ユウはネメシス08のコックピットで、アポカリプスのリーダー、エリックの作戦の説明を受けていた。
操縦補助のバイザーを丁度いいサイズに調節しながら耳を傾ける。
『今回の敵はゴーストじゃない。脱獄犯の確保だ。』
「え!? アポカリプスって対ゴースト専用部隊じゃないんですか?」
『たまにこういう仕事が回って来るんだ。旧メキシコのサンルカス岬には新型
サングラス型のバイザーに新型ADのデータが映し出された。
ネメシス08とは異なり、実に機械らしい無機質なフォルムをしている。
踵にはキャタピラーが取り付けてあり、どんな悪路でも対応できる高い走破性を持っているようだ。
脛には脚全体を守るようにシールドが付けられており、右肩にはレールキャノンが装備されている。
その機体の名は"ウォーリアー"。
長年にわたり運用されているが戦場では高い評価を得続ける連邦軍の量産型AD"ルーク"から発展した特務機で、基本スペックはルークの3倍はあるらしい。
『3機製造されたうちの1番機と3番機が奪取され、市街地で暴れている。それを鎮圧するんだ。』
「了解です。」
巡洋艦ヴェーガスは今、旧アメリカを南下している。
もうすぐ旧国境を越える辺りだ。
情報では、脱獄犯はカリフォルニア半島中部までを北上しているらしい。
『そろそろ目的地だ。いつも通り、目標上空から降下し短時間でカタをつけろ。敵は2機といえど、連邦軍のAD部隊を圧倒している。気をつけろよ。』
「「了解。」」
「りょ、了解です。」
戦場は既に乱戦状態だった。
ルーク部隊は陣形と呼べるものはもう組めておらず、街のそこら中から炎が上がっている。
上空からでもそんな様子が確認できた。
ネメシス08の左右にはパラシュートを背負ったテンペストとギガンティックが見える。
「私が先行する。ギガンティックは援護を、ネメシス08は隙を見て一撃離脱。」
「え、ちょっと! テンペストよりネメシス08の方が機動力あるんじゃない? それにこの場合、一旦敵の攻撃を妨げて、連邦のルーク部隊を立て直させるのが先でしょ。」
フィルシアの意見は的確だった。
少数を多数で相手する場合、退路を断って包囲殲滅するのが最も確実な戦果をあげられる。
一方のサクラの判断も間違いではない。
テンペストの汎用性の高さは、敵が戦いにくい間合いを保ってリズムを崩すことができるだろうし、ネメシス08の飛行能力という常識を外れた性能なら敵の隙を突くことも容易だ。
それにギガンティックの豊富な火器は、地上ならば常に安定した援護射撃可能である。
「サクラの案で行こう。」
ユウがネメシス08を減速させながら言った。
サクラは呼び捨てにされたのが不満だったのか、表情を少し強張らせる。
フィルシアは少し驚いたが、相変わらずの気楽な様子でユウにその根拠を聞いた。
するとユウは迷いのない真っ直ぐな声で答えた。
「オレたちは人殺しの集団じゃない。確かに包囲殲滅なら確実な戦果をあげられるかもしれないけど、それだと脱獄犯が死んじゃうだろ。だったら一撃離脱戦法でマニピュレーターだけを破壊した方がいい!」
バイザーで目は見えないが、きっと真っ直ぐな目をしているのだろう。
フィルシアは少し考え込んで口角を少し上げた。
「なるほどねぇ。やっぱキミ、面白いね! 乗ったよ!」
フィルシアはギガンティックに援護射撃の体勢を取らせた。
サクラが突撃のタイミングをカウントする。
「…2……1……GO!!」
テンペストとギガンティックが同時にパラシュートを開いた。
ネメシス08は目立たないようにギガンティックの後ろに隠れながら降下していく。
ウォーリアーがこちらに気付いたと同時に、ギガンティックの肩から大量のミサイルが放たれた。
ミサイルは弧を描きながら雨のように降り注ぎ、辺りに爆煙と土煙を上げた。
そこにパラシュートを切り離したテンペストが赤熱化したソードを構えて突っ込んだ。
視界が奪われているが、サクラはキャタピラー独特の稼働音を頼りに索敵し、3番機のレールキャノンを斬り裂いた。
咄嗟に後退する3番機に、ネメシス08の槍が襲いかかる。
槍は見事にソードが装着された左腕を切断し、ネメシス08は再び舞起こる煙の中に消えた。
「わお。息ぴったりじゃん。」
フィルシアが茶化すように言った。
集中しているサクラがそれを無視して、ほぼ無傷の1番機とソードを交えていた。
『アポカリプスが出てきやがったか! 都合がいいぜ!』
「!?」
敵は自分たちの介入を都合がいいと言った。
サクラは大きく回り込みながらその真意を探る。
「あなたたちの目的はなんですか! 市街地で暴れたりして、民間人に被害がでるでしょ!」
『目的? じきに分かる‼︎』
脱獄犯の男は性能的にはテンペストよりも劣るウォーリアーを巧みに操縦し、サクラを翻弄する。
ユウは隙を狙って再度突撃した。
しかしネメシス08の槍の切っ先は紙一重でかわされ、ウォーリアーにダメージを与えられなかった。
「避けたのか!?」
『ハッ! ど素人がッ‼︎』
サクラは危機を感じてテンペストを後退させる。
ギガンティックの援護でスムーズに間合いをとれ、入れ替わるようにネメシス08が割り込む。
「アンタ、何者だよ畜生!」
ユウは当たらない攻撃に苛立ちを覚えながら突貫する。
しかし、先程マニピュレーターを切断した3番機が、キャタピラーを全開にしてタックルしてきた。
喋っている途中だったので舌を噛みそうになったが、ユウは冷静に体勢を立て直す。
『何者かって? ヘッ、オレたちに名前はない。どうしても呼びたいのなら、
1番機のキャノン砲が炸裂した。
その時。
突然地面がせり上がり、弾丸を弾きながら空高く上昇していった。
ユウは呆気にとられながらサクラとフィルシアに合流する。
一方のノーネームモンスターと名乗った男は歓喜していた。
『待ちわびたぜ!!』
せり上がった地面は弾け、中から人型の黒い巨体、ゴーストが現れた。
30mほどの巨体は他種と変わらず、着地と同時に早速破壊活動を始めた。
頭部らしいものは無く、胴体から手脚が生えているだけの身体だ。
「ゴースト!?」
「フィルシア、ユウ君、一旦後退してエリック指示を仰ぐわよ!」
「ほいほーい。」
ギガンティックとネメシス08はカリフォルニア半島の北部に向けて後退していった。
サクラも、ゴーストの足下から遠ざかっていく2機のウォーリアーを一瞥してから後退した。
「さっきのヤツ、一体何だったんだ?」
「軍が危険人物だっていって拘束してただけあるねー。そんじょそこらのエースパイロットってレベルじゃないね。」
「違う…」
サクラが否定の言葉を発した。
顎に手を当てて何かを考えている。
サクラは確かに聞いていた。
ゴーストが現れたとき、あの男が「待ちわびた」と言っていたのを。
ということは、彼は連邦軍でさえ不可能だったゴーストの出現場所を予測していたということになる。
只者ではない。
ただの凄腕パイロットじゃない。
そういった確信がサクラを慎重にさせてしまっていた。
これが彼女にとって、危険を招く結果となる。
どうも星々です!
連邦軍量産型AD、ウォーリアー登場です!
ネメシス08とは対照的な、リアルロボットを意識した機体です
また後日、設定集(できれば挿絵付き)を書きたいと思います!