスターの剣を全て捌く。

 だがそれも想定済みと、構わず攻め立てる二人。ブルーが腕を押さえている以上、いずれは手詰まりになる。一撃を見舞い、そこから一気に攻め切るつもりだ。

「ぬっ……くっ!」

 ついにブルーの蹴りがフマギルディを捉えた。動きが鈍った一瞬を突いて、ナイトグラスターの剣がフマギルディを斬る。

 ここだ。二人がアイコンタクトもなしに動く。挟み込むように二人のキックが突き刺さる。更にブルーがそのハンマーよりも強力な一撃をその顔面に叩き込んだ。更に更にと、嵐の如く激しい攻撃をフマギルディに浴びせかける。

「「ッ……!」」

 ダメージは入っている。しかし、攻撃が当たる度、二人の表情に焦りが見えだす。まるで、その手足が触れる度に得体の知れない何かが流れ込んでいるかのようだ。

「どりゃああ!」

「はぁああ!」

 その不安が、攻撃を大ぶりにさせる。刹那、フマギルディが動いた。腕を翻し、ブルーのロックを弾く。同時に旋風のように振るわれた手足が、ブルーとナイトの武器を弾いた。

「「っらぁ―――!!」」

 しかし、二人はそれでも攻撃を叩き込んだ。同時に繰り出されたパンチがフマギルディを大きくふっ飛ばした。そのまま派手に大岩に激突した。

「………どうかしら?」

「手応はあった。だが……」

 ガラガラと崩れた岩の下敷きになったフマギルディ。しかし、二人の表情は冴えない。

 アルティロイドをフマギルディ目掛けてふっ飛ばした時、アルティロイドは黒い炎によって一瞬で焼き尽くされた。その炎をまだ、一度として使っていない。正確に言えば、それ以前に攻撃さえしていない。

