光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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ほぼ台詞だらけの説明回。
原作でも重要な処ですが……肉を増やしにくい。




 敵の首魁、ドラグギルディ。その圧倒的な強さはツインテイルズと同じ、ツインテール属性を持つエレメリアンであるからだった。

 ツインテールとツインテール。守護者と略奪者。まるで鏡写しのような、似て非なる者同士の邂逅は刃と共に行われた。

「ふぅむ。その姿、初めて見た時から何かが引っ掛かっていたが……なるほど、そういう事だったか。あの者が、お前達の裏にいたとはな」

 ドラグギルディが、先程からツッコミに全ての力を注いでいるテイルブルーを見やり、何かを納得するように頷いた。

「何? 何の事よ?」

「どうやら何も知らぬと見える。ならば教えてやろう。その姿、かつて我が認めた唯一人の好敵手と同じものだ。たった一人で我らと戦い、追い詰めた……圧倒的な力を持った青き戦士がいた。尤も、その者はツインテールにそぐわぬ下品な巨乳であったが故、今の今まで気が付かなんだ」

 思いもしない言葉を聞き、レッドとブルーが驚愕に色を浮かべる。

 ドラグギルディの言う人物に当たるのは一人しかいない。トゥアールだ。

 トゥアールはアルティメギルに滅ぼされた故郷の世界の敵を討つため、テイルギアを作ったと説明した。

 だが、ドラグギルディの言葉を信じるなら、トゥアールはかつてブルーと同じように変身して戦っていたということだ。

 何故、その事実を隠していたのか。その答えが出る前に、ドラグギルディの衝撃が続く。

「しかし皮肉よな。同じ衣を纏う戦士を擁するが故に、この世界もまた同じ末路を辿るのだ」

「何だと……!?」

「かつて青の戦士……テイルブルーと呼ぼうか。彼女はその世界の守護者として、我らの侵攻の前に立ちはだかった。戦場に舞い踊る美姫。その姿は瞬く間に広がり、彼女は希望の象徴となった。世界中にツインテール属性を広げるほどにな!」

「なっ……!」

「世界に讃えられた女神は、奇しくも我らの望むツインテールを世に広める役割を担ったのだ。世界中に溢れるツインテール属性……これほど理想的な狩場が他に在ろうか!? いや、あるものか!!」

「くっ……!」

 レッドは今まで何度となく感じてきた何かが、どういう意味を持っていたのかに気付いた。

 ツインテイルズが活躍する度に世界中で大きく報道され、自分達に憧れてツインテールの子が増えていく。

 まるでカリスマモデルやアイドルに憧れて、その姿を真似するように。世界には今、ツインテールが溢れているのだ。

 ツインテールがマイノリティを脱しただけではない。それによって、敵の望む世界が生まれてしまったのだ。

「どうやら心当たるようだな、テイルレッド。そうだ、お前もまた、彼女と同じように世界を救う救世主となり……そして、破壊の女神となる!!」

 ドン! と、大剣がツインテイルズの信じてきたもの――その足場を打ち砕くかのように、大地に突き立てられた。

「じゃあ、今まで敵が弱かったのは……!?」

「徒に同士の命を失うことなど、良しとはせぬ。だが、将として組織に仕える以上、効率の良い策があるならばそれを使わざるを得ない。それでも、ツインテイルズを倒してくれるならば、それに越したことはなかったがな。結果として我が仲間、同士、弟子達の命は”無敵の守護者”の偶像を仕立てる礎となった。彼等の命もまた無駄ではなかった訳だ」

 ドラグギルディは無き者に想いを馳せるかのように空を見上げた。

 

「……やっぱり。あたし達、トゥアールに担がれてたのよ。テイルギアがあってもアルティメギルから世界を救えなかった。先の見えた戦いだって知ってたら律儀に戦ったと思う? ……だから、黙ってたのよ」

「ブルー?」

 軽い溜め息を吐いて、ブルーは首を振った。その表情は動揺よりも達観。まるでこの事態をどこかで予想していたかのようだ。

「あたしも鏡也も、トゥアールの事は怪しいって、何か裏があるんじゃないかって思ってたのよ。だから、ブルーになったのよ。そーじ一人じゃ、絶対に騙されるから」

「………」

 思わぬ言葉に、レッドは驚く。何だかんだと言いながら何時もじゃれあっている二人。その陰で、ブルーが――愛香がそんな事を思っていたとは露ほどに気が付かなかった。

「トゥアールは彼奴等とグルじゃないにしても……大方、自分の世界と同じような目に遭わせたかったのよ。何の対策もなしで同じように戦えば、同じ結末になるって分かってたんだから……」

