光明機動ネメシスエイト   作:星々

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第6話「メルト」

テンペストとギガンティックの砲撃が空を覆う中、ネメシス08は徐々にゴーストとの間合いを詰めていた。

連邦軍の量産型ADルークも援護射撃を展開しているが、ゴーストに対しては然程ダメージを与えられていない。

ゴーストの表面は強硬な装甲のようになっていて、通常兵器では期待できるダメージは少ない。

それはIADであるテンペストやギガンティックやネメシス08にも言えることで、携行火器のマシンガンやガトリングなどでは目立ったダメージを与えることはできない。

とは言え、目くらましなどには有効で、これらによって敵に付け入る隙を作らせ、そこに大口径ビームキャノンやレールキャノンなどの高威力武装を叩き込むのがセオリーだ。

しかし、ネメシス08が加わったことにより、戦術の幅は大きく広がった。

 

「ギガンティックが壁になって敵の動きを拘束。ネメシス08はゴーストの注意を引きつけて。動きが止まったところを、私が狙撃するわ。」

「了解〜。でもさ、エリックからはゴースト殲滅が最優先って言われたけど、さっきの脱獄犯は放っといていいのかな?」

「命令よ。余計なことは気にしなくていいの。」

 

サクラのテンペストは、母艦であるヴェーガスから大出力ビーム兵器"ハイパーテラビームキャノン"を受け取り、自身の背中にケーブルを繋げる。

しかし、3本あるケーブルの内、1本が手が届かずに上手く繋げない。

 

「手伝うよ。」

 

ネメシス08がテンペストの背後に回り、接続作業を手伝う。

それを振り払うように身体をねじらせるテンペストだが、ネメシス08は黙々と作業を続ける。

 

「自分でできるって! それにタメ語はやめて!」

「出来てないじゃないですか。」

「………、、」

 

サクラは黙り込んだ。

明らかな強がりだった。

しかし直ぐに任務に集中する。

 

「作戦開始!」

「よっし、じゃあブチかますよー‼︎」

 

ギガンティックの全兵装が火を噴く。

高火力をコンセプトに設計されたギガンティックは、キャノン砲2門、ガトリング2挺、マイクロミサイル、ホーミングミサイル、ホーミングビーム、ビーム機銃など、史上最多数の火器を搭載し、それぞれの威力も世界最高峰である。

その弾幕は、鉄壁の防御を誇るゴーストに対しても十分なダメージを与えられる。

高機動近接特化のネメシス08とは対照的な性能である。

 

「こっち向けェぇえ!!」

 

防御姿勢から迎撃に移ろうとしているゴーストの頭上から、ネメシス08がホーミングビームを放ちながら両肩のレールキャノンを同時撃ちする。

手にエネルギーを充填していたゴーストの姿勢が崩れる。

チャンスだ。

サクラはトリガーにかけた指に力を込めて狙撃チャンスを待つ。

次にゴーストの動きが止まった時がその時だ。

 

「………止まった!」

 

ロックオンの知らせとともに、ネメシス08はゴーストから離れ、ギガンティックは対ショック姿勢をとった。

そしてテンペストが伏射姿勢で構えたハイパーテラビームキャノンから超強力なビームの弾丸が放たれた。

発射の衝撃波で爆煙や土煙が一瞬で吹き飛ぶ。

ビームの弾丸はドリルのように回転し、地面をえぐりながら螺旋状の軌跡を描いてゴーストへ吸い込まれるように直進する。

直後、眩い閃光が周囲を包んだ。

閃光の中、テンペストは立ち上がってハイパーテラビームキャノンを地面についた。

 

「命中を確認。脱獄犯確保に戻るわよ。」

「まだだ!」

 

上空に離脱したネメシス08は、パイロットであるユウは見た。

閃光の中で立ち上がる黒い巨体。

所々から赤い光が吹き出している。

満身創痍ではあるが、ゴーストは生きていた。

ゴーストはビームの弾丸が飛んできた方向、つまりテンペストの方にゆっくり振り向き、両手にエネルギーを充填し始めた。

 

「高エネルギー反応!?」

 

身構えるテンペストに、ハイパーテラビームキャノンと同等の膨大エネルギー弾が放たれた。

咄嗟に直撃は回避できたが、その威力は広範囲で、表面装甲が溶解した。

そんなテンペストに、高速で近付くゴーストは、その勢いのまま拳を叩き下ろした。

最初は聞こえていたサクラの悲鳴が、徐々に薄れていく。

サクラは、自分の意識が溶けていくような感覚を覚えた。

これが死を意識した人間の心理なんだと思った。

 

