「さあて……」
翌日の夕方、文は別のところに来ていた。
前日撮った慧音のキャラ崩壊写真で、新聞を八分の一ほどが埋まった。一面トップにこれを持ってくると、慧音に頭をぶち抜かれる恐れがあるので、あまり大きくは書けないのである。
別にバレンタインデーは、ゴシップだけしかない行事ではない。甘く、ほほえましいシーンだっていくらでもある。そう文は考え、ここにやってきた。
「すみませーん。射命丸文なんですが……取材よろしいでしょうか? ――あの? おや、寝ていますね……」
そこの門番の肩を何回か叩くが、起きる気配が感じられない。気にせず、その横を通り過ぎることにした。
ちょうど日没を迎え、あたりが暗くなってくる。それの対比で、館の中が明るく見えてくる。程よく明るい廊下を文はすたすたと歩く。
二十分ほど屋敷の中を歩き回り、お目当ての部屋を発見した。通常なら侵入者には、即座にここのメイド長が対処に来そうなものだ。だが、これまで文がいろいろな部屋を漁っても何の反応もなかった。それだけ、メイド長も手が離せないのである。
(なんだか緊張しますね……)
慎重に、その部屋のドアノブをあける。そこには――、
「ふ、フランお嬢様!? 今度はいったい何を……」
「何って……甘みと酸味を共演させたらいいものができるでしょ!?」
「確かにそういうものもありますが! だからって、だからって……」
プルプル震えながら、咲夜は問題の品を手に取る。
「トマトとレモンと酢を丸々入れるなんて、いくら何でもやりすぎです!」
「そ、そうなのかー?」
「そーなのだー……って違います! ――けど可愛い……」
文はその様子を、メモを取りながらのぞいていた。
これは記事になる……のだろうか。文にも判断しがたかった。確かに、すっぱいものを入れまくったフランの行動は面白いかもしれない。
だが、それを書いた瞬間、ナイフが飛んできそうな気がする。よっぽど面白いものが書けないかぎり、ナイフという代償は払えなかった。
そう文が悩んでいると、背後からゆったりとした足音が聞こえてきた。
(マズっ……)
慌てて空いていた窓から外に出て、中の様子を観察する。自分がいたところに紅魔館の主、レミリアが通った。
こちらに気づいていないようで、ドアを開け、フランたちのいる部屋へ入って行った。
「ふふ、お困りのようね咲夜」
「お嬢様! こちらへ来てはなりません! チョコがすさまじく……パチュリー様も犠牲に……」
「ふっ、任せなさい。神槍『スピン・ザ・……』」
「それをここでやるのはやめてください! 屋敷に住めなくなります!」
「わかった! じゃあ私がやる!」
「ちょ、やるってまさか……」
「炎剣『レーヴァテイン』!」
「させません! 『咲夜の世界』!」
(なんだか……楽しそうですね)
これ以上は見ていられないとばかりに、立ち去っていく文。
十分写真は撮れたし、記事にするのは確定だ。あとは咲夜がどうにかしてくれるだろう。
第四十五話でした。
遅くなってすみません! 夏の間は投稿ペース早くできればなあ……って思います。実現可能確率12.3%くらいですがね!
ではっ!