原作の見せ場は余りいじれる要素が少なくて、どうにも難しいですね。
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アルティメギル侵攻開始より、25日。前線基地では会議が開かれていた。
「この一月足らずで隊員10名。アルティロイドは88名。これ程の数の同胞が倒されるとは……!」
「こちらが手に入れられた属性力は皆無。一時的に奪うことに成功しても、ツインテイルズ、ナイトグラスターによって奪還されてしまっております」
「それに加えて、御雅神鏡也の確保にも相次ぐ失敗……くそっ!」
「恐るべきはツインテイルズ……!」
戦いにも慣れた総二と愛香、鏡也の勢いは止められない程になっていた。過去、これほどの苦戦を強いられたことは数度としてないドラグギルディ隊に、焦りの色が見える。
「ならば、属性力保有者を確保して一時撤退しては……?」
「それではツインテイルズを恐れているようではないか! そもそも、そうしようとした御雅神鏡也には幾度と無く逃げられてるのだぞ!?」
会議は紛糾する。究極のツインテールと目される赤き炎の守護者テイルレッド。それに劣るものの強大なツインテール属性と、野獣の如き獰猛さを宿すテイルブルー。そして、並の者には姿さえ捉えられない速度と洗練された剣術を操るナイトグラスター。
如何にすればそれを打倒できるか。その難局を前にして、会議場は静まり返る。
ギリ。と、小さな音が大きく響き渡る。ドラグギルディの歯が噛み締められた音だ。
小さき音とともに全員の喉元に突きつけられた刃の如き鬼気。それは不甲斐なき彼等を戒めるかのようであった。
「――ツインテイルズ、そしてナイトグラスター。その実力はまごうなき本物。このまま続けてもいたずらに戦力を削る消耗戦となろう。これより先は選ばれし勇者のみに許された聖戦と心せよ。我こそはと志願する者はあるか」
「はっ。それならば私が!」
強く、実直なる声が返る。立ち上がったのは若いエレメリアンだった。
「おぉ、スワンギルディ……!」
「
冷や汗混じりの者、息をするのも苦しんだ者、一様に安堵の吐息を漏らす。
「フッフッフ。だが、貴様ほどの男がわざわざ出て行くこともあるまい」
「いや、だから隊長が生半可な奴じゃダメだって言ったばかりだろ?」
緊張が解け、空気が和らいでいく。ドラグギルディもまた、スワンギルディの申し出に頷いた。
「スワンギルディよ、前へ」
「はっ!」
「スワンギルディよ、その意気やよし。だが、その前にテストを行う。お前が聖戦に挑むだけの器があるか否か―――っ!」
刹那、一陣の風が吹いた。ドラグギルディの手に握られた刃が真向から振り下ろされたのだ。その切っ先はスワンギルディの鼻先にて停められていた。
ドラグギルディの豪剣を眼前に突きつけられ、それでも尚、スワンギルディは身じろぎ一つしなかった。
「ふっ……肝は座っているな。だが、それだけでは足りぬ。真の戦士は炎の如き闘志と氷の如き冷静さを持たねばならぬ。アルティロイドよ、あれを持て!」
ドラグギルディの命令に、アルティロイドが動く。数分して運び込まれたのは――一台のノートパソコンだ。しかも、痛PCだ。
スワンギルディが目に見えて動揺する。
「それは私のパソコン。一体何を……!?」
豪剣ですら怯まぬその心にさざ波が立つ。不安が足元から這い上がってくるようだ。
「静まれ! これもテストである」
「ま、まさかあの……”エロゲミラ・レイター”を……!?」
パソコン。テスト。この二つを繋ぐ――その言葉に気づいたスワンギルディは戦慄した。ガチガチとなる歯が止まらない。震えが収まらない。足元が今にも崩れ、奈落の底へと誘われてしまいそうだ。
ドラグギルディの手がマウスを動かす。美少女のデスクトップアイコンの上でカーソルが止まり、カチカチと音が鳴った。更にスワンギルディの動揺が強くなる。
数秒して、ウインドウが開く。メーカーロゴが映り、ゲームロゴとスタート画面に切り替わった。
