原作が超ハイテンションなので、それを活かしながら何処までオリジナリティを出せるか。
書いてて思いますが、原作すげぇヤバイですねww
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ボンヤリとした視界。目の前には顔のよく見えない誰か。
「……なさい。……に、………託すこ……」
何か言っている。だが、聞こえない。男なのか女なのか、それさえも分からない。
ただ、”その人”がとても優しくて、愛おしい人だと”知っていた”。
どうしてそう思うのか。何故知っているのか。まったく分からない。なのに疑いようもなく思った。
「……なた………きっと……でき………まもって……」
その人の手が触れる。そっと、頬を撫でる。顔に、暖かな雫が落ちる。
「……でも、……るなら……いわ………いに」
その人が、抱き上げる。そして聞こえる。ハッキリと。
「――これを、手放さないで」
その人が、しっかりと小さな手に握らせてたのは――眼鏡だった。
「――というような夢をよく見るんだが、どう思う?」
「知らねぇよ!」
「ていうか、何で眼鏡なのよ!?」
高校初日の通学路。御雅神鏡也はこの春からよく見る夢について、幼馴染二人に語ってみせた。その反応がこれである。
◇ ◇ ◇
「はぁ……生徒会長のツインテール、すごかったなぁ」
「総二。お前の〈それ〉は何時になったら治るんだ?」
「治るものならとっくに治ってるわよ……はぁ」
とは言え高校にもなれば、受験に拠る入学生が格段に増え、生徒数も倍増する。そのため高等部の体育館は今までとは格段に広く、また部活数も多かった。
入学式後に行われた各部活動のパフォーマンスの方が、式典より長いぐらいだった。
そんな中でも、総二の印象は二年の生徒会長であり、一見すると幼女にも見える愛らしさから学園のマスコット的存在でもある、神堂慧理那のツインテールのみであった。
観束総二は純粋生粋本醸造のツインテール馬鹿であった。その熟成具合は15年の年代物だ。そんな総二に想いを寄せる津辺愛香は――その見事なツインテールを指で払いながら、深い溜息を吐いた。
「ところで鏡也は、部活どうする……って、聞くまでもないか」
教室に入って、担任である樽井ことり先生より設けられた自己紹介タイムの後に配られた部活動希望アンケートの用紙を見て、愛香が鏡也に尋ねた。
聞くまでもない。愛香がそう言った理由は実に明確だった。
鏡也は初、中等部フェンシング部のエースで、1月に行われた国際大会にも優勝している。その無類の強さから将来のメダル候補との呼び声が高く、その甘いマスクから、学園内外にファンも多い。
そんな鏡也が希望する部など一つしか無かった。だが、そんな愛香の予想とは裏腹に、鏡也のペンは遅々として進まない。
「どうするかな……実は少し悩んでるんだ」
「何でよ? 国内外の大会を無傷で制覇した〈フェンシングの貴公子〉がフェンシング部に入らないの?」
愛香の問いかけに、鏡也はメタルフレームの眼鏡を外し、付いた埃を清めながら答えた。
「なんていうか……強くなりたいから武道を選んで、たまたま自分の中のイメージと重なったからフェンシングをやってるだけだからな」
「それってもしかして、雑誌のインタビュー受けた時に言ってた『大切なモノを守れる様な強い人間になりたい』ってのと関係あるの?」
「まぁ、な。でもまぁ、他に思いつかないし……それで良いか」
眼鏡をかけ直し、鏡也は希望欄にフェンシング部と記入した。
その後、回収時に総二が派手にやらかし、ツインテール馬鹿を衆目に晒すのだった。
◇ ◇ ◇
放課後。総二の実家である喫茶店『アドレシェンツァ』にて、三人は昼食をとっていた。
正確に言えば、カレーは三人前あり、何故か愛香の前にはカレー皿が二枚ある。
総二は暖かな湯気を立てるコーヒーにさえ手を付けられず、頭を抱えて唸っていた。
「うぉおおおおおおお……どうして俺は、あんな事を……!」
アンケート回収時、ツインテールトリップから我に返った総二だったが、何も書いていない事に気が付き――というより、アンケートそのものに気付いていなかったのだが――慌ててペンを走らせた。
そして、悲劇は起きた。
これ、無記名ですね?
