ユリがコックピットに座り、ヘンズは後部座席に座った。
このIADは現在になっては珍しい複座式で、メインパイロットとオペレーターの2人による搭乗を想定しているらしい。
とは言っても、パイロット1人で両方こなすこともでき、今回のヘンズのようにオペレーターをしない人が乗る場合の方が多いと考えられる。
「整備までしてくれるなんて…よし、飛べるわね。」
ユリは淡々と、手早くシステムを起動させ、周囲の状況を確認した。
ウォーリアーが4機とデータなしが1機。
主に重装甲型から成る部隊だ。
「あれ、でもあの隊長機、あの機体だけ高機動型ですよね? ウォーリアーじゃないっぽいですけど。」
「えぇ、不釣り合いだわ。」
ダークグリーンの重装甲型ウォーリアーの中央に立つ真っ赤な高機動型IAD。
その色とも相まって、とてつもない存在感を放っている。
「とにかく、この状況から脱却するわ。」
「逃げるんですか?」
「無駄な争いは好きじゃないの。」
「そうですか。」
ユリは操縦桿を握る。
すると、全天周モニターの正面に警告文が表示された。
-mismatch your DNA-
「どういうこと!? 私を選んだんじゃ……まさか!」
ユリは勢いよくヘンズの方へ振り向く。
「そういうことね…相変わらず、何言い出すか分かんないわねキミ……」
「えっと、これはどういう…?」
ヘンズが戸惑っていると、ユリはヘンズの肩を掴んだ。
今度は強い眼差しで。
その綺麗な瞳に見惚れそうになりながらも、何かを感じるヘンズ。
「今からキミが、この
「…………………え?」
理解が遅れるヘンズ。
しばらくして、ようやくその言葉を飲み込んだヘンズは、大声をあげた。
「えええぇぇえぇえ!?」
シートに倒れこむヘンズ。
確かに、何かが大きく変わりそうな予感はあったが、一少年兵だった彼がいきなり未知のIADのパイロットになるなんて想像していなかった。
「何で僕なんですか!?」
「この機体があなたを選んだのよ。今この世界で、この機体を動かせるのはあなたしかいないの!」
ユリの強い眼差し。
その言葉も、彼の心を動かすのには十分な強さがあった。
言葉を返せずにいたヘンズを、またその胸に抱きしめるユリ。
「大丈夫…私とこの機体が、あなたを守るわ。だから…私とこの機体を守って…!」
ヘンズは瞳を閉じて覚悟を決めた。
開いたその目は、いつになく悠々しいものだった。
「やります。やってやりますよ!」
そう言ってユリと座席を交換するヘンズ。
何故か、機体が喜んでいるように感じた。
「反応ありませんね隊長。」
「そろそろ最終警告を。」
赤いIADに接触回線で話しかける地球連邦の兵士。
赤いIADは腕を組んだまま動かない。
「否……動く!」
そう言った瞬間、前方のカムフラージュネットが盛り上がり、中からヒト型の機動兵器、IADが現れた。
慌ててライフルを構えるウォーリアー。
「やはり従わぬか…ならば、抑えるまで!」
隊長機は青い光を纏った2本の刀を構えた。
これは、金属製の刀表面に圧縮したイミュー粒子を纏わせるタイプの接近戦用兵装で、まだ本格的な実用化には遠いものの今までにない威力を誇る最新兵器だ。
現在はイミュー粒子の研究が進み、ある程度のコントロールが可能になったとは言えど、圧縮粒子を操作するのは高い技術が必要になってくる。
「この"
赤い機体が急発進しネメシスアークにその刀を向ける。
ヘンズはネメシスアークを半身になるように操縦してその斬撃を回避する。
「ヘンズ君、今は彼らから逃れることを考えるのよ!」
「分かってますけど…ッ!」
ネメシスアークを飛び立たせまいと、執拗に攻撃してくる赤いIAD。
何とかそれをかわし続けるネメシスアーク。
ヘンズはネメシスアークにビームランスを持たせ、それも使って天羽々斬を防ぐ。
しかし防戦一方ではダメだということは彼でも分かる。
「スプレーミサイルを使うのよ! 当たらないとは思うけど、目くらましにはなるわ!」
「スプレーミサイル…これか!」
ヘンズがスプレーミサイル発射のトリガーを引く。
すると、ネメシスアークの胸部が開きミサイルの弾頭が顔を出した。
「何!?」
慌てて防御姿勢を取る赤いIAD。
その隙を見逃さなかったヘンズは、パイロットとしてのセンスを十分持ち合わせていると言えるだろう。
「飛べ、ネメシス‼︎」
「しまった!」
