名目上は体調不良からの早退として、昼休みが終わる前には鏡也は学校を出ていた。
やって来たのは町外れにある神社。木々のざわめき以外に音の無いこの場所は、鏡也にとって思い出の場所であった。
本当に幼い頃。鏡也がここで一人で遊んでいた時、唐突に飛んできたボールが顔を直撃した。その時、掛けていた眼鏡が見事に壊れてしまった。
バラバラに成ったレンズ。グシャリと歪んでしまったフレーム。顔の痛みよりもメガネが壊れてしまった事がすごく悲しくて辛くて、鏡也はワンワンと泣いた。
『――ねぇ。なんでないてるの?』
泣いている鏡也に声をかけてきたのは、同い年ぐらいの女の子だった。その子にメガネが壊れてしまって悲しいと言うと、その子は何故か怪訝そうな顔をした。
その女の子――津辺愛香に連れられて、鏡也はアドレシェンツァへ行き、そこで総二と出会うことになる。
全てはこの神社から始まったのだ。なら、事実を知る事を始めるのにここ以上相応しい場所はない。
ちなみに、眼鏡を壊したボールは愛香が格闘術の練習に使っていた物がキックによってすっ飛んできたものであったと知ったのは、小等部に上がった頃だった。
「………」
鏡也はカバンから眼鏡を取り出す。星の光を宿したレンズと銀色のフレーム――〈
「すう……はぁ……」
深く深呼吸し、鏡也は眼鏡を――掛けた。
世界が風景を失い、純白に染まる。
しばしそのままでいると、やがてぼんやりと何かが浮かんできた。それは何度も夢で見た女性だった。
白衣に身を包み、長い黒髪を一つに束ね、右肩から前へと垂らしている。瞳は優しさに満ちていて――とても綺麗な人だ。
次いで見えてくるのは生きる屍となった人々の群れ。その間を縫って、数人の人が走る。
彼らは巨大な装置の前に辿り着くとすぐに準備を始めた。
「ごめんなさい。あなた達に全てを託すことになってしまって。でも、あなた達ならきっとできる。守って。アルティメギルから……心の輝きを」
アルティメギル。その脅威はこの世界にも及んでいる。正確には”いた”なのだろう。
「……でも、出来るならば、どうか平和に過ごして欲しい。争いなどない場所で、平和に……穏やかに」
託す願いと、思い遣る心。相反する二つを託し、その人は彼の手を握る。
「――これを、手放さないで」
その人が、しっかりと握らせたのは――この眼鏡だった。
やがて世界は遠くなり、気が付けば、轟音轟く中にいた。
心を満たすのは不安。それを示す手段はただ泣く事。小さな手を精一杯にのばして、ただひたすらに。
怖くて。不安で。悲しくて。だが、そんな慟哭を轟音と土煙は容赦なく呑み込んでいく。
「……いた!」
不意に、小さな体が持ち上げられる。強く、温かなぬくもりが、冷えた心を満たしていく。
熱い雨が、顔に降り続く。伸ばした手を、もっと大きな手が包み込む。引き離されたものと何も変わらない――母のぬくもりだ。
(……あぁ、なんだ。そういうことか)
なんて今更な話だ。今まで、ずっと家族として過ごしてきた時間は何も変わりはしない。
初めて歩いた日。天音は声を枯らすほどに咽び泣いた。初めて出たフェンシングの大会で、優勝を逃した時は自分よりも悔しがっていた。
遠足の時など、こっそりついて行こうとして止められ、それでも諦めきれず先回りをかました。さすがにやり過ぎと、末次と鏡也に怒られ、本気のふて寝をかましたり。
(………いや、今更ながら親バカってレベルか、これ?)
