「さて……どうしようか」
似合わない腕組みで、小傘はしたり顔を浮かべて考え込む。
異常なまでに起きない魔理沙をどう驚かせようか、そんな唐傘妖怪の矜持に関わる問題だ。やる気が起きないわけがない。傘で魔理沙の頭をはたくのは霖之助に止められている。かといって、大きな声で無理やり起こすのも芸がない。
しばらく魔理沙をじっと見つめていた小傘だったが、急に何か思いついたようで、
「よっし!」
魔理沙に背を向け走って行った。選手や観客の間を小さな体で器用に抜け、首を回してクラスメイトを探す。
「あっ、霊夢ー」
ちょうど近くにいた霊夢の袖を引っ張った。
「……」
「ねー、ちょっといい?」
「……なによ」
始めは無視していた霊夢だが、すぐにあきらめて目線を小傘に向けた。
「何の用事か知らないけど、手短にお願いね」
「わあ、怖い顔。どうしたの?」
小傘に向けられた声色は明らかにとがっていた。目も半分しか開けておらず、上機嫌でないことが露骨に伝わってくる。
「いや、私のペアってアリスなんだけど、突然いなくなったのよ。まったく……どーしてどいつもこいつもいなくなるのかしら。魔理沙も霖之助について行ったままどこかへ消えるし……」
魔理沙という単語が出て、小傘がぱあっと笑顔になった。
「魔理沙? それなら端っこの方で寝てるよ? 私、魔理沙を起こしてもらうために霊夢に声をかけたんだー」
「はあ? 寝てるってこの大事な時に……どこでよ」
大きなため息を一つついて、再びジト目になり小傘に尋ねる。指差した方向に、鬼よろしく険しい形相でのっしのっし歩いて行った。
安らかに眠っている魔理沙の下に着くと、
「なんで起こさないのよ。もうそろそろ試合じゃないの?」
「ううん、私たちは最後だからまだいいの。それにちょっとつついたくらいじゃまったく動かないし」
「まったく、一晩寝てないくらいで……別に起こしても構わないのよね?」
一転、霊夢の口角が上がった。彼女にしては珍しい、なにかいいことを思いついたように、小悪魔的な笑みを浮かべた。
「いいけど、霖之助先生があんまり手荒なまねはよせって」
「大丈夫よ、――とっても楽しくなれることだから……」
「それって……ひっ‼」
小傘がブルブル震えだす。霊夢の指十本すべてがリグルの虫よろしく蠢いていた。
「こちとらアリスが行方不明なのにそんなに気持ちよく寝てて……覚悟はできてる?」
「霊夢、もしかしてパルスィに取りつかれてる?」
鬼か悪魔か、末恐ろしい形相で魔理沙に肉薄する。
「さあ、最高の目覚めをご提供してあげるっ!」
あいかわらず微動だにしない魔理沙、その脇の下に霊夢の手が伸び、
ガシッ
「へっ?」
「そうだな、いい目覚めだと思うぜ。お前の間のぬけた顔が見れたからな」
なかった。魔理沙の細い腕が、霊夢の手首を手錠のように固く縛っていた。
「……いつから」
「小傘がいなくなった時くらいかな? 初めはいたずらしてくる小傘に逆襲しようかと思ってたが……まさかこんな大物が釣れるなんで驚きだぜ」
「まさか……もっと疑っとくべきだったわね」
「――ああ、ところでハンムラビ経典ってしってるか? 外の世界の法律書らしいんだが、やられたらやり返そうって考え方らしい。目には目を、歯には歯を、じゃあくすぐりには?」
「や、やめ……」
「私、こういうわかりやすい思考大好きだぜっ‼」
小傘が口をポカーンと開けている横で、霊夢の絶叫がこだました。
第六十二話でした。定期的にレイマリは必要。
投稿遅れてすみません……シャドバ楽しすぎるんじゃ……(私利私欲)
ではっ!