光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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前話を投稿したら、お気に入りが倍近く増えましたw


主人公が変身したからなのか。

トゥアールが顔を踏まれたからなのか。

ブルーが食い込んだからなのか。


………私には判断がつきませんww




 鏡也が基地に駆け込んできたのは、二人が出撃した直後だった。

「状況は?」

「今、二人が出撃したところです。場所は幕張の海岸。近隣にはスタジアムがありますね」

「海水浴にはまだ早いだろうに、何でそんな所に?」

 敵の意図は何なのか。人が多い場所を狙うなら、海岸よりもスタジアムに乗り込めばいい筈だ。

 エレメリアンは二体。実質一対一の構図になりそうだった。

「あ、そうだ。鏡也さん。例のもの、出来上がってますよ」

「! もう出来たのか? あれからまだ数日しか経ってないだろうに」

「元々、動力関係は出来上がってましたからね。そこに後付で各種装備を加えて調整しただけですから」

 トゥアールは厚めの文庫本のような大きさのケースを取り出すと、その縁のスイッチを押した。

「どうぞ。その名もテイルギアTYPE-G〈テイルグラス〉です」

 開放された箱の中には、一見すれば今までと同じ、星の眼鏡があった。だが、本能的にそれが違うと理解する。

 眼鏡を外し、星の眼鏡改めテイルグラスを装着する。一瞬、フレームに光が走り、眼鏡そのものが顔に吸着したかのようにフィットする。だが、一切の違和感を覚えない。

「おぉ……なんという一体感だ」

「そのギアなんですが、実は出力系に不安定さがありまして……テイルギアと同様の通常出力を行うと、どうしても属性力の制御が出来なくなってしまい、暴走を起こしてしまうんです。なので現在は7割程度でリミッターを掛けてあります」

「7割……戦闘そのものは問題ないのか?」

「ええ。それを補う装備も追加してあります。出力バランスは鏡也さんのスタイルに合わせて、攻撃・防御よりも速度に特化させた仕様になっています。暴走に関しては、今は実働データ不足で。解決できない問題では無いですけど……」

「すり合わせが難しいのか?」

 鏡也が聞くと、トゥアールは頷いて返した。やはり天才の頭脳といえど、同レベルの異なる世界の技術同士を合わせるのは厳しいらしい。

 それは今後の課題として、今はエレメリアンだ。総二と愛香ならば問題無いだろうが、やはり敵の出現場所が鏡也には気にかかる。

 そして、それが直ぐに杞憂ではないとわかる事態が起こった。モニター越しに映る、武器を手放して砂浜に座り込んだテイルブルー。

 テイルレッドは敵の攻撃に引き離され、フォローが出来ない。更にはスタジアムの方から中継車がやってくる。マスコミの動きが何時もより早い。

 更には砂の中から属性力を奪うリングが出現し、ブルーに迫ろうとしている。

「これが狙いか!」

「最初から、テイルブルーの属性力を狙うために罠を仕掛けていたんですね!」

 今までなんだかんだと言いながら、真正面から挑んできたエレメリアンが、ここに至って搦め手を使ってきた。ブルーは身動きが取れず、レッドは別のエレメリアンに阻まれたままだ。

 決断はすぐだった。

「鏡也さん、ぶっつけ本番ですが……!」

「わかってる!」

 鏡也はテイルグラスに意識を集中させる。テイルギアを発動させるのは強い意志の力。

「そのギアのスタートアップワードは――」

 トゥアールの言葉と、鏡也の言葉がシンクロする。

 

「「グラスオン――!」」

 

 瞬間、フレームが展開し、レンズに眼鏡属性の属性紋章が映し出される。そして変身用のフォトンコクーンが発動し、その中で鏡也の体を強化スーツ〈テイルギア〉が包み込んでいく。

