光明機動ネメシスエイト   作:星々

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第八話「Remember」

一向は北海道近海へ到着した。

ここからは小型のボートで上陸するのだが、温暖なハワイから寒冷な北海道へ来ると、その気温差で寒さが倍増する。

 

「へっくちっ! あーもう! なんでこんな通気性抜群なボートなのよ!」

「仕方ないでしょ。私は連邦にとっては敵軍人、イスダルンにとっては恐らく反逆者なのよ。あまり目立つわけにはいかないの。」

 

冷たい風を直に受けながら陸地へ向かうボート。

サクラ以外はコートに身を包み、フィルシアに関しては寒さに弱いらしくブルブルと震えている。

 

「でもさすがに遭難者って言うのは無理がありませんか? そんな都合よく拾ってもらえるとは…」

『----ザッ-----こちら漁船白夜丸! 救難信号を受け取った、これより救助する!』

「拾ってもらえるとは?」

「何でもないです」

 

ノイズ混じりの通信の後、波の間から白い漁船が見えてきた。

どうやら大漁だったらしく、船に旗を挙げている。

 

「うわぁーあれも通気性良さそう…」

「我慢しましょうよフィルシア。」

「何でそんな平気な顔してられるのユリぃ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、ハルトとイクスの乗るISC。

この艦は今、アマツとカグラを乗せて旧ロシアのカムチャツカ基地へと向かっている。

グランクラッシャーによって動作不能に陥ったマニピュレーターを始め、機体各所の異常や故障をなおすことが目的だ。

 

「私としては、今すぐにでも彼を追いたいところだが……ハワイから飛び立った後に見失ってしまった。」

「案外すばしっこい奴らですわ。あの盗人も一緒ですし。」

 

今まで窓の外に流れる白い雲の波に向けられていた目がイクスに向いた。

ハルトが気付けばイクスは、彼を真っ直ぐ見つめていた。

 

「盗人?」

「えぇ。ギガンティックアサルトのパイロットとは、少しばかり顔見知りでしてね。」

「そうか…その言動だと、破壊されたはずの骨董品(ネメシスタイプ)は奴らに盗まれたものと?」

 

イクスはハルトの問いに笑顔を返すだけで、手に持ったグラスを揺らす。

ハルトは少し笑うと、再び視線を窓に戻した。

しかし、今度は窓に映った自らの仮面を眺めていた。

 

「まぁあの機体の成り立ちがどうあれ、私は心を奪われた。必ずや再戦し、全力をぶつけてみせるさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘンズたちは北海道に上陸すると、サクラに導かれるままある場所へ向かった。

水中を通ってきたコンテナを、現地で調達したトラックに乗せて。

 

 

 

人気のない住宅街を抜け、山道へ差し掛かった時、サクラはトラックを止めた。

降りてみると、そこは古びた工房だった。

 

(せき)(さだ)…工房?」

(いかり)工房よ。」

 

トラックに鍵をかけたサクラは、堂々と工房の敷地内へ入っていった。

正面にシャッターの開け放たれた建物があり、サクラはそこに足を踏み入れた。

その時、この工房の主人らしき人物が、こちらに背中を向けて作業しながら言った。

 

「悪いがウチは軍の仕事は受けねぇよ。隠してるようだがその匂いは隠しきれてないね軍人さん。悪いが帰ってくれ。」

「この私でも?」

 

屈んで作業する男の背中にサクラの影が落ちる。

男は驚いたように振り返り、ゴーグルをあげた。

オイルで少々汚れているがその顔は整っていて、かつての美青年の面影が感じ取れる。

彼はかつて、連邦軍のメカニックマンとして、特殊部隊アポカリプスに参加した男。

 

「お前…サクラか!?」

「久しぶりね、シンジ・アンカー。」

 

30代前半の男、シンジは、かつての戦友サクラとの再会に驚いていた。

目を見開いたまま握手を交わす。

 

「これは驚いた。フィルシアも…それにあの、リルモアのパイロットもか…!?」

「だいぶおじさんになったねシンジー」

「人は時間が経てば老けるもんだ、お前も例外ではなく、な。で、その少年は?」

 

ユリの隣で歩いてきたヘンズを指差すシンジ。

 

「彼はヘンズ君よ。ネメシスアークのパイロットの。」

「ほぉ……ネメシスアークの…」

 

(3A(スリーエー)計画は実行されたのか…)

 

「ということはアレか? その積荷はネメシスか?」

「いい勘してるわね。その通りよ。」

「で、そんな大物持って、俺に何の用だ。」

 

早速本題へと切り込んだシンジ。

サクラも何の疑問もなく話を進める。

 

「できれば2人で話がしたいわ。どこかゆっくりと話が出来る場所へ。」

「了解した。ちょっとした休憩所だが我慢してくれ。」

 

そう言って、奥の部屋へサクラを案内するシンジ。

何も状況が掴めぬまま立ち尽くすヘンズは、ネメシスアークが入っているコンテナに寄りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を閉める音と共に、その小部屋は静けさに包まれた。

工房内ということもあって防音壁で囲まれたこの部屋は、外から内部の様子を見ることはできても音は一切聞こえない。

 

「で、話ってなんだ?」

「……情けない話だけど、あなたの力を借りたい。私たちじゃ、あの人を救うことはできない。」

「…ユウか……」

 

シンジはコーヒーを紙コップに注ぎ、それをホルダーに収めてサクラに手渡した。

 

「2年前のあの報告書の内容…あれは本当か?」

「えぇ。」

「にわかには信じ難い話だな…」

 

シンジはパイプ椅子に腰を下ろすと、山積みになった書類をよそへどけて肘をついた。

サクラは終始何処を見るともなく見たまま、時折コーヒーに口を付けるだけだ。

 

「あのこと、パイロットは知ってるのか?」

「ヘンズ君にはまだ話してないわ。ショックを受けてネメシスを降りるなんて言われたら困るもの。」

「内容が内容だからね…」

 

しばらく黒い湖面を見つめる2人。

過去の記憶を思い返すように、静かに時は過ぎる。

 

「それじゃ、具体的な依頼内容を聞くとしようか。」

 

シンジはコーヒーを飲み干し、サクラに向き直った。

 

「そうね。端的に述べるのなら、私が依頼したいのは"彼の救出"よ。」

「救出か。まだあそこにいるって確証も無い、そもそも生きてるかどうかも…」

 

シンジはガラス窓の向こうに見えるコンテナに横目を向ける。

それに寄りかかる少年と交互に見る。

 

「よし……その依頼、受ける。」

「助かるわ。」

「お互い様だ。」

「え?」

 

シンジはカップを片付けながら、サクラに言った。

 

「俺たちは12年前、まだ若すぎるお前たちに助けられた。その恩だよ。」

 

シンジは仕事道具の入った鞄を肩に提げ、コンテナの方へ向かった。

その足取りは力強く、一歩一歩を踏みしめていた。




どうも星々です!

今回はメカニックマンのシンジが登場しました
と言っても、物語的には謎が深まるばっかりでいい加減クドくなってきちゃいましたかな?w
まぁ何はともあれ物語後半戦ですので、近々大きく動くと思います


あ、それと
本作の外伝作品も連載中ですので良ければそちらも併せて読んでいただけると嬉しいです
本編で語られたことの裏話や、ちょっと気になる言動の真意が語られる…かも

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