「はあ……はあ……心臓が高鳴りますね」
文は、鼓動が早くなる胸を、独り言をつぶやいて抑えようとする。今日は2月14日。文が待ち望んだバレンタインの日だ。
この日のために多くの下調べをしてきた。慧音やフラン、魔理沙などなど、10数人に突撃取材をかけ、多くの傷を負ってきた。しかし、今! その成果が!
「ってことで魔理沙さん、あなたに決めました! 勝手に密着取材させていただきます!」
「それだけ取材しといてなんで私に行きつくんだ!」
「いろいろ取材してわかったんですよ。結局魔理沙さんが一番面白いですね。感服です」
「おちょくってんのか?」
露骨に顔をしかめる魔理沙。文はそれを軽く流し、軽い調子で、
「まあまあ。何も四六時中ってわけではありませんよ。他の人にもマイクを向けなければいけませんからね」
「まあそれなら……」
「ですから味方を雇っておきました。お二人ともこちらへ~」
文が声を上げると、廊下の角から影が2つ現れた。1つは魔理沙と同じくらいだが、もう片方はとても小さい。
大きいほうの手には棒、小さいほうの肩に尖っているものが見え、魔理沙は察してしまった。
「ヤッホー魔理沙! なんだかとっても面白そうだね!」
「いつもはこんなことしないのだけれど……なんだかとっても面白そうだから来たわ」
「同じ言葉重ねるのやめるんだぜ!」
その妖精と巫女は仲のいい姉妹のように、同じようなニヤケ顔になった。
「というわけで、霊夢さんとチルノさんです~」
「言われなくても知ってるぜ」
「では、よろしくお願いしますよ~」
「あ、待て!」
魔理沙の言葉を聞くことなく、音速に近い速さで廊下を駆けていく。
「こら、廊下を走ってはいけません!」
「あっ、すみませんー」
映姫校長に止められたが。
「フランさん、そのチョコは誰にあげるんですか?」
教室に戻ってきた文は、さっそくメモ帳を取り出していた。
取材相手は、先日潜入済みのフラン。
あの時はよくわからない食材をチョコに詰め込んでいたが、あの後どう修正したのだろうか。それがどうしても聞きたくて、文はエアマイクをフランの口元に置き、詰め寄った。
「誰って、いろいろな人だよ」
「まあそうですよね。――では質問を変えましょう。その中にはいったい何を入れたんですか?」
積みあがっている十個ほどのかわいくリボンで包装されたチョコを指差し、尋ねる。
「チョコの中身ってこと?」
「それ以外に何が? もしかして酸味がある物入れてませんか?」
「いや、それは咲夜に止められたよー」
「ああ、それならよかった」
ほかの人間ならば、文が言っていることがおかしいことに気づくだろう。
なぜ文は、フランがチョコにトマトを入れようとしたことを知っているのか。ここに咲夜がいれば一発でばれるのだろうが、そこまで考えられる頭脳はあいにくフランは持ってなかった。
「そんなにいうなら、はい、あげるよ」
「ありがとうございます!」
両手で大事そうにフランからチョコを受け取る。開けてみると、いたって普通のチョコだった。半分に折って口に運ぶと、柔らかい甘みが口の中に広がった。
「確かに普通においしいですね……」
「でしょー! これがみんなで作った成果だよ!」
「そうですか。ところで、その頑張ってくれた紅魔館の皆さんは?」
先ほどから教室を見渡しているのだが、レミリアも咲夜も見えない。少なくとも、隣の席のレミリアはいないとおかしいはずだ。
「ああ、今日はお休みだって。なんだかとっても疲れたって言ってた。きっと、カリスマを出すと体力が少なくなっちゃうんだね」
「あ、そうですか……」
何も知らない純粋な少女の残酷な一言で、察してしまった。いまごろレミリアと咲夜は紅魔館でダウンしているところだろう。
第四十七話でした。魔理沙はボケでもツッコミでもどっちでも行けるんだぜ……
バレンタイン編はあと一、二話くらいですかね。文が大暴れしそうです。
では!