ユウは食堂で食事をとっていた。
時間的には昼食だが、今日最初の食事だ。
この巡洋艦ヴェーガスは、乗組員が生活できる設備が揃っており、補給を受けずに連続で半年間の航行が可能だ。
この長期間航行が可能なのは、イミュー粒子を利用した発電システムを積んでいるからであり、この発電システムを搭載した
イミュー粒子は、加熱すると多量の電子を放出する性質があり、その温度も1000℃未満と非常に低いため、次世代の発電システムとして大いに期待されている。
しかし以前述した通り、イミュー粒子の扱いが非常に困難で、実用化には十数年かかるとも言われている。
地球連邦軍最新鋭巡洋艦ヴェーガスは、それを先駆けて採用した実験的な面もある。
しかし流石は最新鋭艦といったところで、騒音や振動が一切なく、乗り心地は非常に良い。
「君がネメシス08に選ばれた
食堂にエメラルドグリーンのショートヘアが眩しい少女が入ってきた。
声からして、ギガンティックのパイロットであるフィルシア・ナイトウォーカーだということはユウに理解できた。
年齢はユウと同じくらいで、茶色いジャケットがとても似合っている。
まくった袖からは華奢な肩が露出していて、見た目的には普通の女の子である。
フィルシアはベーコンレタスサンドを乗せたトレイ持ってユウの隣に座った。
「日本人だよね? ウチはアメリカの方の出身なんだよー。」
「そ、そうなんですか。」
妙にフレンドリーで脈絡のない話にユウは戸惑う。
しかし、その拍子抜けした感じがユウの緊張を解していたのも事実だ。
その会話の最中、もう一人のパイロットも食堂に入ってきた。
桜色の髪を後ろで纏めてある、まだ顔に幼さの残る少女、サクラ・ルルだ。
しかし、その態度は大人びている。
「お、サークラぁ!」
「食事中くらい静かにしてよ。」
そう言いながら、サクラは野菜のスープを持ってユウの横に座った。
サクラはユウをチラと見ると、野菜スープに口をつけた。
「キミ、ユウ君だよね。歳は?」
「16だけど…」
「んーやっぱり…
サクラはそれだけ言って再びスープを飲んだ。
ユウはさっきから気になっていることをサクラに聞いた。
「さっきから気になってたんだけど、
サクラは面倒くさそうにスープを置いた。
目でフィルシアに「説明して」と言っていたが、フィルシアは知らんぷりだ。
仕方ないとサクラが口を開いた。
「キミが乗ったIADネメシス08系列の機体、通称"ネメシスタイプ"は、リリスと呼ばれる人工半生命体が基になってて、そのリリスがIADとして起動した時に、HEROという文字と一緒にDNA情報が提示されるの。そのDNAはリリスのものとの関連性は皆無なんだけど、そのDNAの持ち主以外が乗っても全く動かないのよ。」
「そんなプログラム、開発者も組み込んだ覚えがないんだってさ。ただ単に電気信号を送れば動くはずだったのにね。」
ユウは目を開いたり閉じたりしながら聞いていた。
機械系に強いユウでさえも、理解するのに少々時間がかかることがあった。
それを見たサクラがスープの入った皿を持ち上げながら説明をまとめた。
「要は、ネメシスタイプが私たちを選んだってこと。」
「選ばれた子供…どこかで聞いたことあるわね。」
ユウはやっと、自分がネメシス08に乗り込んだことが偶然ではないと知った。
ネメシス08に彼の生体反応が記録されたのではなく、元々組み込まれていたということになる。
ユウはパンの一欠片をつまんで言った。
「つまり、オレたちがやるしかないってことですね。」
「そーゆーことっ!」
「異論はないわ。」
ユウが気になっていたことが解決し、また食事を楽しみ始めた。
フィルシアはちょうど食べ終わったらしく、ごちそーさまーと言いながらトレイを返しに行った。
そして帰りざまに振り返ってユウに笑顔を見せた。
「あと、敬語なんかいいよ別に。お互い同い年なんだし、仲良くしよっ!」
「え、あぁ。分かった!」
「そんじゃね。サクラもゆっくりと親密になりな。」
「うっさい。」
フィルシアが扉を閉めた。
それと同時に、食堂には静寂が流れた。
聞こえるのは食器が当たる音とスープが喉を通る音だけ。
サクラは見た目とは裏腹に大人っぽく、非常にテーブルマナーがいい。
ユウはそれを見て、パンくずを拾ったりしてみる。
気まずい空気を感じ始めたユウは横目でサクラを見た。
こうして見ると、普通に可愛い娘だなと思った。
「何。」
その視線に気付いたサクラは、目を瞑ってスープの後味を味わいながら言った。
ユウは少しビクっとしたが、怒ってる様子でもなさそうなので安心した。
「いや、黙ってれば綺麗な顔なのになぁって。」
その言葉を聞いたサクラは、急に顔を赤くし、吹き出しそうになったスープを飲み込んでから早口で言った。
「ば、バカじゃないの! ここは軍の艦よ! いつでも戦場に飛び込んでいくのよ! き、綺麗とか、そういうの、そういう余計なこと考えないで!」
綺麗という言葉にさほど動揺したのか、「黙ってれば」という半ば失礼な言葉には怒らない。
彼女自身、大人っぽい態度をとってはいるものの、まだ少女の心は持っているようだ。
サクラはスープを飲み干し、足早に食器返却口にトレイと皿を置き、スタスタと食堂を出た。
「ちょ、まさか聞いてたの!?」
「さぁ、どーでしょうねぇ〜」
扉の向こうからこんな2人の会話が聞こえてきた。
ユウは「禁句だったか」と思いながら、一人になった食堂でパンを食べた。
「なんか、楽しそうなとこだな。」
ユウは天井を見上げながらパンの最後の一口を飲み込んだ。
「ヒーロー……オレなんかで…」
ユウは与えられた個室のベッドの上で横になっていた。
家から持ってきた私物などはなく、必要最低限の家具があるだけの寂しい部屋だ。
電気も付けずにただ天井を見ていた。
そこに、普段のように大人びた表情のサクラが入ってきた。
「ユウ君、出撃よ。」
「ゴーストが出たのか?」
ユウはスタスタと歩くサクラを追う。
サクラはただまっすぐにデッキに向かっている。
「旧メキシコのサンルカス岬よ。作戦はエリックが追って説明する。」
「分かった。」
「それと」
サクラがユウの言葉を待たずに言った。
「私、一応先輩だから。フィルシアとは違って、あくまで軍人としての態度でいて。」
突き放すようなその言葉に、ユウは足を止めた。
嫌悪とは違う、何か関わりたくないような雰囲気を感じた。
しかしユウ自身、早くこのアポカリプスのメンバーと親しくなりたいという想いがあった。
ユウは再び足を動かし、サクラを追った。
「キミは第一デッキ。」
サクラが曲がり角で指を指した。
そして、ユウにサングラス型のバイザーを手渡した。
これはIAD操縦における補助装置で、内側にレーダーや自機の情報などが表示される仕組みになっている。
さらに、パイロットの思考を読み取る"Super Resonance Waving system"通称"SRWシステム"を搭載し、機体の反応速度向上に一役買っている。
ユウはバイザーをかけて、自身の機体、ネメシス08へ走った。
どうも星々です!
今回はネメシスタイプという主人公機の設定に少し触れました
生体系のロボットなんで、多少の無茶はできると思ってましたが、案外難しいものですねw
次回もお楽しみに!