光明機動ネメシスエイト   作:星々

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第7話「Mr.Downer」

「地球連邦軍所属、特殊部隊ヴェーガス。創設2540年4月7日。構成人数は1人増えて10人になったそうです。最近の戦果は良好。ただ気になる点としては、パイロットが3人とも非正規軍であること、先日の脱獄犯を逃したこと、ですかね。」

 

広い部屋の中、執務机に座った男に、横からその補佐と思われる女性が話している。

 

「彼らには頑張ってもらわねばならない。その程度、問題にはならんだろう。」

「はい…ですが、ジョウ・フリエン少佐は-----について知ってしまいました。」

 

男はグラスに注いだウイスキーを眺めながら言った。

 

「だから、彼らには頑張ってもらわねばならないのだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

アポカリプスは旧メキシコを出発し、太平洋を西に進んでいた。

目的地は、地球連邦軍ハワイ先端AD開発基地。

ここは、ネメシスタイプのフレームパーツの開発をした基地で、連邦軍の中でも規模の大きい基地だ。

更に言うと、先端AD開発においては旧日本に次ぐ功績を収めており、装甲革命とも呼ばれた"ドラゴスケイル合金"の精製に成功している。

そんなハワイ基地を目指す目的は、破損したIADの修復だ。

特にテンペストの損傷は激しく、素体であるリリスが剥き出しの状態だ。

巡洋艦ヴェーガスには十分な整備設備が揃っているが、テンペストの損傷はそれでは対応しきれなかったのだ。

今後の予定としては、ハワイ基地で整備と補給を受けた後、旧日本の小田原基地で普天間先端兵器開発基地から輸送された新型兵器を受け取る。

しかし、いつゴーストが現れるとも知れない状況である地球では、この距離がかなりもどかしい。

今出撃命令が出ても、テンペストが欠けた状態ではだいぶ戦力が落ちることになる。

操舵士のカトリーヌはヴェーガスのギアをトップに入れて飛んでいる。

しかし、その操舵に機関士であるシンジ・アンカーが文句を言う。

 

「エンジンにどれだけの負担がかかってると思ってるんだ! こんなんじゃハワイに着く前に墜落しちまう!」

「こんな時にゴーストが出た場合の方が大変でしょ。お姉さんに任せておけばいいのよ!」

 

カトリーヌは、その穏やかな性格とは裏腹に、操舵が乱暴である。

乱暴というより、激しいと言った方が的確だろうか。

ただ、疲れきったエンジンのトップギアでここまで飛んでこれたのも、カトリーヌの操舵の裏側にある繊細があってこそなのだろう。

それでも、エンジンを心配する態度を変えないシンジだが、彼はまだ19歳で、カトリーヌとの年齢差は推定10歳だ(カトリーヌの実年齢が不鮮明なため推定と記述する)。

服装も、軍服を着ているのはシンジのみで、他のメンバーはみな私服だ。

とてのじゃないが、軍の組織とは思えない雰囲気であった。

 

 

 

 

 

 

「戦闘シミュレーション?」

 

ユウ、サクラ、フィルシアの3人は狭めの間取に2mほどのカプセルが3つある部屋にいた。

そのカプセルの中にはIADのコックピットが再現されていて、戦闘のシミュレーションができる。

それを外から見守るのは、ヴェーガス専属軍医シルフィ・ヒガンという女性だ。

ブロンズの髪をかきあげ、ブルーライトプロテクト眼鏡をかけて手元のタブレット端末を凝視している。

丈が短い白衣からはみ出る組んだ美脚は、女性であってもドキっとするくらい魅力的だ。

 

「あなたたちの健康状態の観察も兼ねてね。エネミーはルーク20機くらいでいい?」

「え、20機って、バカなの⁉︎」

 

サクラが身を乗り出して言った。

頭にかけたヘッドセットから大声が出力され、ユウはそれを耳から離す。

 

「まぁ、いけるんじゃない〜?」

「フィルシアは相変わらず楽観的ね。どうユウ・ヴレイブ君?」

「やってみなきゃ分からないですね…まぁできるだけの事はやってやりますよ!」

 