↓
あ、それ俺です!
↓
ツインテール部? 新設希望ですか?
↓
ふぁ!?
↓
ツインテール好きなんですか?
↓
はい! 大好きです!!
という、自業自得といえばそうなのだが、それにしても哀れである自爆を披露したのだった。
「せっかく高校からはクラスに知らない顔ばかりで、普通の学校生活をやり直せると思ったのに……!」
「無残だな」
「うるせぇ! 他人事だと思って!」
「実際、他人事だからなぁ。ほら、考えようによっちゃ、隠してボロを出す心配が無くなったと思えば」
「同時に色んな物も無くなったよ! あぁ、俺にアドリブ力があれば……とっさにツインテールなんて書かなかったのに」
「あたしなら、咄嗟でさえ知ってる人がどんだけ居るかも分からない髪型の名前を絶対書かないって胸張って言えるわ」
「張るものもないくせにブハァ!?」
瞬間、総二の顔がズレた。武道を修めている愛香の拳は、それだけで凶器だ。それを容赦なく振るう、それ程の怒りに触れてしまったのだ。
「何? 何か言った?」
「……何でもないです」
自爆で心が、愛香のスナップの利いたパンチで体が。心身ともに傷付いた総二は、カウンターに突っ伏した。
流石にこれはどうにかせねばと、鏡也はスプーンを置いた。
「いい加減元気を出せ。ほら、愛香のツインテールを好きなだけ愛でるがいい。好きだろう、ツインテール?」
「ちょ!?」
「大好きだ!」
「ふぇ!?」
ガバッと起き上がった総二がその手を愛香に伸ばし――。
「あぁ、良い。心が……やっぱ安らぐなぁ」
――指に髪を絡ませ、恍惚の表情を浮かべた。その様子に鏡也はウンウンと頷く。
「流石は初代ツインテール部部長だな」
「そこでそれをぶり返すか、お前は!?」
「あの――相席よろしいですか?」
「「「っ――!?」」」
唐突に掛けられた声に、三人がガタンと椅子を震わせた。果たしてそこに立っていたのは――新聞紙だった。穴の空いた。
「い、いつの間に……ていうか、店、閉めてたはずじゃ……?」
帰りの道中。店のマスターであり、総二の母である観束未春が買い物に行く所に出会っている。
店主がいなければ営業できないので当然、店は閉店の看板を出してあった。なのに、何時からこの新聞紙はここにいたのか。
鏡也が見ると、入口近くのテーブル――カウンター席を直角に見れる角度――に座っていた形跡が在った。
(いや待て。彼処に人なんて居たか?)
店に入った時、確かに人はいなかったと鏡也は記憶している。見落としたとは考えにくい。
一体何者か。三人が緊張感に包まれる中、新聞紙は新聞紙を外し、その素顔を晒した。
第一印象は不思議な雰囲気を持った美人――だった。不自然なほどに煌めく銀髪は腰ほどまで長く、綺麗に手入れが行き届いている。
これならばきっと、どんな髪型も似合うことだろう。例えば総二が好きなツインテールも。
そう思った鏡也がそれとなく視線を動かすと、総二の目はやはりその謎の女性の髪の毛に向いていた。きっと脳内フォトソフトでツインテールでも作っているのだろう。
大きな瞳は宝石のように美しく、服装はその大きな胸を強調するようなものだが、よく似合っている。だが、その上には何故か白衣を着ていた。
(何だ、この女は?)