 愛香の言葉は失意の色に満ちていた。口では疑っていたと言いながら、きっと心の何処かではトゥアールの事を信じていたのだろう。だが、ドラグギルディの言葉でそれが壊れてしまった。

「何で……全部、あたし達に教えたのよ?」

 愛香の力ない問いに、ドラグギルディは答える。

「テイルレッドのツインテールが本物であったからだ。剣を交えて分かった。彼女は心より、ツインテールを愛しているとな」

 ドラグギルディが突き立った剣をゆるりと引き抜く。

「出来るならば、小細工などなく真正面から戦いたかった。これはせめてもの手向けぞ。世界が滅んだ後に事実を知って……絶望に暮れぬように」

 乱れ刃が陽光を照り返し、ギラリと光る。最早、戦う意志など誰の胸にも――。

 

「――ははっ。なんだ、そうだったのか」

 

 テイルレッドは笑った。清々しい笑顔で。その瞳には爛々と闘志が煌めき、四肢にはツインテールが漲っている。

「ありがとよ、ドラグギルディ。全部教えてくれて。これで……何の憂いもなく戦えるってもんだぜ!!」

「むっ!? これは……テイルレッドのツインテール属性が強まっている……!?」

 その姿に、さっきまでとは逆にドラグギルディが動揺する。そして愛香もまた、動揺していた。

「何でよ? もう戦っても無駄なのよ? なのにどうして!?」

「無駄じゃない! 無駄じゃないんだ、ブルー! 奴らが刈り取ろうとしているってことは、世界中に広がったツインテールは本物だってことだ。見せかけなんかじゃない。一過性のブームなんかじゃない。本物なんだ、本物の、ツインテールなんだよ!!」

「……は?」

 唐突に言い出したそれを理解できず、愛香は唖然とする。

「確かにこいつらの思う通り、世界中にツインテールが広まった。だけど、ここでコイツを倒しちまえば、世界中にツインテールが浸透して、それだけだ。万々歳じゃねーか!!」

「あっ……」

 アルティメギルの望む理想の狩場。それは同時に観束総二にとって、理想そのものだ。理想郷、天上の楽園、この世の極楽と言える世界でもある。

 今、そんな世界になっているとなれば、世界最強とまで言われたツインテール馬鹿である総二が、どうしてそれを諦められるだろうか。

「な、なんと……!」

 事実を知り、それも尚――否、何の憂いもなく戦えると言い切るその姿に、ドラグギルディは後退った。

「く……くくっ……あははははっ! あー、もう! 本当にどうしようもないツインテール馬鹿ね、アンタは! ていうか、もうただの馬鹿じゃない!」

 愛香が大声で笑い出した。思い出した。自分の幼馴染はそういう奴だったと。ツインテールを守るためなら、世界の危機なんてどうだっていい。何処までも、どれ程までも、ツインテールのために戦う。それが観束総二――テイルレッドなのだと。

 テイルギアは強い思いによって強くなる。馬鹿で、思い込みの際限がなく、だからこそテイルギアは更に力を増していく。

 全身にみなぎる力を感じながら、レッドは誇らしげに笑った。

「しょうがないわね。そんじゃ、とっとと倒しちゃいましょ。いい加減、ツインテール変人大会にも疲れてきたから」

 そう言って、愛香――テイルブルーはウェイブランスを展開する。その瞳にはさっき迄の諦めは無くなっていた。

「テイルレッド……究極のツインテールを持つ幼女よ。世の終末を前にして尚、揺るがぬ不動の意志。我は心底、感心したぞ! 真に美しきとは、目を背けなければならぬ程に輝かしきものだったのだな!」

「世界の終末とかそんなスケールのでかい話はもうたくさんだ! 俺は俺の大事なものを守るために戦う! それだけだ!」

「あくまでも己が信念を貫くか……!」

 テイルレッドはブレイザーブレイドを振り上げ、その切っ先をドラグギルディに向ける。

「俺はツインテールの戦士だ! ドラグギルディ、今こそお前を――」

 

「はーっはっはっは!! そこまでです、ドラグギルディ!!」

 

「だれだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 盛り上がりに盛り上がり、今まさに最終決戦に挑もうというこの流れを無常にもぶった切った謎の声に、テイルレッドのやり場のない怒りが響く。

 声の主は果たして何処に。恐らくという方を向くと、切り立った崖の上に人影が在った。

「何者だ! 名を名乗れぃ!!」

 ドラグギルディが、謎の乱入者に声を荒げた。

 

「私は世界を渡る復讐者! その名も仮面ツインテ―――ル!!」

 

 どかぁあああああああああんっ!!

