光明機動ネメシスエイト   作:星々

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第四話「「Are you Ready?」」

なんとかアマツを振り切ったネメシスアークは、そのまま太平洋に向けて空を飛んでいた。

この機体は12年前のアポスル神話計画の遺産"ネメシスタイプ"の直系で、素体であるリリスから放出されるイミュー粒子を原動力としている。

そのため、活動限界は無いに等しく、無尽蔵なそのエネルギーを利用した大出力兵器の使用も可能だ。

12年経った現在においても、その技術はオーバーテクノロジーと言える。

 

「で、どこに行けばいいんですか? てか、この機体って何なんですか?」

 

ヘンズはユリに当然の質問をした。

飛行可能なIAD、しかも可変機構もついていて、戦艦並みの大出力ライフルを使用可能という、常識では考えられない性能を有している機体というのは、誰が見ても疑問に思うだろう。

 

「そうね…君は、12年前のゴースト抗戦は知ってる?」

「12年前っていうと、まだ3歳だったんで、覚えてないです。どこかでチラッと聞いた程度しか。」

「そう。実はあのゴースト抗戦は、地球連邦軍がこの機体()を作るために行った実験の失敗の後始末だったのよ。それも、この機体の試験運用も兼ねたね。」

 

ユリのゆっくりとした声を真剣に聞くヘンズ。

 

「その時ゴーストと戦った人たちは歴史から消されちゃったんだけど、私はね、その人たちのことを忘れちゃいけないと思ってる。」

 

懐かしむように手を見つめるユリ。

その手には、ADパイロット独特のタコがある。

 

「つまり、連邦は自分たちの兵器開発のために、多くの人たちを巻き込んだってことですか?」

「そういうことね。人のすることじゃないわ。」

「なるほど……てか、何で連邦に追われてるんですか? これ、連邦が作ったIADなんですよね?」

 

当然といえば当然の疑問だった。

しかし、何も知らない人のには、だ。

 

「君も分かったと思うけど、この機体には多くのオーバーテクノロジーが使われてるの。12年前のアポスル神話計画に関わったものを闇に葬り去った連邦も、この技術が欲しいのよ。」

「歴史から消しといて、今は力尽くにでも手に入れたいってことですか。」

 

地球連邦軍前総司令官ピーター・シャーウッド亡き今でも、地球連邦とイスダルン国との戦争は潰えることを知らなかった。

数で劣るイスダルンが性能で勝っている状況も変わらず、連邦軍はネメシスタイプというオーバーテクノロジーに頼ろうという択を選んだのだ。

かつて50機のみの少数生産された量産型のデータの復旧を試みた連邦軍だがそれは叶わず、結局このネメシスアークを取り戻そうとしている。

だが、この過剰な性能が量産され戦線に投入された場合、今よりも戦争は激化し、多くの尊い命が失われることは目に見えている。

 

「嫌な大人たちですね。」

「残念ながら、この世界の大半はその部類よ。」

 

ゴースト抗戦の被害者とも言えるネメシスタイプのパイロットたち。

その彼らと戦ったユリ。

彼女もまた、アポスル神話計画によって人生を狂わされた被害者とも言えるだろう。

 

「で、これからどうするんですか? 一生逃げ続けるんですか?」

「いいえ。私はこの機体をあるべき場所に還さなきゃいけないの。手伝ってくれる?」

「え、えぇそりゃ、ネメシスアークに選ばれたパイロットですから。それで、そのあるべき場所って何処なんですか?」

「旧日本、江ノ島よ。」

 

その地名を聞いて驚くヘンズ。

それもそうだろう、何せ旧日本の関東は今は海となっている。

12年前のゴースト抗戦によって陸地が蒸発してしまっている。

 

「江ノ島って、今はもう海ですよそこ!?」

「えぇそうね。でも、本来この機体、いえ、素体であるリリスはそこにあるべきなんだって、あの人は言ってたわ。」

「あの人?」

「この機体の最初のパイロットよ。私は当時、彼のことが好きでね。今はあの人の願いを叶えるために戦ってるの。」

 

ヘンズは黙った。

彼には友人と呼べる人も、家族もおらず、思い出せるような人がいることが羨ましいと思った。

 

「とにかく、今は江ノ島に向かってちょうだい。」

「でも、その場所の細かい位置は割れてるんですか?」

「そこは心配しないで。きっと私の頼れる仲間が探してくれてるわ。」

 

ヘンズはそれを信じることにし、ネメシスアークの進路を江ノ島に向けた。

ネメシスアークは、空に青い軌跡を残しながら疾走する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球連邦軍南米サンタクルス基地。

旧ボリビアに位置するここは、今は無き旧日本小田原基地に次ぐ、先端兵器研究開発の基地だ。

ここでアマツの主武装、"天羽々斬(アメノハバキリ)"が開発され、今も急成長を見せている。

そこに立ち寄った地球連邦軍のIADパイロットがいた。

仮面で目元を隠した彼は、若くして中佐の地位を獲得したエースパイロットだ。

 