気が付けば、愛香が凄まじい形相で「その胸にストロー突っ込むわよ!?」などと口走っていた。その辺はいつものことなのでスルーした。
「えっと、俺達に何か……?」
「えぇ、貴方に大切な用がありまして」
「………?」
謎の美女は真っ直ぐ、総二を見つめて言った。
「私はトゥアール。貴方に是非、受け取って頂きたい物があるのです!」
鏡也でもなく、愛香でもなく、総二にだけ、その名を名乗る謎の美女――トゥアール。
「ちょっと、何なのよアンタは!?」
無視される形となった愛香が苛立ちながら詰めよるが、それを無視してトゥアールが怪しい微笑みを浮かべる。その口元が悪魔的に笑んでいるのが見えた。
「ツインテール、お好きですよね?」
「はい! 大好きです!!」
「お前はちったぁ懲りろ! ツインテール馬鹿!!」
「おごっ!?」
余りにも懲りない総二に、鏡也は反射的にスプーンを投げつけていた。
「隙あり!」
トゥアールは白衣のポケットから何かを取り出し、総二の腕に嵌めた。
「あぁ!!」
「な、何だこれ!?」
総二の手首には紅いリングが嵌められていた。それはピッタリとくっついており、総二が何度も引っ張るがビクともしない。
「クソ! 何で取れないんだ、これ!?」
「そーじ貸して! あたしがやる!」
「ちょ、待て! ――イデデデデデデデデデ!?」
総二の腕を掴むや、愛香は強引に引っ張る。引っ張るだけでは足りないと、ひねり上げる。勿論、総二の腕ごとだ。
「やめ、止めろ!! 腕がもげる!!」
「我慢しなさい! すぐに外してクーリングオフよ! これきっと新手の詐欺よ! きっと後でものすごいお金を世紀末モヒカンな連中に請求されるに決まってるわ!」
「ちょっと、人聞きの悪い事を言わないでください! 胸のない人は人を信用する心も貧相なんですか!?」
瞬間、愛香の足が振り抜かれ、顎を抜かれたトゥアールが宙を舞った。そのまま頭から床に真っ逆さまに落ちる。
まるで守護星座を宿した少年たちのバトル漫画のような見事な落ちっぷりだった。
「って、愛香! さすがに人殺しはマズイぞ!?」
「え? 人の気にしている事を言う奴は殺しても無罪だって、おじいちゃんが言ってたよね?」
「言ってねぇよな!? お前の爺さんそんな物騒なこと言わねぇだろ!?」
「ククク……無理ですよ。それはそう簡単には外せません! というか、出会ってすぐの相手の急所を迷いなく寸分違わぬ精度で打ち抜くとか、あなたには常識と良識と良心はないんですか!?」
「喧しいわよ! そーじに付けたこれ、とっとと外しなさいよ! さもないとアンタの色々をあたしが外すわよ!!」
「ヒィイイイ!? 血に飢えた野獣のような眼光ですぅ!」
殺意のなんたらみたいなオーラを発露させる愛香に、トゥアールが悲鳴を上げた。
アドレシェンツァ内は混沌の坩堝と化し、総二は事態がどうにか収拾できないかと、最後の希望に視線を送った。
「――て、お前は何を冷静にコーヒー入れてんだよ!?」
「え? 話に入って良いの?」
「いいよ! むしろ入ってくれ! 俺一人じゃこの二人止められないっぽいから!」
「分かった。これ飲み終わったらな」
「今すぐに入れよ!!」
もう軽く涙目な総二を流石に憐れみ、またこうなった原因が自分にある気もするので、愛香をなだめるために声を掛けた。
「落ち着け、愛香。このままじゃ話が進まん。まずはこのティ◯ァールさんから話を聞こう」
「トゥアールです。私、調理家電じゃありません」
「鏡也! でも、コイツどう見ても怪しいわよ! 格好とか言ってる事とか胸とか胸とか胸とか!」
「分かった分かった。それも全部ひっくるめて、だ。それにほら、証拠を残さないためにも時間は必要だろう? 焦ってやってもミスが出るからな」
