(ふふ……さすが慧音さんですね)
文は自分のだらしない顔を元に戻すことができないでいる。
先ほどの慧音との契約で、彼女と妹紅の邪魔をしないと文は約束した。
ただ忍者さながら、天井から写真を撮るのは迷惑行為とは言えない。そう勝手に解釈した文は、結局チョコを渡すところをばっちり確認した。
普段絶対に見せることのない、慧音の緊張した顔。それを激写できた文は、有頂天に達している最中である。
「さーて、これで記事の内容は固まりましたよ!」
思わず廊下であげた大声に、ちょうど廊下ですれ違ったチルノと大妖精が驚き、二人の肩がビクッとはねた。
(さーて、残るはあと一つ)
だが、これでも、こんなに撮りつづけても、まだ満足できない。それほどまでに文の取材欲は強大だ。
慧音の時と同じように、こっそりと尾行を開始している。さながら探偵に見えるが、彼女は一介の新聞記者である。だが、その尾行能力は、下手な名探偵には匹敵していた。
(にしても、寒いですね……)
二月の夕方ともなれば、かなり冷え込む。特に学校の廊下は暖房が全く聞いていないため、極端に寒くなる。文は自分の息を手にかけ、少しでも寒さを和らげようとしていた。
(けど、あの人の心はヒート真っ盛りでしょうけど)
再度、文は尾行している人物を確認する。彼女は透き通るような金髪を真っ黒な帽子で隠し、白い息を吐いていた。手には、後生大事そうに抱えられているチョコレート。
「さあ、どうしてくれるんですか魔理沙さん……!」
小声で、しかし力のこもった声で文がつぶやく。
魔理沙を尾行しているのは当然、彼女が誰にどんなチョコを上げるのかを徹底的に探るためである。先日に単独取材を魔理沙に申し込んだのだが、門前払いならぬマスパ払いされてしまった。
ならばと、勝手に取材中だ。
「さて、そろそろですかね……」
こちらに全く気付いていない魔理沙がいるのは、会議室の前。
扉に手をかけ、入っていく。
なぜ慧音も魔理沙も会議室なのか文は疑問に思ったが、むしろ好都合だった。忍のように天井裏へ侵入し、天井の穴から覗き込む。
予想通り、魔理沙と霖之助が向かい合っていた。
はたして魔理沙がどんな言葉をかけるのか。期待と緊張で文の胸の鼓動が早まっていく。
「どうしたんだ魔理沙、こんなところまで呼び出して」
「いや、ちょっとな……」
文のニヤつきが止まらない。すべて、すべて自分の予期した通りの結果だ。おそらく、霖之助はまだここに呼ばれた理由を理解していない。
どう魔理沙が気付かせるのか、お手並み拝見だ。
一時の間があった後、魔理沙の口が開かれる。
「ちょっとネズミの駆除に手伝ってもらったんだぜ!」
魔理沙が叫び、チョコを持っていない右手を高々と揚げる。
「妖器『ダークスパーク』!」
誰が予想したであろうか。魔理沙がチョコを投げ捨て、はつらつとスペルカード宣言をした。
第四十九話でした。今までで一番会話文か少ない気がしますね。
文って取材時は丁寧な口調ですが、普段の時は「~かしら?」「~よね」みたいないたって普通のしゃべり方らしいですね。
ちなみに文の後輩の、アオバワレェ!さんは誰かと話すときは基本敬語らしいですね。
今回で終わりって前言ってましたが、そんな余裕はなかった……おそらく、次回で本当にバレンタイン編は終わりかな?
では!