光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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第一巻の話もいよいよ終盤。
今回もまた、オリジナルエレメリアンが登場です。




 アメリカ――ハリウッド。映画の都として知られ、多くの映画、ドラマがここで制作されている。

 太陽が中天に昇ろうという頃。そんな場所に不釣合いの、まるで特撮映画の出演者のような連中が現れた。

「ワハハハ! 女優は何処じゃ!? モデルは何処に!? このトードギルディの目に適う美脚の持ち主は何処じゃ!? アルティロイド、ゆけい!!」

「「「モケー!!」」」

 号令一つ。黒い集団が動く。彼らによって次々、美脚の女性たちが集められていく。

「モ、モケ?」

「何? ツインテールはいいのかだと? ふん。放っておけば極上のツインテールがやってくるだろう。ツインテールの蒐集はその後で良い。……む、むむむ!」

 トードギルディがそのギョロッとした目を見開く。連れて来られた中の一人の足が映った。

 ハーフパンツ姿の16歳ぐらいの少女。ツインテールにまとめたボリューム感のあるハニーブロンドが眩しい。

「フ、フフフフフフ……! 肌のハリといいツヤといい太ももふくらはぎのバランスといい……正しく極上の美脚! そしてそのツインテールも、なかなか……これはなんという掘り出し物……!!」

『い、いや……! 来ないで!』(英語です)

 ジュルリと舌なめずりして迫るトードギルディ。その不気味な姿に少女はたまらず、短い悲鳴を上げた。

 怪物たちの蹂躙。少女の悲鳴。それを救う者は何処に?

 

「「モケ――!?」」

 

 祈り捧げる神さえ救わぬ子羊を、然し救う者は在る。救い主は閃光と共に。

『あっ……!?』(英語です)

 少女の前に、舞い降りる影は一つ。光とともに降り立ったそれは、アルティロイドを蹴散らし、その残滓を振り払うかのようにマントを翻した。

「貴様は……ナイトグラスターか! ならばテイルレッドもどこかに……!?」

 トードギルディがキョロキョロと辺りを見回す。だが、何処にもその姿はない。

「居ない……だと? やい、貴様! テイルレッドは何処じゃ!?」

「うるさい黙れ。危険なビジュアルをしおってからに」

 ナイトグラスターはトードギルディの言葉を両断する。それ程にやばい見てくれであった。

 具体的には、超高性能全領域戦闘機を駆る傭兵部隊に所属していそうなビジュアルであり、仮に挿絵などが出た日には髭のおじさんがにこやかに「法廷でお会いしましょう」と告げてくるレベルだ。

 可及的速やかに排除しなければ、この作品自体も危うい。

『お嬢さん、ちょっと失礼!』(英語です)

『キャッ!?』(英語です)

 ナイトグラスターは数歩下がると、少女をヒョイと抱き上げた。

「ぬ? 貴様、私の美脚に何をする!!」

「いや、そろそろ避難しようと思ってな。そこ、立っていると危ないぞ?」

「なんだと……?」

 

「オーラピラ―――ッ!」

 

 叫びが聞こえた瞬間、ナイトグラスターは飛び退く。同時に火炎球が着弾し、トードギルディを拘束した。

「うがぁああああ!? し、しまったぁあああああああ!!」

「グランド――ブレイザァアアア!!」

 炎獄の一撃がフロッグギルディを背後から斬り捨てる。トードギルディが焼きガエルになる間もなく、爆発した。

「おっと。〈フォトンシールド〉展開」

 噴きつける爆風から少女を守るため、ナイトグラスターがマントを広げる。すると光の膜が生まれ、風と煙がその曲面を滑り流れていく。

 フォトンシールド。

 ナイトグラスターの左肩に装備されたマントは、変身時に形成されたフォトンコクーンが多層式になって再展開されたものであり、任意に防御フィールドを発生させることが出来るのだ。

 残るアルティロイドも、ブルーが獅子奮迅の大暴れで蹴散らし、決着は付いた。

「よ~し、終わった! 早く帰ろうぜ!」

「せっかくの海外だし、こんなんじゃなけりゃ観光でもしていきたいんだけどね~」

『でしたらお一人で残られては如何ですか? 属性玉変換機構でリボンを使えば、恐らくは不眠不休で一週間程で帰ってこられますよ?』

「よし、それじゃ一週間分、不眠不休であんたを殴ることにするわ」

『理不尽な暴力が私を襲う!?』

 いつも通りな流れの中、ナイトグラスターは腕の中の少女に微笑む。

『お嬢さん、大丈夫でしたか?』(英語です)