 

「「ぶふ――――――――――!!」」

 背後に爆発エフェクトまでつけて盛大に名乗った仮面ツインテールに、ツインテイルズが噴き出した。

 顔は両サイドにウイングの付いたフルフェイスの仮面に隠れている。

 風にたなびく見慣れた白衣。愛香の怒りを煽る、その豊満な胸部を強調するデザインのツーピースと、ロングブーツ。

 ぶっちゃけ、トゥアールである。

 仮面ツインテール――トゥアールは顔が見えないがドヤ顔でもしているのであろう。深々と頷いた。

「フッ。これ以上ないってぐらいのタイミングでしたね」

「あぁ。これ以上ないというぐらい、最悪のタイミングだったな」

 トゥアールの後ろから、銀の陰が現れる。その手には演出に使ったのだろう筒状のものがぶら下がっていた。

「ナイトグラスター! ……なんで、そんなとこ居るのよ?」

「まぁ、気にするな。すぐに分かる」

 手の物を置いて、ナイトグラスターは肩を竦めてみせる。

「ようやく姿を現しましたね、ドラグギルディ。この時を待っていました」

「ぬぅ。仮面ツインテール、そしてナイトグラスター。ナイトグラスターはまだしも、貴様からは際立った力を感じぬ。まさか、貴様も援軍か?」

「援軍? 貴方を倒すのにこれ以上の戦力は必要ないでしょう? 私達は貴方の下らない奸計を打ち破るために来たのです。……ですが、心配無用だったようですね」

「だから言っただろう。テイルレッドにそんな姑息な手は通じないと」

「ちょっと、どういうこと!? もしかして、アンタ全部知ってたの!?」

 ブルーはナイトグラスターの言葉に驚いて聞き返した。

「あぁ、ついこの間――私が戦場に赴かなくなったあの時にな。全部、教えてもらったよ」

 ナイトグラスターは、トゥアールから事実を聞いたその時を振り返った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「出撃を控えろ? どういう意味だ?」

 メンテナンスルームで、トゥアールに言われた一言。俺は意味が分からず、聞き返していた。

「テイルグラスを本格的にアップデートするのに、時間が必要だからです。すみません、本当に」

「――で、それが建前で、本当は何だ? 二人きりになったのは、それを教えてくれるからだろう?」

「………」

 俺がそう言うとトゥアールは、困ったような強張った笑みを浮かべた。言うつもりはあるようだが、踏ん切りが付かないらしい。仕方ない。俺は少しばかり言いやすい状況を作ってやることにした。

「その話はもしかして……お前がかつて、テイルブルーとして戦っていたことに関係するのか?」

「っ……!?」

 俺の言葉に、トゥアールは思いっきり目を見開いて驚いた。

「な、なんで……ですか?」

「前に愛香から『トゥアールに巨乳用のギアだからお気の毒と笑われた』とグチられたことがあってな。その時、思ったんだ。何でトゥアールは青いテイルギアを巨乳用と言ったのか、とな」

 総二がテイルギアをつけた時、トゥアールはそれは総二の意志で生み出された物だと言っていたらしい。なら、愛香の使った青のテイルギアもそうなる筈だ。だが、そうはならなかった。つまり、あのギアを前に使っていた人物がいたということだ。

 赤と青。恐らくは青のデータを元にして赤い方が作られたのだ。性能の高い方を、世界最強のツインテール属性の持ち主に渡すのは当然の考えだからだ。必然的に青の方が先にあったことになる。

 そのギアは実際に戦闘で使われていた筈だ。でなければ巨乳用などと言う訳もない。では何時使われていたか。それはトゥアールの元の世界でだろう。

 その人物に関して一度足りとも、トゥアールの口から語られた事はない。勿論、話したくないという可能性もあるが、もっとシンプルな可能性がある。

 つまり、製作者=装着者ということだ。その可能性を示唆する事を彼女は言っていた。

 

『私は技術者で、早くに奴らの被害に遭ったせいでアルティメギルが侵攻に本腰を入れる前に、それに対抗する技術を確立できました。その御蔭で私の属性力は奪われませんでしたが――』

 

