2540年
数世紀前に比べ地球の平均気温は大幅に上昇し、6月でも21世紀でいうと8月程の気温になる。
これでも気温上昇は抑えた方らしいが、地球温暖化は加速の一途を辿っている。
ヴェーガスはハワイ基地に着陸した。
ここで最善の状態に整備を受ける。
それに伴いアポカリプスのメンバー、特にパイロットたちには、1日の休暇が与えられた。
ちなみに今は5月、つまり夏季であり、彼らが行く場所は大方想像がつくだろう。
「海ぃーーーーーーっ!!」
そう、海である。
ここはラニカイビーチ。
現地の言葉で「天国の海」という意味だそうだ。
クリスタルクリアの海に白砂のロングビーチが、リゾートであることを主張している。
このビーチは比較的浅瀬で、波も穏やかだ。
そんな海に真っ先に飛び込んだのは、エメラルドグリーンの髪のフィルシアだ。
16歳でありながら出るとこが出ている彼女は、ビキニを完璧に着こなしている。
「ちょっと、はしゃぎすぎ!」
その後から、愛用のパーカーを羽織ったサクラが追う。
相変わらず背伸びしているが、サングラスを掛けてみているところや少し小走りなところを見ると、彼女もまた内心はしゃいでいるのだろう。
その横をいつも通りのテンションで歩くユウは、サクラが脱いだパーカーを押し付けられ、やれやれと思いながら拠点づくりに励んでいる。
「なんだかんだ言って、サクラもはしゃいでいるじゃないか。楽しそうで何よりだ。」
ユウ自身あまり乗り気ではなかったが、サクラに手を引かれるままここまで来てしまった。
しかも拠点づくりを丸投げされ、2人は海で遊んでいる。
ユウは適当に簡単なテントを組み立て、横に置いたチェアから2人を見るともなく見ていた。
(こう見ると普通の女の子じゃないか)
(
(………どんな…生活……)
「ユリ………」
ユウは目を瞑って虚空を眺める。
そこにはまだ、あの桜並木が焼き付いていた。
白髪の想い人の姿も。
間もなくして、ビーチパラソルの下でそんな記憶に浸っていたユウの顔に水がかけられ、彼はチェアごと後ろに倒れこんだ。
「ぷはッ! 何するんだよ!」
「姫がぁ、そんなトコでサボってないでこっち来なさいだってー」
姫とは誰のことかと一瞬疑問に思ったユウだったが、フィルシアの後ろで「言ってないって!」というサクラの声が聞こえてそれを理解できた。
ただ、ユウも年頃の少年である。
前屈みになって手を膝につくフィルシアの胸元に、無意識に視線が行く。
しかしその視線は、頭部に痛みが走ったことによりまた流れる。
「ゆ、ユウ君もちょっとは否定しなさいよね!」
サクラのゲンコツだったようだ。
ユウは頭頂部をさすりながら立ち上がった。
「ィテテ…女とは思えない強烈な一撃だった…」
「バカ。」
サクラはぶっきらぼうにそう言うと、ユウの手を掴んで海に引っ張っていった。
彼女はその頬を髪色に似たピンク色にほんのり染めていた。
純白の砂に足を取られながらも、ビーチサンダルを脱いでなんとかついていく(引っ張られる)ユウ。
「フゥ、積極的ぃ〜」
そんな2人を後ろから見ながら追うフィルシア。
小さく呟いてから小走りで海に入っていく。
「とぅっ!」
「きゃっ!」
「のわっ!」
互いに水をかけあう3人。
最初は仕方なく付き合っていたユウも、次第にこの海を楽しみ始めていた。
そんな光景を、海辺のバーから見ていたカップルがいた。
半袖ハーフパンツに腰にパーカーを巻いた30代前半の男とジーンズがとても似合う20代後半の女だ。
2人は酒は飲んでおらず、グラスに注いだ水で雰囲気だけ味わっているようだ。
「あの子たち、だんだん仲良くなってきたわね。」
「シミュレーションの結果は日に日に良くなっていってる。個人成績じゃなく、チーム成績がな。」
男は大きめのタブレット端末を女の前に滑らせた。