『は、はい。大丈夫です。ありがとうございました』(英語なんです)

『それは良かった』(英語ですよ)

 ナイトグラスターは少女を優しく下ろし、その髪をすっと撫でた。

『それでは、お気をつけて』(英語ですから)

 ツインテイルズ、ナイトグラスターは周囲のギャラリーに軽く手を振りつつ、大空へと飛び上がった。

 

「はぁ~、疲れたぁ」

 基地へと帰ってきた面々は変身を解いた。

「そういえば、ずっと気になってたんだけど……何で、ナイトグラスターに変身すると、あんな芝居ががったしゃべり方になるんだ?」

 総二はふと、気になっていたことを鏡也に尋ねた。

「あ、それあたしも気になってた。何でなの?」

「ん? あぁ、それはな……」

 鏡也は言葉を選ぶようにしながら、ゆっくりと語りだした。

「眼鏡というのは、ある意味日常の仮面だ。だからだろうか、顔を隠すわけではないが、自然と違う自分が浮かび上がってくるような……そう、まるで空から透明な仮面が降りてくるような……さながら、グラスの仮め」

「よし分かったもう止めろ」

 彼らは紅い天女を目指す舞台女優ではないので、総二はデンジャーな臭いのする話をバッサリと打ち切った。

「変身といえば鏡也さん。テイルグラスをいいですか?」

 そう言いながらトゥアールが手を出してきた。

「あぁ、調整か」

「はい。データも集まってきたので、アップデートをしようかと」

「アップデート?」

「お二人には話してませんでしたが、TYPE-Gはまだ不完全なんです。なにせ突貫で仕上げたもので……出力一つとっても、テイルギアより低いんです。何よりコアとなる属性力も異なりますから」

 鏡也からテイルグラスを受け取りながら、トゥアールは説明する。

「それってつまり未完成ってこと? それであの強さってどういう事よ?」

 愛香が怪訝そうに尋ねる。ナイトグラスターの戦闘力はテイルギアにも負けていないように彼女には見えていた。

「それは相手がまだ弱いのと、鏡也さん自身のスタイルがナイトグラスターの能力と合致しているからですね。今後のことを考えると、完璧に仕上げなければいけませんので」

 トゥアールは早速、テイルグラスの調整に入るためにメンテナンスルームへと足を向けた。

「あ、鏡也さんも来てください。ちょっとお話がありますので」

「……? 分かった」

 二人がメンテナンスルームへと入っていくのを見届けながら、愛香はふと思う。

「なんだかあの二人……ちょっと親しげ?」

「そうか? 俺には愛香の方が仲良さそうに見えるけど?」

「どこ見たらそうなるのよ!? ……このままそーじから鏡也に移ってくれたら、あたしも苦労しなくて済むんだけど」

「ん? なにか言ったか?」

「何でもない! さ、行きましょ」

 ついつい零してしまった言葉を足音で踏み消して、愛香は総二の腕を引っ張っていった。

 

「鏡也さん。実はお願いがあります」

 メンテナンスルームに入ったトゥアールは、テイルグラスをデスクに置くや、開口一番そう言った。

 トゥアールのお願い。今までを鑑みるとこちらの常識を逸脱するものが殆どであると鏡也は記憶している。

 変身して戦って欲しい。地下に基地を作らせて欲しい……などだ。

「一体、何だ?」

 だが、その全てに意味があるとも知っているので、まずは聞いてからだと鏡也は続きを促した。

「実は今後、出撃を控えて欲しいんです」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 アルティメギル基地。超常の空間に浮かぶ其処でも、小さな変化があった。

