魔理沙が叫んだ瞬間、文の中に多くの考えが廻った。
魔理沙の大声に驚いた。なぜスペカを用意していたのか疑問に思った。迫ってくる黒光りする光線に恐怖も感じた。
だが光が天井を突き抜けるまでのほんの一瞬、何よりも強く頭を支配したのは、
(あ~! これじゃ一面に書けないじゃないですか!)
そんな、至極純粋な記者魂だった。
自分がどうなろうと新聞は出す。そんな強い意志を持った文は、被弾するまでのほんの数フレーム、最後の行動に出た。
「……………………」
顔をしかめて、自分のメモ帳を天井の端のほうへ投げる。
数回跳ね、壁にぶつかって静止したメモ帳は暗がりに隠れてよく見えなくなっていた。
(ああ、これで……)
なんてことはない、すべて満足だ。
ピチューン
天井に穴が開いたせいで、会議室が一か月くらい使用不能になったらしい。
「やったか?」
天井を見上げて確認する魔理沙。
魔理沙は文の尾行に気づいていた。彼女はそれをわかったうえで、珍しく冷静な考えを持った。つまり、「気づいてないフリ作戦」の画策である。
あまりに熱くなり過ぎていた文は、魔理沙の作戦に全く気付かず返り討ちにあったのだ。
――だが、それだけのために魔理沙は霖之助を呼んだりしない。
口をぽかーんとあけ、現状を理解していない霖之助のほうへ向きなおる。
「おい、大丈夫か? まあ、驚くのもしょうがないな」
「そ、そりゃあ驚くに決まってる。いきなりスペカを取り出したかと思えば天井に放つ……保健室へ行ったほうが」
「そこまで頭狂ってない。まあちょっと付きまとってるやつがいたもんでな。そいつを吹っ飛ばしただけだ。なかなかの威力だっただろ?」
「それは前から知ってるけど……」
「まあ、今ダークスパーク撃ったのはちゃんと理由がある」
「? ――そりゃ興味深いね」
霖之助が落ち着きを取り戻したところで魔理沙は自分の帽子をまさぐり、髪の中から何かを取り出した。
「ほら、やるよ」
それを霖之助へ投げつける。
「おっと。――これは……」
「チョコレートだ。今日は2月14日だろ? 普段から買い物ツケにしてくれるお礼ってことで」
「これ買うお金があったらちゃんと代金を払ってほしいものだが」
「いやいや、ちゃんと手作りだぜ。先に行っとくが、毒キノコは入ってない」
魔理沙は終始ニヤついている。
このチョコレートは、「友チョコ」といわれる分類であろう。魔理沙は文に逆襲するため、そいて霖之助に日頃のお礼をするため、このような方法をとったのだろうか。
「それじゃあな、これからもよろしくだぜ!」
くるりと背を向け、勢いよく会議室を飛び出していく。
「チョコか……ありがたいものだな」
霖之助のつぶやきを聞き逃さずに。
「ふっかーつ!」
翌日、すでに文は回復していた。手にはこの日のために刷った大量の新聞。昨日コテンパンにされた後、徹夜でかぎあげた渾身の記事だった。
魔理沙の記事は無くても慧音にフランと、紙面を埋めるのには十分なほど、ネタは集まっていた。
「さあ、配りまくりですよー!」
この日、バレンタインの後日談で学校は大いに盛り上がった。
第五十話でした。たまには魔理沙に逆襲させてもいいよね?
これで本当に!バレンタイン編終了です。次回は学期末恒例のあれですかね。
今回で五十話となりました。長い間の応援ありがとうございます!
では!