そこには棒グラフや円グラフがいくつか表示されていて、女はそれを見ながら水に口を付ける。
「特にフィルシアとユウの相性はいいらしい。」
「あら、サクラじゃないのね。」
女は意外そうに男を見た。
薄暗いバーの中でもかけたままだったサングラスを少しずらして、その視線を向ける。
男もその言葉に意外そうな反応をした。
「何故サクラなんだ? このデータを見ても…」
男の言葉を聞き、呆れたようにため息をつく女。
「エリックまさか、アンタ気付いてないの?」
「何にだカトリーヌ?」
さらに深いため息をつく女。
鈍すぎると言わんばかりに強めの口調でその意味を説明する。
「アレ見ても分かんない? 明らかな好意じゃない。」
「それがどう関係するんだ?」
最早ため息も出ないといった感じだろうか。
女は立ち上がり店を出た。
男はそれを追うようにゆっくり席を立ち、店を出た。
日は傾き始め、クリスタルブルーの海が緋色に染まっていく。
海面に反射した夕陽が、疲れ切った3人の顔を暖かく照らす。
「もし…」
砂浜に並んで座る3人のうち、左端に座っていたユウが口を開いた。
「もしゴーストが現れず、IADに乗らなくてもいい世界だったら…どんな生活を送れていたんだろう……」
「そーんなの誰にも分かんないよ。"もし"とか"例えば"とか、そんなの考えても現状は変わんないしねー」
右端座るフィルシアがそれに答える。
彼女の言葉には、稀に核心を突くような鋭い棘が含まれている。
ユウはそれを痛々と感じながら水平線に沈んでいく夕陽を見る。
彼は沈んでいた。
ここでフィルシアの言葉を無視し"もし"の話をするならば、ユウは今頃、馴染み始めた高校のクラスメイトたちと体育祭で盛り上がっていたのだろう。
"もし"仮に、あの日ゴーストが現れなかったならば、今頃ユウの隣には白髪の少女が座っていたのだろう。
あの日空いていた鞄2つ分の隙間もなく。
それを思ってか、ユウが見る夕陽は霞んで見えた。
乱反射した光が、その霞みでさえ美しく思えた。
「ほら、今がチャンスだよ。」
隣でユウの姿を眺めているだけだったサクラにフィルシアが耳打ちする。
サクラが振り向くと、フィルシアはユウの手を視線で示した。
あと数センチ伸ばせば届く距離だ。
しかしサクラにとってこの距離は、届きそうで届かないものだった。
サクラはユウを意識し始めていた。
パイロット仲間としてではなく、友人としてでもなく、だ。
そんな気持ちにいつ気付いたのかも定かではないが、彼女は自分の内面にある少女の心を表面に出し始めていた。
これも、ユウがアポカリプスに入ってきてからだ。
フィルシアはそんなサクラも変化にいち早く気付き、誰よりも深く彼女の気持ちを理解していた。
(あとちょっと、数センチ…)
砂浜に指を這わせながらゆっくりとユウの手に近づいて行く。
しかしサクラその時背後から男の声がした。
「休暇はここまでだ。」
アポカリプス隊長、エリックだった。
いつも通りの半袖ハーフパンツと腰にパーカーを巻いている。
その後ろにはカトリーヌの姿も見えた。
ユウは急いで顔を拭うが、素肌ではうまく水分が拭き取れない。
それを見て、横からサクラがそっとハンカチでユウの目元を拭った。
「…っ、任務ですか?」
「察しのいい男だ。急げ、すぐに
3人は水着のまま、カトリーヌが運転席に座るホバーカーに飛び乗り、急ぎヴェーガスへ戻っていった。
残された夕焼けのビーチには、倒れたビーチパラソルとチェアが取り残されている。
そして彼らが座っていた浜辺には、満ち潮によって海水がせり上がっている。
そこにあった
どうも星々です!
最強スーパーロボット大戦Hのメカニックデザインで忙しくて執筆作業が遅れ気味になってしまったorz
だがしかし!
そろそろ仕事量が安定し出すころだからまた元の調子にもどるはず(←)