地球連邦政府管轄下旧日本厚木付近に出現したゴーストは、謎多き最新鋭
その機体は、連邦軍特殊部隊"アポカリプス"に所有権があり、戦闘終了後、彼らの母艦"ヴェーガス"に収容された。
薄暗い部屋のドアが開いた。
廊下から差し込む人工的な光に少年の目が眩んだ。
その目が慣れる前に、少年は部屋に入ってきた人物に怒鳴りつけた。
「何なんですかあなたたちは‼︎ 勝手に収容して、手錠かけて、こんな部屋に閉じ込めて‼︎ オレが一体なにしたっていうんですか!」
その怒鳴りつけに動じることもなく冷たい視線を送るヴェーガス艦長エリックと、操舵士カトリーヌ。
「軍用機の使用、無許可の戦闘行為、市街地の破壊、とまぁこんなもんだ。」
「これでも甘い方なのよ。軍っていうのはこういうことしないと気が済まないっとことよ。」
カトリーヌが手錠を外しながら優しげに言う。
エリックは相変わらず冷たい視線のまま目の前に立ちはだかっている。
カトリーヌはそんなエリックの様子を見てフッと笑い、少年の肩に手を添えた。
「コイツもその一員。こういう態度をとることしか知らないのよ。」
「カトリーヌ…!」
「はいはい。」
カトリーヌはエリックの後ろに下がった。
少年は立ち上がってエリックを睨みつける。
顔ひとつ分程ある身長差が、少年の視線を上に向けさせる。
「お前、名前は。」
「ユウ・ヴレイブです。」
短い言葉のやり取りが交わされたが、その後も沈黙が流れた。
そしてそれを破ったのはユウだった。
「帰してください。」
「そういうわけにはいかない。」
「何でですか。」
「軍の機密に触れた。タダで帰すわけにもいかねぇ。」
「軍の機密って何ですか。」
「それを聞いたら本当に帰れなくなるぞ。」
「………ッ!」
ユウは大人しくすることにした。
どう足掻いてもタダでは帰れないし、騒ぎを起こして刑罰なんてことにもなりたくないからだ。
その様子を読み取ったエリックは、先ほどよりも若干表情を緩め、付いて来いと合図した。
それに従い、ユウが部屋を出ようとした直後、突然大きな地震が発生した。
否、空を飛んでいる巡洋艦が揺れているのだ。
遠くに爆発音も聞こえる。
慌てて走るエリックとカトリーヌについて行くと、そこはこの艦のブリッジだった。
前方には青い空が映し出されていた。
警報が鳴り響く。
忙しそうにする
「状況は!」
「ゴーストからの攻撃だ! 艦体に大きなダメージは無いが、少し厄介だ。」
レーダー士のレックニックがエリックの手元のモニターに、射出した小型カメラが捉えた映像を再生する。
「飛翔性のゴーストか!? 何故俺たちを攻撃するんだ?」
「そこにモノがあるから、だろう。ゴーストの行動理念は"破壊"だと考えられてるからな。」
砲術士のアイン・ドックがヴェーガスの迎撃システムを操作しながら答えた。
ゴーストとは、突然現れては破壊活動をし、48時間後に大爆発を起こす謎の生命体である。
その存在自体は広く知られているが、その詳細や処理については、報道に規制がかかっており、あまり知られていない。
「アイン、この艦の迎撃システムでなんとかできるか!」
「五分と五分だ! 上手く地上付近まで降りてIADを出した方がいいだろう。」
「カトリーヌ、できるか?」
「やるしかないんでしょ‼︎」
カトリーヌが大きく舵を切った。
ヴェーガスはヨーイングするように回転しながら高度を下げていく。
艦首が下の方に向いた時、ゴーストの全貌が正面モニターに映し出された。
大きな翼を広げた鳥といった感じだろうか。
全身は黒く、所々に幾何学的な模様が入っている。
その動きは機敏で、狙いが定まらない。
さらに、小型のビットもいくつか展開していて、それが発生させる電磁フィールドによって中々攻撃が届かない。
IADを出そうにも、普通IADは飛行能力を持たない。
空中戦は全く想定していないし、する必要が無かったからだ。
それにはミサイルをはじめとする誘導兵器の進歩によってその命中率が非常に高くなったという背景がある。
空中戦をやっても、相討ちが関の山だ。
しかしそれが今、裏目に出た。
飛行能力を有するゴーストに対する策が無いのだ。
ゴーストに対してのロングレンジ攻撃はほとんど効力がない。
