背中合わせの状態でレミリアたちの弾幕と対峙している咲夜と美鈴。
吸血鬼姉妹に挟み撃ちにされ、スペルの雨を食らっているこの状況。ただの人間や妖怪なら思考停止してもおかしくない状況だ。
しかし彼女たちは違う。
「あら、随分と余裕そうね」
「まあ、お嬢様の弾幕は嫌というほど見てきましたし」
「めいりん! あなた笑ってるなんてすごいね!」
「まあ……そういうもんじゃないですか、弾幕ごっこって」
いままで微笑を浮かべてた咲夜だったか、一瞬にして生真面目な顔に戻ると、
「さて、本当に終わりにするわよ!」
「はい! もう疲れましたしね」
美鈴に大声で発破をかける。
「へえ? ずいぶんとからかってくれるじゃない」
その動作が気に入らなかったのか、レミリアが面白くなさそうに睨みつける。美鈴の顔、その一点だけを凝視して。
それは、一瞬だけ周りが見ていないことを意味する。
「行くわよ!」
その一瞬を使って咲夜は、
「えっ? 咲夜何してるの?」
思いっきり突っ込んだ。ただ、レミリアにではない。美鈴にだ。
もちろんこのままでは正面衝突で頭に星が出るだけだ。
しかし美鈴の身体能力は並大抵のものではない。
「いきますよ!」
わずかに下に移動し、両手を伸ばし、バレーボールのレシーブのように体の中心で合わせる。
そのまま手のひらに咲夜を乗せ、
「もういっちょ! そりゃ!」
真後ろに跳ね飛ばした。咲夜の移動速度が一気に増幅する。
さらに咲夜の手に握られているスペルカード。それを上へと投げ飛ばし、スペルが発動する。
「幻世『ザ・ワールド』」
このスペルはただナイフを展開するだけのものではない。数秒だけ時を止められる。
現在咲夜は投げ飛ばされ、レミリアに迫っている。
この時、時間を止めたら咲夜はどうなるだろう。答えは簡単、
「なっ……」
レミリアが絶句した。咲夜が瞬間移動したかのように、面前に現れたのだ。
「終わりです」
思考が追い付いていないレミリアの背中にナイフを軽くあてる。
「よっしゃ! やりましたね!」
「ええ、でも油断は禁物よ。まだ妹様が」
「いえ、私たちの負けよ」
咲夜の言葉はレミリアの一言で打ち切られた。
「えっ? それってどういう……」
「私たちどっちかが負けたらもうリアイアしよーって決めてたの」
「はあ……」
美鈴が困惑の表情を浮かべる。
「私たちは一心同体。完全勝利じゃないと意味が無いわ」
「なるほど……」
咲夜は相変わらずクールな表情を崩していない。――この瞬間までは。
「じゃあ……――咲夜ぁ!」
「めいりーん!」
「うわっ!」
「い、いきなりどうされたんですか?」
レミリアは咲夜に、フランは美鈴に思いっきり抱きついたのだ。
驚愕の顔になった咲夜たちだったが、すぐに顔いっぱいの笑顔になった。
「負けちゃったし、たまにはこんなことしてもいいかなって? お姉ちゃんと打ち合わせしておいたの」
「ですって咲夜さん! 頑張ってよかったですね! こんなことめったに……あら、もう聞いてないか……」
抱きつかれて1.5秒後、鼻から忠誠心があふれでて昇天した咲夜であった。
第三十三話でした。
ようやくレミリア戦完結ですね。あれ、何か忘れているような……次回書きたいと思います!
ではまたお会いしましょう!