 コクーンが弾け、生まれ変わった鏡也が緩やかにその瞳を開いた。感覚を慣らすようにゆっくりと手足を動かす。

「――これが変身か。……ん? 視線が高い? それに声も少し低い……?」

 コンコンとベスト状のチェストアーマーを叩きながら鏡也は異変に気づいた。

 鏡也の身長は167センチある。なので若干見下ろし気味だった視点が、今は完全に見下ろす形になっている。そして声も、今までより低く響いていた。

「……成功ですね。ですが、これはまた予想外というか何というか……」

「これはお前の仕込みか?」

「いいえ。多分ですが元にした眼鏡にそういった仕込みがされていたんでしょうね」

 今の鏡也の姿はトゥアールの理想の真逆だ。わざわざこんな仕込みなどする必要も、意味も、熱意もないと、首を振った。

「ともかく、今は愛香だ。よし、トゥアール!」

「分かってます転送位置を――」

「服を脱げ」

「エレメリアンの真上ぇええええええええ!?」

 トゥアールが素っ頓狂な声を上げた。

「何を驚いている。さっさと脱げ」

「駄目です来ないでください変身した途端私をその力で無理やり調教しようと言うんですね薄くて熱い本みたいに薄くて熱い本みたいに!!」

「黙れ」

「あぁれぇえええええええ! 総二さまぁあああああ!!」

 

「――じゃあ、転送を頼む」

「白衣なら白衣と言ってください! 無駄に色々身構えちゃったじゃないですか! ――転送しますよ!!」

 若干キレ気味に、トゥアールはカタパルトを起動させた。

 

 一瞬で現場に到着した鏡也だったが、何故か悟ったように穏やかな顔をしていた。

「あいつめ……真上と言っても」

 横を見れば、試合中のスタジアムが丸見えである。

「真上すぎるだろうがぁあああああ!!」

 テイルギアには素での飛行能力はない。待っているのは自由落下。

 こうなればこのまま、エレメリアンの頭を踏み砕いてくれようと、鏡也は狙いを定めた。

 

 果たして見事にジャッカルギルディの頭を踏み抜いて醜いオブジェへと変え、リングを海の藻屑に変えた鏡也は、ブルーの前に跪いた。

「っ……!?」

 無意識に無防備な胸を見てしまった。以前も直接見たことがあったが、その時は蹴られたり叩かれたりしていから冷静に見ていなかったし、それ以外はモニターやテレビ越しだ。

(これは……見せ過ぎだろう!)

 へたり込んだまま、見上げる瞳。無防備にさらされる白い肌と、少しばかりとはいえ覗く膨らみ。一瞬とはいえ、マジマジと見てしまったことに気が付き、すぐに視線を外した。

 見られていたことに気付いたのだろう、眼前から凄い怒気を感じる。どう言い訳するかと考えた時、背後でジャッカルギルディが復活した。

 立ち上がろうとするブルーを、歯の浮くような台詞で制し、鏡也はジャッカルギルディと対峙した。

「貴様は何者だ! ツインテイルズの仲間か!?」

 ジャッカルギルディの言葉に、鏡也は一瞬だけ考える。だが、すぐに答えは出た。

 ツインテイルズがツインテールの戦士なら、自分は眼鏡の騎士だ。そして星の光を宿した眼鏡(グラス)で変身する。ならば名乗るに相応しい名は一つしか無い。

「お前達に語るも勿体ないが……この世界の初陣だ。あえて名乗らせてもらおう」

 バサァ! と、これみよがしにマントを翻して、鏡也はその名を宣言する。

「私の名は〈ナイトグラスター〉。貴様らアルティメギルに仇なすため、この地に舞い降りた――眼鏡の騎士(グラス・ナイト)だ!!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ナイト……グラスター? 味方なのか?」

