光明機動ネメシスエイト   作:星々

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第4話「ヒーロー」

ユウは食堂で食事をとっていた。

時間的には昼食だが、今日最初の食事だ。

この巡洋艦ヴェーガスは、乗組員が生活できる設備が揃っており、補給を受けずに連続で半年間の航行が可能だ。

この長期間航行が可能なのは、イミュー粒子を利用した発電システムを積んでいるからであり、この発電システムを搭載したAD(アーマードール)IAD(イミュニック・アーマードール)と呼んでいる。

イミュー粒子は、加熱すると多量の電子を放出する性質があり、その温度も1000℃未満と非常に低いため、次世代の発電システムとして大いに期待されている。

しかし以前述した通り、イミュー粒子の扱いが非常に困難で、実用化には十数年かかるとも言われている。

地球連邦軍最新鋭巡洋艦ヴェーガスは、それを先駆けて採用した実験的な面もある。

しかし流石は最新鋭艦といったところで、騒音や振動が一切なく、乗り心地は非常に良い。

 

「君がネメシス08に選ばれた適合者(ヒーロー)? 意外と普通の男の子ね。」

 

食堂にエメラルドグリーンのショートヘアが眩しい少女が入ってきた。

声からして、ギガンティックのパイロットであるフィルシア・ナイトウォーカーだということはユウに理解できた。

年齢はユウと同じくらいで、茶色いジャケットがとても似合っている。

まくった袖からは華奢な肩が露出していて、見た目的には普通の女の子である。

フィルシアはベーコンレタスサンドを乗せたトレイ持ってユウの隣に座った。

 

「日本人だよね? ウチはアメリカの方の出身なんだよー。」

「そ、そうなんですか。」

 

妙にフレンドリーで脈絡のない話にユウは戸惑う。

しかし、その拍子抜けした感じがユウの緊張を解していたのも事実だ。

その会話の最中、もう一人のパイロットも食堂に入ってきた。

桜色の髪を後ろで纏めてある、まだ顔に幼さの残る少女、サクラ・ルルだ。

しかし、その態度は大人びている。

 

「お、サークラぁ!」

「食事中くらい静かにしてよ。」

 

そう言いながら、サクラは野菜のスープを持ってユウの横に座った。

サクラはユウをチラと見ると、野菜スープに口をつけた。

 

「キミ、ユウ君だよね。歳は?」

「16だけど…」

「んーやっぱり…適合者(ヒーロー)は子供に限られてるのかしら…」

 

サクラはそれだけ言って再びスープを飲んだ。

ユウはさっきから気になっていることをサクラに聞いた。

 

「さっきから気になってたんだけど、適合者(ヒーロー)って何のことですか?」

 

サクラは面倒くさそうにスープを置いた。

目でフィルシアに「説明して」と言っていたが、フィルシアは知らんぷりだ。

仕方ないとサクラが口を開いた。

 

「キミが乗ったIADネメシス08系列の機体、通称"ネメシスタイプ"は、リリスと呼ばれる人工半生命体が基になってて、そのリリスがIADとして起動した時に、HEROという文字と一緒にDNA情報が提示されるの。そのDNAはリリスのものとの関連性は皆無なんだけど、そのDNAの持ち主以外が乗っても全く動かないのよ。」

「そんなプログラム、開発者も組み込んだ覚えがないんだってさ。ただ単に電気信号を送れば動くはずだったのにね。」

 

ユウは目を開いたり閉じたりしながら聞いていた。

機械系に強いユウでさえも、理解するのに少々時間がかかることがあった。

それを見たサクラがスープの入った皿を持ち上げながら説明をまとめた。

 

「要は、ネメシスタイプが私たちを選んだってこと。」

「選ばれた子供…どこかで聞いたことあるわね。」

 

ユウはやっと、自分がネメシス08に乗り込んだことが偶然ではないと知った。

ネメシス08に彼の生体反応が記録されたのではなく、元々組み込まれていたということになる。

ユウはパンの一欠片をつまんで言った。

 

