光明機動ネメシスエイト   作:星々

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第六話「まだ見ぬ明日を」

「くっ…かなり洗練された部隊だ。気を付けろよ少年!」

 

ヴァイパーを次々と斬り倒すアマツ。

軍屈指の実力を持つハルトでさえ、ヴァイパーの圧倒的物量に押され気味になる。

時折ネメシスアークとアマツが背中を合わせ、同時に敵機の群れに斬り込む。

一方は槍、一方は双刀で乱舞する。

彼らは意外にも息を合わせ、物的差異を補っている。

 

「完全に包囲されてしまったわね…ッ」

「早く片付けないと、増援があるかもしれません。赤いIADの人!」

「私に指図するとは、いい度胸だ!」

 

接近してきたヴァイパーに対して体勢を低くして脚払いをするアマツ。

同時に横に大きく回転させたネメシスアークの槍が、アマツの頭上を通過してヴァイパーを纏めて斬る。

アマツは前転するように踵を振り上げ、ネメシスアークの槍を蹴り上げる。

ネメシスアークの手が支点となり地面に叩きつけられた槍は、その刃先で正面のヴァイパーを真っ二つに破壊する。

アマツも着地時に天羽々斬を叩きつける。

 

「アシストしながらあの動き…凄い…!」

 

本来、単機で大多数を相手にすることを想定されていないアマツだが、ここまで敵機が密集していればそれは多手多足の巨大な敵と一対一で戦っているようなものだ、と彼は考えている。

この発想も、それほどの実力があってこそなのであろう。

 

「12年前の機体でそこまで戦えるのも大したものだな!」

「コイツのお陰ですよ…ッ!」

 

これまでかなりの数を倒したつもりでいたヘンズだったが、敵の数はまだまだ半数以上残っている。

流石のハルトも表情に余裕が無くなり、動きに疲れが出て来始めている。

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘンズ君、アレ!」

「さっきの輸送艦!?」

「ここに来て…!」

 

イスダルンの輸送艦が5隻、戦場上空を通過していった。

それらは市街地までたどり着くと、また5機ずつIADヴァイパーを投下していった。

 

「貴様ら…何故そこまでここハワイを潰したがる! まだ見ぬ明日に心躍らせる人々の未来を奪って、どうしたいというのだ!」

「非情なんですよ! もっと違うやり方があるでしょ! 民間人まで巻き込んで!」

 

パラシュートを広げて市街地に降りていくヴァイパーにそう怒鳴りながらも、目の前に立ちはだかる20機以上のヴァイパーに苦戦を強いられている。

そんな彼らに目もくれずに市街地へ侵攻するヴァイパー。

 

「こんのおぉぉぉお‼︎」

「突出しすぎだ少年!」

「でも、無理やりにでもここを突破しなきゃ民間人が‼︎」

 

ぞろぞろとネメシスアークを抑え込まんと群がるヴァイパー。

ネメシスアークを引き戻すアマツだが、その間にも市街地が侵されていく。

だが、そこに一発の弾丸が撃ち込まれたことにより、状況は一変した。

 

「その心配はないよー。」

 

別方向から、黄色い機体が飛来した。

背中からフライトユニットを切り離してヴァイパーの眼前に着地した。

その機体のパイロットと思われる女性の声に、ユリが反応した。

 

「その声…! 久しぶりね。」

 

強化コンクリートも砕けるほどの重量を持つその機体がゆっくりと顔を上げる。

土煙が晴れると、そこには背中に大口径ビーム砲を2門、左腕は2連装ビームガトリングガンになっていて、右肩にはビームバズーカがマウントされている。

 

「ふっ…頼れる骨董品がもう一品現れたようだな。」

「なんと失礼な! この機体()にはれっきとした名前があるんだよ!」

 

ハルトが骨董品と称した機体は重い左腕を上げ、2門のビームガトリングガンから弾丸を吐き出した。

その弾丸に崩れる先頭のヴァイパー。

 

「よっと。んじゃ行くよ! ギガンティックアサルト、久しぶりに暴れるよー‼︎」

 

黄色いIAD、ギガンティックアサルトは、その重い身体から無数の弾丸やホーミングビームを放つ。

ギガンティックアサルトはネメシスアークと同系列にあるIADで、後方支援に特化したギガンティックに単独戦闘力を与えた機体だ。

とは言え、基本的にはあまり動かずに手数で攻めるスタイルだ。

 

「やっぱり、フィルシア・ナイトウォーカーなのね!」

「お久しぶりだね、ユリ!」

 

ギガンティックの飛来により侵攻の足が止まったヴァイパー部隊。

ネメシスアークとアマツを包囲していた方も、道を塞ぐようなフォーメーションに変更していたため、実質的に挟み込まれる形になった。

しかし数は圧倒的な差がある。

 

「この数をどう埋めるかだが…」

「あら、私を忘れてもらっては困りますわ。」

 

 

 

 

 

ネメシスアークから見て左の方向から、新たな熱源反応があった。

始めはIADだと思ったが、それは一発の弾丸。

ここにいるどの機体の索敵範囲にも入らない距離からの狙撃だった。

 

「遅いぞイクス!」

「少々調整に時間が掛かってしまいまして。」

 

ここからまだ生きているビルの一つ。

大手食品メーカーの本社ビルの屋上に伏射姿勢でスナイパーライフルを構える機体に乗っていたのは、ハルトの相棒(バディ)、イクスだった。

その機体は全身緑色に塗られ、姿形はアマツと瓜二つだ。

 