「それにしてもテイルレッドだけでも可愛い……もとい厄介だというのに、タイルブルーにナイトグラスターなどという邪魔も……もとい厄介な相手が加わるとはな」

「あぁ、今後はどうタイラブルーやナイトグラスターを排して、テイルレッドを愛で……もとい相手取るかを考えなければな」

 下層区画を見回りながら、エレメリアン二体は今後、如何にして戦うのかを話し合っていた。

 若干、内容がおかしい気もしなくもないが、アルティメギルにとっての通常運転なので誰も気にしない。

 後、絶対にテイルブルーに聞かれてはならない内容なのも、通常運転だ。

「次は誰が出るのだろうな。次こそは俺に出撃命令がくるものだと思うのだが……テイルレッドにVフロントを着せてやろうものを」

「何を言う。今度はこの俺が、テイルレッドを荒縄で縛り上げてくれよう!」

 常識を持つ者がいれば確実にお巡りさんこちらですと通報間違いなしな会話をしているその背後に、動く影があった。

「――そこの者。尋ねたいことがある」

「「っ――!?」」

 後ろから掛けられた声に、二体がビクッと肩を震わせた。振り返ると其処には見慣れない者が立っていた。

 和装に似た左前掛けの異装。全身は艶の一つさえ無い闇の黒。4つの尾羽根が揺らめいている――鳥型のエレメリアン。

「な、なんだ貴様……見ない顔だな? 別部隊の者か? それとも新入りか?」

「ドラグギルディは何処にいる? 案内せよ」

 不遜、慇懃無礼。そんな言葉が似合う振る舞いに、エレメリアン達の怒りに火がつく。

「キサマ、ドラグギルディ隊長を呼び捨てるとは……!」

「どこの者かは知らんが、礼儀を知らんようだな!」

 彼等ドラグギルディ隊にとって、隊長であるドラグギルディは絶対存在。それに対する無礼を見逃せる筈もない。

 だが、黒いエレメリアンはそれを一笑に付す。

「フン。ドラグギルディは部下の躾もろくに出来ぬか。それとも、貴様らの出来が悪いだけか?」

「ッ!! おのれぇええええええ!!」

 敬愛する隊長への侮辱に怒髪天を衝くとばかりに、二体は黒いエレメリアンに襲いかかった。

 

「こ、これは……!」

 部隊参謀を務めるスパロウギルディが別の見回り組と共にドックへとやって来たのは、彼らがある物を発見し、報告を行ったからだ。

 果たしてそこにあったのは一席の小型航行船であった。

 普通、エレメリアンは部隊で行動するため、基地の機能も兼任する大型船を運用している。

 逆に言えば、アルティメギルで小型船を使う者は限られているということだ。

 部隊に所属しない者か、現役を退いた者。後者であるならば、問題はない。簡単な補給や整備のために立ち寄ることは珍しくないからだ。

 だが、もしも前者であるならば――。

「あ………あぁ……っ!!」

 船の側面に刻まれた――黒い鳥のエンブレム。それはこの船の所有者を顕していた。

「まさか、あのお方が……な、何故!?」

「スパロウギルディ様? 一体どうされたのですか?」

 狼狽するスパロウギルディに、狼狽える見回りのエレメリアン。スパロウギルディはその声に我に返るや、すぐに叫んだ。

「すぐにドラグギルディ様に報告せよ! それとお前は全部隊員に伝令! 黒いエレメリアンを見かけても――」

 

 ……ゴォオオォオオオオオオン!!

 

 突如、基地を振動が襲った。大地の無いこの空間で地震など起こりはしない。外からの衝撃ならば警報が鳴る筈だ。

 つまりは何かが、基地を内部から揺さぶったということだ。それも全体に伝わる程の衝撃で。

「まさか……間に合わなんだか!?」

「スパロウギルディ様!?」

 部下の声も聞こえずと、スパロウギルディは走った。

(今のがもしそうならば、恐らくは!)