「――クク。なかなか良い攻撃だ。今までのエレメリアンが手も足も出なかったのも頷ける」

 岩が弾け飛ぶ。その下からフマギルディが余裕綽々といった風に出てきた。

「では、そろそろ始めようか」

フマギルディが右手をゆっくりと持ち上げる。そこに生まれるのは炎。禍々しいまでに黒い、暗黒の炎だ。

「さながら黒焔(ダークアンドダーク)とでも言ったところだな」

「何よ、その中二病臭い名前は」

「いや。あれを見てたら、何となく……忘れてくれ」

 ブルーの冷ややかな視線に頭を振って、ナイトグラスターは気を引き締め直す。

「改めて名乗ろう。我が名はフマギルディ。偉大なるアルティメギル首領様にお仕えし、名誉ある部隊監査官の任を賜りし、黒髪の使徒!」

「やっぱり、黒髪属性のエレメリアン……てか、いちいち名乗らないといけない決まりでもあんの、あんたら?」

「その通りだ。多少の前後はあれ、戦士として名乗りを行わぬことなど無い」

「逆に、名乗る前は戦いですら無いとも言えるわけか。本番はここからだな」

 圧力が増す。二人は自然と表情を強張らせた。

「黒髪属性を極めし我が流派〈訃黒流忍法(フマりゅうにんぽう)〉。その目に焼き付けるがいい!」

「「っ……!?」」

 二人は驚きの余り目を見開いた。

「ふ……風魔流忍法!?」

「なんて事だ……! そんな有名所を、まさかこんなタイミングで目にすることになろうとは……!」

「ちっがぁあああああああああう! 風魔流ではない! 訃黒流だ! 俺が生み出したオリジナル! オンリーワンだ! 貴様ら、どういう耳をしている!」

「「こういう耳?」」

「ええい! お約束のリアクションをしおって!」

 せっかく耳を見せたのに、なぜか途端に余裕をなくして、フマギルディは地団駄を踏み始めた。

「どいつもこいつも! 風魔流風魔流と……ええい、忌々しいぞ風魔め! この時代にあれば尽く灰燼に帰してやろうものをぉおおおお!!」

 憤りのままに炎を天に放つフマギルディの姿は、まるで駄々をこねる子供のようだ。風魔流が相当のトラウマらしい。

「さっきまでの得体の知れなさが木っ端微塵だぞ?」

「なんか、勝てそうな気がしてきたわ」

 少し、心に余裕が生まれた。二人は得物を構え、すぐに反応して動けるように軽くスタンスを広げる。

「行くぞ、テイルブルーとそのオマケ! 我が流派を虚仮にしたことを後悔するがいい!」

 フマギルディが地を蹴る。同時にその足裏からバーニアの様に火が噴いて、爆炎と共にその体を加速させた。炎はすぐに黒い霧に変じて消える。

「くっ!」

 咄嗟の反応で飛び退く。二人のいた場所にえぐるような痕が刻まれ、そこから炎が噴き上がった。フマギルディの攻撃の余波だ。だが、既にフマギルディは動いていた。

「はっ!?」

 フマギルディがナイトグラスター目掛けて、その手を大きく引いた。

「訃黒流忍法〈黒天雷火(ダークボルト)〉」

 ごう。と炎を纏った鋭い矢が撃ち放たれる。それは雷の如き速さで飛んできた。ナイトグラスターは咄嗟にフォトンシールドを展開した。直後、シールドを激しい衝撃が叩いた。

「ぐうっ」

 大きく弾き飛ばされ、思わず苦悶の声が零れる。フマギルディは切り返し、テイルブルーへと向かう。ブルーもすぐに迎撃しようとするが、それよりも一歩早く、フマギルディの刃が振り抜かれていた。

「ッ……!」

 袈裟懸けに走る鋭痛。フォトンアブソーバーの防御フィールドが斬られることを防いだが、ダメージはやすやすとそれを突破している。

「クカカカ! どうしたどうした!」

「くっ!?」

 ブルーは反射的に槍を盾にする。その上から数度、激しい衝撃が走った。その勢いに負け、後方へと弾き飛ばされる。遠ざかるフマギルディ。その手には黒炎が生まれていた。先のように炎を飛ばすのかと、ブルーは素早く属性玉を取り出す。

「属性玉変換機構――〈メイド服〉!」

 ブルーの体を淡い光が包む。それはメイド服属性の防御強化状態だ。これならば生半可な攻撃を受けてもダメージは薄い筈だ。

 フマギルディは構わず、その炎を放つ。先程とは違い、それは槍の如く、真っ直ぐに突き進んでくる。

「このっ!」

 ブルーはそれをウェイブランスで打ち払う。が、炎はそのままウェイブランスに蛇の様に絡みついた。

「何!?」

 炎は槍を伝い、ブルーの上半身にグルグルと巻きついた。

「訃黒流忍法〈邪炎縛鎖(ネビュラフレイム)〉。絡み取れ!」

「きゃあっ!」

 炎の荒縄が引かれ、同時にフマギルディも飛ぶ。一気に狭まる間合い。ブルーは唯一自由なその足を強引に振るった。

「うりゃああ!」

「カカカ!」

 だが、フマギルディの蹴りがそれを真っ向から叩き伏せる。更に振り上げた逆足がブルーを激しく穿った。

「ぐうっ……!」

「フハハハハハ!」

 そのまま炎を引かれ、幾度も振り回される。その度に木が砕け折れていく。グルグルと回り続ける視界の中、ブルーは反撃のタイミングを待つ。

「ブルーッ!」

 ナイトグラスターは着地と同時に駆け出す。ブルーに意識を取られているフマギルディ目掛けてフォトンフルーレを振るった。

「甘い」

「チッ!」

 だが、フマギルディはそれを難なく躱すと、逆に炎を纏わせた刃で反撃する。炎刃がナイトグラスターを逆袈裟に切り裂いた――と思われた。

「ぬ――?」

 だがその姿は霞の如く掻き消える。同時にブルーを縛り付けていた炎の縄が切り捨てられた。

「残像か。小癪な」

 振り返るフマギルディの先には、ブルーを抱えて着地したナイトグラスターがいた。

「大丈夫か、ブルー?」

「な、なんとか……。でも、厄介な相手ね」

 炎の拘束具は既に引き千切られて無い。自由になった身体をさすりながら、忌々しげに言う。

「スピードはブルーよりも速いな」

「パワーはナイトよりずっと上ね」

 二人は視線を一瞬だけ合わせ、向き直る。

「じゃ、そういう事で」

「了解だ」

 何が、などと確認はしない。その必要もない。その程度、視線を一度交差させるだけで事足りる程度には分かり合っている。

 二人は同時に動く。先行するのはナイトグラスター。不敵に笑うフマギルディに向かって真っ直ぐに走る。

「正面からとは、芸が乏しいな」

 フマギルディが炎を花びらのように撒き散らす。それが空中を満たすように広がると、一斉に爆発した。連鎖する炎の乱れ花。それを貫いて、白銀の風が踊り出る。

「ハァ!」

 閃光が闇を切り裂かんばかりに輝く。が、闇は踊り、それをひらりと躱す。ナイトグラスターは構わず、更に苛烈に攻撃を仕掛ける。風は嵐となって黒鳥を襲った。その速度は更に上がり、ついにフマギルディは回避から受け太刀に回る。