「それにしても流石は軍の特注品ですわ。この()()()、素晴らしい性能ですの。」

 

喋りながらももう1発放つカグラ。

それも的確にヴァイパーを撃ち抜いていく。

 

「とにかく、援護してくれているんですね!」

「私の相棒(バディ)がな!」

 

仲間の登場に勢いを取り戻すアマツとネメシスアーク。

 

「そろそろ軍も準備できた頃ですわ。そちらに向かう間、少し援護射撃ができなくなりますので、ご了承ください。」

 

カグラはスナイパーライフルを左肩にマウントし、ビルから飛び降りた。

着地地点には、連邦軍の量産型ウォーリアー部隊が待機していた。

カグラはウォーリアーを引き連れ、ヴァイパーの元へ向かう。

 

「お久しぶりですわ、そこの黄色いIADのパイロットさん。10年ぶりかしら?」

「もうそんな経つのかー。光陰矢の如しだねっ!」

「私の若さは、貴女がその機体を盗んだ時から衰えてはいませんのよ?」

「そのムカつく口調も変わってないようだねー。」

 

カグラがギガンティックアサルトと合流した。

後ろには量産型ウォーリアーの部隊が付いている。

今までネメシスアークとアマツが減らしてきた敵の数を考えると、これで数は同等になった。

否、こちらには特注機が2機にオーバーテクノロジーを持つ機体が2機いる。

状勢は逆転した。

 

「数は揃った! 行くぞ少年‼︎」

「えぇ‼︎」

 

ネメシスアークが腰にマウントしてあったライフルを握り敵に向けてトリガーを引く。

最新鋭のIADの装甲を簡単に貫く強力な圧縮されたイミュー粒子が撃ち出された。

それに続いてアマツが敵に飛び込む。

 

「アマツの奥義、見せてやろう!」

 

アマツは敵一歩手前で大きく跳躍し、敵部隊の中心を着地点に定めた。

 

「喰らえ、グランスマッシャー‼︎」

 

着地と同時に手を地面に着くと、そこを中心に地割れのような現象が発生し、めくれた強化コンクリートの塊が空高く弾き上げられた。

それは弾丸となって()からヴァイパーを襲う。

これは、掌に仕込まれたグランスマッシャーの本体から強力な超電磁場を発生させ、その電磁フィールドに反発した強化コンクリートが撃ち出されるというものだ。

使える状況がかなり限定されしかも一時的に機体がオーバーヒートを起こす為、本格的な実用化は見送られたトンデモ兵器だが、このアマツにはハルト本人の希望によって搭載されていた。

 

「今だ少年‼︎」

「行っけぇぇえぇえええ!!!」

 

ネメシスアークの翼から大きな青い光が溢れ、手に持った槍と共に突撃した。

その速度は一瞬にして音速を通り越し、衝撃波によって周囲のヴァイパーさえも巻き込んでいく。

 

「フィルシアさん!」

「イクス!」

 

アマツのグランスマッシャーとネメシスアークの突撃による衝撃で無防備に空中へ舞い上がったヴァイパー部隊。

それに向けてキャノン砲やらマシンガンやらを放つウォーリアー部隊の前で、黄色い機体と深緑の機体が狙いを澄ます。

ギガンティックアサルトは背中の2門の大口径ビーム砲を、カグラは右肩のビームカノンを、それぞれ構えた。

2機は同時にそれらを放ち、極太の光の束がヴァイパーを飲み込んでいった。

 

 

 

ここに、イスダルンのハワイ侵攻部隊は全滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった……」

 

ようやく幕を閉じた戦闘に安堵の表情を浮かべるヘンズ。

 

「ちょっと、早く逃げなきゃ! これでも一応追われてる身なのよ。」

「そーだよ2代目パイロット君! あれ、3…4代目かな? まぁとにかく、こっちに着いてきな!」

 

ギガンティックアサルトが背中に折り畳まれていたフライトユニット(先程の切り離したものとは別物)を広げると、急いで背部ブースターに点火する。

 

「ハルト、逃げてしまいますわよ!」

「悪いが…グランスマッシャーの反動で動けん。」

 

グランスマッシャーを放った体勢のまま微動だにしないアマツを一瞥し、ヘンズはネメシスアークを高速移動形態へ変形させた。

アマツに駆け寄るカグラも、どうやらビームカノン発射の影響で動きが鈍くなっているようだ。

一方で、ネメシスアークもギガンティックアサルトも、その衰えない動きで戦闘エリアを離脱していく。

ハルトが骨董品と称した機体は、今だその性能で他を圧倒している。

 

「今回は我が国の領土を守ってくれた礼として、見逃してやる。しかし、次に会った時は必ずや貴様を倒してみせるぞ…!」

 

ハルトはネメシスアークに通信を入れた。

仮面で目元は見えないが、その表情は笑っていた。

 

「ヘンズ・エフォート。僕の名前です。」

「ハルト・涼波だ。」

 

通信でのやり取りであったが、彼らの心の中では確実に、握手が交わされていた。




どうも星々です!

今回は少しばかり急ぎ足だった気もしますが、スーパーロボット系の"お約束"である必殺技を登場させました!
と言っても、ネメシスアークのものではないですがw
実はあのグランスマッシャー、元々はビームスマッシャーという名前だったんですが、「ビームのスマッシュってなんだよ」と思い、今の名前に落ち着きました
今後も必殺技が出てくるかもしれませんので、楽しみにしてていただけると嬉しいです

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