「ご苦労様ですハルト・涼波(スズナミ)中佐。」

 

整備兵の一人が彼を出迎えた。

今彼の愛機、アマツは整備中で、細かいスペックアップも同時に施される予定だ。

 

「例の機体、戦ってみてどうでしたか?」

「素晴らしい機体だ。基本スペックはアマツの方が上だろうが、火力と柔軟性がある。何より、人型でも空が飛べるあのイミュー粒子放出量が、12年という歳月を感じさせない性能を実現している。」

 

仮面のエースパイロット、涼波ハルトはネメシスアークを思い浮かべていた。

彼はネメシスアークに神々しさを抱いていた。

骨董品という表現は間違っていたとは思わないが、それでも逃してしまったという己の実力不足を実感する。

 

「なら、我々がそれを超える機体に仕上げてみせますよ。」

「それは頼もしいな。では私はこれで、上からお呼びがかかっているのでね。」

 

そういってこの場を後にするハルト。

彼は心の中で、ネメシスアークと、否、ネメシスアークのパイロットともう一度手合わせしたいと思っていた。

日本人の血が濃い彼の中の、武士道や大和魂といった心理的な要素が、彼をこうさせていた。

 

 

 

 

 

 

「失礼します。」

 

ハルトは基地内のとある一室に入った。

そこには連邦軍の制服を着た男が椅子に鎮座していた。

 

「お久しぶりです、エリック・ノヴァ准将。」

「大きくなったなハルト。10年ぶりか。」

 

中央に花瓶が置かれたローテーブルに向き合うように座る位置に案内され、それに従って座るハルト。

正面にはかつて特殊部隊アポカリプスを率いたエリック・ノヴァがいるのだが、間に見える花瓶に刺された一輪の薔薇の花が2人の距離を遠く感じさせていた。

 

「ご用件は?」

「そんな大したことじゃないんだが……」

 

准将という高い身分の人間が一パイロットに直接頼みごとをするのは異例のことだが、ハルトは表情を変えずにエリックの言葉を待った。

その顔に緊張の色はないのだが、やはりどこか離れた位置にあるような雰囲気がある。

 

「お前がこの前交戦したネメシスタイプ、あれを少しばかり追ってはくれないか? 正式な捕獲任務が失敗に終わったのは知っているが、これは友人としての頼みだ。」

 

友人、という言葉を聞いてか、ハルトは表情を緩め、目元を隠す仮面を外した。

切れ長の目と綺麗な鼻筋が露わになる。

 

「丁度私も、あの機体との再戦を望んでいた次第です。その依頼、喜んで受けさせてもらいましょう。」

 

2人は握手を交わし、互いの信頼を確かめ合った。

それと同時に、再会を喜ぶような表情も見え隠れする。

 

「お礼と言っちゃなんだが、お前には最高の相棒(バディ)をつけてやる。」

相棒(バディ)?」

 

エリックが合図すると、部屋の扉が開いてある人物が入ってきた。

紺色の長髪を背中に揺らし、すらりと伸びた脚をゆっくりと歩ませる。

軍人とは思えないほどに美しい肌が光る。

 

「紹介しよう、彼女はイクス・ナッハフォルグ。こう見えて腕利きのIADパイロットだ。」

 

イクスはハルトに歩み寄り、その手を出した。

彼女の手に手を重ねて握手する。

 

「あなたの武勇伝は耳に入っていますわ。よろしく、ハルト。」

「こちらこそ宜しく頼む。失礼だが、階級は?」

「階級など持っていませんわ。私はただの傭兵。クライアントの指示に従うのみです。」

 

久しく傭兵という言葉を耳にしていなかったハルト。

それもそのはず、地球連邦では軍以外の組織が無断で兵器を所持することを禁止しているからだ。

そのため現在主流のIADも、型落ちのADさえも民間の手に渡ることは無かった。

よって、兵器あって初めて仕事ができる傭兵を生業とする者は絶滅したと思われていた。

 

「傭兵…面白いな、いい相棒(バディ)になりそうだ。」

「私も同意見ですわ。一緒に戦いましょ?」

 

 

 

 

 

 

 

その後、ハルトとイクスはイミュニック・ソニック・クルーザー(ISC)を支給され、2人でサンタクルス基地を離れることになった。

それに伴い、アマツの改修作業は急ピッチで行われ、翌日の昼には出発できるとのことだった。

 

「さぁ覚悟はできているか少年…!」

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも星々です!

元アポカリプスリーダーのエリック・ノヴァ特務大佐が准将へと昇格して登場です!
おまけに新キャラも登場しましたね、書いてる自分もこれから楽しみです

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