 テイルレッドはどう判断すれば良いのか分からず困惑した。ブルーを助けてくれたことからも、敵ではないようだ。だが、ツインテールでない者を信用して良いものか。

「テイルレッド。こちらは任せてもらおう。君はそっちのエレメリアンだけに集中するといい」

「っ……!?」

 そんな迷いを感じ取ったかのように、振り返りもせずに謎の騎士、ナイトグラスターは言う。

『レッド。彼は敵ではありません。頼もしい援軍です! ブルーのことは一切合切気にせず記憶の奥底にでもやってしまって、目の前の相手にだけ集中してください!』

「トゥアール……!? ……わかった」

 通信越しにトゥアールの太鼓判を受けて、テイルレッドはリカオンギルディとの戦いに集中することにした。

「ヌヌ……! よもやあんな邪魔が入ろうとは! 斯くなる上はテイルレッド、貴様のツインテールをいただく!」

「やれるもんならやってみろ!」

「喰らえ! 我が属性力の輝きを!!」

「甘いぜ!」

 リカオンギルディの繰り出した不可視の一撃。しかしそれをテイルレッドはブレイザーブレイドで完璧に受け止めた。

「何だと!?」

「お前の攻撃は確かに見えねぇ。でも、その攻撃が手足の動きの延長線上でしかないって分かれば、防ぐのも躱すのも簡単だぜ!!」

 ニヤッと笑ってドヤ顔をするテイルレッド。いつのまにやら来ていたギャラリーが一斉にフラッシュを焚いていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ナイトグラスター……我らアルティメギルに仇なすだと? 笑わせてくれる! その属性力を狩り尽くし、吐いた戯言を後悔させてくれる!」

「残念だが、貴様には無理だ」

 鏡也――ナイトグラスターは眼鏡に、軽く持ち上げるよう右手で触れると、その手に眩い光が宿った。

「抜剣、〈フォトンフルーレ〉!」

 光が細身の剣へと変化し、その手に出現する。光輝の剣フォトンフルーレ。その刃を翻し、ナイトグラスターが宣告する。

「さぁ、行くぞ!」

 ナイトグラスターは駆け出す。砂浜など物ともしない加速力で、一瞬でジャッカルギルディの懐に飛び込み、鋭い膝蹴りを叩き込む。

「グウッ!?」

「速い!?」

 ブルーを持ってしても見抜けない速さで攻撃を繰り出し、更に怯んだジャッカルギルディの足を払い、その勢いのまま、回し蹴りで大きく吹っ飛ばした。

 すぐさま砂塵を巻き起こし、ナイトグラスターはジャッカルギルディの真横へと飛び込んだ。

「――おっと、逃がさないぞ」

「がっ! うが! がはぁあああ!!」

 蹴り蹴り蹴り。さながら旋風の如き回し蹴りの連続に、ジャッカルギルディはマリオネットのように宙で踊り回される。

 その電光石火の攻めに、思わずブルーは叫んでいた。

「剣、全然使ってない――っ!」

「フッ。剣を抜いたからといって、それで攻撃するとは言っていない。まだまだ青いな――テイルブルー」

「さり気なくダジャレ入れてんじゃないわよ!」

「やれやれ。ユーモアが分からないとは……仕方ない。リクエストに応じて使おうじゃないか」

 砂浜にベシャリと落ちたジャッカルギルディに向かって、ナイトグラスターはフォトンフルーレの切っ先を突きつける。

「ぐ、ぐぐ……! この程度で……やられるものか!!」

 砂浜を派手に蹴り、ジャッカルギルディが襲い来る。だが、ナイトグラスターは一切慌てる様子なく、その剣を緩やかに動かした。

「え……?」

 ブルーの目に、まるでジャッカルギルディが自ら、その刃の上を滑っているように見えた。

 やったことは簡単だ。突進してきたジャッカルギルディをその勢いのまま、剣の腹に乗せ、いなしたのだ。

 だが、そんな見切りを誰が行えようか。

 

 鏡也はフェンシングの達人である。

 フェンシングとは基本、前後にしか動けず、間合いと速度が重視される競技だと思われている。

 だが、鏡也はそれ以上に見切りこそ、フェンシングの真髄であると思っている。

 間合いも速度も、このタイミング、この踏み込みでいけばという判断の結果だ。

 だが筋肉の動き、体重移動、足運び、視線移動、腕の流れ……それら総てを一切間違いなく読み切れれば、結果など自分の理想以外にはありえない。

 先の先を取ること。それが鏡也にとってのフェンシングという競技だ。

 

