どうせ何もしなかったらやられるんだ。
どうせタダでは帰れないんだ。
だったらやってやる。
ユウの頭にはこのような言葉が繰り返されていた。
怖くないと言えば嘘になる。
それでも彼の勇気は身体を動かした。
「飛べ! ネメシス08‼︎」
自由落下するネメシス08の背中と腰から光の布が発生した。
この青い発光現象は、近年発見されたイミュー粒子が圧縮されて起きるものである。
ネメシス08は、機体自体から多量のイミュー粒子が放出されるため、それをふんだんに使った独自の推進システムを駆使し、飛行が可能ということだ。
扱いが非常に困難なイミュー粒子を上手く扱えるようになったネメシス08だからこそできる芸当だ。
この技術も奇跡と言われ、同系列のテンペストやギガンティックではこれは不可能だった。
「敵は…右か!」
ネメシス08が重厚な弾幕をくぐり抜けながらゴーストに接近する。
テンペストとギガンティックは咄嗟に射撃のリズムをネメシス08に合わせ始めた。
「ネメシス08!? まさか…あの子を出したの!?」
「まったく何考えてるのかねウチのリーダー。」
テンペストのパイロットであるサクラ・ルルと、ギガンティックのパイロットフィルシア・ナイトウォーカーが互いに息を合わせながらそんなことを言う。
彼女らは優秀で、ユウ同様に正規のパイロットではないものの、やはり機体との親和性が高く、戦闘での評価は高い。
「オレの動きに合わせてくれた? よし!」
ネメシス08が四方八方に起動を変えながら徐々に間合いを詰める。
時折脚部からホーミングビームを撃ってみるが、ビットが展開するエネルギーフィールドに拒まれる。
しかし、距離が近づくうちに手応えが増していくのを感じていた。
「うおぉおぉお!!!」
ネメシス08がマシンガンを近距離で掃射した。
その弾丸はビットを撃ち抜き、瞬く間にエネルギーフィールドを破壊した。
ネメシス08は青い光の軌跡を残しながら空を自由に飛び回る。
その超次元的な光景と、手に持ったマシンガンという現実的な武器が、非常にミスマッチだ。
しかし、ネメシス08の戦う姿は美しい。
アポカリプスのメンバーは誰もがそう感じた。
「あとは本体を…!」
黒い翼を羽ばたかせてこちらへ向かってくるゴースト。
その大きさは30mほどで、頭頂高15mのネメシス08と比べると約2倍の大きさだ。
ゴーストはネメシス08同様に大空を自由に飛び回りながら、翼からビームのようなものを発射する。
分析によると、光を纏った圧縮粒子らしいが、そんなことは戦場どうでもいいことだ。
「速い!? 追いつけるかネメシス!」
ゴーストの翼からは赤い光が溢れ、うっすらと空に軌跡を残しながらネメシス08を翻弄する。
いくらネメシス08が高性能だからといって、パイロットが素人だ。
攻撃予測や回避行動などがまだ不十分で、未だに直撃を与えていない。
「くっそ、どうする!」
ビットによるエネルギーフィールドが消失した今、ロングレンジ攻撃も通用するはずなのだが、ゴーストの速さに中々標準が合わない。
しかも、空中というのは非常に不安定な戦場で、火器の発射による反作用で態勢が崩れやすい。
しかもゴーストからの攻撃をかわしながらだ。
「援護が不安定になってきた…長期戦はキツイのか?」
ネメシス08が放つホーミングビームは、弧を描くようにゴーストに向かっていく。
ホーミングビームは、ミサイルよりも高誘導かつ高威力なビーム兵器なのだが、そのエネルギー消費は激しく、そこまで多用できない。
現に、ネメシス08のコックピットには撃ちすぎの警告が鳴り響いている。
ユウは正直にこれに従うことにしたが、攻め手を一つ失ってしまった。
「他に武器はないのか!」
ネメシス08はマシンガンで迫り来る敵のホーミングビームを撃ち落としながら接近のチャンスを伺う。
その間ユウは、回避しながら武装マニュアルを読み込んでいた。
ビームランスとホーミングビームの他に、ソニックレールガンというものがあるらしい。
ソニックレールガンは、ネメシス08の両肩に装備されたシールドに内蔵されているものだ。
威力は高いが連射はできず、しかも反動が大きい。
恐らくこの状況で使用して外せば、必ずゴーストはそれをチャンスと見るだろう。
「ソニックレールガンか…当てられるか、オレに…」
ユウはネメシス08に左肩のソニックレールガンを構えさせた。
そして一旦ゴーストから離れるように高度をとり、宙返りをしてから発射姿勢をとった。
ゴーストは左右に大きく動きながらネメシス08を追ってくる。
コックピットのモニターに表示されるロックオンマーカーが重なる瞬間を待つ。
その間にもゴーストは近づいてくる。
「早く…早く……早くしろ……!」
ゴーストが大きな口を開けた。
その瞬間、ロックオンマーカーが一つに重なり、緑から赤へ色が変わった。
その時ユウには、この世界の時間が遅くなっていくように思えた。
それほどに、冷静でいられた。
スローモーションの1秒で、ユウは極限まで集中力を高めた。
「………見えた! 狙い撃つ‼︎」
ロックオンから1秒後、ギリギリまでゴーストを引きつけてからソニックレールガンの音速の弾丸が発射された。
反動でネメシス08がきりもみ回転の状態になる。
ユウはそんな中でも冷静で、ゴーストを見ずに回し蹴りをいれた。
大口を開けていたゴーストは、その脆い部分に弾丸を喰らい、さらに回し蹴りをいれられ、無様に吹き飛んで行った。
「サクラさん、フィルシアさん!」
「ほいほーい。」
「私に命令しないで!」
無抵抗なまま飛ばされたゴーストに、ヴェーガスからテンペストとギガンティックが狙い澄ます。
テンペストの左肩に装備された大口径のビームキャノンが火を噴いた。
同じくギガンティックも、背中に装備された2門のキャノン砲を発射した。
その弾丸は一直線にゴーストへと向かっていく。
それが当たるのを確認する前に、ネメシス08は槍を構えて追撃に入った。
「これで、トドメだァァア!!!」
ビームと実弾の弾丸がゴーストの翼を貫く。
まるで血のように赤い光が吹き出す。
そしてその光を斬り裂き、青い光のマントをなびかせながら、穴だらけになったゴーストを貫いた。
ゴーストは形状崩壊を起こし、消滅した。
「終わった……」
ユウは全身の力を抜いてシートにもたれかかった。
息は荒い。
気付けば全身から汗をかいている。
ユウ自身、気付かぬうちに予想以上の体力を消耗していた。
『ネメシス08は第一デッキに収容します。真ん中のハッチね。ナビゲートは機械が勝手にやってくれるから。』
通信士の女性がナビをしてくれた。
歳は20代後半くらいだろう。
「わ、分かりました。レーザーセンサー確認…これでいいんですよね?」
『確認しました。あ、そうだ、アタシはリン・スメラギね。よろしくっ。』
「………」
返事はなかった。
ユウはコックピットの中で眠りについていたのだ。
この日、ユウの高校生活は断たれ、戦いの世界へ飛び込んでいくのだった。
どうも星々です!
お知らせです!
この度、スーパーロボット大戦H(ハーメルン)という多重クロス企画に参戦することになりました\パンパカパーンwwww/
そんなこんなで、今後ともよろしくです!