崩壊する
地上で攻防を繰り広げる3機。
上空で舞う常識はずれの2機。
ユウはネメシス08を駆り、赤い光を放つリルモアと交戦していた。
「ユリ! 何でお前がこんな…!」
「私はユリではないと言っている!」
大剣と槍が刃を交える。
鍔迫り合いの中、翡翠色の瞳のネメシス08と深紅の瞳のリルモアが睨み合う。
「その声で…そんな訳ない! オレが聞き間違える訳ない!」
「うるさい!」
白髪がなびいた。
「その仮面を脱ぐんだ! そしてリルモアから降りろ!」
ユウはネメシス08のコックピットを開けた。
猛烈な風と熱が肌にぶつかる。
そんな中、両手を広げてリルモアに叫ぶ。
「戦っちゃいけないんだ、オレたちは‼︎」
数秒の沈黙。
彼女が本当にユリ・ノハナではないとしたならば、生身を晒すユウは今頃この世にはいないだろう。
この事実が、彼女がユリ・ノハナであることを証明しているといっても過言ではない。
「ごめんね、ジョウ…私やっぱ、仮面なんて被れない。だって…だって、私……!」
ユリはコックピットで呟く。
そしてコックピットハッチを開け放ち、その身を晒した。
仮面を投げ捨て、ユウにその眼差しを向ける。
「ユウ君!」
「ユリ!」
戦場での再会。
まだ思春期である2人にはあまりにも過酷。
「ユリ! こっちに来るんだ!」
「ううんユウ君…行けない。私、知っちゃったから。」
ユリは目元を袖で撫で、再びコックピットに座り込んだ。
リルモアはネメシス08を蹴り飛ばし大剣を腰に仕舞うと、左右の大腿部に格納されているピストルを手に取った。
ユウもネメシス08のコックピットに戻り、槍からサブマシンガンに持ち替える。
「知ったって何を!」
「これを知ったら、キミも戻れなくなる!」
「それでも!」
リルモアが放つ弾丸を受け流し、サブマシンガンで牽制するネメシス08。
左右に動かされる形となったリルモアは、その脚部から無数のホーミングビームを放った。
彼女には、想い人を殺す事への躊躇がなかった。
「なんのぉぉおお‼︎」
ネメシス08はチャフを撒きながら急上昇する。
ホーミングビームやミサイルなどの誘導兵器はその特性上、発射点からの距離が離れれば離れるほど、互いの間隔が狭まってぶつかり合い、誘爆し合う。
ユウは凄まじいGを耐え抜き、ホーミングビームを凌いだ。
しかし、リルモアはすぐ目の前まで迫っていた。
「教えてくれ! 何がお前をそうさせるんだ‼︎」
「わかったわよ…どうなっても知らないんだから‼︎」
上空でネメシス08とリルモアが激闘を繰り広げるその真下。
そこでは、テンペストとギガンティックがウォーリアー1機に苦戦していた。
ウォーリアー改1番機のパイロットの名はジョウ・フリエン。
地球連邦軍所属の少佐であり、軍内最高ランクの大罪人。
しかしこの罪は、あることを
そしてそれを今、地球連邦軍特殊部隊アポカリプス所属のIADパイロットである少女たちに話そうとしている。
「イスダルン国との戦争で敗色が色濃くなった連邦は、その形勢を逆転するためにある計画を実行に移した。それは連邦にとって苦肉の策であると同時に大きなリスクを伴うものだった。」
「その計画が"アポスル神話計画"で、そのリスクが"ゴースト"ってことくらい、わざわざ説明されなくても知ってるわよ。」
改1番機の猛攻にテンペストは防戦一方。
ギガンティックの射撃も掠りもしないでいた。
ジョウは続ける。
「そこはあらかた間違っちゃいねぇ。だが、そのリスクは本当にゴーストだけかな?」
「何!? …っ!」
重い身体を脚力だけで空中へ持ち上げ、そのままテンペストに回し蹴りを入れる。
蹴り飛ばされるテンペストと入れ替わるように、ギガンティックが近接戦用のナイフを構え、肩からミサイルを撃ちながら改1番機を狙う。
「まずはそのIAD、ネメシスタイプについて知るべきだ。」
ジョウは2人の完璧に近いコンビネーションを受けても尚、優位に立っていた。
しかし、話が終わるまで戦いを終わらせるつもりはないようだ。
「ネメシスタイプとは、アポスル神話計画にて生成された半生命体"リリス"を素体として製造された機動兵器だ。だが実は、ネメシスタイプは当初とは全く異なる形として完成している。」
ジョウの言葉を聞きながら必死に抗戦する2人。
