光明機動ネメシスエイト   作:星々

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沈黙ノ警告編
第一話「Crazy Lady」


それは突然現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫の山と化した街に舞い降りる赤い影。

それは少年を庇い、迫り来る量産型ウォーリアーの砲弾を喰らう。

弾けるような金属音が響き渡る。

舞い上がる砂煙から、再びあの影が立ち上がった。

 

「な、なんだコイツは!」

「キャノン砲が効きません、隊長ぉぉ‼︎」

 

コックピットを拳で貫かれた2機のウォーリアーはその見た目に反して、弱々しく地面にその背中をついた。

その身長にはまだ似合わない大きさのライフルを抱えてその光景を見ていた少年は、その場に崩れた。

脚に力が入らず、ただ震えていた。

 

「あ……あぁ…あ………!」

 

少年に、巨大な視線が向けられる。

怯える少年を一瞥したそれは、飛び立とうと膝を曲げた。

しかし、何かに気付いたように少年を掌に収め、後方へ飛び退いた。

 

「やめろ…! は、はなせ‼︎ はなしてくれ!」

 

巨大な掌の中でもがく少年。

しかし、数秒後に聞こえた音によって、彼は命を救われたことを知る。

先ほどまで少年とそれがいた場所に、ミサイルの雨が降り注いでいた。

仲間を殺された兵士たちが集まってきたのだ。

 

「そこの所属不明機! 武器を捨てて投降しろ! 従わない場合は撃つ!」

 

少年は悟った。

それのパイロットは従わないと。

自分の死を覚悟した。

その時、何かが爆発する音が数度に渡って聞こえ、戦闘した様子もないままに辺りは静まり返った。

 

「死ん…でない? 何が起きたんだ?」

 

それの掌が開かれた。

十数mの高さにある掌の上から、少年は瓦礫の山を見た。

周りに散らばる、ウォーリアーの残骸を。

はっとしてそれの顔を見上げる。

頭部の左側に深い傷を負っているそれは、その視線を再び少年に向けた。

すると、それは肩の翼を広げて飛び上がり、そのままグランドキャニオンの底を目指した。

少年は戸惑いながらも、自分の人生が大きく変革するのを予感した。

 

 

 

 

 

岩陰で、それのコックピットは開かれた。

そこには、口から血を噴いた女性が息を切らしてシートに座っていた。

自身の白髪を所々血で赤く染め、時折血の塊を口から吹き出す。

 

「え、ちょっ! 大丈夫ですか!」

 

それのパイロットは、今にも閉じてしまいそうな目を少年に向けた。

その目は意外すぎるほど優しく、戦場には不釣り合いのものだった。

両親を見たことがない少年の脳裏に、"母親"という言葉が過った。

 

「あなた…名前は……?」

 

弱々くもはっきりとした声で名前を聞かれた。

少年は倒れそうな彼女の身体を支えながら答えた。

 

「ヘンズ・エフォートです。あ、あなたは?」

「私は……ゴフッ…!」

「やっぱり大丈夫です、もう喋らないでください!」

 

パイロットの女性はそれのコックピットを閉じ、ヘンズをその胸に抱きかかえた。

突然の行為に驚くヘンズ。

直後、機体を強い衝撃が襲った。

 

「ここ…も、見つかっ…ちゃった、みた……」

「わかりましたから、おとなしくしててください! 死んじゃいますよ!」

 

ヘンズは考えた。

どうすればよいか。

この女性を救う方法、襲撃から逃れる方法、生き残る方法。

しかし、その考え方自体が間違っていることを、意外なものが教えてくれた。

 

 

-何をすべきかじゃなく、何をしたいかを考えろ-

 

 

「え?」

 

どこからか声が聞こえた。

生命力を感じる男の声だ。

そしてヘンズは決意した。

 

「やっぱり…キミならそう…すると思ったわ…」

 

ヘンズは女性を後部座席にシートベルトで固定し、自分が操縦席に座った。

シートは血で濡れている。

操縦桿も、赤く染まっている。

 

「マニュアルは…? あった……とにかくやってみます。」

 

ヘンズは操縦桿を握った。

すると、何か別の意思が側にいるように感じた。

それはヘンズの四肢を誘導し、操縦桿をアシストする。

何故かヘンズは嫌な気はしなかった。

 

「ありがとう……よし、行くぞ!」

 

フットペダルを踏み込むと、それは翼を広げて推進剤を噴く。

青い光が煌き、それは空中へ飛び上がった。

 

「コイツ、ホントに飛べるのか…jumpじゃなくてflyの方で。」

 

上空に飛び上がって分かったが、周囲には6機のウォーリアーがいた。

ダークグリーンのカラーリングが地球連邦軍の所属であることを示している。

ウォーリアーが容赦なく発砲してきた。

 