 被害に遭った。つまり、狙われたのだ。彼女の――ツインテール属性が。慧理那姉さんのように。

 それだけの属性力を、彼女は持っていた。なら、テイルギアを使えた筈だ。

 証拠も何もない推論だが、俺の言葉を聞いてトゥアールは呆れ気味に嘆息した。

「――驚きました。そこまでよく考えつきましたね」

「それで……どうなんだ?」

 彼女の反応だけで十分だが、それでもその口から聞きたかった。

「合っています。私は確かに……テイルギアを使って、アルティメギルと戦っていました。そして……敗れたんです」

 トゥアールは俺に、事実を語り始めた。

「今、この世界の侵略を行っている部隊を率いているエレメリアン――ドラグギルディに」

「何……!?」

「敵の狙いは、この世界にツインテール属性を意図的に広め、それを一気に刈り取る事。効率的にツインテール属性を奪うために、奴らは総二様――テイルレッドの人気が出るように、態と弱いエレメリアンを送り込んでいるのです。かつてと同じように」

「世界にツインテール属性を広める……? つまり、今までの戦いは奴らの台本通りということか? なら、このまま行けばこの世界はトゥアールの世界の二の舞いに……!?」

「いいえ、そうはさせません。敵のやり口を知っているからこそ……打倒できる可能性があるんです」

 トゥアールは今まで見せたことがない、真摯な瞳を俺に向けてきた。

「だから、鏡也さんに協力をして欲しいんです。そのために、お教えします。敵の本当の作戦を」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「敵の侵略の最中……私は既にテイルギアを開発して、アルティメギルと戦っていました。何故なら、テイルギアの原型となる属性力変換技術は、アルティメギルが意図的に流出させたものだからです」

 トゥアールの言葉にレッドとブルーが目を見開いた。まさか自分達の装備が敵の技術であったなどとは、想像もしていなかったのだ。

「この世界で最初に侵攻が行われた時、リザドギルディが究極のツインテールを探していただろう? あれは意図的に属性技術を伝え、自分達の敵として仕立て上げる為だったのだ。かつてのトゥ……仮面ツインテールの世界と同じようにな。この事は、アルティメギルの中でも知る者は少ないようだがな」

「……私はまんまと敵に利用され、そして世界を滅ぼされたんです」

 トゥアールは仮面の奥で一筋、涙を流した。

「レッド。貴方は私と出逢わなくても……いずれはアルティメギルによって、テイルレッドに代わるツインテールの戦士として、戦うことになっていた筈です」

「そうだったのか。最強のツインテール属性は種だ。世界中にツインテールを広めるための……!」

 その意図に気付けば、ドラグギルディの先の言葉も別の顔を見せる。まるでそうなったのが偶然かのように言っていたが、そうではない。

 あの言葉もまた、敵の策略の一部だったのだ。戦う意志――それを挫くための。

「――待て! まさか貴様、我らと死闘を繰り広げたあの戦士か!? バカな、あの弾けんばかりに輝いていた無敵のツインテール属性はどうしたのだ!? 我らは終ぞ、それを奪えなんだ筈だ!!」

 トゥアールの正体がかつて戦った敵だと気付いたドラグギルディが、信じられないとばかりに声を上げた。

 その問いに、トゥアールはテイルレッドを見る。仮面越しに視線が交差する。

「それは――託したからです」

「何だと!?」

「ドラグギルディ。私はあの戦いの最中で気付いていたんです。何故、敵が弱いのか。エレメリアンにとって死活問題である属性力の蒐集にどうして積極的ではないのか……レッドのように、ツインテールに染まっていく世界に疑問を抱いていたんです」

 そう言いながら、聡明なトゥアールならばきっと確信していたとレッドは思った。それならば、対処する術も考えついていたのではないかとも。

 そんな思いを感じ取ってか、トゥアールの言葉は自然とレッドへと向けられていた。

「きっと何とか出来る事は出来た筈なんです。どんな方法でも、世界の人達がツインテールに興味を失うような振る舞いをすれば……! でも、私には出来なかった。世界中に芽生えたツインテールを、私に憧れて素敵な笑顔を向けて慕ってくれるくれる幼女達が、元の髪型に戻っていくのが忍びなかった!!」

 トゥアールの慟哭が響く、聞き捨てならない言葉もあったような気もするが、そこはスルーする。精神衛生上の理由からである。

「迷いを抱いた私はその隙を突かれ……ドラグギルディに敗北しました。そして基地で策を練っている間に、私の世界は侵略されてしまったのです。世界はツインテールを……いいえ、あらゆるものを愛せない、灰色の世界と化してしまった」

