「それでさ、でっかい蛇みたいなのがいてさ---」
旧日本、神奈川県中央のとある公園で、あるカップルが並んで歩いていた。
互いに好意を寄せているが、互いの想いに気付いていないという様子だった。
そんな2人の頭上には、八分咲きの桜が空を彩っている。
少年は少女の左側から楽しそうに話している。
「変な夢。で、その後どうなったの?」
「んー、なんか全身の力が抜けて、気を失った…かな。」
「へぇ〜。」
2人はベンチに腰掛けて、束の間の休憩を取った。
2人の間には鞄2つ分ほどの隙間が空いていて、2人とも少し頬を桜色に染めている。
2人は明日に高校の入学式を備えている。
「い、いい空だね。」
「何よ急に…?」
少年が自分の想いを告白しようとしたが勇気が足りず、おどおどしながら隠している。
「えっと、なんか全部が穏やかで、全部が明るく見える。まるで……」
オレたちの未来みたいに。
そう続けようと思っていた。
しかし、その時だった。
-All is calm All is bright-
何処からか女の歌声が聞こえた。
その声は周りの雑音を貫くようにはっきりと少年のもとへ届いた。
その声の主を探す少年。
「どうしたのユウ君?」
「え、今の声、聞こえなかった?」
「声?」
その直後だった、黒い大蛇が現れたのは。
「な、何アレ!?」
「同じだ…」
「同じ?」
少年は初めて見るはずのその巨大なものに見覚えがあった。
記憶の中を必死に探す。
そして気付いた。
「夢に出てきたでっかい蛇…‼︎」
少年はそう言うと、少女の手を掴んで走り出した。
八分咲きの桜木も、大蛇が響かせる地ならしによってその花びらを落とす。
逃げ出す人々。
その逃げ道はバラバラで、転んだ人は走る人に踏みつぶされる。
そして少女も、その1人になってしまった。
「きゃっ!」
「ユリ‼︎ うッ…ユリ‼︎」
荒ぶる大蛇に怯える人々の流れに逆らいながら、土台にされてしまっている少女に手を伸ばす。
しかしその手は虚しくも、流れに負けて引き離される。
そして。
大蛇の尻尾が目の前の地面を
強化型コンクリートで舗装された道が跡形もなく消し飛んだ。
そう、さっきまで歩いていた道が。
初恋の相手が、手を伸ばして助けを求めていた道が。
そこに人の姿は無い。
血も、肉片も骨片も無い。
跡形もなく、だ。
「うわあぁぁああぁぁあああ!!!」
少年は絶叫した。
そして。
その絶叫に応えるかのように、空からあるものが降ってきた。
抉られた地面を更に凹ませて、少年の目の前に降り立った。
巨人。
巨大なロボットが、少年に手を差し伸べた。
-All is calm All is bright-
さっき聞いた歌声。
顔には人間のような"目"が2つ付いている。
その目は優しげだった。
少年はその手に飛び乗った。
15mの巨体が立ち上がり、少年を胸部に設置されたコックピットに導いた。
「やってやる。やってるぞ‼︎」
少年の顔は、涙で濡れていた。
同時刻、上空1000mに、地球連邦軍の最新鋭巡洋艦が旋回していた。
青い艦体は大きな翼を広げ、雲を切り裂くように飛んでいた。
「どういう事だシンジ‼︎ 何故ネメシス08が勝手に動いた‼︎」
「そんなのわかるわけないだろリーダー! 元々、詳細も知らされずにパイロットも無しに渡された代物だ‼︎」
キャプテンチェアの傍にある通信モニターに怒鳴りつけるその艦の艦長は、まだ20歳にもなっていないであろう若いメカニックにそんなことを言っていた。
その会話に上下関係は感じられないが、彼らの年齢差は10歳以上ある。
「おいエリック、シンジを責めるな。それより見ろ、ネメシス08に少年が乗り込んだ。」
「本当かレックス!?」
巡洋艦ヴェーガスという名のその艦のブリッジで、艦長であるエリック・ノヴァがレーダー士のレックニック・ジョンソンの報告を受けてモニターを覗き込んだ。
