「ふわー……すごい試合だったね」
小傘は文たちの試合を食い入るように見ていた。
「ああ、リリーの粘りも相当だったが、文たちの連携のほうが一枚上手だったね。結果は残念だったけど」
「これで対戦成績はどうなったの?」
「えっと、文たちが負けてにとりたちが勝ったから……これで2勝2敗かな?」
「ほーほー。次はどのペア?」
「大妖精と小悪魔だけど……まだ少し時間があるね。魔理沙を起こしに行くかい?」
「そうしよう! そろそろ疲れも取れてるよねきっと!」
「はは……人間はそんなすぐに回復しないと思うけど……」
小傘を軽く受け流して、霖之助はゆっくりと歩きだす。小傘も後ろから追従して、二人は再び木の下へと戻っていった。
そこではあいかわらず、魔理沙がすやすやと寝息を立てていて夢の世界で冒険していた。もたれかかっている大木が不思議な安心感を放出している。
「すごいな……さっきと体制が全く変わってない」
「感心してる場合じゃないよ。ねーどうするの、もうお昼だし起こさないと」
「そうだね、昼食はとっておいた方がいい。しかしここまで熟睡しているとなると……」
「よっし! こうなったら……」
「ちょちょちょ! 今は大事な時間だからやめておいた方が……」
閉じた化け傘の先端部分を勢いよく向けた小傘を声を大きくしてたしなめる。さすがの霖之助でも、完全にコントロールできていない。
「ふむ……さっきから時間も経ったし、少しゆすれば起きるんじゃないか?」
「そんなに自信があるならやってみてよ」
小傘が口をとがらせたので、やれやれといった様子で霖之助は魔理沙の目線までひざを曲げる。
「おーい、そろそろ起きてー」
肩をポンポンと叩くものの、やはり動かない。
「やっぱり起きないよ」
「ほら、時間だから」
霖之助を右手は方から頭へと動き、魔理沙のふわふわした金髪が軽くなでられる。
その整った横顔をぼんやりと眺めている小傘は思わず、
「うわ……魔理沙もったいない」
霖之助に聞こえないよう、こっそりとつぶやいた。魔理沙に起きるよう念を送るが、届くことは無かった。
「だめだね……」
「ねーどうするの、もう大ちゃんとこあちゃんの試合始まっちゃうよ。それにお腹もすいたし」
「わかったわかった。じゃあ試合見に行くついでになんか買って……ああ、屋台があるじゃないか」
もう一度魔理沙に背を向け、八目鰻の屋台へ向かったその時、
「霖之助先生! ちょっといいですかっ‼」
「おや、そんなに息を切らしてどうかされたんですか?」
霖之助を呼ぶ声と共に、会場のほうから猛スピードで走ってくる教師がいた。
「はあ……はあ……」
「校長がそんなに慌ててどうするんですか」
「はは、すみませんね……ちょっと非常事態で」
校長の映姫は肩で息をしながら、右手を霖之助の腰にやった。
「さとり先生が……さとりが……逃げました……審判すっぽかして……」
怒りと焦燥が入り混じった、か細い声が少しずつ漏れ出る。
「とりあえず落ち着いて。――仕方ないですね、さとり先生ですから。僕が入ればいいんですね?」
「はい、すみません……」
「えっ、霖之助行っちゃうの?」
「ああ、悪いが魔理沙を連れて会場まで来てくれ」
第六十一話でした。
さとりんはどこへ消えたのか?それは「東方好きの優斗と大妖精と」を見ればわかります!(ステマ)
では!