 そんな鏡也が、相手の真っ直ぐな突進一つ、どうして見抜けないだろうか。

「な――っ!?」

 グルンと回るジャッカルギルディの視界。そしてそこに見えた光。

「フラッシュ・ストライク!!」

「ぐはぁ!!」

 光をまとった手刀が、ジャッカルギルディに突き刺さる。カウンターで決まった一撃に、また大きく吹っ飛んだ。

「説明しよう。フラッシュ・ストライクとは光をまとわせたパンチなどを叩きこむ技だ」

「つまり、必殺技ってこと?」

「いいや、ただカッコイイだけだ」

「真面目にやりなさいよね!?」

「痛っ」

 キリッとした顔で言い放つ眼鏡騎士に、テイルブルーが足元のランスを投げつけ、見事に頭に命中させた。

 フォトンアブソーバーのお陰で痛みはないが、つい当たったところを撫でててしまう。

「危ないことをする。一般人にこういう事をしてはダメだぞ?」

「しないわよ!!」

 ウソである。既に鏡也はやられている。ブルー的には一般人ではないのだろうが、変身していない人間は基本、一般人だ。愛香のように逸般人なわけでもないのだから、自重してほしいものだ。

「うぐぐ……! 調子に乗るな!」

 フラッシュストライクを喰らった場所をバチバチと光らせながら、ジャッカルギルディが再び立ち上がった。

「しぶといわね、アイツ」

「………」

 ナイトグラスターとしては本気で倒すつもりで蹴りを打ったのだが、やはりパワーが弱いらしい。ダメージはあっても決定打に欠けるようだ。

「なら、一気に決めるまでだ」

 ナイトグラスターは剣を一度振るい、構える。今度こそ、とどめを刺すと、砂を強く蹴った。

 再び神速をもって駆けるナイトグラスターに、ジャッカルギルディが仕掛ける。

「食い込めぃ!」

「っ――!?」

 砂が突然流動し、ナイトグラスターが左足を取られる。あっという間に膝まで砂に埋まってしまった。

「あぁ、この馬鹿! 何やってるのよ!?」

「馬鹿め! 俺を甘く見るからだ!」

 前後から同時に叱責を食らうナイトグラスター。ジャッカルギルディは一気に跳躍し、その爪を喰らわさんと襲いかかる。

 ブルーも、白衣を纏ったまま立ち上がると、ランスを拾って走りだす。

 

 ――そのどちらもが、彼の口元の歪みに気付かない。

 

「オーラピラー」

 パチン。とナイトグラスターが左指を弾いた。瞬間、ジャッカルギルディの体を光が包み込み、空中に拘束した。

「ぐわぁあああああ! こ、これはオーラピラー!? 何故だ、何故オーラピラーがぁああああ!」

「何故も何も、さっき打ち込んだだろう? それを発動させただけだ」

 足を引っこ抜き、ナイトグラスターは空中に縫い付けられたジャッカルギルディを見上げる。

 

『説明しよう。フラッシュ・ストライクとは光をまとわせたパンチなどを叩きこむ技だ』

『つまり、必殺技ってこと?』

『いいや、ただカッコイイだけだ』

『真面目にやりなさいよね!?』

 

「まさか、あの時に……!?」

 ブルーはナイトグラスターが既にあの時、この図式を描いていたのだと理解した。

「貴様の食い込み能力の正体が物質への干渉なのは分かっていたからな。それが最大の効力を発揮する方法を考えれば、砂を使うのは明白だ。粒子の粒である砂浜にちょっと力を使えば、流砂でも落とし穴でも作り放題だからな。場を実に上手く使ったと褒めてやろう」