エロゲーだった。20代後半設定から、明らかに就労に従事するには早過ぎるだろう、それでも18歳以上であると豪語するビジュアルキャラがピンク色のナース服を着ている。
迷いなくロードを選択。モニターの映像は会議場の大型モニターにも転送される。戦慄の宴はまだ始まったばかりだ。
「『イケないッ!! ナースエンジェル』……数日前にこの世界で発売されたものだな。ほほう、既にコンプリート特典のハーレムルートまで解放されているとはなぁ。卑しい奴め」
映し出されたロード画面は肌色ばかり。ナースエンジェルと銘打っているのに、どれもこれもナース服を着てなかったり、着崩していたりしている。
「あー。回想シーンあるのに、ああやって自分的コレクションみたいに集めるよなぁ」
「ページごとにキャラ分けとか、お気に入りだけ1ページ目に集めたりなぁ」
「昔はセーブ箇所は10か20しかなくて、今は200とかだもんなぁ。やるよな~」
「がはあっ……!」
追い打ちが入り、スワンギルディが吐血した。しかし、まだだ。悪夢の試練エロゲミラ・レイターはまだ本気を出していない。
「お、お許しを……! どうかお許しを……!!」
半死半生となりながらスワンギルディが慈悲を乞う。だが、ドラグギルディは冷徹にもそれを見出してしまう。
「肌色満開の中に頬を染めた少女のサムネイル……怪しい。このセーブデータ、実に怪しい!」
「っ……!!」
ロードされたデータはどうやら主人公の部屋に、ヒロインがやって来たところのようだ。着ている服が学生服なのは何故だろうか。18歳以上の筈なのに。
「幼馴染が部屋に遊びに来て、空気が変わったとすかさずセーブしたのだろうな。しかし、何事も無く翌日になり――落胆!!」
「あるある」
「あるある」
「なまじセーブ数あるから、なんとなく消せないんだよなぁ」
「あるある」
「よくある」
「ガハァアアアアアアアアアア――ッ!」
周囲の共感が、若き白鳥に止めを刺した。スワンギルディはついに気を失って倒れた。
それをもって、エロゲミラ・レイターが終わりを迎える。しっかりとシャットダウンをクリックしてから、ノートパソコンが閉じられた。
「フッ。この程度でツインテイルズと戦おうなどとは―――笑止!! 連れて行け!」
悪夢の試練を乗り越えられなかったスワンギルディが、アルティロイドによって運ばれていく。
会議場が音を失う。若き雄、スワンギルディでさえダメとなれば一体誰が、”聖戦”と称された戦いに挑むというのか。
「我が行く」
ドラグギルディの宣言。それは静まり返った会場をざわめかせた。
「隊長自らが!?」
「そんな! 偉大なる首領様より実権を預かる我らが統率者、ドラグギルディ様が自らお出になられるなど!!」
「くどい!!」
一喝。その轟きは稲妻よりも激しく、者共の魂を叩いた。マントを翻し、ホールを後にするドラグギルディ。その足跡から炎が燃えたかのような幻影が見えた。
それ程の迫力。生半可な意志や力では決して届かぬ高み。それは神魔の領域に立つ者の豪気である。
「流石はドラグギルディ隊長。……凄まじい」
「当然だ。隊長はアルティメギル五大究極試練の一つ、『スケテイル・アマ・ゾーン』を乗り越えられた唯一のお方なのだからな」
「まさか、あの……通販で買った物がスケスケの箱で届けられるという苦行を一年続けなければならないという……!? 何という……まさに生きた伝説!」
自分ならば初日で卒倒してしまうと、その恐怖にブルッと体を震わせる。
「あの方ならばきっと……ツインテイルズ、ナイトグラスターを!」
「そして憎き御雅神鏡也に引導を……!」
モニターが切り替わり、映ったツインテイルズ、ナイトグラスター。そして鏡也の姿に、全てのエレメリアンが望みを託した。
その中、一体のエレメリアンが密かに立つ。その表情は何か強い決意をしたようで、その足で会議場を後にした。
こうして、波乱の会議が終わる。そして最後まで、表向き一般人である鏡也が同列に数えられていることをツッコむ者はいなかった。
◇ ◇ ◇
人気のない通路に、ドラグギルディの足音だけが響く。と、それが唐突に止んだ。
