「眠い……疲れた……ぶっ倒れそうなんだぜ」
「ねー暇だよー。なんか一発芸やってー」
「袖を引っ張りながらむちゃな要求をするんじゃない!」
徹夜で練習に励み、慧音にとんでもない疑いの目を向けられ、今や魔理沙の眠気は限界を突き破っていた。
慧音から頼まれて、試合は午後になったので魔理沙はさっさと寝たい。ただ小傘を引っ張って木陰まで来たのはいいものの、暇が大嫌いな小傘に邪魔されて目を閉じることもままなっていないのだ。
「ねー、暇なら私が思考錯誤した驚かせレパートリー100連発見てよ」
「お前は体力バカだからいいよな。高貴な人間様は休息が必要なんだぜ」
「あっれ、魔理沙は魔法使いじゃないの? 疲れは魔法でどーにかなるって白蓮が言ってたよ」
「うっ、まあそれはそうだが……そもそもあいつは人間じゃないからな。魔法の系統も違うし」
「でも魔法使いなんでしょ?」
「いや、なんというか……魔法使いにもいろいろあってな……」
皮肉なのか天然なのか、結構痛いところをついてくる小傘であった。
「あーもう! 誰か助けてくれよ!!」
魔理沙の悲痛の声がこだまする。
その声を聞きつけたのか、はたまた全くの偶然であろうか。魔理沙にとっての救世主が横から現れた。
「魔理沙、大丈夫かい?」
「こーりん! ちょうどよかったんだぜ。ささ、早くこいつをどっか連れてってくれ」
完璧すぎるタイミングに思わず愛称で呼んでしまった魔理沙。
しかし霖之助も練習に付き合わされていて、魔理沙と同じ徹夜明けなのだ。しかも望んでではなく魔理沙に、「第三者の目が必要なんだぜ」などと言われて襟を強引につかまれるという全くのとばっちりだ。
しかし霖之助に疲れの色は見えない。いつも通りの細い目とぼさぼさの白髪で、とても二十四時間寝ていないとは思えないだろう。
「つーかお前も十分化け物だな。なんでそんなピンピンしてるんだ?」
若さの秘訣を魔理沙が見上げて尋ねる。霖之助は自虐するように軽く笑って答えた。
「化け物って……僕は半妖だから十分バケモノといえるんじゃないか。それに徹夜なんてテストの採点で慣れているからね……」
「あっれ? 優斗が全部やってくれるんじゃないのか」
「それこそ彼が一週間不眠不休になるよ。それに優斗が来る前は……」
「あ……そうだよな……」
教師根性のかけらもないダメ妖怪や神たちに、仕事を押し付けられたと目が示していた。魔理沙の脳内にスキマ妖怪や、ポルターガイストを使って演奏ばかりしている三姉妹が頭に浮かぶ。
そういえば優斗が来る前は霖之助がすべての面倒事を対処していたな。魔理沙は心中でそう思案して、頭を下げる。
「魔理沙はきついと思うから寝ているといい。小傘、弾幕ごっこを見に行こう」
「えー! 魔理沙も一緒に……」
「こらこら、わがままを言っちゃいけないよ」
「!? う、うん……」
無造作に小傘の頭に置かれた霖之助の手に何も言えなくなる。魔理沙はその自然で洗練された振る舞いにあきれ交じりの溜息を洩らした。
「よし、行くよ霖之助! 相手を研究してやるんだ!!」
「今弾幕ごっこやってる相手とは当たらないと思うけど……まあ近いところで見ておこうか」
幼女の扱いがうますぎる霖之助に感心しながら、魔理沙は一日ぶりに体を横たえるのであった。
第五十九話でした。小傘とチルノの区別をつけるのって難しいですね。
さあ次回、久しぶりの弾幕ごっこです!描写を書くのが不安すぎる……
では!