そのためのIADであるのだが、唯一の対抗手段が空対空戦闘能力を持っていないのだ。
状況は切迫していた。
「仕方ない、テンペストとギガンティックをそれぞれ第二、第三カタパルト固定! 砲台として使う!」
「「了解。」」
いつからいたのだろうか。
パイロットと思しき2人の少女がエリックの指示を聞いてブリッジを出た。
ユウはどうしていいかもわからず、ただ自分が戦場にいるということだけが理解できた。
「何そこで突っ立てる! 適当に座っとけ!」
エリックの怒鳴り声だ。
キャプテンチェアからこちらを向かずに発した声は、十分に大きな声としてユウに届いた。
ユウは言われた通りにその辺に座り、近くにあった手すりにしがみ付いた。
そのおかげで、巡洋艦とは思えないアクロバット飛行の中でも怪我をすることはなかった。
「うッ…く…ッ!」
空酔いの中で正面モニターを見た。
脇の小窓には、テンペストとギガンティックというIADのコックピット内部が映し出された。
少女たちの表情は苦しいものだった。
歯を食いしばり、額に汗を流していた。
目は、操縦補助システムであるサングラス型のバイザーがかけられていて見えないが、きっと苦しいのだろう。
ヴェーガスは何ヶ所も被弾し、ゴーストには決定打を与えられていない。
そんな状況であったが故、ユウがブリッジを出たことに誰も気付かなかった。
「おい、どうやったら動くんだこれ?」
ユウはネメシス08のコックピットに乗り込んでいた。
しかし、肝心なネメシス08が起動しておらず、動く気配がない。
「動いてくれ! 飛べるIADはお前しかいないんだろ!」
ユウが両の拳を操縦桿に振り下ろした。
すると、コックピットの全天周モニターが起動し、コックピット内を照らした。
そして正面に英文が表示された。
-Welcom the bravery-
モニターが周囲の状況を映し出した。
左右には無機質な壁。
足元にはカタパルトデッキ。
正面には閉じられたハッチが見える。
「よし、戦えるか?」
『おいお前何やってる!』
ネメシス08の起動に気付いたエリックが通信を入れてきた。
ユウは表情を変えずにネメシス08のスペックを確認していた。
ユウは幼い頃からメカニックには強く、将来的にも機械系の仕事に就こうと思っていた。
故に軍が使用する高度な技術も、少しなら理解できた。
「こいつなら飛べるんですよね。脚のホーミングビームを近距離で撃ち込めば痛手を与えられるはずです。」
『お前まさか…!』
「出撃します。さっき見ましたが、こいつにはオレの生体反応が記録されてて、他の人にはもう動かせないんでしょ。」
『だが……本当に帰れなくなるぞ…。』
エリックの声には心配の色があった。
だがユウの決意は変わらない。
「結構です。もう覚悟はできましたから。やってやりますよ。」
『…………分かった。』
少し時間が空いてエリックが発した言葉に対し、画面の向こうで抑止の声が聞こえた。
だがこれを気にする必要はない。
ロングレンジが効かない相手に、ロングレンジ攻撃をせざるを得ない状況だ。
勝つには近づくしかない。
『右側にマウントしてあるマシンガンを使え。ハッチを開放する。』
「ありがとうございます!」
『だが、本当にいいんだな。』
「えぇ、コイツとならやれます。」
ハッチが開放され、暖かい光が差し込む。
ユウはネメシス08の右側に固定されていたマシンガンを手に取るように操縦した。
すぐにネメシス08がその武器を認識し、攻撃システムとリンクさせた。
『ネメシス
「え?」
『そいつの名前だ。行ってこい、ユウ! お前の勇気、買ってやるぜ!!』
エリックが笑顔で言った。
ユウもそれに笑顔で返し、操縦桿を強く握った。
デッキ側壁のランプが赤から緑に変わった。
「ユウ・ヴレイブ、ネメシス08……いきます‼︎」
号令と共に、磁気駆動式ランチャーカタパルトが動き出した。
ユウに大きなGがかかったが、ユウの表情は変わらず、決意の表情だった。
ネメシス08が大空に飛び出した。
どうも星々です!
主人公機ネメシス08、とっても強いです
世界で唯一の飛行能力を持つIADで、基本スペックもそこそこ高いです
でもチートってほどじゃない程度です