ともかく、鏡也の過ごした時間は何一つウソのないものだ。疑うことなど、何もない。
血の繋がりがなくても――御雅神鏡也は、御雅神末次と御雅神天音の子なのだ。
『全ての光を遍く束ね、総ての輝きを紡ぎ導く。それが―――』
聞いたことのない、優しい声が響く。まるですべてを包み込む聖母の様な響き。その声が最後まで聞こえることはなかった。
「っ………」
世界は再び、元の風景に還る。鏡也は星の眼鏡を外し、元の眼鏡を掛け直す。そして大きく息を吐いて、眼尻の雫を拭った。
アルティメギルという言葉をどこで聞いたのか。それはずっと、夢の中の人が告げていた言葉だった。
この眼鏡も、アルティメギルに対抗するために作られ、託されたもの。ならば、これにはあるのかも知れない。
鏡也のために遺された、遺産ともいうべきものが。
「……あの~。すいません~」
唐突に声が聞こえた。鏡也は辺りを見回すが、人影は何処にもない。
「何だ気のせいか」
「いや、こっちです。こっち」
「………なんだ、木の精か」
上を向くと、神木の真ん中辺りで逆さになっている木の精がいた。精という割には俗っぽい格好だ。陽月学園の制服によく似た格好で。パンツを丸出しにしながら手招きしている。
「何やってるんだ、トゥアール? 新しいプレイか何かか?」
「それでしたら総二様の居ない所でやっても意味ありませんから! というか、あなたと愛香さんがここまで人を蹴り飛ばしたんでしょう!?」
「………いや、記憶に無いな」
「前々から思ってましたけど、そう言えば何でも通るとか思ってませんか!? 思ってますよね!?」
「いいや。そんな事はないぞ? それよりさっさと降りたらどうだ? それとも、やはりそういうプレイなのか?」
「降りたくても降りれないんですよ! 服が引っかかって、それに下手に動こうとすると枝が折れそうなんです!」
「例の転送ペンを使えば良いだろう?」
「下、見てください」
視線を落とすと、神木の根元に何かが落ちている。近づいて拾い上げてみると、それはいつもトゥアールが胸の間に挟んでいる転送ペンだった。どうやら、木に引っかかった時に落ちてしまったようだ。
鏡也はそれをひょいと放り投げてやる。トゥアールはそれを受け取り、手慣れた操作で、あっという間に木の上から鏡也の後ろへと転移した。
「はぁ~。頭に血が上ってエライ事になるところでしたよ……」
「助けてやったんだから、心から感謝して竜宮城にでも連れて行くように」
「亀をいじめた村人的ポジションなのに、図々しいてすね!?」
厚かましさ全開の鏡也に、さしものトゥアールもツッコミに全フリせざるを得ない。
「ま、竜宮城は無理でも、基地には連れてってくれると有難いんだが?」
「別にいいですけど……なんですか?」
「ちょっと、調べて欲しい物があってな。詳しい話は移動してからする」
「分かりました。では、転送しますね」
転送ペンを操作し、座標を地下基地へと切り替え、二人は光に包まれて神社から消えた。
地下基地に移動した二人。トゥアールはどこから出したのか、いつもの白衣を羽織った。
「それで、調べて欲しい物というのは何ですか?」
「あぁ。これなんだが……」
鏡也はトゥアールに星の眼鏡を見せる。
「これは……眼鏡、ですよね?」
「ただの眼鏡じゃない。恐らくだが……エレメリアンに対抗できる何かがある筈だ」
「どういう意味ですか?」
怪訝そうに鏡也を見るトゥアール。だが、その答えを知りたいのは鏡也自身だ。
「ともかく頼む」
「……分かりました」
渋々、トゥアールは星の眼鏡を受け取り、自身の研究室へと入っていった。
さて、結果が出るまでどうしていようかと、鏡也はポケットから携帯を取り出した。
気付かなかったが、メールの着信がある。愛香に総二、慧理那からも着ている。
そのどれもが早退した鏡也を心配もので、それを見て少しばかり顔が緩む。ただ、何故かメアドを知らない筈の尊からも送られてきていて、添付ファイルにはどういう訳か婚姻届が写っていた。