ユウはバイザーをかけ、操縦桿を握った。

ネメシス08とはやはり若干のズレがあり、多かれ少なかれ違和感を覚えた。

違和感ついでに、ユウは少し気になっていたことを聞くことにした。

 

「そういえば、なんでオレたちにはパイロットスーツがないんだ? 軍のADパイロットはみんな着てるのに。」

「絶対に帰ってくる、という意志を忘れないためらしいわ。パイロットスーツを着ていれば、生存をそれに頼っちゃうからね。」

 

サクラがバイザーを調節しながらその質問に答えた。

以前のような先輩口調は消え、あくまで仲間としての態度が感じられる。

 

「ま、そのせいで危ない目に遭ったんだけどね。」

「そのお陰で王子様に抱っこしてもらえたんだよねぇ〜」

「ちょっ、そんなんじゃないって!」

「またまたぁ〜」

 

サクラとフィルシアのこのやり取りも何度目だろうか。

最初はユウもちょっとは否定していたが、もう既に諦めてスルーすることにしている。

サクラもそうすればいいのだが、毎回同じように赤面して必死に否定する。

この反応を面白がって、フィルシアは揶揄うのをやめないのだ。

ユウはやれやれと思いながら擬似コックピットを起動された。

全天周モニターが青空を映し出し、足元には短い草が生い茂っている。

 

「草原!? ここじゃあ敵から丸見えじゃないですか⁉︎」

「そう、単純に実力勝負ってとこね。サクラ、フィルシア、早く準備して。」

「りょーかーい。」

「準備完了です。」

 

シルフィのタブレット端末に、シミュレーションの擬似空間が俯瞰で表示された。

ネメシス08とテンペストとギガンティックが草原で横並びしている。

周囲には計20機のルークが包囲している。

 

 

 

 

 

模擬戦が始まり、3人で6機ほど撃破した時だった。

不意にサクラが、思い出したことを話し始めた。

 

「そういえばあの脱獄犯、捕まったのかな?」

「脱獄犯って、この前のサンなんとか岬の?」

「えぇ、そう。」

 

サクラは俯き気味だった。

何かを考えてるような様子だ。

と言っても、模擬戦の方はしっかりとこなしている。

 

「何か気になることでもあるのか?」

「……あの脱獄犯、ゴーストが突然現れた時にね、『待ちわびた』って言ってたのよ。それが気になってて。」

「待ちわびたってことは、ゴーストの出現場所を予測してたっとことだよね。ウチらでも無理なのに。」

「しかもわざわざそこに来たってことは、何か企んでるってことか?」

 

その真意は定かではないが、最先端兵器を惜しげも無く与えられているアポカリプスにわざわざ命令が下された意味がそこにあるのであろう。

3人がいくら話しても、それの答えは出ない。

 

「あの男は-----」

 

今までずっと端末を凝視していたシルフィが口を開いた。

どうやら彼女は例の脱獄犯のことを知っているようだ。

 

「あの男は危険よ…ウォーリアーよりも遥かに、ね。」

「知ってるの? 教えて、彼のこと。」

「ウチも知りたいなー」

 

サクラとフィルシアが催促する。

ユウもシミュレーターのネメシス08を操縦しながら耳を傾ける。

しかしシルフィは何も答えようとせず、エネミーの性能を1.5倍に設定した。

多少は薄くなった包囲網が、再び元気を取り戻す。

 

「出来るだけ彼とは関わらない方がいいわ。詮索するのもね。もし私の言うことを無視したのならば、その時は彼がいた場所に連れて行かれるでしょうね。」

「……………」

「……………」

「…………!?」

 

あまりにヘビーな回答に沈黙する3人。

サクラは何事も無かったかのように模擬戦に集中する。

フィルシアは苦笑いで視線を正面に戻す。

その後間も無く模擬戦は終わり、シミュレーションを終了した。

3人の健康状態も良好と診断され、戦闘評価も悪くなかった。

そして一行は、着々とハワイへと近づいて行く。




どうも星々です!

今回は模擬戦でしたね
ただ、脱獄犯についての謎、ゴーストについての謎は深まるばかりです

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