そんなこんなで、翌日。魔理沙と小傘は大木の下で話していた。
「準備できたか小傘?」
「も、もちろんさ……あれだけ頑張ったから」
「よしよし、その心意気だ。今日は絶対に勝つぞ!」
「うん! やってやるんだ!!」
実はこの小傘、並みの小傘ではない。
魔理沙とのタッグが決まった瞬間、魔理沙は小傘を連れ出して校舎の外へと向かった。
そこから始まったのはもちろん、魔理沙との地獄の特訓。特に魔理沙はお互いのスペルカードを理解し、連携を取ることを重視した。12時間という短い時間では、できることは限られているのだ。
しかしそこは弾幕ごっこに命を燃やしている魔理沙。見る見るうちにコンビプレイができるようになり、急造コンビの2人は1日で見違えるほどに成長したのだった。
「しかしまあ……疲れたな。なんだか目がとっても重いぜ。お前はどうだ? いけそうか? もうだめか??」
「ぜんっぜん! こんなんで疲れちゃったの?」
「バケモンか……いや、本当に化け物唐傘妖怪か。こういう時は妖怪にあこがれるぜ……」
夜を徹しての特訓で、魔理沙は睡魔に襲われていた。対して小傘は目を輝かせていた。むしろ、一日中起きていて肌にハリがある。
人間が劣るところをまざまざ見せつけられ、肩を落とす魔理沙。
「調子はどうだ?」
そんな魔理沙をあおるような発言が後ろから聞こえた。
ドスのきいた声で、魔理沙は振り返り答える。
「どこを見ればそんなこと言えるんだ? 私の目の下をしかと確認するんだぜ」
「私は小傘が気になったから行っただけだぞ。なっ、小傘。元気だよね?」
その声の主、慧音は飄々として小傘に笑顔を向ける。
「あったりまえじゃない! こんなんで疲れているようじゃ、驚かせられないよ!」
「そうだよな。たった一晩寝てないだけで疲れるなんて、人間は弱いな」
「うん!」
「小傘てめ……あとで覚えておけよ」
魔理沙は暗い声で脅迫した後、手の指10本をわきわきと動かした。
瞬間、小傘の顔から血の気が引き、慧音の後ろに隠れた。小傘の口から、低い震え声が出ている。
「やだ……あれはもう……」
尋常ではない豹変に、慧音は目を丸くし、魔理沙に疑いの目を向ける。
「大丈夫か!? おい、魔理沙、いったい何をやらかしたんだ。 まさか……小傘の初め手を強引に……」
「なあっ!? ちげえぜ!!」
「そうか……まさかとは思ってたがお前はそういう……」
「そういうってどういうことだと思ってたんだ!!」
「そりゃもちろん、小さい女の子が好きなんだろ? チルノとか」
「今まで私をどんな目で見てきたんだ!? ――ああ、周りのやつが変な目を向けてるじゃねえか!」
慧音は微笑みの中にどこかさみしさの混じった表情を浮かべ、親指を突き立てた。
「心配するな、私は教師だ。生徒のそういうのも認める。ただ強引にやるのは犯罪だから、一緒に警察に行こう。なっ、私が弁解してやるから」
「だから事実無根だって叫んでるだろうが! ――くすぐっただけだよ」
「まあそんなことだろうと思ってた」
深刻な様子から一瞬で真顔に戻る。あいかわらず後ろでは、「いや……くすぐりいや……」と小傘の悲痛な声。
「冗談きついぜ先生……」
「ふふ、普段の仕返しだ」
普段めったに見せないピースサインで喜びを表現した。魔理沙は白状したように理由を話し始める。
「実は昨日大妖精の家に行ったんだ。そこで『私をびっくりさせてみて!!』なんてあいつが言ったんだよ。悩んでたら優斗が助言してくれて……」
「つまり、悪いのはすべて優斗だと」
「そういうことだ」
「あとであったら頭突きだな……」
罪が朝霧優斗になすりつけられたところで、
「そろそろ本題に入っていいか?」
「まだあったのか?」
「なになにー!?」
どうやら小傘は完全に復活したらしかった。
慧音は二人にまっすぐな瞳を向ける。
「こっちの3組戦の対象覚えてるか?」
「えっと……」
「はい! ヤマメとキスメでしょ!」
「そう、責任重大なポジションだ」
試合は対2組と対3組で2回ある。1試合で誤解弾幕ごっこが行われる。3クラスしかないため当然総当たり戦で、各クラス10回試合を行い、勝利数の多い暮らしの優勝となる。
そんな中で、3組戦の対象とは最後に行われる大トリ。絶対に負けられないのだ。
「くじ引きで決まった後二人が涙ながらに懇願してきてな……『私たちには到底似合ってない』とかで。仕方ないから、こうして頼みに来てるわけだ」
「だってさ小傘。どうする」
「もちろんやるに決まってる!!」
魔理沙の問いかけに、小傘は間髪も入れなかった。魔理沙も白い歯を見せ、心底楽しそうな顔になる。
「私も同意見だ。こんな緊張するシュチュレーション、嫌いじゃない」
魔理沙の力強い握りこぶしが、答えとなった。
「じゃあ頼むぞ! 1組を勝利に導いてくれ!!」
第五十七話でした。「君の名は」の声優、上白石萌音さんと上白沢慧音先生ってなんだか似てますよね。
小傘と魔理沙……なんだかおもしろそうなコンビですね。しかも書きやすくて一石二鳥。
では!