神堂家の掟と三十歳というカウントダウン。其処にある彼女の、義妹である慧理那への想いを知ってはいるが、ここ最近はどうにも暴走が酷くなりつつあるような気がする。
「解析終わりました!」
「はやっ!?」
まだ数分程度しか経っていないのに、トゥアールが帰ってきた。その手には何やらパイプに似た形状の、上半分が透明なケースに入れられた星の眼鏡がある。
それを置くと、コンソールを操作し、モニターを出した。
「まず、結果から言いましょう。この眼鏡には極めて高純度の属性力が篭められていることが分かりました。属性力は〈
モニターに、星の眼鏡と解析データ。そして∞を直線で描いたような、眼鏡属性の
やっぱりか。鏡也は自身の予感が正しかったことをようやく理解できた。
「それと……むしろ、こちらの方が話の本命なのですが……」
更にコンソールを操作するトゥアール。更に幾つかのデータが出るが、鏡也にはさっぱり分からない。
「鏡也さん。この眼鏡を一体何処で、どういった経緯で入手されたのか、教えていただけますか?」
「どういう事だ?」
「この眼鏡、一見すると普通の眼鏡に見えます。ですが、これは………テイルブレスと同じものです」
「何だって?」
「正確に言えば、属性力の共鳴による発動。及びその増幅。テイルギアの動力システムと同じものが組み込まれています。それと幾つかのブラックボックスも」
「じゃあ、これはトゥアールの世界で作られたものなのか?」
「いいえ。それは違います」
問いにトゥアールは首を振った。
「私がテイルギアに使っている技術と、この眼鏡に使われている技術は全くの別物。これは私以外の誰かが、独自に創り上げた物です。鏡也さん、もう一度聞きます。この眼鏡を一体どうされたのですか?」
トゥアールは改めて、鏡也に問いかける。その表情は今までにない程、困惑の色を見せていた。
鏡也はしばし逡巡したが、心の中でしっかりと決意を固めて発した。
「………これは、俺がこの世界に来た時から持ってたものだ。いつか現れるだろうアルティメギルに対抗するため、用意されたものらしい」
「ちょっと待ってください!? 鏡也さんはこの世界の人でしょう!? だって、総二様と愛香さんと幼馴染で……子供の頃からずっと一緒だって……!」
「あぁ、それも本当だ。俺がこの世界に来たのは、ざっと十五年前位だからな。元の世界の事は知らないが……多分、アルティメギルに滅ぼされたんだろうな。トゥアールの世界と同じように」
そう口にして、鏡也は心の中でザラつく感情があるのに気付く。それを吐き出すように、深く息を吐いた。
「あぁ、そうだ。この事は総二達には言うな。俺が異世界人って事は元より、養子だって事さえ知らないだから。あいつら無駄にお人好しだからな、要らん心配や気遣いをさせたくない。この話はあんたの胸にだけ留めておいてくれ」
「分かりました。この事は、誰にも言いません。……………ハッ!?」
神妙に頷いたトゥアールだったが、突然に目を見開いた。まるで恐るべき事実に気が付いたかのように。
「ま、まさかこれを期に私へのフラグを立てようとか考えてますね!? 二人だけの秘密! 同じ異世界人!! そういった共通点を秘密というエッセンスを加えて共有することで、私の好感度をあげようという魂胆ですね!?」
「戯言は寝て言え」
一瞬で靴を脱ぎ、トゥアールを組み伏せ、椅子に座って顔を踏みつけながら、鏡也は短く言い放った。
「ちょ!? 一瞬で乙女の顔を足蹴にとか……っ!? な、なんですかこの感触は……!?」
「どうした、顔が赤らんでいるぞ? 顔を踏まれるのがそんなに嬉しいのか?」
「踏まれて屈辱の筈なのに、絶妙な力加減で……ツボを刺激する……! あぁ……!」
「随分と良い声を出すじゃないか。総二じゃないくても良いのか? こいつはとんだ乙女だな?」
「総二様じゃないのに……! 総二様じゃないのに……!! だ、ダメぇええええええええええ!!」
