フライトユニットを装備したギガンティックアサルトに連れられるままハワイの沖に出たネメシスアーク。
その先の海上にうっすらと艦が見えてきた。
「あれって、イスダルンの空母じゃないですか!?」
「うん、そうだよー。」
「そうだよって…どういうつもりですか!」
ヒト型形態に変形してギガンティックアサルトにライフルを突きつける。
ヘンズは険しい表情でフィルシアを問い詰めようとする。
「あそこにはウチの頼れる親友がいるから安心しな。さっき襲撃してきた奴らとは別って考えてもらえると助かるなー」
「はいそうですか、とは言えませんね。」
「うん、その機体のパイロットとしてはそれくらい賢いければ合格点あげられるね。」
フィルシアはそう言うと、ニヤリと笑って見せた。
しかし、目は笑っていない。
「でも、お姉さんの言うことは聞いた方がいいぞ。なんなら、無理やり引っ張っていくこともできるしね。」
ヘンズは本能的に危険を感じた。
はっきりとした根拠があるわけではないが、目に見えないプレッシャーが全身を駆け巡った。
「ヘンズ君、彼女は信頼できるわ。」
「ユリさん…分かりました。」
ヘンズは少しばかり不本意ではあったが、大人しく彼女に着いて行くことにした。
冷静になってみると、もし彼女がイスダルンの人間ならばヴァイパーを攻撃した事実は理解し難いところがあるのがわかった。
しかし、イスダルンの艦に乗るのには抵抗がある。
だんだんと近付いてきたその艦の甲板に、1人の軍人が立っていた。
桜色の長髪を潮風に揺らし、完璧に着こなした色気のない軍服に彩りを添えている。
ギガンティックアサルトが逆噴射をかけてゆっくり減速し、その見た目に似合わぬ優しい足取りで、ふわりと着艦した。
ヘンズは唾を飲んでネメシスアークを減速させ、着艦のために角度を調節する。
甲板とほぼ並行になると、まっすぐ艦に接近し目の前でヒト型に変形、着艦する。
その一連の流れはスムーズで、完璧に乗りこなしていることを物語っている。
「見事ね。」
甲板に立つ桜髪の女性がそう呟く。
尖ったサングラスで表情を隠しているので彼女の心境は読めないが、内心的にはかつての戦友の姿を重ねていたのであろう。
ネメシスアークの腹部が開き、白髪の女性、ユリが身を乗り出した。
彼女は笑顔を向けると、ワイヤーを垂らして甲板に降りる。
先に降りていたフィルシアの元へ小走りし、桜髪の女性と握手を交わす。
「久しぶりね。サクラ・ルル。」
「えぇ。ご苦労だったわ。ユリ・ノハナ」
桜髪の女性、サクラは、ユリと握手を交わすと、再びネメシスアークの方を見た。
ワイヤーが巻き取られ、コックピットに吸い込まれる。
しばらくして、再び人影が現れ、ワイヤーを手にした。
サクラはその姿を見て目を見開き、腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。
「ユウ君はどうしたの⁉︎」
「ちょ! 落ち着きなってサクラ!」
ユリに向けられた銃を手で抑えるフィルシア。
サクラの視線はユリに向けられたまま動かない。
「ごめんなさいサクラ……もう、手遅れだったわ。」
「そんな………! あの状態でもまだ生きてるって…そう言ったじゃない!」
サクラのサングラスから涙が落ちた。
目は見えないが、その涙の量は彼女の悲しみの数値として読み取れるだろう。
たまらず甲板から去ろうとするサクラ。
抑止するフィルシアを振りほどいて走って行ってしまった。
「待って!」
ユリの声も虚しく、サクラは艦の中に走り込んでしまった。
「まだ…死んでないのよ…………!」
「何だよ。イスダルンの艦に降りてまでネメシスアークを運んだっていうのに、僕じゃダメだったのかよ…」
ヘンズは艦の食堂で1人、パンをつまんでいた。
「そういえば…誰なんだろ、ユウって。」
1人でパンを食べていると、食堂にフィルシアが入ってきた。
彼女はベーコンレタスサンドを手に取ると、ヘンズの右隣に座る。
「ごめんね、サクラが急に銃向けたりして。」
「いえ、何か事情があるんですよね?」
「まぁねー、うん。」
普段は明るいフィルシアの表情が、一瞬だけ暗くなった。
それを見逃さなかったヘンズは、その意味を聞こうと口を開いた。
「何があったんですか? その…ユウって人に。」
「やっぱそこ気になるよねー。あんまり詳しいことは話せないんだけど…」
フィルシアは手に持ったベーコンレタスサンドを眺めながらゆっくりとした口調で話し始めた。
「本当はね、ユウ君を連れてくるっていう約束だったの。まだ生きてるっていう、僅かな希望に賭けてね。」
「死んだん…ですか?」
「それはまだ分からない。多分今、ユリとサクラが話して次の手を練ってると思うよ。ただ、さっきのハワイでの件で、サクラも反逆者の仲間入りだから行動の制限がある程度かかっちゃうかもだけど。」
ヘンズの中のネメシスアークへの謎は深まるばかりである。
そこに、桜髪の女性、サクラが入ってきた。
「おーサクラ。」
「………」
サクラは無口なまま野菜のスープを持ってヘンズの隣に位置取った。
サングラスを外し綺麗な瞳を露わにすると、彼女の口から出たのは詫びの言葉だった。
「さっきはごめんなさい、急に銃を向けたりして。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
少し付き合いづらい堅苦しい性格だというヘンズのイメージとは裏腹に、サクラの眼には感情が溢れていた。
その奥には優しさや慈悲が感じられ、どこか暖かみのある雰囲気だった。
「で、サクラ。次の一手は?」
フィルシアがヘンズの前に身を乗り出した。
サクラは静かにスープに口を付け、フィルシアの問いに答える。
「私たちでは知識が足りないわ。よって、本艦はこれより旧日本の北海道へ向かうわ。」
「北海道…彼に頼るの…?」
「今は仕方ないわ。現に貴女に頼ってるでしょ?」
「それもそうだね。」
ヘンズは終始目をぱちくりさせながらその会話を聞いていた。
理解できたのは、これから北海道へ行くということだ。
「あの…」
「何?」
気になっていたことを尋ねようとすると、サクラから意外と鋭い二文字が飛んできた。
一瞬ではあるがびくっとするヘンズ。
「ちょっとぉサクラ? またあの癖が出てるって。で、何? ヘンズ君。」
「あ、あの、ユウっていう人について詳しく聞かせてくれませんか?」
黙り込む2人。
食堂に重い空気が流れる。
波に揺れる艦にシンクロするように、スープが揺れる。
静かに、淡々とした食事が再開された。
妙に気まずくなった状況に、ヘンズはただパンをつまむばかりである。
ユウという人物は何者なのか。
そしてその行方は一体。
ヘンズがそんなことを考えても、答えが出る訳がない。
一向は一路、旧日本最北の地、北海道へと向かう。
どうも星々です!
だいぶ間が空いてしまいました(汗)
最近、多忙に加えどうやらスランプというものがやってきたらしいです(という言い訳)
さて、消えたユウについて少し語られた今回でしたが、まだ謎は解明されません!
そもそもアイツ生きてんのか?w