「クハッ! この速度、あの”死神”にも劣らぬな! 同じ属性故か?」

「誰のことか知らないが、”騎士”と”死神”では大違いだろうに!」

「違いない」

 閃光と炎刃がぶつかり、火花が散る。だが、パワーの差は歴然。騎士の剣は幾度も弾かれる。

「チッ!」

 ナイトグラスターの体が素早く回転する。腕の振りだけでは足りないと、回転の加速を付けての刺突だ。

「っ……!」

 痛烈な一撃を浴びて、フマギルディが揺らぐ。ナイトグラスターの体が更にもう一度、回転する。

「奇策が二度も通じると――っ!」

 翻るマント。その後に来る一撃を打ち払わんと、闇色の炎が猛る。だが、閃光は現れない。代わりに現出するは、海神の霊槍。

「うぉりゃああああああ!」

「ぐぅ! ――がっ!?」

 強烈な一撃がフマギルディを打ち据える。そこに目掛けて、ナイトグラスターの一撃が追い打つ。フマギルディがたたらを踏んだ。更にブルーの強烈なキックがフマギルディを吹っ飛ばす。

「ぐっ……。一度目と同じと見せかけて、マントの影から本命の一撃か。なかなか知恵を回すな」

「それぐらい回さないと、どうにもならない相手だからな!」

 ナイトグラスターは再び嵐のような怒涛の攻撃を仕掛ける。その攻めの合間を縫うように、ブルーがナイトの肩を飛び越えて、キックを繰り出す。それは防がれるも、今度はブルーが果敢に攻め立てる。

「せい、せい、せい!」

「ぬっ! くっ! この程度……!」

 ブルーの攻撃によるダメージで動きの若干鈍ったフマギルディだったが、それでもブルーの動きよりも速く、二度ばかり攻撃を捌けば、あとは容易く躱してみせる。逆にブルーに反撃し、怯ませ返した。

 しかし、突如としてフマギルディの足が地面に食い込んだ。それはナイトグラスターがブルーの影で発動させた、ジャッカルギルディの属性玉の効果だった。

 地面に足を取られて無防備を晒したフマギルディに、大きく飛び退いたブルーが必殺を狙った。

「完全開放――エグゼキュートウェイブ――――!!」

 螺旋を描いて水烈の一撃が飛ぶ。回避を封じられ、まともに受けるしか無いその切っ先はフマギルディを捉え、そのまま穿く――筈だった。

「ぬ……ぐぅ……!」

「まさか……受け止めてる!?」

 激流を黒い豪炎が阻んでいる。炎は見る間に大きさを増し、その熱が周囲の草木を燃やす。

 拮抗する力。それはついに決壊し、爆発した。水蒸気の霧が世界をあっという間に埋め尽くした。

「っ……! どうなった!?」

「やった……?」

「それを言うな。ダメなフラグだ」

 真っ白いカーテンが晴れていく。その向こうに、相反する影が浮かぶ。

「ほら見ろ。ブルーが余計なフラグを踏むからだ」

「ちょっと! あたしのせいにしないでよ!?」

 ブルーは地面に落ちたランスを拾う。たとえ防がれてもダメージはあった筈。となれば状況に多少の好転があると思えた。

「……やれやれ。不意を突かれたとはいえ、こうもやられるとは。これも実戦を離れていたツケか?」

 緩やかに解ける蒸気の向こうから、自虐的なフマギルディの声がした。二人は構える。

「だが、これ以上の無様を晒すことは首領様の名を貶める事に他ならん」

 途端、黒い炎がフマギルディを包み込んだ。そしてその後ろに、黒い翼が生み出された。同時に激しいプレッシャーが二人を襲った。

「な……何あれ?」

「翼……いや、黒い髪か?」

 翼と思われたそれは、フマギルディの後頭部から延びた長い黒髪だった。それが広がって翼のように見えていたのだ。

「最終闘態〈黒神迦楼羅(ブラックカルラ)〉。さぁ、決着と行こうじゃないか」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 テイルレッドとドラグギルディ。ツインテール同士の戦いは更に苛烈さを増していく。