「つまり、オレたちがやるしかないってことですね。」

「そーゆーことっ!」

「異論はないわ。」

 

ユウが気になっていたことが解決し、また食事を楽しみ始めた。

フィルシアはちょうど食べ終わったらしく、ごちそーさまーと言いながらトレイを返しに行った。

そして帰りざまに振り返ってユウに笑顔を見せた。

 

「あと、敬語なんかいいよ別に。お互い同い年なんだし、仲良くしよっ!」

「え、あぁ。分かった!」

「そんじゃね。サクラもゆっくりと親密になりな。」

「うっさい。」

 

フィルシアが扉を閉めた。

それと同時に、食堂には静寂が流れた。

聞こえるのは食器が当たる音とスープが喉を通る音だけ。

サクラは見た目とは裏腹に大人っぽく、非常にテーブルマナーがいい。

ユウはそれを見て、パンくずを拾ったりしてみる。

気まずい空気を感じ始めたユウは横目でサクラを見た。

こうして見ると、普通に可愛い娘だなと思った。

 

「何。」

 

その視線に気付いたサクラは、目を瞑ってスープの後味を味わいながら言った。

ユウは少しビクっとしたが、怒ってる様子でもなさそうなので安心した。

 

「いや、黙ってれば綺麗な顔なのになぁって。」

 

その言葉を聞いたサクラは、急に顔を赤くし、吹き出しそうになったスープを飲み込んでから早口で言った。

 

「ば、バカじゃないの! ここは軍の艦よ! いつでも戦場に飛び込んでいくのよ! き、綺麗とか、そういうの、そういう余計なこと考えないで!」

 

綺麗という言葉にさほど動揺したのか、「黙ってれば」という半ば失礼な言葉には怒らない。

彼女自身、大人っぽい態度をとってはいるものの、まだ少女の心は持っているようだ。

サクラはスープを飲み干し、足早に食器返却口にトレイと皿を置き、スタスタと食堂を出た。

 

「ちょ、まさか聞いてたの!?」

「さぁ、どーでしょうねぇ〜」

 

扉の向こうからこんな2人の会話が聞こえてきた。

ユウは「禁句だったか」と思いながら、一人になった食堂でパンを食べた。

 

「なんか、楽しそうなとこだな。」

 

ユウは天井を見上げながらパンの最後の一口を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ヒーロー……オレなんかで…」

 

ユウは与えられた個室のベッドの上で横になっていた。

家から持ってきた私物などはなく、必要最低限の家具があるだけの寂しい部屋だ。

電気も付けずにただ天井を見ていた。

そこに、普段のように大人びた表情のサクラが入ってきた。

 

「ユウ君、出撃よ。」

「ゴーストが出たのか?」

 

ユウはスタスタと歩くサクラを追う。

サクラはただまっすぐにデッキに向かっている。

 

「旧メキシコのサンルカス岬よ。作戦はエリックが追って説明する。」

「分かった。」

「それと」

 

サクラがユウの言葉を待たずに言った。

 

「私、一応先輩だから。フィルシアとは違って、あくまで軍人としての態度でいて。」

 

突き放すようなその言葉に、ユウは足を止めた。

嫌悪とは違う、何か関わりたくないような雰囲気を感じた。

しかしユウ自身、早くこのアポカリプスのメンバーと親しくなりたいという想いがあった。

ユウは再び足を動かし、サクラを追った。

 

「キミは第一デッキ。」

 

サクラが曲がり角で指を指した。

そして、ユウにサングラス型のバイザーを手渡した。

これはIAD操縦における補助装置で、内側にレーダーや自機の情報などが表示される仕組みになっている。

さらに、パイロットの思考を読み取る"Super Resonance Waving system"通称"SRWシステム"を搭載し、機体の反応速度向上に一役買っている。

ユウはバイザーをかけて、自身の機体、ネメシス08へ走った。




どうも星々です!

今回はネメシスタイプという主人公機の設定に少し触れました
生体系のロボットなんで、多少の無茶はできると思ってましたが、案外難しいものですねw

次回もお楽しみに!

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