できるのならば、今も尚暴れ続けている獣型ゴーストの殲滅に移りたいが、そうはさせないと言わんばかりの猛攻が続く。
「アポスル神話計画…それは元々、イスダルン国土に存在する全てを破壊する究極の
ジョウの口調が荒々しくなり始める。
それに同調し、改1番機の動きも荒々しくなる。
「あろうことか連邦は、ゴーストの成功作リリスを抑えつけ、人がコントロールする機動兵器の開発を始めた。『人類の敵を抹殺する』と謳ってな! 計画遂行にあたって邪魔な存在だったイスダルン国はゴーストを目の前に黙り込み、連邦からすればゆっくり試験運用できるいい機会が生まれた。それがお前らの戦いであり、アポカリプスの真の存在意義なんだよ!」
「確証がとれないわ!」
「じゃあ何故、連邦はイスダルンと協力して
「そんなの…信じられるわけないでしょ‼︎」
「だが真実だ‼︎」
テンペストとギガンティックの斬撃を、改1番機それぞれ片手で受け止める。
機体の関節がギシギシと唸る。
「このゴースト抗戦は、連邦の兵器運用実験だ。お前たちが戦っていたのは人類の敵じゃねぇ、連邦の
「何が言いたいの!」
テンペストとギガンティックの圧力を地面へ向けて受け流し、流れるように背後に滑り込む改1番機。
「全ては連邦のおままごとだってことだよォ‼︎」
ジョウの話が終わった合図のように、改1番機がトドメを刺そうとブレードを突き出す。
しかし、その切っ先が届く寸前に改1番機の両腕が斬り落とされた。
何事かと見回すと、真上に槍を携えたネメシス08が浮遊していた。
その向こうにはネメシス08を狙うリルモア。
「だったら…最後のゴーストも倒して、このネメシス08もぶっ壊す……その次は、地球上に存在する全ての兵器を破壊する…。地球連邦にもイスダルン国にも、好き勝手はさせない!」
ネメシス08がリルモアに向かって加速する。
その速度は一瞬で音速を超えた。
しかしそれはリルモアも同様であった。
2人の刃が交わる。
しかし、
「ゴースト内部から高エネルギー反応…!? フィルシア、ゴースト出現から何時間経った?」
「47時間と59分…まずいね。」
ゴーストが自爆シーケンスに入った。
分裂し2つとなった身体のそれぞれから赤い光が漏れ出す。
「超圧縮イミュー領域展開…チッ、さっさと逃げるぞリルモア!」
「……!」
リルモアとネメシス08は依然として抗戦している。
その真後ろでは今にも爆発しそうなゴースト。
今更逃げようにももう遅い。
爆発の範囲は旧関東全域を飲み込まんとするほどであり、逃げたとしてもその衝撃波からは免れない。
ゴーストが放つ赤い光が強さを増す。
その頃、ヴェーガスのブリッジではエリックに判断を仰ぐ声が殺到していた。
エリックは額に汗を流し、歯を噛み締め、腕を組んでそこに立っていた。
「シンジ、全エンジンユニットのリミッターを解除しろ。」
「リーダー何を…?」
エリックが静かに指示を出す。
「カトリーヌ、艦首を真上に向けろ。」
「エリックまさか!? あの子たちを見捨てるって言うの⁉︎」
「…………。」
騒然とするブリッジ。
しかしこの間にも、ゴースト自爆へのカウントダウンは続く。
「あいつらはまだ戦場にいるってのに逃げ出すの‼︎」
「大人のすることか‼︎」
反対の声が上がる。
しかしそれは、エリックがキャプテンチェアの小型モニターを叩き割ったことで静寂となった。
「俺たちが行ったところで何ができる‼︎ 今は離脱して、あいつらの分まで戦ってやるって方が大人だろうが‼︎」
数瞬の沈黙。
「圧力シリンダー、リミット解除。エンジンユニット開放、アンリミテッド…!」
「………ッ! 艦首上げ‼︎ 弾道飛行用意‼︎」
「ルート計算、完了。」
ヴェーガスが艦首を真上に上げ、エンジンが熱を増す。
「お前ら………すまない…」
ヴェーガスはその翼から蒼炎を拭き、大空へ飛翔した。
成層圏へ到達したその時、彼らの耳まで届くほどの爆音を発し、旧日本関東地区は蒸発した。
-All is calm All is bright-
どうも星々です!
結構いろんなことがどばっと語られましたね
そしてクライマックス突入といった感じでしょうか!
元々長いスパンで書くつもりはなかったんですが、案外楽しいので今の話を「亡霊ノ大嵐編」として、第2クール的な感じで続き書こうかなと思ってます(←ここ大事)