「あの少年が…ネメシスの選んだ適合者だというのか…」
エリックはその少年の、あまりにも戦い慣れしていない、いわば素人っぷりを見た。
「どうするのエリック? あなたの指示を待ってるのよ。」
操舵士のカトリーヌ・レインがエリックの指示を待つ。
エリックは艦長席に戻り、冷静に指揮を執った。
「テンペストとギガンティックを投下する! サクラとフィルシアは直ちに発進準備だ! ネメシス08がいくら世界最強と謳われるネメシスタイプのIADでも、乗っているのが素人だ、ゴーストを射程に捉え次第援護射撃! ヴェーガスは高度を維持しろ。」
数分後、ヴェーガスの艦体左右に位置するカタパルトから、2機のIADが発進した。
少年はコックピットに座り込んだ。
操縦桿が左右にあり、それを握ってみる。
足下にはペダルが4つある。
内装は全天周モニターになっていて、機械の中にいるという感覚ではない。
「これ、
少年は操縦桿を押し込んだ。
するとネメシス08と呼ばれるIADが光のマントをなびかせて加速した。
ゴーストが口を開け、無数のエネルギー弾を放った。
「うわっ!」
咄嗟に回避した。
どうやって動かしたのかは、当の本人の分かっていない。
だが、ネメシス08と意思の疎通をしているような感覚はあった。
「武器は、何か武器はないのか?」
その問いかけに、ネメシス08が答えるようにヴァーチャルコンソールを表情した。
すると、ビームランスという文字が目に入った。
迷うことなく、表示されたヴァーチャルコンソールのビームランスの文字をタッチした。
すると、ネメシス08は腰に固定してあった棒を引き抜き、先端から槍状のビームを発生させた。
武器はあった。
しかしどうやって攻撃するかはまだ考えていない。
ただ、よけることに精一杯だ。
そんな時、ネメシス08に通信が入った。
映し出されたのは少女の顔だ。
年齢は少年と同じくらい。
『こちら地球連邦軍特殊部隊アポカリプス所属、サクラ・ルル。これより貴方を援護します。私たちがゴーストの注意を引いているうちにそれを突き刺して!』
「え、え? えと…」
『ほらサクラ、いつも言ってるけど固すぎだって。はーいこんにちは、フィルシア・ナイトウォーカーでーす。君、名前は?』
「ゆ、ユウです。ユウ・ヴレイブ。」
『おーけー、ま、死なない程度にね〜』
通信が切られた。
それと同時に、着地したIAD2機による弾幕が張られた。
彼女らの言った通り、ゴーストの注意がそちらに向いた。
ユウはネメシス08に槍を構え直させて、隙を探った。
「お前、飛べるのか!? junpじゃなくてfly!?」
ユウにはネメシス08が頷いたように思えた。
だが少し躊躇があった。
現存するADで、飛行能力のあるものは存在しないからだ。
理論上不可能とも言われていた。
それでもユウはそれを信じ、ペダルを踏んだ。
すると、ネメシス08の光のマントがその光を増し、更に腰からはスカートのように、同じような発光現象が起きた。
飛翔と共に、とてつもないGが襲いかかった。
上昇を止めると、一瞬だけ無重力状態になり、そしてすぐに重力に引かれた。
「うおぉぉおおぉお‼︎」
青い光の軌跡が一直線にゴーストへ向かう。
テンペストとギガンティックの弾幕とそれによる轟音に視界と耳を奪われたゴーストは察知することもできずに、その突撃を食らった。
頭がもげた。
ゴーストはその苦しみからか、身体を何度も地面に叩きつける。
そして、ゴーストは赤い光を放ち、形質崩壊した。
それと同時に、ネメシス08は仕事を終えたかのように停止した。
ユウ・ヴレイブの初恋は悲惨な結果を迎え、彼の人生は思いもよらぬ方向へと向かっていく。
少年は薄暗いコックピットの中で虚空に手を伸ばした。
「明日、入学式だ………」
どうも星々です!
この作品は「王道ロボット!」を目指して書いてます
今回も早速いくつかお約束を織り込みましたw