「……それもそうね」
「話を纏めたふりして、何でさり気なく完全犯罪を目論んでるんですか!? この眼鏡の人、一見まともそうなクセに、さらっと恐ろしいこと言ってるんですけど!?」
「――という事だ。説明してくれるな、トー◯ンさん?」
「トゥアールです! 私、書籍の流通担当してませんから! ……くっ、この私がツッコミに回されるだなんて……ゴホン。まず先に行っておきますが、その腕輪でお金を取ろうとか、そういう詐欺まがいな事は一切致しません!」
ズビシッ! と、愛香達に指を突きつけるトゥアール。
「……それを信じるとして、じゃあ何なんですか、この腕輪は?」
総二が尋ねると、トゥアールは一転して神妙な面持ちになった。
「それを説明するには些か難しいです。近い内に分かるとだけ」
「鏡也。ハンマー持ってきて。壊すわ」
「愛香、ノミと金槌で良いか?」
「いいわ、それで」
「――だから何で、そう力技に持ち込もうとするんですか!? 良いじゃないですか、後で分かることなんですから!」
「ていうか、腕輪が壊れる前に俺の腕が壊れるから! これ、ピッタリくっついてるんだぞ!?」
本当にノミと金槌を出した――どこから出したかは不明である――鏡也に総二とトゥアールは顔を青くした。
「じゃあ、さっさと言いなさい。さもないと、腕輪の前に別のものが壊れるわよ?」
「ああもう! もったいぶらせてくださいよ! ……この世界の〈ツインテール〉を守るためです」
「っ――!!」
この世界のツインテールを守るため。その言葉を聞いた総二は思わずトゥアールに詰め寄っていた。
「それはどういう事だ!? この世界のツインテールを守る……ツインテールが誰かに狙われてるっていうのか!? 答えてくれ、トゥアールさん!!」
「あっ……ダメです。もっと優しく……でも激しく……! トゥアールと熱く呼び捨ててください!」
「トゥアール!!」
「はぁ……っ! 背筋に走るゾクゾク美……! いい、もっと……お願いします!」
「………」
瞳を潤ませ恍惚に息を荒げるトゥアールに、さっきまでの勢いも消沈して総二は戸惑っていた。
「とう」
「イッタァ!? アナタ、いきなりなんて物を人のお尻に刺すんですか!?」
「話が進まないと容赦なく刺す。新しい穴を作られたくなければ、本題を進めろ」
と言って、鏡也は練習用のエペ(フェンシング用の剣)の切っ先をペーパーナプキンで拭いた。
「くぅ~、危うく無機物にヴァージンを奪われるところでした……。実は――っ!?」
突然、けたたましい電子音が鳴った。トゥアールは何故か胸の谷間からペンの様な機械を取り出す。
「あぁ、もう! 余計な事をしていたせいで時間が無くなってしまいました!」
「何の時間か知らないが、原因の半分はお前にあると思うぞ?」
「こうなれば、直接見ていただく方が早いですね」
鏡也のツッコミをスルーして、トゥアールは何かを動かした。
その瞬間、アドレシェンツァ内を眩い光が包み込んだ。
◇ ◇ ◇
光が収まり、眩む視界が回復する。焦げ臭い香りを含んだ風が頬を撫で、さっきとは違う太陽の光が視界を照らす。
「ここは……外? さっきまでアドレシェンツァにいた筈なのに……?」
「」
「見覚えがある。ここは……マクシーム宙果か? 何故こんな場所に? 何が起こった!?」
唐突につきつけられた様々な刺激に戸惑う三人に、トゥアールは今までにない神妙な声を発する。
「迎え撃つつもりでしたが、完全に後手に回ってしまいましたね。あれを見てください」
「……? なんだ、あれ?」
鏡也達の住む街にある大型コンベディションセンター〈マクシーム宙果〉。その屋外駐車場には本来、ある筈がない光景が広がっていた。
