光明機動ネメシスエイト   作:星々

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EXTRA [Secret Track]

海が静まった。

 

 

リリスが江ノ島海域深海に消え、ひとつの戦闘が終わった。

連邦の大艦隊は情けないまでに機能せず、活躍したのはアマツとそれが率いる空戦部隊のみという、連邦にとって汚点となるであろう結果だ。

ネメシスアークは、海上へ浮上した母艦へ帰投し、一足先に戻っていた仲間たちに迎えられた。

涙する者、喜びを隠してよそを見る者、普段通りの調子の者。

彼女らはネメシスアークに駆け寄った。

ネメシスアークのその胸部が開き、2人の少年が、甲板に降りた。

1人は戦いの終結を喜んだが、もう1人は、まだ何かやり残したことがある、というのを伝えた。

彼は連邦艦隊を見つめ、拳を握る。

 

「あの男か?」

 

ユウが問う。

 

「はい。まだ、決着がついてないんで…」

 

ヘンズがそう答えた。

こう言ったが、実際ユウの言う男が生きているのかどうかも怪しい。

あの荒れた海に叩きつけられれば、いくら高性能なADでもパイロットが死んでしまう。

そんな柔な男ではないと、そう思ってはいたが、さすがに言い切ることはできなかった。

 

「あの男は、殺しても死ぬような器じゃないよ。」

 

フィルシアがヘンズの肩に手を乗せる。

 

「そうですが…」

 

ヘンズの眼差しは変わらない。

 

「不思議ね…敵同士なはずなのに、心配してる。」

 

ユリが歩み寄る。

 

「もう私たちの願いは果たされた。君は自分で自分の道を選びなさい。」

 

サクラが背中を押す。

振り向けば、みな笑顔だった。

 

「行ってこい、ヘンズ。」

 

ユウがネメシスアークを指差す。

 

「………はい!」

 

笑顔で、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…運命はまだ、私に味方してくれるか……」

 

アマツは再び目覚めた。

驚くことに、機体の損傷は装甲部の傷が目立つ以外、駆動に問題が無いほど軽微だった。

そのパイロット、涼波・ハルトもまた、無傷だった。

 

「生きているかイクス?」

「え、えぇ…なんとか……」

 

一方、弱々しい声で返事したイクスは、口から血を吐き、肋骨の何本かはへし折れていた。

その姿を見たハルトは、一度艦隊と合流することを決めたが、行動する前に、遠くに浮かぶイスダルン艦を見つめた。

 

「あの子、ですの?」

「あぁ…まだ、決着がついていないからな。」

 

イクスは、痛む全身に鞭打ち、その手で横にあるスイッチを押した。

すると、コックピットブロックが排出され、浮上用の浮き袋が膨らんだ。

 

「浮上くらいは自分でできますわ。あとは救難信号で助けを待つので、ハルトはご自分の道を行ってください…」

「イクス………感謝する!」

 

仮面の下の目に、口元に、笑顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は、対峙した。

イスダルン艦の甲板上で、握手を交わす。

 

「僕の戦いは終わりました。でも…!」

「決着がまだだ、ということだ。」

 

名もない孤島へ艦を着けると、それ以上の会話もせず陸地に降りた。

もちろん、それぞれの機体に乗って。

さきの戦いで武装を失っていたが、槍1本と剣1本があれば、それで十分であった。

否、それすらなくても、拳で殴り合っていたかもしれない。

一つ言えるのは、この戦いに意味は無い、ということ。

それでもこの2人には、戦わなければならない意地があった。

互いに認めるライバルとして。

時にぶつかり、時に助け合った仲として。

 

「ヘンズ・エフォート、ネメシスアーク!」

「ハルト・涼波、アマツχ(カイ)!」

 

翼の折れたネメシスアークが槍を抜く。

傷だらけのアマツが刀を正面に構える。

 

「正々堂々!」

「いざ尋常に!」

「「勝負‼︎」」

 

2つの気迫が衝突した。

乾いた大地がひび割れる。

地響きが広がり、島が震える。

ここに男同士の決戦が、始まった。

この2人に言葉はいらない、ただ、その剣と槍が、互いの想いを伝える。

ネメシスアークの横薙ぎ一閃を受け止めて後方へ押し出されたアマツは、大きな岩を蹴って正面から斬りかかる。

密着戦に持ち込めばアマツが有利になるが、一定の間合いまではリーチに優れるネメシスアークが有利である。

しかしそんな事はこの際関係無い。

有利だから攻めるとか、不利だから守るとか、この2人には関係無い。

ただただ単純に、正面からぶつかり合っていた。

何度も刃を交え、回り込み、回避し、激しい攻防が続いた。

 

「やはり強くなったな、ヘンズ!」

「あなたこそ、前より手強いですよ!」

 