「――其処に居るのだろう? 出てこい、フマギルディ」
ドラグギルディは背後にある柱に向かって言う。すると、その陰から黒い姿がヌルリと現れた。
「ついに動くか、ドラグギルディよ。しかし何故、あの若いのを庇ったのだ?」
「作戦は最終段階に入る。故にこれ以上、無意味な犠牲は出す必要はない。それに、スワンギルディ……あやつは今は一端の戦士であるが、いずれはアルティメギルを支える将ともなれよう器よ。この戦いで失う訳には行かぬ」
「ククク……それであの猿芝居か。お優しいことだな、隊長殿」
フマギルディは柱に寄りかかりながら、ドラグギルディの真意を笑った。
「相も変わらず口が回るな。そんな安い挑発に乗ると思っているのか?」
振り返ることもせず、ドラグギルディはフマギルディの言葉をバッサリと断つ。しかし、フマギルディは頭を振った。
「いいや。ただ、一つ聞きたいことがある」
「何だ?」
「あのエロゲー。発売日などはまだしも……何故、コンプリート特典がハーレムルート解放だと知っていたのだ?」
そう。そういった特典は情報が寸前まで隠されているのが普通だ。月末近くともなれば、エロゲーだけでも20~30のタイトルが同日に発売される。その全ての情報を得るとなれば尚の事だ。
ドラグギルディの属性力がスワンギルディと同じであったならば、分かることだが――ドラグギルディの属性力は看護服属性ではない。
「―――フッ」
沈黙の後、ドラグギルディは笑った。
「フフフッ………ハーッハッハッハ!!」
そのまま、高笑いしながら再び歩き出す。姿が闇に消え、それでも尚笑い声が響き続ける。
その声もやがて聞こえなくなる。
「ククク……やはり恐ろしい漢よ、ドラグギルディ」
黒炎に巻かれて、フマギルディの姿も闇の奥へと消えた。『イケないッ!! ナースエンジェル』の秘密と共に。
◇ ◇ ◇
日本の首都である東京にも奥多摩などという、地図だけではわからない場所がある。例えばこんな、岩肌と多くの木々が茂る――森の中などだ。
日曜の昼下がり。テイルレッドはそんな場所に出撃していた。今日は愛香が道場での訓練のせいで出撃が遅れ、久しぶりの単独出撃だった。
「何故だ、何故わからない! ウサギは寂しいと死んでしまうという、天使のような儚さを――」
「グランドブレイザ―――!!」
ウサギ型のエレメリアン――ラビットギルディに容赦なく、必殺技を見舞うテイルレッド。
ちなみに、ウサギは寂しくても死なないし、結構凶暴である。
最後の言葉にも耳を貸さないハードボイルドな設定を自分で作って、ヒーローっぽい振る舞いを心掛けていた。
そうしないと、ポキッと心が折れちゃいそうだからだ。
果たしてラビットギルディを撃破したテイルレッドは、深々と溜め息を吐いた。
「はぁ。しっかしこいつら代わり映えしないなぁ」
まるでRPGのレベルアップ作業のようだなと思ってしまう。それ程に、敵が弱かった。
苦戦したのは、搦め手や精神攻撃をするタイプにだけで、それ以外は殆ど余裕だった。
属性力も奪われたとしてもすぐに取り戻せていた。世界中に出現するエレメリアンだが、トゥアールが作った空間跳躍カタパルトや、総二や愛香に支給された携帯式転送ペンの存在が大きい。
何故か鏡也には転送ペンは渡されていない。トゥアール曰く「同じ物を意味もなく作るのは科学者としての沽券に関わる」とのことだ。
意味なら十分にあるだろうが、そこはトゥアールのプライドの問題らしい。
「それにしても、なんだってこんな人気のない場所に? まさか
属性玉を回収しながらテイルレッドが思わず、「もしも野生のツインテールがいたら、どうしたらいいんだろう?」などと考えてしまっていると、愛香からの通信が入った。
『そーじ、大丈夫? もう終わった?』
「あぁ、終わった。すぐに戻るから」
テイルレッドは大きく伸びをして、青い香りに満ちた空気を胸一杯に吸い込む。空気が美味しいという言葉の意味を実感しつつ、転送ポイントまで移動しようとした時、そのツインテールを怖気が襲った。
「っ――!?」