「くっ…!」

 

回避行動をとるヘンズ。

それの機動力とも相まって、砲弾は一発も当たらない。

それは右手に持ったライフルを突き出した。

 

「どれで撃つんだ…? これか!」

 

ヘンズが操縦桿に付いているボタンを押すと、右手に持ったライフルから収束されたエネルギーの弾丸が撃ち出された。

その弾丸は、一瞬にして2機のウォーリアーの重厚な装甲を貫通した。

 

「なんて威力だ…こんなのが、あっていいのか!?」

 

自ら放ったライフルの威力に青ざめるヘンズ。

そんな彼に構わずウォーリアーはマシンガンを撃ち込んでくる。

ヘンズは操縦桿を忙しく動かしながらアクロバットに弾幕を回避し、ライフルで確実にウォーリアーを撃ち抜いていく。

その彼の後ろ姿を見ていた女性は、どこか懐かしそうに微笑み、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ、ここは……?」

 

白髪の女性が目覚めた。

見たところ、テントかなにかの中らしいことはわかった。

そして傍には目を見開くヘンズの姿が。

 

「キミ、勝ったんだ。凄いね。」

「凄いねじゃないですよ! イかれてますよあなた! 何であんなのに乗って、血塗れになるまで戦ってるんですか‼︎」

 

いきなりの怒鳴り声に、女性は脇腹を抑える。

どうやら傷に響いたようだ。

しかし女性はあることに気付く。

 

「傷が……! あなたが看病してくれたの?」

 

全身に負っていた傷が塞がっていることに気付き、腕や脚にを見回す女性。

脇腹や胸の傷も塞がっているようで、自分のTシャツを捲り上げて確認した。

 

「ちょ、ちょ! 見えちゃいますから!」

 

ヘンズは顔を赤くしながら目を背ける。

女性は微笑んでシャツを下ろし、まだ少し痛む身体を起こした。

 

「ありがとう。」

「べ、別に…親が医者なんで、少しは…」

 

ヘンズは治療のために既に彼女の裸を見ているのだが、こうして微笑む姿を見るととても魅力的な女性だと思った。

 

「そういえばまだ言ってなかったわよね名前。」

「あ、そういえば。」

 

女性は胸に手を当てて自身の名を言った。

少し目を瞑り、ゆっくりとした口調で。

 

「私はユリ・ノハナ。あの機体()、"ネメシスアーク"のパイロットよ。」

 

そう言った彼女、ユリは、思い出したかのようにヘンズの肩を掴んだ。

 

「ネメシスアークは!?」

「えっと、この真上…というか、外に出ればわかります。」

 

ヘンズの言葉を聞くと、慌てて立ち上がるユリ。

しかし全身の傷が彼女の足を止める。

倒れそうになる彼女の懐に滑り込むようにヘンズが入り、自身の肩を貸す。

 

「無理しないでください。怪我人なんですから。」

「ありがとう。優しい子ね。」

「お世辞はよしてください。」

 

一歩ずつゆっくりとテントを出た2人。

そこにはさらにカムフラージュネットや迷彩シートが張られている。

そしてその支えになっているのが

 

「アーク! よかった!」

「あんな兵器、乗った人なら軍の手に渡ったらダメなやつだと誰でも思いますよ。」

 

崖に寄りかかるようにして座る人型兵器、ネメシスアークの姿がそこにあった。

ぐったりとしているその姿は、まるで眠っている聖なる巨人のようだった。

神秘的なその機械は、関節部から有機的な構造体が見える。

 

「なんか色々ありがとうだね。」

「いえ、どうせ戦災孤児です。こんなイベントがあれば、人生十分彩られましたよ。」

 

その時、ネメシスアークが目を覚ました。

直後、警告の声が機械を通して発せられた。

 

『そこに未確認機! 今すぐそれを渡してもらおう。従わないのなら、撃つ!』

 

ユリとヘンズは顔を見合わせた。

 

「どうします? どうせ渡せない代物なんでしょ?」

「その通りよ。強行突破するわ。」

 

ネメシスアークは手を差し出し、ユリはそれに乗る。

 

「何してるの、キミも早く! ここにいたら巻き込まれるわ!」

「どうやら、そのようですね。」

 

ヘンズが掌に乗ると、ネメシスアークはその手を胸部へ導いた。

そこの装甲が開き、コックピットが起動する。

 

「準備はいい?」

「どうせ逃れられないんですよね。」

 

ユリとヘンズはネメシスアークに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

少年の日常は、大きな変革を迎える。




どうも星々です‼︎

新章開幕ですね!
色々状況が変わってるようですがヘンズはどんな戦いを繰り広げるのか、乞うご期待!

P.S.
前章にも増して見切り発車です、ご了承ください

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