 リングを砂に隠したのも出したのも、能力に拠るところだ。砂の動きをコントロールすればそれぐらいは容易い。

 パチパチと拍手するナイトグラスターを、ジャッカルギルディは憎々しげに見返す。

「なら、貴様はあえて此方の手に掛かったというのか? 一体、何故……?」

 ジャッカルギルディの絞りだすような言葉に、ナイトグラスターはしれっと返した。

「決まっているさ。その罠にかけた筈の相手にやり込められる……その悔し顔が見たかっただけだ」

「このサディストがぁあああああああああああああ!!」

 ジャッカルギルディが怒り任せにもがくが、拘束は外れない。ナイトグラスターは式典などのように剣を掲げた。

完全開放(ブレイクレリーズ)!」

 剣の鍔が開き、刃が光り輝く。そして全身の装甲が展開し、内部機構〈フォトンアクセラレータ〉がフル稼働し、光の粒子が放出される。

 全身に光を纏ったナイトグラスターが、空中のジャッカルギルディの前へと一瞬で移動する。

「ブリリアントフラッシュ!!」

 流星を思わせる鋭い突きが、ジャッカルギルディを貫く。流星は砂浜を抉るように降り立つと、一度、その剣を払った。

「こんな……こんな奴にやられるなどぉおおおおおおおおおお!」

 断末魔の悲鳴を上げるジャッカルギルディの体に無数の輝線が走る。目にも映らぬ連続斬突撃〈ブリリアントフラッシュ〉を喰らったジャッカルギルディが爆散した。

「彼女に卑劣なことをした貴様の末路には、相応しかろう?」

 落ちてきた属性玉をキャッチし、ナイトグラスターは剣呑な瞳を覗かせた。

 

「バカな……ジャカルギルディが!」

「余所見してる場合じゃねぇぞ! オーラピラー!!」

「っ!? しまった!!」

 ジャッカルギルディを倒された動揺から隙を見せたリカオンギルディを、テイルレッドのオーラピラーが襲う。

 紅蓮の炎は渦巻いて赤き御柱となり、その動きを封じ込めた。

「うぐぐ……! 動けん……っ!!」 

「行くぜ、完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 ブレイザーブレイドが業火に包まれ、エクセリオンブーストがスラスターとなって火を噴く。

 高き飛翔から繰り出される必殺の一撃。

「グランドブレイザ―――ッ!!」

「ぐぁああああああああ!! まだ、まだハイレグをぉおおおおお!!」

 テイルレッドの斬撃を喰らったリカオンギルディが、断末魔と共に爆散した。

 

「向こうも決着がついたか。では、先に失礼させてもらう」

「ちょっと待ってよ! あんた、一体何者なの? 何でトゥアールの白衣を持って……ちょっと待ちなさいよ!」

 ブルーが止めるも聞かず、ナイトグラスターは踵を返して去ろうとする。

「君達も早く引き上げた方がいい。では、また後で――」

 そう言い残し、ナイトグラスターはスタジアムの方へと走り、そのままその速さに任せて姿を消した。

「ブルー!」

 それを見送ったブルーの背中にレッドの声が届く。ブルーが振り返ると、途端に安堵したのか、表情を崩した。

「はぁ、無事で良かった。さっきの人は?」

「……行っちゃった。それより、あたし達も行きましょう。マスコミとか野次馬が来てる」

 ブルーはリボンの属性玉を使用し、レッドを抱えて空に飛び上がった。グングンと遠ざかる景色を見下ろしながら、考えるのは今日の戦いのこと。

「今日は本当に危なかったな」

「油断があった……かも。もっと気を引きしめないとね」

 連戦連勝が心に隙を生み出す。勝って兜の緒を締めよとはよく言ったものだと、レッドは改めて、心のツインテールを締め直す。

 自分たちの戦いは、絶対に負けられないものなのだから。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 基地へと帰ってきた二人は、変身を解いた。

「お二人とも、おかえりなさい。無事で何よりです」

 トゥアールの出迎えを受けて、愛香はふと自分が着ている物のことを思いだした。

「トゥアール。この白衣、あんたのよね?」

 愛香の予想通り、トゥアールはやはり白衣を着ていなかった。つまり、あの人物はここから現場に来たということだ。

「えぇ、そうですよ。それより、もう必要ないでしょうから返してください。貧乳が移ってしまったら大変ですから」

「ごめん、破れちゃった」

「あぁあああ!? なんてことを!!」

 目の前でビリッと逝かせて、しれっと言い放つ愛香。素手で服を破くとは、何処のプロレスラーであろうか。

「なぁ。トゥアールはあのナイトグラスターって人のこと、知ってるのか?」

 破れた白衣を渋々捨てて、新しい白衣を着るトゥアールに、総二は尋ねた。

「知ってるも何も………そこに居ますよ?」

 