「――とまぁ、冗談はここまでにするとして」
「――えぇええええええ!?」
ヒョイと顔から足をどかし、鏡也は脱いだ靴を履く。突然止められた行為に、トゥアールが無意識に声を上げていた。
ハッとした時には遅かった。鏡也は薄ら笑いを浮かべてトゥアールを見ていた。
「何だ。もっと踏んで欲しかったのか? それは悪いことをしたな」
「ち、ちちちち違います!! 今のは何でもありません!! ……うぅ、これが
本気で恐怖したのか、自身を抱きしめるようにトゥアールは身を竦めた。
「話を戻すが、これを使ってテイルギアは作れるか?」
思わぬ所で第二の属性力を発揮した鏡也だったが、本題はまだ終わってない。
「そうですね。メインの動力はシステムとして出来上がっていますから良いとして、問題は技術体系の相違ですね。上手く組み合わせられるか分かりませんが……やってみます」
「頼む」
星の眼鏡をトゥアールに預け、鏡也は基地出口へと向かう。
「あ、最後にもう一つだけ聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「これを作った人……分かりますか?」
トゥアールの言葉に、鏡也は一度小さく息を呑んだ。
「俺の本当の親だ………多分」
そう言い残して、鏡也は基地を後にした。
夕方まで街をブラブラし、ちょどいい頃合いになると鏡也は帰宅した。玄関前には天音が立っている。その顔は不安に彩られており、今にも壊れてしまいそうだった。
「………おかえりなさい、鏡也」
恐々と、天音が出迎える。その顔に胸が締め付けられ、そしてそんな親不孝に今更ながら後悔する。
「――ただいま………”母さん”」
だから、精一杯の思いを込めて。その言葉を紡ぐ。変わってしまった世界と、それでも変わらない真実の天秤に、自分の心を乗せて。
その日。天音の甘やかし親バカモードがリミットブレイクしたのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
アルティメギルの侵攻は連日続いた。だが、その度にツインテイルズが出動。一時的に奪われた属性力も奪取し返し、エレメリアンも次々と撃破していった。
その中で、テイルレッドの人気も更に上昇。テイルブルーも、先の鏡也の一件で一時的に盛り返すも、やはり低迷したままだった。
そんなある日の登校風景。通学路を行く愛香はどこか不貞腐れていた。
「なぁ、愛香。そんなに人気なんて気にするなよ」
「あんたは人気あるから余裕なのよ。せっかく頑張ってるのにハブられ気味なのって……こう、モヤモヤするのよ!」
「だが、だからといってあれが良いと言われても微妙だぞ、愛香?」
鏡也が指し示すのは、校門前で繰り広げられる、混沌という言葉の意味をそのまま体現したかのような光景だった。
「あ、今テイルレッドたんが俺に微笑んでくれた!」
「フッ……何を次元の低いことを言ってやがる。俺なんてパンツにテイルレッドを転写したぜ! いつも一緒じゃないと学業もままならないぜ!」
「甘い甘い! お前ら、これを見ろ!」
「白の全身タイツにテイルレッドの後ろ姿だと……? どういうことだ!?」
「テイルレッドたんの愛らしい顔を映さないなんて何を考え……っ!? ま、まさかそれは!」
「そう! その通り!! これはテイルレッドにいつでもギュッとしてもらっているんだ!!」
「「な、なんだって―――!!」」
「顔が見えない? 当たり前だ! テイルレッドのキュート顔は俺の胸に
「こいつ……天才か!?」
「あえて顔を犠牲にして……なんて奴だ!」
「おい! テイルレッドのbot作っただろ!? 俺が先に作ったんだぞ!?」
「俺の方がフォロー数多いんだよ! 大体、botならもう300以上あるだろうが! 今更何言ってるんだよ!?」
「だったらテイルレッドの口調ぐらいちゃんとしろよ! テイルレッドは男の子口調だぞ!?」
「うん、分かった。放課後一緒に映画見に行こうね、テイルレッドたん」(繋がっていない電話でお話中)