反射的に空を見上げる。太陽と重なるように、何かがギラリと獰猛な輝きを放った。
「ブレイザーブレイド!」
「ぬぉおおおおおおおおおおお!!」
テイルレッドは武装を展開すると同時に、空に向かって刃を構えた。直後、衝撃が走る。
「ぐ……ぐぐっ!」
「ぬぅうう……!」
トゥアールのマニュアル曰く、100トンのパワーを生み出すスピリティカフィンガーが、押し込まれさえしないが押し返せない。その圧力に、刃がギシギシと悲鳴を上げる。
テイルレッドはブレイドを傾け、敵の刃を逸らすと同時に飛び退いた。間合いを取り、仕切り直しとばかりにその手の刃を構え合う。
「すまぬな。不意打ちになってしまった。お主ほどの者ならば今の一撃、容易く捌くと思ったのだがな」
「どっちみち、不意打ちに変わりはねーじゃねーか」
決して大きくない声。だが其処に篭められたものは、テイルレッドを強く揺さぶった。
敵は今までにない巨大な体躯。今までにないパワー。そして、今までにない威圧感。今までのエレメリアンなど比較するのも馬鹿らしい程――圧倒的だった。
違う。強さが。格が。何もかもが。
そして同時に、その姿を何処かで見たことがあると、テイルレッドは思った。
「我が名はドラグギルディ! 全宇宙全世界を並べて尚、ツインテールを愛するにかけて我の右に出る者はないと自負している!!」
「くそっ……マジっぽい展開なのに、ノリはいつも通りかよ……!」
竜を思わせるその姿。その迫力に息を呑む。ようやく思い至った。このエレメリアンこそ、世界中に宣戦布告した、アルティメギルの部隊を率いている存在だということに。
ドラグギルディ。その登場一つで今まで積み重ねた全ての勝利が、一瞬で無に帰したように感じてしまう。
「ラビットギルディ……馬鹿者め。我が行くと言ったであろう」
ドラグギルディはその消滅を悼むように、ラビットギルディのいた空間に視線を送った。そして、改めてテイルレッドの方を向く。
「不甲斐ない部下達が退屈をさせた。だが、それでも大事な同胞に変わりない。仇は取らせてもらう。その属性力を奪うことでな!!」
「勝手に攻めて来といて何を言ってやがる!」
勝手な言い分にテイルレッドの怒りが刃に炎を灯す。あらぶる紅蓮を前にして、ドラグギルディもその大剣を構える。
「――参る!」
「っ――!?」
3メートル近い巨体が、一歩の踏み込みから一瞬でテイルレッドの前に現れる。その大きさから想像さえ出来ない速度の踏み込みに、テイルレッドは咄嗟に防御する。
まるで大型トラックにでもぶつかったかのような衝撃。フォトンアブソーバーの防御域を超えて、体に痛みが走り、テイルレッドが苦悶の表情を浮かべる。
「うっ……ぐぅ……!」
「そんな力任せの受けで壊れぬとは頑丈だな。人が作ったとは思えぬほどに! かつて一人だけ認めた好敵手を思い出させる!!」
「この……ヤロォ!!」
体勢を直しながら薙ぐように剣を振るう。その刃がドラグギルディの無防備な横っ腹にぶち当たる――が。
「こそばゆいな。じゃれついているのか、幼子よ?」
腕だけの振りであったが、それでも今までのエレメリアンならば十分なダメージを与えられていた。だが、ドラグギルディに一切のダメージはない。
ドラグギルディは全てにおいて桁違いだった。
「そおら! もっと速く行くぞ!!」
「うわあ!!」
一本がまるで十数本の刃に増えたかのような高速の連撃が、テイルレッドに襲いかかる。一呼吸さえ惜しいと必死にそれを捌く。飛び散る火花。ジリジリと追い詰められていく焦燥感。
ドラグギルディの軌跡をなぞる内、テイルレッドは気が付いた。
(これは……この太刀筋は!!)
「ほう、気付いたか……!」
ドラグギルディが後ろに大きく跳躍し、間合いを取る。
「よもや今の打ち合いで見切るとは……流石よ、テイルレッド」
「ドラグギルディ、お前の剣はまさか……!」
「そうだ。我が振るう剣は――」
「レッド、大丈夫!?」
空から転送されてきたテイルブルーが駆けつける。
「「――ツインテールの
ドヴォオオオオオオオオオオオン!!