 滅んだ故郷を思い、トゥアールは遠い目をした。

「全ての覇気を失った世界で、私だけがツインテール属性と幼女属性を残していました。そこは、道行く幼女のスカートを捲ってもろくに注意もされない……そんな冷たい世界でした」

「誰もツインテールにできない世界……なんて地獄だ!!」

「「いや、ツッコむ処はそこじゃない」」

 嘆くトゥアール。憤るレッド。ブルーとナイトは揃ってツッコミを入れた。

「私は復讐と、自身の愚かさのケジメとして、新たなテイルギアの開発を行いました。今までのデータと与えられた技術情報を精査し、解析し、持ちうる全てを以って、最強と成り得るテイルギアを。幾度も心を折られそうになりながら、その度に幼女のおっぱいを揉んでもリアクションされない寂しさを糧に認識阻害機能を開発し、誰も笑顔で抱きついてくれない悲しさを糧に、元気な幼女を求められる異世界高航行技術をも解析したのです!」

「酷い、酷すぎる!」

「――訂正する。私は何も知らなかった」

 その独白にブルーが勢い良く天を仰いだ。そしてナイトもまた、顔を伏せた。もう大惨事である。

「そして、私は自身の属性力をテイルギアの核として使い、そ――レッド、貴方に託したのです。そして自分では使えなくなったテイルギアをブルーに。これが全てです」

「そんな……! 自分からツインテールを手放したのか!?」

「あー。だから巨乳用のギア………はー、そういうことかぁ……」

「……コホン。話を戻そうか。先刻ブルーが言っていたように、何の対策もなしで事が進めば、この世界は彼女の世界の二の舞いとなる。だが、敵の策を知り、対策を講じていたならば……話は変わってくるだろう?」

 ナイトグラスターはドラグギルディに向かって指を三本、立てた。

「ドラグギルディ。貴様の失策は三つ。一つは守護者を自らの手で用意できなかったこと。これにより自分達のコントロールを外れたイレギュラーを生み出してしまった。二つ目は、自分達の筋書きを知る者の存在を今の瞬間まで気づかけなかったことだ。私が途中から戦場に出なくなったこと、おかしいとは思わなかったか? あれはお前達の筋書きを変えさせないために、敢えて出なくなったのだ。お望み通り、ツインテール属性が世界に広がるようにな」

 ナイトグラスター登場から、世界には眼鏡属性が広がりを見せ始めた。僅かではあったが、とても強い反応であり、それが敵の侵攻に対してどんな影響を与えるか未知数であった。

 故に、トゥアールはナイトグラスターに出撃を控えてもらっていたのだ。

「最後の三つ目。お前達は人という存在を見誤った。人は時として、想像もできない事をやってのける。こんな賢しい真似をするから、足元を救われたのさ」

「……言い返す言葉もない。確かに、此度は我らがしてやられた。先代テイルブルー、そのツインテールへの深き愛を侮っていた!」

 心より生まれた存在、エレメリアン。だが、彼等は心という不完全で不安定で、そしてとてつもなく強い存在の本質を見失っていた。

 人の心――それを侮っていた。

「さて、ここからは台本なしの即興劇だ。アドリブを利かせられなければ……勝てないぞ?」

「無論。打ちのめされても衰えぬツインテイルズのこの輝き……下らぬ御託でどうにかなるものではないと理解している。だが、いかなる輝きとて覆せぬ闇が――」

 

「クハハハハ! 無様だなぁ、ドラグギルディよ!」

 

「天丼かぁああああああああああああああああああああああ!!」

 まるでさっきの焼きまわしのように、ドラグギルディの怒号が響いた。

 大樹の陰より、ヌルリと姿を現した――黒いエレメリアン。その登場にレッドたちが一様に驚く。

「ちょっと!? あいつ今、どっから出てきたの!? ていうか、敵の援軍!?」

「そんな! エレメリアン反応は全くなかった筈です! 現に今だって……え、どうして!? どうして”今も”反応がない!?」

 戸惑う者達を余所に、ドラグギルディは忌々しげに吐き出す。

「フマギルディ。貴様、何をしに来た?」

「何をしに来たとは心外だな。ここからは即興劇なのだろう? ならば、乱入ぐらい大目に見てもらいたいものだ」

 

 謎のエレメリアン――フマギルディ。その登場は戦局を大きく揺るがす。

 

 




天丼はお笑いの基本。

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