「えぇ、それじゃ放課後。ケーキバイキング、楽しみねテイルレッド」(繋がっていない電話でお話中)
「オッケー。じゃあ駅前で。お買い物しようねテイルレッドちゃん」(繋がっていない電話でお話中)
余りにも余りにもな光景に、愛香はただ呆然としていた。
「愛香。真面目に言うわ。本気で代わってくれるなら代わってくれ。誹謗中傷喜んで受け入れるからさ。なぁ、本気で頼むよ」
「……ごめん。本気で頭冷やすわ」
「――さ、精神衛生のためにも、さっさと行くぞ」
がっくりと頭を垂れる二人の背中を押して、鏡也は校門をくぐる。その時、混沌の使徒たちが鏡也に視線を送る。
「「「「「「「「チッ――!!」」」」」」」」
一斉に舌打ちされた。なにせ、幾度も生テイルレッドと接触している唯一の人間なのだ。
変身前なら概ね、多くの人間が接触しているのだが。
「……割りと本気で、何とかしないといけないな。――はぁ」
三者三様の理由で、今日も足取りは非常に重かった。
◇ ◇ ◇
放課後。エレメリアン出現の報を受けたツインテイルズはすぐに出動した。空間跳躍カタパルトによって射出された場所は――幕張の海岸。
「エレメリアンはどこだ……?」
「いたわ、あそこ!!」
ブルーの指差す所――海岸の中程に、エレメリアンが二体いた。どちらも犬に似た姿だ。
「「待っていたぞ、ツインテイルズ!」」
「俺達が来たからには、これ以上やらせないぞ!」
二体のエレメリアンはニヤリと口元を歪め、笑った。
「ククク……素晴らしい。どちらも良いデザインだ」
「だが、テイルブルーは文句なしだが……やはりレッドの方は角度が甘いな」
「仕方あるまい。あの年頃で鋭い角度など、下品だ」
「そうだな。これから徐々に上げていけば良い」
「お前ら何を言ってやがんだぁああああああああ!!」
いきなり意味不明発言連発するエレメリアン達にレッドがツッコんだ。二体のエレメリアンは改めて、ツインテイルズと向き合う。
「我が名はリカオンギルディ」
「我が名はジャッカルギルディ」
「「我ら、ツインテールとハイレグの探求を志すもの也―――!!」」
「さっきから角度だとか言ってたのはそれかぁああああああ!!」
「こいつら、揃ってハイレグ属性なのね。レッド、さっさと片付けるわよ!」
「わかってる。時間をかけると人が集まってきちまう」
二人は武器を展開し、短期決戦とばかりに仕掛けた。
「リカオンギルディ、レッドは任せるぞ!」
「承知した! はぁああああああああ!」
「っ――! ぐわぁ――!?」
リカオンギルディが腕を振るうと、間合いに入っていないにも関わらずテイルレッドが大きく弾き飛ばされた。
「レッド!!」
「向こうの心配をしている暇はないぞ、テイルブルー!!」
「何を――っ!?」
ウェイブランスを振りかざし、攻撃を仕掛けようとした時、ブルーは槍を手放した。そして同時に自身の股に手をやった。まるで何かを必死に押さえるかのように。
「あ、あ、あんた! 何やったのよ!?」
「ククク。我が属性はハイレグ。ハイレグに食い込みは付き物だろう?」
テイルブルーのスーツが激しい食い込みを起こしていた。手で隠しているが、おしりは完全丸出し。前も色々と危険領域に突入していた。
立っていられないと、砂浜にへたり込むブルー。
「っ……さ、最低な能力だわ!! 今すぐぶっ飛ばして……!!」
「お~っと、動いていいのか!? 見ろ、マスコミがもう来ているぞ!!」
「ッ……!?」
後ろを見やると、其処には地元テレビ局の中継車があった。すぐ近くのスタジアムで野球の試合が行われている関係で、こっちに来たのだろう。
「動くなよ、テイルブルー。今動けば、貴様は今夜のニュースで下半身にモザイクを掛けられることになるぞ?」
「な、なんですってぇ……!!」
「ニュースなら一時的で済むだろうが、だがネットではどうだろうなぁ? 一度流れてしまえば……拡散、増殖……もう止められない。貴様は一生、下半身モザイクブルーとして、世間に認知されるのだ! フハハハ! 怖かろう!!」