バランスを崩したテイルブルーが、地面に直滑降で落ちた。爆発のような土煙が派手に上がる。
「つつ……そうか、今日はそーじ系なんだ。ヤバそうだわ、色んな意味で」
「あぁ、ヤバい相手だ。気をつけろ、ブルー!」
地面からはい出てくるブルーにレッドは注意を促す。ブルーはドラグギルディを見ながら、クラっとよろめいた。
「……ところで、”そーじ系”ってなんだ?」
「気にしないで」
レッドの言葉をブルーはバッサリと切った。
「テイルレッド。恐るべき幼女よ。我が神速の斬撃をこうも早く見破ったのは貴様が初めてぞ!」
「見くびるなよ。心の形をなぞらえたなら、それが光の速さだって俺には見切れる! 俺は何時でも心にツインテールを
「その気概、敵ながら見事! ならば冴えに冴し我が剣撃、とくと味わうがいい!!」
「いくぜぇえええええ!!」
大地を砕く程の踏み込みから、ドラグギルディが動く。レッドも地面をえぐる程の踏み込みで、真正面から迎え撃つ。
ぶつかり合う力。ぶつかり合う心。そしてぶつかり合うツインテールの剣。
嵐の如く無数の合を重ね、二人は同時に間合いを離す。高まり合う力は――互角。
「ウワ――ハッハッハ!! 見事だ! 実に見事なツインテールだ! 敵として出逢ったのが口惜しい程だぞ、テイルレッド!!」
剣を肩に担ぎ、ドラグギルディは歓喜に高笑いする。その響きは竜の咆哮の如く、地さえ揺らすかと思わせた。
「俺だってそうさ。お前みたいに笑ってツインテールを語れる友達がいたなら……!」
「レッド……」
神の悪戯は、ツインテールの愛を語る者を決して混じり合わぬ敵として配置した。そんな皮肉めいた運命に顔を歪めるレッドを見て、ブルーは強く思う。
あれレベルが二人とか、本気で勘弁して欲しい、と。
「その小さき体で我が剣を全て受けきった技量。舞うように放たれる剣撃。そして何より舞い踊るツインテール! 一挙一動に連なり流れるは清流のごとし! その麗しさ、我が心を捕らえて離さぬ……美に心奪われるなど、久方ぶりの事よ!!」
「結局はツインテールかい!!」
自分と互角であったことよりもツインテールの方が気になっている歴戦の雄に、ブルーのツッコミが光る。
「見れば見るほど奥深い。基本を忠実に守りながらも、グラデーションのように一分一秒とて同じ表情を見せぬ。超一流のツインテールとはかくも美しく、奥深いものなのか……!」
「その審査基準はなんなんだよ!?」
重厚な鎧の如き体躯に刻まれた幾つもの傷。それはドラグギルディという戦士が歩んできた戦いの道行の歴史を語っていた。そんな彼の審美眼は、テイルレッドのツインテールを褒め称える。
「……フッ。この傷が気になるか?」
「な、ならねぇよ」
「粗野な言葉遣いも大人への背伸び……可愛いものよ。だが見よ、このドラグギルディ、背に一切の傷はない!!」
マントを翻し、ドラグギルディは輝かしきを語るように背を見せつける。確かに、背に一つとして傷はなかった。
「……敵に背を向けたことがない、ってやつか? よくある話だな」
「確かにそれもある。だが、これはいつか出会う至高の幼女に背を流してもらうため、守り通してきたものだ!」
「お前の今までの戦いは何だったんだよ!?」
「無論、生涯を添い遂げる至高の幼女と出逢い、その属性力を手にするためにだ!!」
「ぶ、ブレない……! なんて奴だ……!」
「強さも半端じゃない分、変態度も半端じゃ無いわね……流石はボスキャラ」
済んだ瞳で己の真芯をしっかりと通す、まるで巨木のような信念に、ツインテイルズは色んな意味で圧倒された。
そして同時に、エレメリアンという存在が、どこまでも人類と交わらない存在であるとも確信した。
言葉を交わそうとも、意思を示そうとも、属性力を奪うという結論に繋がる彼等は、人類の敵なのだ。
生涯を添い遂げるという――唯一人の為に自分の人生を捧げる言葉でさえ、一方的な搾取に帰結するのだから。
「ブルー。分かったぞ、コイツの強さの秘密が」
レッドはドラグギルディの強さ――その根源にある物の正体に気がついた。
今まで現れたエレメリアンは、ツインテールを求めながらその実、別の属性を求めてもいた。
ブルマ然り、ハイレグ然り、スーツ然り、ストッキング然り。だが、ドラグギルディは違う。
「ドラグギルディ、お前は――正真正銘、ツインテール属性のエレメリアンなんだな!!」
最強の属性力を持つエレメリアン。ならば、その強さにも納得がいく。
「うん。あたしも最初から何となく分かってたわ、それ」
そしてブルーも、世界最強とまで言われたツインテールバカに比肩するドラグギルディの属性力なんて、これ以外にないと長年の経験から感じ取っていた。
「然り。ツインテール属性は共鳴し合うようだな」
「共鳴……!? 俺とお前のツインテールが……!?」
「それってただの類友じゃないのよ! しっかりしなさい、レッド!」
戦慄するレッドにブルーがツッコむ。色々と不安要素が積み重なり続ける戦場に、ブルーがついに叫んだ。
「ナイトグラスター、早く来てー!! あたし一人じゃ、もう限界だからー!!」
テイルブルー、津辺愛香。ツインテール馬鹿✕2の衝撃に耐え切れず、心から援軍を求めた。
ブルー。ツッコミレベル限界値突破。