 普段ならば何処にいるかも分からない相手であるが、今ならばすぐに分かる。

 緊急警報(エマージェンシーコール)の鳴り響くその中心。他の部隊員が駆けつけていくその場所にいる。

 スパロウギルディが通路をひた走っていると、各ブロックへとつながるフロアに部隊員が集合しているのが見えた。

「待て、お前達!」

「スパロウギルディ殿!?」

 殺気立つ部隊員の間に割って入るスパロウギルディ。果たしてその中心に居たのは、やはり危惧した相手であった。

「ほう、誰かと思えば。久しぶりだなスパロウギルディよ」

「フ、フマギルディ……殿!」

 ブスブスと焼け焦げた床に倒れ伏す同胞たち。フマギルディと呼ばれた黒のエレメリアンはその手に下げていたエレメリアンを落とした。

「それにしても、随分と腑抜けが多いようだな? ドラグギルディの部隊と期待していたのだが……拍子抜けもいいところだ」

 倒れ伏しているエレメリアンは全部で13体。全身が焦げているが、命に別状はなさそうだ。

 警報から数分程度。その時間でこれだけの数を叩き伏せたフマギルディに、戦慄を覚える。

「いったいどのような用件で……こちらに参られたのですか?」

 手で他の隊員を制しながら、スパロウギルディがゴクリと固唾を呑みながら問う。

「皆、其処を退けい!!」

 響く怒声。振り向いたエレメリアン達の頭上を一足に飛び超えて、黒い影が舞う。

「ドラグギルディ隊長!?」

「ぬぅぉおおおおおお!!」

 ドラグギルディは手にした乱れ刃の大剣を、フマギルディ目掛けて振り下ろす。フマギルディの左腕が動く。

 刹那、甲高い轟音が響いた。

 フマギルディはドラグギルディの豪剣を、左手で抜いた片刃の剣で受け止めていた。削り合う二つの刃が火花を散らす。

 数秒か、それとも十数秒か。競り合いを続ける二体はやがて弾かれるようにその刃を離した。

「流石はドラグギルディ。相も変わらず、見事な一撃だ」

「……一体、どのような用件でコチラに参られたかは存じませぬが、これ以上の狼藉は見過ごせませんな」

「元より、そのつもりはない」

 フマギルディはその腰に刃を収め、ドラグギルディは大剣を逆手に持ち替えた。

「お前達はその者共を運べ。スパロウギルディ、後の事は頼む」

「は、はい」

 ドラグギルディが一歩踏み出すや人垣が割れる。

 発揮される鬼気が、誰ともなく言葉を奪う。

 武人、ドラグギルディの一撃をゆらぎもせずに受け止めたフマギルディなる者。部隊員の誰もが、去りゆく二人の背中に視線を送った。

「……スパロウギルディ殿。奴は何者なのですか?」

「……あのお方は、フマギルディ殿。首領様直属の部隊監査官を務められいてるお方だ」

「首領様直属……!?」

「部隊監査官……!?」

 ざわ。と波が起こった。

 アルティメギル全エレメリアンの頂点に君臨する、極限られた者にしか謁見を許されない神の如き存在。それが首領である。

 その直属ということは、アルティメギルの中でもトップエリートという事であり、部隊監査官という立場は四頂軍を含めた全アルティメギル部隊に対して影響力を持つ。つまり、それ程の権力を与えられる程の実力と首領からの信頼が厚い存在だという事だ。

 何故、そのような人物がこの基地にやって来たのか。先程までとは違う意味で、部隊員の誰もが戦慄した。

 

 ドラグギルディの執務室。備えられた執務用の椅子に腰掛け、ドラグギルディは口を開く。

「して、監査官殿が来られたということは……我が部隊に何か問題があると?」

「まさか。その武勇語り知らぬ者は無しと謳われる豪傑ドラグギルディが率いる部隊。何の疑うことが在ろうものか」

 そう言って肩をあからさまに竦めてみせるフマギルディ。何処か芝居がかった物言いに、ドラグギルディは不快さを覗かせる。

「では、何故に?」

「――あぁ。一応、今は休暇中なのでな。敬語は無用に願う」

「………。ならば……一体何用だ? 下らぬ気紛れで部隊に損害を出しに来たのかキサマは?」

 ドラグギルディがギロリと睨む。並の者ならば腰を抜かしてしまう程の凄みを受けて尚、フマギルディはクツクツと笑う。

「むしろ、あの程度でどうにかなるならば、ツインテイルズなる者共には敵うまいよ」

「っ……! キサマ、”何時から”いた?」

「さて……何時からだろうな? それにしても、あの世界の萌芽がいささか遅れ気味のようだが?」

「――誤差の範囲内だ」

「ツインテイルズ……”正真正銘”のイレギュラーのようだが?」

「――結果が同じならば、問題はない。……キサマは休暇中ではないのか?」

「勿論そうだとも。ここで見聞きしたことは全て、報告されない。報告することは”予定通り”に作戦が終了した。それだけだ」

 そうだろう? と、フマギルディが言う。ドラグギルディは一息、深く吐く。

「無論。作戦はもうすぐ最終段階に入る。キサマはどうする?」

「では、折角の機会だ。吉報をこの目で見届けさせてもらおうか。期待、出来るのだろう?」

 フマギルディは踵を返す。その足元から黒い炎が噴き上がり、その身を一瞬包み込んだ。そしてそれが解けると、其処には何者の姿も無かった。

 ワナワナと震えるドラグギルディの拳が、デスクを激しく叩いた。

「室内で火を使うな。貴重品が焼けたらどうする……!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 朝。変態の襲撃も夜が明ければ平和なものだ。そんな哲学的な事を考えながら、総二は幼馴染と共に学校への道を歩く。

「それにしても、鏡也がしばらく出撃出来ないなんてねぇ」

 愛香は昨日の夜伝えられた話を思い出し、口にしていた。

「まぁ、今はアルティメギルの侵略も大したことはないからな。実際、搦め手打たれなきゃ、二人でも対応できるレベルだ。今の内に戦力を整えておきたいのはある意味、妥当な判断だ」