現在進行形で宙を飛び、落ちていく車。ひっくり返り黒煙を上げているものもある。
一瞬、何かの撮影現場かと思うが、あちらこちらから聞こえる悲鳴が、否応なく現実という刃を突きつけてくる。
「ちょっと、何なのよこれは!? あたし達に何をしたの!?」
「本来なら、総二様以外を連れて来るつもりはなかったのですが、お二人が有効範囲から動かれなかったので仕方なく……それよりも、私から余り離れないで下さい。認識撹乱の効果範囲はそれ程広くありませんから」
「認識……撹乱? もしかして、店でいきなりでてきたのって、それで!?」
「えぇ、そうです。まずはあの怪物を見てください」
トゥアールが指差す方――駐車場の中心辺りに、鏡也達は視線を向けた。そして、総二が素っ頓狂な声を上げた。
「な……なぁあああ―――っ!?」
「何あれ……着ぐるみ!?」
そこにいたのは、黒い集団を従えた鎧姿の、幾つもの角が生えたトカゲの化け物だった。一見すると特撮用のスーツにも見えるが、2メートルを超えるであろう体躯と、ギョロリと動く凶悪な瞳。時折覗く獰猛な牙。一步進む度にアスファルトを伝う衝撃。
こんなものが存在するのか? 存在していい筈がない。そんな気持ちとは裏腹に、総二は絞りだすように、その言葉を口にした。
「ば、化け物だ……本物の化け物だ!」
非日常な光景をバックに立つ化け物は、まるで一枚の絵のようなマッチングを見せていた。だが、それが与えるのは絶望だった。
「者ども、集まれぃ!」
まるで歴戦の勇士を思わせるような、迫力ある響き。怪物が言葉を発したのだ。
その怪物が人間の言葉を、日本語を発したことに驚きを覚えつつ、総二達はゴクリと固唾を呑んだ。
怪物はその口を歪め、そして発した。これより始まる蹂躙劇の引き金を。
「フハハハハ! この世界の生きとし生ける全てのツインテールを我等の手にするのだ!!」
その瞬間、全てが吹っ飛んだ。総二は派手に噴き出し、愛香は別の意味で絶望したような顔をし、鏡也に至っては握りしめていた剣を地面に落としていた。
余りにも良い声で叫ばれた変態宣言に、愛香はポン。と総二の肩を叩いた。
「……そーじ。あれ、アンタのツインソウルってやつじゃないの?」
「ふざけんな! 何であんな変態と一緒の魂を持たにゃならないんだ!?」
「総二の価値観は化け物と同じか。良かったな、総二。仲間が増えたぞ?」
「嬉しくねぇよ!!」
などとやっている内に、黒ずくめの――恐らくは戦闘員的なものだろう――が、一斉に動き出した。
それらが次々に少女、女性を連れてくる。
「あれは……全員、ツインテールか?」
「あいつら、何をする気なの?」
戦闘員達が次々にツインテールの女の子を連れてくる中、怪物は天を仰いだ。
「なんとツインテールの少ない世界だ。これだけ文明が発展していながら、文化はまるで石器時代ではないか。まぁ、それならば純度の高いツインテールもすぐに見つけられよう」
「アイツは何を言ってるんだ?」
嘆かわしいなどと言いながら、どう聞いても世迷い事を吐いた化け物は、更に檄を飛ばす。
「良いか! 隊長はこの近辺に極上のツインテールがあると申された! 何としても探しだせぃ! うさちゃんを抱いて泣きじゃくる幼女はあくまでもついでだ!」
「モケモケ……モケ?」
「言われるまでもない! これでも武人の端くれ。役目を疎かにするなど在り得ぬ。だが、我もまた武人である前に一人の男……ぬいぐるみを持った幼女を見たいのだ」
「だから、何を言ってるんだアイツは!?」
もう限界だと、総二が叫んだ。なんか他にゴチャゴチャ言っているが、これ以上聞いていると頭がおかしくなりそうだと、頭を振った。
幼女とぬいぐるみの黄金比がどうのなどと言っているが、見るのも苦痛だった。