轟音と共に振り下ろされた天羽々斬に力強い振り上げで対抗するが、あまりの衝撃に地面が陥没する。

飛び退いたアマツを追って突貫するネメシスアークは、左右に優雅に舞いながら槍を突き出す。

肩を掠めたアマツだったが、カウンターの一撃を見舞う。

だがネメシスアークにもそれは掠めた程度だった。

2人の実力は完全に拮抗していた。

 

「轟け! パルマ・ブレイカーァアアァアアアア!!!」

 

密着状態の中、至近距離でアマツはパルマ・ブレイカーを発動した。

掌が光り輝き、ネメシスアークの頭部を掴む。

そしてそのまま光を放つ。

大きく仰け反るネメシスアーク。

これまでで一番大きなダメージだったが、これでくたばる程度の機体ではなかった。

そしてネメシスアークは、今の技を()()した。

 

「見様見真似!」

 

ヘンズが右手を顔の正面で握りしめた。

それの連動し、ネメシスアークも正面で拳を握り締める。

それを勢いよく開くと、青い光が放たれた。

それは徐々に濃さを増し、最終的に赤く変色した。

高濃度のイミュー粒子を纏った右手を突き出し、アマツの頭を掴み返す。

 

「名付けて! ネメシス・フィンガーァアアァアアアア!!!」

 

パルマ・ブレイカー同様に、アマツを掴んだ右手から光が撃ち出された。

大きく弾かれたアマツは吹き飛び、ネメシスアークは反動で仰け反る。

 

「面白い! こんなにも充実感を覚えたのは初めてだ!」

「僕もですよ! 戦っているのに、こんなにも楽しい!」

 

地面を蹴って再びぶつかる2機。

真っ正面から全力でぶつかったその一撃により、互いの武器が弾かれ、遥か後方の地面に突き刺さった。

手が痺れる感覚が2人に伝わる。

ヘンズはその手を握り、アマツに殴りかかる。

ハルトもまた、アマツに受身を取らせ、回し蹴りを入れる。

それを腕でガードしたネメシスアークは、その脚を掴んでアマツを地面に叩きつける。

 

「くはッ! そういう戦い方も、するようになったか!」

「ハワイの戦いの時、貴方の背中に居てよく見てましたからね!」

 

アマツは背中のバーニアを思い切り噴かせて立ち上がると、稲妻を描くような鋭い動きで、一瞬にしてネメシスアークの懐に潜り込んだ。

そして下腹部に強烈なアッパーを捻じ込んだ。

その一撃でネメシスアークは吹き飛び、ショックで一時的な機能不全に陥った。

そこを狙い目に、仰向けに倒れるネメシスアークに殴りかかるアマツ。

機能不全は解決したが防御には間に合わないという距離まで来てしまった。

 

「決着だ!」

「クッ…………!」

 

その拳がネメシスアークの顔面を捉える。

しかし、それは低くなる駆動音と共に、動きを止めた。

ここに来てまさかのバッテリー切れだ。

それを見たヘンズは、バッテリー切れの事実を確認せず、本能的に殴り返そうとした。

しかし、こちらの拳もあと少しのところで動きを止めた。

 

「粒子残量レッドライン…稼働限界かッ‼︎」

「粒子供給量と消費量が釣り合ってない! 装甲の損傷で粒子漏れしてるのか!?」

 

操縦桿に拳を振り下ろす2人。

まだ終わらせたくないと、必死になって動かそうとする。

その熱意に応えたのか、互いの機体の拳が少し、ぎこちないが少しだけ、動いた。

それは同時に互いの顔面に触れてから、正真正銘のシステムダウンを起こした。

汗だくの2人がコックピットから吐き出された。

乾いた大地に大の字になって横たわる2人は、まるで遊び疲れた子供のようだった。

 

「決着は…ついたな……」

「えぇ…つきましたね……」

 

戦いの結果だけ見れば、それは引き分けとなり、決着がついたと言うには難しい結果であったが、2人の中では確かに、決着がついた。

無意味な戦いの中で、2人は確かに、己の心で、決着をつけた。

 

 

「「おれたちの勝利だ‼︎」」

 

 

2人はそう言い、満面の笑みで、その目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------fin------




どうも星々です!

男と男のぶつかり合い! 燃えますね!
どっちの勝ちにしようかって悩んだんですが、いっそのこと両方勝ちでいいじゃない! と思い、こうなりました


さて、これで本当に完結となった光明機動ネメシスエイトですが、ここまで続けられたのも、支えてくださった皆様のお陰といっても過言じゃぁありません
また別の作品でお会いする機会が、ないわけではないと思いますので、そう願っておりますので、その時はどうぞ、よろしくお願いいたします

それでは皆さん、またどこかで

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