「ちょ、サクラ! …ダメだ、ウチのギガンティックじゃあの速度に追いつけない!」

「オレが行く!!」

 

ネメシス08の光のマントがなびく。

 

「うおおぉぉお‼︎」

 

ネメシス08が音速に達し、ゴーストの前を横切った。

ゴーストは目の前からテンペストが消え一瞬動揺するが、すぐに上空に視線(目はないのだが)を移す。

そこには、装甲が溶解したテンペストを横抱きにしたネメシス08が浮遊していた。

その表情(ツインアイ)には怒りの色が垣間見える。

 

「サクラ! おい大丈夫か!」

「だ、から…タメ語は…や、やめなさいって…」

 

弱々しい声の返事があった。

意識はあるようだが衝撃でクラクラしているようだった。

サクラの態度は相変わらずだったが、サクラは自分の心の殻のような何かが溶けるような気がした。

彼女はその時初めて、自分の心の殻の存在を自覚した。

 

「ちょっと我慢しててください。」

「え?」

 

ユウが一言告げると、ペダルとスロットルレバーを最大に入れた。

再びネメシス08が音速近くまで加速する。

テンペストを横抱きにしたまま、一回転してから右脚を突き出した。

音速のそれは最早弾丸となり、確実にゴーストに迫る。

 

「ふ…くぅッ……」

 

とてつもないGに顔を歪めるサクラは、まだ感覚が薄っすらとしている両腕で身体を守るように丸くなる。

ゴーストが両腕を体の正面で交差させ、防御しようとする。

しかし、真下から突き上げるように放たれたキャノン砲の弾丸が両腕を弾き上げた。

ギガンティックの援護射撃だった。

ユウの行動、ゴーストの姿勢、攻撃のタイミング、その後のゴーストの体勢など、起こりうる全てを予測した上での射撃だった。

音速を超えるネメシス08を的確に援護するフィルシアの精神力と集中力は人間のそれとは思えないほどだった。

そういう意味では、サクラよりも大人で、心が安定しているのかもしれない。

 

「やってやる!!!」

 

ユウはそう叫んだが、音速では音は届かない。

ゴーストの両腕の隙間にネメシス08が割り入り、その体心を貫いた。

そのまま地面に大きなクレーターを作って着地すると、ゴーストは甲高い叫びと共に形状崩壊を起こした。

撒き散らされた赤い光は土塊と化した大地に降り注ぎ、戦闘終了の知らせとなった。

 

 

 

「ゴースト撃退…ナイス援護、フィルシア!」

「おっつー。ところでそこのお姫様は無事かな?」

 

フィルシアが揶揄うような口調で言ったその言葉は、ユウにもサクラにも最初は理解できなかった。

しかし、サクラは自分が置かれている状況をふと思い出し、赤面する。

ユウもその様子の変化にフィルシアの言葉の意味を理解したが、彼はこういう言葉に動じないタイプのようだ。

ネメシス08に横抱きに、俗に言う"お姫様抱っこ"されたテンペストが、その腕から逃れようと暴れ出す。

 

「ち、ちが…! ちょっとユウ君何してるの! 早く降ろしなさい!」

「ちょっ! んな無茶な。落ちますよ。」

 

ジタバタするテンペストを必死で抱えるネメシス08が、ゆっくりとギガンティックの元へ歩く。

サクラの身体を気遣ってゆっくりと動いているが、そんな心配は無用だったようだ。

ネメシス08が瓦礫の山を飛び越え、ふわりと着地した。

そのままネメシス08はカリフォルニア海に着水したヴェーガスに向かって、ギガンティックと並んで歩み出した。

 

「ちょ、何で降ろさないの!? ねぇバカなの??」

「そんな機体で歩けるわけないじゃないですか。オレがヴェーガスまで運びますよ。」

 

サクラは機体概要が表示された手元のディスプレイを見た。

見る限り両脚が無く、とても歩ける状態ではないことを理解した。

不本意ではあるが、このまま運んでもらうことを選んだ。

 

「それと!」

 

サクラが通信カメラから目を逸らして言った。

 

「今から敬語禁止!」

 

 

 

 




どうも星々です!

今回はヒロイン、サクラ・ルルがキーパーソンでしたね
ギガンティックの性能解説もちょっとしましたね
高機動のネメシス08、高火力のギガンティック、汎用型のテンペストといった感じです

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