「はあ……はあ……なんで、私が……」
「それは自分の脇に聞くんだぜ。普段からさらしてるから敏感だろ?」
「それは煽りと受け止めていいのね?」
「そんな息絶え絶えで、まだ軽口叩く余裕があるなんて嬉しいぜ」
「はわわ……2人は今喧嘩してるの?」
「「そんなことないわよ(ぜ)」
手痛いしっぺ返しを食らった霊夢は、いまだふらつきながらも力強く立ち上がった。
まだあぐらをかいて座っている魔理沙は再び指先の運動をはじめながら、
「おっ、どうした? まだ出番じゃないだろ」
「ほかの試合を見に行くのよ。場合によっちゃ不戦勝だってあり得るんだし」
クラス対抗のこの勝負、順位はクラス全体で勝った試合が多い順につく。全10試合の中の9戦目、10戦目に出場する霊夢&アリス、魔理沙&小傘組の前に決着する可能性もある。午前中には5試合が行われ、1組は3勝2敗で折り返してきている。
「なら私もついてくぜー。――おっ、意外と滑らかだな」
「ちょ、触らないでよ」
魔理沙が後ろから飛びつき、髪をなでる。そのまま霊夢の肩を持ち、会場まで向かう。
「おお、やってるやってる」
霊夢が額に右手を当てながら、上空を見上げる。すでに派手な戦いが勃発していた。
「雪符『ダイアモンドブリザード』!」
1組の第7回戦、チルノ&ミスティアペアの試合は中盤を迎えていた。
チルノが放った2枚目のスペルカードで、会場全体が冷気に包まれる。
「寒っ! まだ花冷えなのに勘弁してほしいぜ……」
魔理沙がぼやくが、これがチルノの闘い方だ。作戦が成功したチルノは、会心の笑みを作って、
「はっはっはっ、大成功! どうだ、ここからはあたいのフィールドだぞ!」
「ふむ……妖精の割にはなかなかやりおるな」
「なんだっけ? 優斗とかいう非常勤講師が手取り足取り教えてるとかいう話だけど」
「それはもう片方の妖精ではなかったか? ――いずれにしても、侮れる相手ではなさそうだな」
対戦相手の布都と屠自古が油断なく構えている。それにまったく臆することなく、チルノは再び喋り出す。
「もう雑魚なんて言わせない! 大ちゃんと一緒に妖精最強の道を駆け上がるんだ!」
「とりあえずお主の仲間を心配するのが先決では?」
「なっ……――みすちー‼ おのれっ、みすちーに何をやった!」
しかしチルノの独壇場は長くは続かなかった。チルノの真横でミスティアが羽をしんなりさせて動かなくなっていた。
ギリギリと歯ぎしりをして悔しがるチルノだが、ミスティアが戦意喪失した理由が布都たちにあるわけではない。その理由を屠自古が語りだした。
「えっと、そっちの妖怪確か雀よね? 普通の雀って冬は暖かい地方に南下するのよ。けどこんな冷える中じゃ……」
「チルノ……あんた、あれほど私の近くで空気を冷やすなと……」
屠自古の解説が終わったと同時に、ミスティアの絞り出すような声が漏れる。どうやら翼だけでなく、指の一本さえを動かすことができていないらしい。
「所詮は妖精といったところか……終わらせるぞ屠自古」
「ああ、やってやんよ!」
平静を保っていた二人が一気に戦闘モードに入った。両者ともスカートのポケットからエース級のスペルカードを取り出し、
「天符『雨の磐船よ天へ昇れ』。さあ、われの導きについてこれるか?」
「雷矢『ガゴウジトルネード』! 吹き飛ぶがいい‼」
屠自古が放った矢型の雷が四方八方に飛び散る。
あいかわらず動けないミスティアはたまらずダウンするが、チルノはまだあきらめていない。
「このくらい……妖精のすばしっこさをなめるなっ!」
元気よく叫ぶチルノだが、肝心なことを忘れている。
「ならばこの波状攻撃は耐えられるかな?」
「っつ⁉」
白装束の袖を口に当て、不敵に笑う布都。これはチーム戦。屠自古1枚のスペカだけで倒す必要は全くない。
かなりの速さで進行する巨大な船に体勢を崩しているチルノはよけきることができず、
ピチューン
「試合終了! 物部布都&蘇我屠自古ペアの勝利だよ!」
審判のリリカが高らかに宣言した
第六十三話でした。布都と屠自古がおそらく初登場。
屠自古って原作で会話ないんですよね……キャラづくりが難しい。
では!