 鏡也はテイルグラスではない普通の眼鏡を指で持ち上げ、そう答えた。

 テイルグラスのアップデートは、ギアの性能を完全発揮するためには必須である。

 今が大丈夫だからといって、今後大丈夫である保証はない。戦局は長引けば長引くほど不確定要素を孕んでいくのだ。

「とはいえ基地にはいるし、危なくなればすぐに助力に向かう。今までのように率先して出ることがないというだけだ」

「でも、普段はテイルギアが使えないんだろ? エレメリアンに襲われたら一溜まりもないんじゃないか?」

 総二は総二で別の懸念を抱いていた。テイルギアがあるからこそ、身を守る事ができる。だがそれが無いということは、危険な気がしたのだ。

「それは要らん心配だ、総二。いくらなんでも、三度も遭遇する方がおかしいだろう、確率的にもな」

 そう言って、総二の心配を鏡也は一笑に付した。

 

 その日の放課後――。

「待て、御雅神鏡也! 大人しく捕まりヤンデレゲー地獄へと堕ちるのだ!!」

「誰が堕ちるか、そんな物騒な場所に!!」

 黒いモケモケ軍団ことアルティロイドに追い掛け回されながら、鏡也は叫ぶ。

 舌の根も乾かぬ内とはこういうことか。

 また町中を歩いているだけで、エレメリアンに遭遇するなど誰も想像さえしなかった。

 その上、相も変わらずテイルレッドのせいで追い掛け回される始末。冗談ではないと、鏡也はツインテイルズ到着まで逃げ切ろうと、鏡也は必死に走った。

「これは何とかしないと、こっちが持たん……! トゥアールのやつ、面倒を掛けてくれる……!」

 階段を一弾飛ばしで駆け下りる。

「鏡也!」

 テイルレッドの声が響いた。階段の下から走ってきたのが見える。一瞬の視線の交差。鏡也は足を止め、同時に両手を逆手で組む。

「おりゃあああ!!」

 テイルレッドがその上に飛び乗る。そして鏡也の腕の反動を利用して一気に階段を飛び上がった。

「テイルレッド!?」

「毎回毎回……いい加減にしやがれ!!」

「ぐぁああああ!!」

 滞空状態からのオーラピラー。そして落下からのグランドブレイザーで、テイルレッドはエレメリアンを瞬殺した。

 全てが終わって、属性玉を回収しながら、テイルレッドは鏡也に言う。

「なぁ」

「何だ?」

「真面目に対策、考えたほうが良くないか?」

「……そうだな」

 最早、遭遇率が呪いレベルに達しつつある現在を認識し、鏡也は改めて考えるのだった。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 世界中に向けたアルティメギルの宣戦布告からすでに二十日が過ぎた。

 次々と襲い来るエレメリアンを退けるツインテイルズ。その様子はネットを中心にして、更なる話題をさらっていった。

 注目は避けられないと、ならばせめてヒーローらしく振る舞おうとする総二の努力もあり、少しづつだが世間の認識は変わりだした。

 テイルレッドが愛でられている事には変わりないのだが。

 そんなある日の街。総二達は久しぶりの出撃のない日を堪能していた。

「そう言えば、ここ最近ツインテールの子が増えてきたと思ったけど、メガネかけてる人も地味に増えてない?」

 愛香はソフトクリームを食べながら、街行く人達を眺めていた。

「うちの会社の売上も少し上がってきていると、父さんが言ってたな。主に男性用が伸びているらしい」

「メガネ男子……確かにちょっと目に入るな。これって、ツインテイルズと同じで、ナイトグラスターの影響か?」

「……かもな」

「ビジュアルのせいか、ナイトグラスターって女子に人気あるものね~。この間だって、アイドルだかがテレビでナイトグラスターが好きとた言ってたし。嬉しい?」

 愛香が皮肉めいた口調で言うと、鏡也は呆れ気味に嘆息した。

「何処の誰とも知らない相手に好きと言われてもな……。男としては、一人だけを想うだけで精一杯だろう。なぁ、総二?」

「俺はツインテールを愛するだけで精一杯だな」

「聞いた相手が悪かったな」

 通常運転のツインテール覇王をさておき、鏡也は空を見上げる。

 雲一つない快晴。だが、それが何処か遠くに消えてしまいそうな気配がした。

 アルティメギルの侵攻からもうすぐ一ヶ月が経とうとしている。

 事態は緩やかに、しかし確実に最大の嵐に向かって動き出していた。




フマギルディはウザい系。
でも強い。

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