 ドラグギルディの大剣が、その重量と大きさからは想像できない程の速度で振り回される。その剣圧に地面がえぐれ、その剣閃は実体を伴うかのようだ。

「ぐっ! ――ぉおおおおおおお!」

「ぬぁあああああああ!」

 テイルレッドはそれを真っ向から受ける。一合一合、ぶつかり合う度にその衝撃が周囲の物を破砕する。

 だが、その拮抗もすぐに崩れる。

 唐竹に振り下ろされた一撃を振り上げたブレイザーブレイドで弾き返し、そのままの勢いから回転。横薙ぎの一撃を見舞う。直撃を受けたドラグギルディは受け身も取れずに、後方の大木をなぎ倒した。

「何と……! 我が最終闘態を前にして尚、その強さを増すか! 貴様のツインテールは正しく底なしというのか!?」

 心とは際限なき宇宙のごとく、その果てなど無い。そして宇宙は今も尚、広がり続けている。

 属性力は心から生れ出づるもの。ならば、底など在る筈がない。

「そうさ。俺のツインテールは……無限だ!」

「ならば、その無限さえも我がツインテールが屠ろうぞ!」

 ドラグギルディが吼える。それはその名の如く竜の雄叫びだ。咆哮とともに飛び出したドラグギルディの剛撃が、回避の間も許さず、テイルレッドを捉えた。

「っ!!」

 耐える間もなく、テイルレッドの小柄な体躯が空へと打ち上げられる。それを追い、ドラグギルディも宙に踊った。

「どりゃああああ!」

「ぬぅぉおおおおお!!!」

 炎をまとった二本の剣が大空で激突する。弾かれた炎は周囲に飛び火し、大地を煉獄へと変えた。

 翻り、ぶつかり合う刃。再び拮抗するかと思われた激突はまたしても早々の決着を見る。

「っ!? がはっ――!」

 振り下ろしたブレイザーブレイドが、ドラグギルディの大剣によって、その手より弾かれた。無防備になったテイルレッドを容赦なく、ドラグギルディの豪腕が叩き落とした。

「ぐっ……ぅう!」

「よくぞここまで戦った。かつてのテイルブルーよりも遥かに強かった。だが、その強さ故に実戦経験が足り得なかったのだろう。戦いの年季が明暗を分けたのだ」

「ま、まだだ……!」

 よろめきながら体を起こすテイルレッド。だが、その体力は限界に近づいていた。まともに立てないのか、膝を付いたままだ。

「素晴らしい戦いだった。過去、現在、そして未来に於いてもこれ程の高ぶりは無いと言い切れる。だが、それもこれで終わりだ」

 ドラグギルディがゆっくりと、テイルレッドに迫りながら乱れ刃を大きく持ち上げた。

「さらばだ、我が最高の宿敵。そして最高の想い人よ。この一刀に我が全てを篭め、手向けとせん!!」

 その刃は必殺。触れる全てを破砕する意志が切っ先にまで宿っていた。食らうのは勿論、受け太刀さえ許さないだろう。

 

 ――だからこそ、それをテイルレッドは待っていた。

 