ネメシスアークはスプレーミサイルを発射すると同時に、そのウイングバインダーを大きく広げた。
翼から青い光が噴き出し、ネメシスアークは大地を蹴る。
大空へ羽ばたいた。
「空に上がればこっちのものよ。もう追ってこられないわ。」
重装甲型ウォーリアーのキャノン砲やらライフルやらが飛んできたが、空を自在に飛び回るネメシスアークにこれは当たらない。
「隊長、間も無く射程から外れます!」
「出直しますか?」
だんだんと小さくなっていくネメシスアークを見上げるウォーリアー。
刀を納めた赤いIADも、睨むようにネメシスアークを見上げる。
「否、まだだ…」
「やっぱり凄いねキミ! 連邦のエースを退けるなんて!」
「僕じゃないですよ。コイツがやりかたを教えてくれたんです。」
ヘンズは2本の操縦桿の間にある半球型レーダーを撫でた。
彼は戦闘中、機体との意思疎通をしている気がして、強敵相手でも冷静にいられた。
「で、何処に向か-----」
-ピピピピピピッ-
行き先を尋ねようとしたヘンズの言葉を遮り、ネメシスアークが警告音を鳴らした。
レーダーには光点が2つ。
中央にあるのは自機だが、もう一方は猛スピードで接近してくる。
「な、何だ!?」
振り返るユリとヘンズ。
そこにはまだ小さいが、双頭の戦闘機が高速で接近しているのが見えた。
色は、赤。
「飛行能力のあるIAD!? アポスル神話計画は終わったんじゃなかったの!?」
「相対速度はヤツの方が速いですよ! 追いつかれます!」
徐々にその距離を詰める赤い機体。
焦る2人に通信が入った。
相手は言わずもがな、あの機体のパイロットだ。
『ネメシスタイプなどという骨董品では、この"アマツ"からは逃れられまい‼︎』
赤い機体、アマツはその翼をから、ビームで形成したカッターを飛ばした。
左右から回り込むように飛んでくるその刃をビームランスで弾くが、その間にもアマツは距離を詰めてくる。
「アイツ、可変機だったのか!」
「来るわよ!」
アマツは飛行形態でも自由に動く腕を広げ、2本の刀を抜いた。
『いざ、尋常に勝負‼︎』
剣尖が走る。
何とかランスで防いだが大きく体勢を崩すネメシスアーク。
「ヘンズ君、ライフルを!」
ちょうど背中を向ける形で斬り抜けるアマツ。
その無防備な敵に標準を合わせる。
発射。
ビーム兵器独特の発射音と共に放たれたその弾丸はアマツを貫いたように見えた。
しかし、アマツは紙一重でビームを回避していた。
『隙だらけだぞ!』
いつの間にか反転していたアマツは、天羽々斬を構えて突っ込んでくる。
発射の反動で反応が遅れるネメシスアーク。
「やばいやばいやばい!」
斬撃は命中した。
ランスは真っ二つになり、脚部の一部装甲を失った。
畳み掛けるように次の攻撃を仕掛けようとするアマツ。
その時、ネメシスアークがヘンズに何かを伝えてきた。
「え…お前も…!?」
「まさか…ここであの姿を晒すつもりなのね、ネメシスアーク。」
それは先に言ってくれと思ったヘンズ。
しかしそんなことを言っている場合ではないのはバカでも分かる。
ヘンズはコックピット上部のレバーを前方に倒す。
すると、ネメシスアークは奇妙な動きを始めた。
頭を引っ込め、腰を背中側に折り、ライフルを胸部に連結する。
肩のクリップドデルタの翼は主翼となり、ライフルは機首、脚部はメインエンジンとして働く。
そのフォルムはさながら"戦闘機"だ。
『変形した⁉︎ 聞いていないぞ!』
アマツと同じく飛行形態に変形したネメシスアーク。
否、高速移動形態という方が的確だろうか。
ほとんどのスラスターのベクトルを後方に集中したこの形態は、直線での高速移動に優れている。
又、クリップドデルタ翼の特徴として、高速域での運動性に長けるというのも特筆すべき点だろう。
つまり、空中での機動力でアマツに劣っていた状況が一変したのだ。
「可変機構って…ほんとに常識外れだなコイツ!」
それはアマツにも当てはまる。
互いに戦闘機に似た形態へと変形した2機。
ここに、数十年ぶりの機動兵器による
どうも星々です!
謎の赤い機体登場です!
ちなみにこの方、ネタ要員になるかもですw
格闘系戦闘機っていうよくわからん性能してますが、ほんとにふとした思いつきで登場させたんですが、ライバルとかその辺になりそうですね
全編の反省から、話のスケールを小さくしてみようと思います
人類がどうとかだと話大きすぎてどうしてもよくわかんなくなっちゃうんで