「「…………え?」」

 

 転送装置から見て、左奥の椅子に人影がある。椅子がくるりと返されると、そこには件の眼鏡の騎士が座っていた。

「やぁ、先程ぶりだね。ツインテイルズのお二方」

 まるでイタズラが成功した子供のように、愉快そうに笑う騎士に、二人はただただ呆然とした。

「しかし、驚いた。まさか究極のツインテールを持つとされる者が……男だったとはね」

「ッ……!?」

 そこで総二は気付く。自分は今、この場所で変身を解いた。つまりは全てを知られてしまったということに。

「あ、いや……今のはその……」

 しどろもどろになりながら、総二は何とか言い訳しようとする。だが、頭が真っ白になって、言葉が出てこない。

「安心していい。誰にも言うつもりはないし……何より、トゥアールからある程度の話は聞いているからね」

 そんな総二を安心させようとするかのように、騎士は語る。

「……やっぱりトゥアールの知り合いだったんだ」

「いや、まぁ……知り合いといえば知り合いですよ。えぇ、そりゃもう」

 トゥアールは地味に投げやりっぽく答える。

「彼女はこのギアを作ってくれたんだ。同じ異世界人の(よし)みでね」

「異世界人? ナイトグラスターさんもここじゃない世界から来たんですか?」

 総二の問いに騎士はやおら立ち上がると、静かに語り始めた。

「私の世界も属性力の実用化がされていた世界でね……だが、ずっと昔にアルティメギルによって滅ぼされてしまった。その頃の私はまだ幼く、ただ逃げることしか出来なかった」

「アルティメギルに……」

 総二が沈痛な面持ちになる。トゥアールの世界の話を思い出したのだろう。

「あれからずっと、私はいつかアルティメギルと戦う日のために自分を鍛えてきた。今度こそ、大事なものを守れるようにと。彼女と出会い、こうしてテイルギアを作ってもらい……私もやっと、奴らと戦える様になった……という訳だ」

 騎士は総二の前まで歩み、その手を差し出す。

「テイルレッド。この世界の守護者である君に、どうかお願いしたい。君達と刃を共にして戦うことを許してもらえないだろうか?」

「そんな……! 俺だって、今日は愛香……ブルーが危ないところを助けてもらったし……! それに、大切なものを守りたいって気持ち、すごく良く分かります。だから、こちらこそよろしくお願いします」

 総二はその手を握り返し、そして愛香の方に振り返った。

「な、愛香もいいよな?」

「……まぁ、助けてもらったし。いいわよ、あたしは。もし変なコト考えたりしたら、即刻ぶっ飛ばせばいいんだから」

「お前、どうしてそう物騒な思考にいくんだよ」

「ははは。どうかよろしく頼むよ――観束総二君、津辺愛香君?」

「………え?」

「ちょっと、何で名前……!?」

 二人が名を呼ばれ、驚きと困惑の表情を浮かべた。なぜなら今までの流れから、二人の名前をトゥアールから聞いているとは思えない。

 ならどうして、自分たちの名前を知っているのか。狼狽する二人を前に、騎士はその変身を解いた。

 

「――観束総二君。津辺愛香くん。これからよろしく頼む」

 

 キリッとした表情で改めて言い直す幼馴染。二人の返答は早かった。

 

 

「「お前かぁあああああああああああ!!」」

 

 

 見事なダブルパンチが鏡也をぶっ飛ばした。

 

 




やっと、主人公の活躍できる条件がクリアされた……!

ちなみに必殺技に使われているブリリアントは「光り輝く」という意味とダイアモンドのカッティングであるブリリアントカットの二つを合わせた意味です。

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