(さて……どうしますかね)
大妖精をしっかりと正面に見据えながら思案する依姫。オーラが感じられるくらい集中していた。
(いくら強くなっていても相手は妖精。一発叩き込めば――)
途中で思考を中断せざるを得なくなる依姫。いきなり数発の弾が飛んできたので、反射的に刀で受け止めたのだ。
「速いですね。うちの兎たちを教えてもらいたいくらいですよ」
「…………」
軽口を完全に無視する大妖精。もう思考のほとんどは目の前の敵を倒すということにしか割かれていない。いや、依姫と優斗がイチャイチャしている光景も浮かんでいるだろう。
「ゆ、優斗とあんなうらやま……卑猥なことをするなんて!わ、私もした……とにかく倒す!」
「それあなたが勝手に想像したことですよね!?」
余りに大妖精の言葉が的外れで思わずツッコミが入る。
「うわっ!今完全に頭狙いましたよね!」
またすさまじいスピードで弾が飛んできた。しかも狙ったのは頭と四肢。完全に行動不能にさせようとしている。
「しかたありませんね……みねうちにしますからね!」
苦渋の決断で、依姫は大妖精を気絶させることを選択した。猛スピードで大妖精の近くまで突進する。
「それっ!」
そのまま大上段から力いっぱい振り下ろす。いくらみねうちとはいえ、妖精程度の防御力では一発で昏倒してしまうだろう。だが――、
「はれっ?」
すっとんきょうな声をあげる依姫。全く手ごたえが無かったのだ。
「こっちですよ」
「なにっ!」
いつの間にか依姫の背後を大妖精はついていた。なんと、依姫が認知できないほどのスピードで。
「はははっ!倒れちゃえ!」
普段絶対にあげない奇声をあげながら、多くの小弾を放出した。
「くっ……」
しかし、そこは月で一番の腕前を持った依姫。素早く反転し、すべての弾を刀一本でさばいた。
(あんなスピードとは……あんな化け物勝てるんですか?)
もちろん依姫だって、自分の体に神を憑ろして戦えば勝つのは造作もないことだろう。しかし、こんなことで力を使うのはバカらしいことこの上ないので、剣一本で倒そうとしているのだ。
「じゃーそろそろ本気だすよ?」
「つっ……やっぱり本気で行くしか……」
誰もが依姫と大妖精の全力のぶつかり合いを予想していた。だが、そんな空気を無視できるものがこの場に1人だけいた。
「お~い」
突然、それまでの張りつめた空気とは全く異なった声が地上から聞こえた。
「はっ?」
「ほえっ?」
あまりに場違いだったので、集中力が途切れてしまった二人が声のする方を見てみると、
「どうしたんだ2人とも。らしくないぞ?」
この学校の臨時教師で、いまやこの問題の一番の原因でもあろう、朝霧優斗が土産店の前で佇んでいた。
第二十六話でした。
依姫いいですね……(主にツッコミ能力的な意味で)話が引き締まりますよね。
次回月世界編完結です!お楽しみに!
では!