「ん? なんだこれ?」
アリスは後ろからの声で、反射的に動きを止めた。
これがただの1生徒なら、アリスはそのまま無視していただろう。しかしその声に反応しないわけにいかなかった。なぜならその声こそが、パチュリーがアリスを閉じ込めた一番の元凶。
アリスは即座に後ろを振り返り、話しかけた。
「そこにいるの魔理沙?」
じっと声のする方向を見据え、反応を待つ。
だが、アリスの声は届いておらず、
「なんで通れないんだ? こりゃ見えない壁か?――そんなわけないか」
ぼそぼそと魔理沙のつぶやきが聞こえるだけだ。
どうやらこちらの声は聞こえないが、向こうの声だけは届くマジックミラー式らしい。パチュリーも凝って作ったものだ。
ならば、さっさと壁をぶち破るのが得策だ。こちらの存在を気付かせるのが一番手っ取り早い。
アリスは止めていた指を動かし、胸元から三枚一気にスペルカードを取り出す。
(これで終える……!)
覚悟を決め、アリスが目を大きく見開いたとき――、
「待ちな……さい……」
「これ以上話すことなんてないわよ」
背後からパチュリーのか細い声。
パチュリーは息絶え絶えで、今にも意識を落としそうだ。だが、アリスのほうをにらみつけるように凝視した。
その剣幕に少し気後れしたのか、アリスは黙って見つめ返す。
「あなた……これからどうするの……」
「そりゃ当然、壁を破壊してから魔理沙に会うのよ」
「ならその前に……お願いしたいことがある」
「はあ? あんたが私を閉じ込めておいて? ちょっと虫が良すぎるわよ。さっさとどきなさい」
「どうしてもやりたいことがあるのよ。――あなたと!」
「えっ!? 私?」
パチュリーの言葉が斜め上から降ってきてアリスは思わず聞き返した。
(こいつは魔理沙じゃなくて私に用があった? じゃあ閉じ込められた理由も魔理沙がらみじゃないってこと?)
考えれば考えるほどパチュリーの心理がわからなくなる。これまでアリスとパチュリーはほとんど関係を持っていなかったが、なぜ今になって話しかけてきたのか。
兎にも角にも、話を聞かないことには始まらない。相変わらず息絶え絶えで横たわっているパチュリーに声をかける。
「何か頼み事でもあるの?」
「ええ、こっちへ来なさい」
「何よその偉そうな態度は」
「もう一歩も動きたくないのよ。あなたが何にも考えずにスペル連発するから……あいかわらず火力だけは高いのね」
「あんたがここに閉じ込めたからでしょうか」
文句を言いながらもパチュリーの隣にしゃがみ込み、聞き耳を立てる。
「あなたと…………したいのよ」
「……えっ?」
第五十五話でした。正月ボケが長くてすみません。働きたくなかったのだ!
次回もお楽しみに!