「う、うぅ……!」
テイルブルーの戦闘力が幾ら恐ろしくても、四肢を封じられてしまえばどうということはない。
「テイルブルー。貴様のツインテール……貰い受ける!!」
機械のリングが砂底から現れる。その姿にレッドが焦りの声を上げた。
「逃げろ、ブルー! 早く逃げるんだ!!」
すぐに助けに行こうとするが、その前にリカオンギルディが立ちはだかる。
「そこを退きやがれ!!」
レッドは強引に突破を図る。だが、またしても不可視の何かがレッドの攻撃を弾き飛ばす。
「クソ! 何なんだ、さっきから!?」
「我がハイレグの属性力の前には、間合いなど無意味! そこで大人しく、ブルーの最後を見届けるが良い!」
「ふざけんなぁああああああ!!」
レッドが怒りとともに攻撃を仕掛ける。だが、不可視の攻撃はレッドの足を容易く止めてしまう。
そうしている間にも、ブルーに悪魔のリングが迫った。恥を晒せば、脱出は容易だ。だが、その結果は一生消えない羞恥。一人の少女として、それに耐えられるのか。
ブルーは、己に問いかけた。
恥か。ツインテールか。正体がバレなくても、それを耐えられるのか。
「くっ……! このツインテールは……絶対に渡さない!!」
眼前にリングが迫り――少女は決断した。意を決して、立ち上がろうとしたその時だった。
「ぐほぁ――!?」
それは突然だった。ジャッカルギルディの頭が痛烈なスタンピングによって砂浜に埋め込まれる。唐突な乱入は、全ての者の動きを止めた。
舞い上がる砂。その奥から現れたのは―― 一人の男性。
背丈は180近くあり、それをぴったりとした白のスーツで包んでいる。身にまとう銀色の鎧はテイルレッドと似たデザインだが、装甲部分が多いのと、付けてる人間の体格故か、シャープな印象を与える。
首元には認識撹乱装置。腰にはエクセリオンブースト。手足にはスピリティカレッグ/フィンガー。
左上半身を包むようなマントと、ショルダーアーマー。
唯一にして一番の違いは、ツインテールではないこと。その代わりに、星を散りばめたように光をたたえる眼鏡が印象的だった。
その人物はアッシュシルバーの髪を振り乱しながら、リングを海に向かって蹴り飛ばした。彼方に飛んでいったリングは、そのまま水飛沫を上げて海に沈んでいった。
「大丈夫か?」
謎の人物はジャッカルギルディの頭から降りて、ブルーの前に跪いた。その際、一瞬視線を胸部に向けたがすぐに逸らした。
そのリアクションに、恥も恩も忘れたブルーの心に怒りが灯る。
「取り敢えず、これで隠しておけ。」
右手に持っていた物をブルーの体に掛ける。最初、それはコートかと思ったが違った。
「これ……白衣? しかも、なんか見覚えが……て、これ、トゥアールの?」
何故、謎の男性がトゥアールの白衣を持っているのか。謎が謎を呼ぶ中、砂が爆ぜた。
「おのれぇ! 不意打ちとは姑息な!!」
怒りとともに復活したジャッカルギルディ。その目は血走り、先程よりも気配が強くなっている。
「この………っ!?」
立ち上がろうとするブルーを、男が制した。その顔先に指一つ立て、優しく微笑む。
「可愛らしい
「か、かわいらしいって……え、え!?」
思わぬ言葉に動揺するブルー。そして男は立ち上がり、ジャッカルギルディと対峙する。
「貴様は何者だ! ツインテイルズの仲間か!?」
謎だらけの男の正体。その一端が解かれるかも知れないと、ジャッカルギルディの怒声に全員が注視する。
「お前達に語るも勿体ないが……この世界の初陣だ。あえて名乗らせてもらおう」
バサァ! と、マントを翻し、男は高らかに名乗る。
「私の名は〈ナイトグラスター〉。貴様らアルティメギルに仇なすため、この地に舞い降りた――
ギラリと、星の眼鏡が強く輝いた。
テイルブルーの危機に現れた、眼鏡の騎士を名乗る謎の男。
トゥアールとの関係は? その正体は?
全ては次回以降、明らかになる!