光明機動ネメシスエイト   作:星々

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亡霊ノ大嵐編
第0話「終わりへ向かう始まりの歌」


空は雲ひとつない晴天だった。

上を見ても、下を見ても、だ。

目下には旧ガラパゴス諸島がある。

500年ほど前は自然豊かな大地が人々を支えていたその島も、今や鉄が覆い、外壁には迎撃設備もある。

ただそれが今迎撃しているのは、人類ではない。

黒い蛇のような何かが、30mほどあるその巨体を鉄の地面で這わせている。

これの名前は"ゴースト"。

地球連邦軍の苦肉の計画、"アポスル神話計画"失敗の成れの果てだ。

 

西暦2540年、地球は荒廃していた。

過激派テロ組織"イスダルン国"は各国への侵攻を続け、現在ではアフリカ大陸全土、ヨーロッパ南部、アジアにまで進出し始めている。

そして今年の頭、イスダルン国は国家としての独立を宣言すると同時に、地球連邦政府に対して宣戦布告をした。

ここに、第三次世界大戦が始まったのだ。

地球連邦軍は最新鋭の人型機動兵器AD(アーマードール)を大量投入し、誰もが早期決着を確信していた。

しかし、だ。

イスダルン国は、未知の粒子"イミュー粒子"を動力源とするIAD(イミュニック・アーマードール)を投入、連邦軍のADよりも1/4程度の数量であっても連邦軍を圧倒していた。

連邦軍は苦肉の策として、旧日本国の江ノ島を中心に"アポスル神話計画"を実行に移した。

この詳細については、公式には公開されていない。

公開されたのは、『地球連邦軍の某計画の失敗により、世界各国に謎の生命体ゴーストが散っていった。これに対して地球連邦軍は責任を持ってこれを排除する』と。

最初はただの情報戦略だと思われていたが、実際にゴーストの出現によってそれが真実だと世界中に知らされる。

その脅威は予想外で、突然現れては破壊活動をし、人類が所持している最大規模の反応弾と同等の規模で自爆する。

皮肉にも、この事態に連邦軍とイスダルン軍は停戦協定を締結した。

 

 

 

 

 

「こちらネメシス08(エイト)。目標を目視で確認しました。」

 

数分前、大蛇の形をしたゴーストの直上5000mから投下された1機のIAD、そのパイロットが母艦に報告した。

そのIADはイスダルン国が開発したものではなく、数少ないアポスル神話計画の成功例だと言うが、パイロットである彼も、それに関わる人たちも詳しくは知らされていない。

 

『了解した。できるだけゴーストの目を引きつけるんだ。その間にテンペストとギガンティックを投下する。』

「了解です!」

 

そのIAD、"ネメシス08"はパラシュートも開かずに自由落下をし続ける。

ネメシス08のフォルムは、既存のADに見られるような機械的な人型ではなく、正しく()()型であった。

これは半生命体リリスに装甲を追加したタイプの機動兵器であることに由来する。

ネメシス08は右手に持った長い棒を構えた。

 

「接触します。」

 

ネメシス08はその棒の先端から槍状のビームを発生させてそれを振り上げる。

それと同時に背中と腰から布のような発光現象が起きた。

それはまるでマントやスカートのようで、槍を構えたその姿は槍突士のようだった。

ネメシス08は空中でその軌道を変え、ゴーストを翻弄するように飛び回る。

ここまでの飛行能力を持つIADは存在しない。

このネメシス08だけが例外だ。

リリスから放出されるイミュー粒子を凝縮し、直接に推進剤として利用しているからこそ成せる芸当だ。

この性能の実現は奇跡的と言われている。

 

「目標の索敵能力は標準。運動速度は遅め…かな。周囲に小型のビットが5体展開されています。先にこちらを片付けますね。」

 

ネメシス08は槍を振り下ろす。

それをまともに食らったゴーストビットは蒸発する。

残った4体のビットは、実体弾をまるでマシンガンのように連射するが、俊敏に動き回るネメシス08に命中することはない。

ネメシス08が宙返りを披露したと思うと、滑るようにしてゴーストビットの間にを縫うように通過した。

直後、ビットは蒸発、全滅した。

 

『テンペストとギガンティックを投下した。分かっていると思うが、この2機には飛行能力がない。彼女たちの着地点を確保するようにゴーストを誘導しろ。』

 

(まったく無茶を言う。)

 

少年はそう心の中で呟きながらネメシス08を大蛇型のゴーストへ向かわせた。

ネメシス08の2倍ほどあるその巨体を大きくくねらせて顔をこちらに向けた。

口を開き、エネルギーを充填し始める。

 

「ゴースト内部に高エネルギー反応!?」

 

攻撃に備えて回避行動を取った。

しかし、横から走った衝撃により地面に叩きつけられた。

口の高エネルギー反応はフェイクで、尻尾でネメシス08を叩きつけたのだ。

少年は予想外の出来事にパニックに陥った。

どうすればいいのかわからず、立ち上がることすらも忘れる。

 

『何してるのユウ君!』

 

突然、少女の声が聞こえ、十数発のホーミングビームが弧を描いてゴーストに直撃した。

見上げると、青いIAD"テンペスト"が100mmマシンガンを構えながらパラシュートで降下してくるのが見えた。

ゴーストはテンペストの方へ顔を向けた。

その直後、テンペストの隣で降下してくる黄色いIAD"ギガンティック"が両肩のキャノン砲を放った。

ゴーストの首がもげた。

ゴーストが悶え始め、鉄の地面を何度も叩きつける。

 

「うわぁあぁあ!!」

 

周りの見えないゴーストの尻尾がネメシス08に打ち付けられようとしていた。

テンペストもギガンティックも着地姿勢を取っていて助けられない。

その時だった。

ネメシス08のツインアイが煌き、大蛇の荒ぶる尻尾を受け止めた。

パイロットは操縦していない。

完全に自立した挙動だった。

少年は驚きながらも操縦桿を握った。

(後は任せた)

そう言われた気がしたのだ。

 

「うぉおおぉぉお‼︎」

 

そのまま槍を突き刺し、尻尾から首にかけて、縦に斬り裂いた。

ゴーストは断末魔の如く甲高い声を上げて形質崩壊を起こした。

彼らは仕事を終えた。

 

 

 

 

少年は脱力していた。

息を切らし、死と隣り合わせから解放された安心と、集中力の開放で力が抜けていた。

 

「これが…戦場……」

 

少年は彼方上空から近づいてくる回収艇を見つめた。

ちょうど太陽とかぶり、大きな影を落とす。

 

「明日、入学式だ………」

 

脳裏に浮かぶ桜吹雪を掴むように手を伸ばす。

すぐそこに見えてたのに、どう足掻いても届かない。

少年は燦々と輝く太陽にかざした手から力を抜くと、そのまま意識を失った。

沈黙が支配するコックピットに、歌声が小さく響いた。

 

ーsomewere over the rainbowー

 

それは子守唄のように少年を包み込んだ。




どうも星々です!

オリジナル初挑戦です!
リアルロボットもスーパーロボットもどちらの要素も頑張って入れていきたいと思います
主人公機はスーパーロボット臭プンプンですねw
割と見切り発車気味ですが、よろしくお願いします

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