「待ってたぜ、この瞬間を」

 クワッと強い意志を宿した瞳が見開かれる。拳を握り締め、地面を殴りつける。

「オーラピラ―――ッ!」

 噴き上がった炎がテイルレッドを包み隠す。拘束用のオーラピラーには防御力はない。大事なのは、ドラグギルディの意識から完全に自分が消える瞬間だった。

「小癪な――!」

 構わず、ドラグギルディは大剣を振り下ろす。オーラピラーもろともテイルレッドを叩き斬るために。

「っ……! グッ……おぉお!」

 だが、ドラグギルディの剣がオーラピラーを斬ると同時に、炎を貫いて、真紅の刃がドラグギルディを貫いていた。

「がはっ……! まさか、二刀だと……!?」

「伊達にツインテールじゃねぇってな! 完全開放(ブレイクレリーズ!)――!」

 引き抜いたブレイザーブレイドが炎を上げる。よろめきながらドラグギルディの繰り出した一撃を、地を蹴って躱す。

「テイルレッドォオオオオオ!」

「グランド―――ブレイザァアアアアアアアアアア!!」

 天空に舞い踊ったテイルレッドが総てを込めて、必殺の一撃を放った。それはドラグギルディを刃諸共に両断した。

 炎が、まるで炎龍の降臨の如く大地を焼いた。その中で真紅のツインテールが揺れる。

「美しい……まさに神の髪……”神型”よ……」

 万感の想いを込めた呟きは、数多の世界を滅ぼしてきた戦士が、それ故に見た幻影か。それとも、現世の奇跡か。

「う……くっ。まさか、二刀目があるとは……。最初からこれを狙っていたのか?」

「咄嗟の思いつきだ。小柄な俺が膝を付いたら、お前の攻撃は上から振り下ろすしかないって、そいつに賭けた。それに――」

 テイルレッドは流れるツインテールをその手で払う。緋色の輝きが空に舞い散る。

「ツインテールを守るなら、剣だって二本必要だろ?」

「くくっ……ハハハハ!! 見事だ、テイルレッド! 麗しき幼女に倒される。これ即ち、生涯を添い遂げたに等しい!!」

「ポジティブなやつだな、ほんと」

 ツインテールを愛し、求め、極めた漢。その最後に無粋な真実を語ることなく、テイルレッドは肩をすくめた。

 道を間違えたのか。生まれるを間違えたのか。だが、純粋にツインテールを愛した漢に対する、手向けだと思った。

来世(いつ)か……また、逢おうぞ」

「お前がツインテールを愛する限り、そんな事もあるかもな」

 その言葉が届いたか。背を向けるに合わせるかのように、ドラグギルディが大爆発し、散った。

 

「………はぁ」

 敵部隊長を倒し、深く息を吐く。全身の疲労はピークに達し、今にも倒れてしまいそうだ。

 だが、まだそうは出来ない。テイルレッドは彼方を見やった。戦いの流れの中で戦場は大きく離れてしまっていた。

 まだ二人は戦っているだろうか。下手に通信を入れて集中を見出させる訳にも行かない。テイルレッドは走りながらトゥアールに連絡を入れる。

「トゥアール、状況はどうなってる?」

『……あ、テイルレッド?』

「こっちは何とかドラグギルディを倒した! そっちはどうなってる?」

『っ……』

「……どうした? 何はあったのか、トゥアール!?」

 明らかに様子のおかしいトゥアールに、嫌な予感を感じた。自然と足が速まる。

 戦いの余波だろうか、やがて不自然に広がった場所に出た。そこには果たしてトゥアール以外の全員の姿があった。

「なっ……なんだ、これは」

 テイルレッドの視界に飛び込んできた光景は、信じられないものであった。

 樹の枝にかろうじて引っかかり、ダラリと両手を下げたまま身動きしないナイトグラスター。

 その首を捕まれ、力なく四肢を下げたままのテイルブルー。

「……ほう。貴様がここに来たということはドラグギルディは敗れたか」

 ブルーを押さえていた手を離し、黒い影はゆるりと振り返る。ブルーの体が重力に引かれ、地面へと落ちた。

「しかし、ドラグギルディも期待外れよ。至高なるツインテール属性を持ちながら、太極へと至れぬばかりか返り討ちとはな。所詮、奴もその程度だったか」

「お前……何してんだよ」

「尻拭いなどするつもりもなかったが……まぁ、仕方あるまい。貴様達の属性力を手土産代わりに狩らせてもらおう」

「何してんだって聞いてんだよ、テメェ―――!」

 怒りのまま、テイルレッドは突進していた。その手の刃を、あらん限りの力を振り絞ってフマギルディに叩き込んだ。

「容易いぞ、テイルレッド」

「ぐあ――!!」

 だが、逆にたった腕の一振りでふっ飛ばされてしまった。

「さぁ、究極のツインテールよ。その輝き、偉大なる首領様に捧げよ!」

「ぐっ……! 誰が……やるかよぉおおお!」




長々と続いた1巻も次回で決着予定です。
倒されたナイトグラスターとテイルブルー。満身創痍で挑むテイルレッド。
果たして戦いの行方は?





こうして盛り上げて、自分の首を絞めるスタンスw

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