「そーじ! あれって生徒会長じゃない!?」
「っ……何だって!?」
ハッとして顔を上げれば、そこには総二を初日から苦悩の天獄に叩き落とした魔性のツインテール――新堂慧理那の姿があった。
慧理那は透明なバルーンのような物に入れられ、宙に浮いている。それがゆっくりと降りてきて、はじけた。
「ほう。なかなかの幼子……しかもお嬢様だな! なるほど。もしや貴様が究極のツインテールか!」
「究極の……? 何を言っているかは分かりませんが、言葉が分かるのならば、今すぐに捕まえた人たちを解放しなさい!」
その小さな体躯で毅然と立ち向かう慧理那。だが、怪物はフン。と、笑い飛ばす。
「言葉は分かる。理解も出来る。それ故に答えよう。解放はできぬ」
「あなた達の目的は何なのですか!?」
「すぐに分かる。それまで、そこのソファーに座り、ぬいぐるみを抱いておれぃ!」
「キャア!」
慧理那は戦闘員に腕を捕まれ、いつの間にやらセッティングされたソファーに座らされた。更にはその腕に猫のぬいぐるみをしっかりと抱かされてしまう。
「――フッ。やはり勝ち気な幼女には猫のぬいぐるみがよく似合う。者どもよく見ておけ! これぞ俺が長年の研鑽の末に編み出した黄金比! ぬいぐるみ×ソファー×幼女! その破壊力は核にさえ勝る!!」
「「「モケモケー!」」」
化け物はアインシュタインに喧嘩を売るような発言とともに高笑いした。
「よぉし! ツインテールを収集するぞ!」
怪物が大きく指示を飛ばす。駐車場の中心には巨大な機械のリングが備えられており、その中心はまるでシャボン玉の表面のように揺らめいていた。
「何をする気だ?」
リングの前には捕らえられたツインテールの少女達が並ばされている。
「見ていて下さい……目を逸らさずに」
トゥアールの言葉に、三人はゴクリと息を呑んだ。
一人の少女が、そのリングの中へと吸い込まれていく。そして、極彩色の膜に触れた瞬間――ツインテールが消えた。
「な――ツインテールが!!」
「いや。髪が解けただけでしょ」
総二が悲鳴の如き声を上げ、愛香が冷静にツッコむ。その言葉を聞いた総二はガッと愛香の肩を掴んでいた。
「何言ってんだ! ツインテールが奪われたんだぞ!? お前にとってツインテールは取られたら取られたで良いなんて、そんな軽いものだったのか!?」
「ちょっと、落ち着いてよ総二!」
「奪われたのは髪型ではありません」
「え……?」
トゥアールの言葉に総二が振り返る。ツインテールが奪われたこと=髪型が奪われたということではないのか。
そんな疑問に彼女は答える。
「奪われたのはツインテールの〈
「そ、そんな……!」
総二は愕然とした。あの怪物がどれだけ馬鹿らしいことを言っていても、やっていることはとんでも無い事だった。
ツインテールの滅亡。それは総二にとって、自分のすべてが死に絶えることと同義だった。
「――総二。愛香を頼む」
「鏡也……?」
ここで、今まで鏡也が一言も言葉を発していなかった事に気が付いた。
「新堂会長は俺が助ける。お前は愛香を連れてここから離れろ」
鏡也は剣をしっかりと握りしめ、眼鏡の奥の鋭い眼光で敵を見据えていた。
それは何度か大会中に見た、鏡也が戦闘モードに入った時の顔だった。
「鏡也、無茶よ! あんな化け物にかないっこないわ!」
「だからって、あの人を見捨てては置けない。……それに、お前のそれ、取られる訳にはいかないだろ?」
そう言って、鏡也は愛香のツインテールを指差した。それにハッとなって愛香が慌てて頭を押さえる。
「そうだった! あたしもツインテールだった!!」
「だろ? じゃあ……後は頼んだぞ総二! 愛香を守れよ!!」
鏡也は一息強く吐き、一気に駆け出した。