ゆずゆずゆゆ式 作:ツナマヨ
出来るだけ原作の雰囲気に近づけるように、ゆゆ式らしさを出していけるように頑張るのでよろしくお願いします。
後、PCが現在手元に無いので、文章の最初や!?などの記号の後に空白を作れません(携帯で開けてもプレビューでチェックすると空白が無くなってました)
御了承ください
曲がり角を曲がったところで、少し離れた場所を歩く女の子の後ろ姿が目に入った。綺麗な髪と独特な歩き方から、そいつが幼馴染の一人である日向 縁だとわかる。縁は、見ているこっちがハラハラする程危なっかしい足取りで、フラフラと歩いていた。
きっと、眠いなぁ、めんどいなぁと思いながら歩いているんだろう。
今日から高校生で入学式の日だというのに、普通はドキドキしたり、ワクワクするものなんじゃないのか? まあ、縁らしいっちゃ縁らしいけど。
苦笑を浮かべ、声を掛けるかどうかを逡巡し、やめた。縁との距離は開いており、少し大きな声を出さないと聞こえないだろう。縁じゃないが、朝からそんな事をするのは面倒だ。
それに、こっそり近づいて驚かせてやろうという、いたずら心が鎌首をもたげていたからでもある。
歩くスピードを少し上げて、ゆっくりと縁との距離を詰めていく。
それにしても危なっかしい歩き方だなぁ。足取りはフラフラしているし、姿勢は前のめりだし、手はなんか変な振り方だし、その内転びそうだ。
そん危なっかしい縁の姿を見て、歩くスピードを上げたのがよかった。
もう少しで手が届くという距離まで来た時に、足首をぐねってしまった縁が、自分の家の壁に激突する前に抱き止めることが出来たのだから。
「危ないぞ、縁。ちゃんと歩かないと」
「あ〜柚君だ〜」
俺の体に寄りかかっている縁が顔を見上げ、その視界に俺の顔が映ると、ほにゃりと笑顔を浮かべた。
その笑顔を見るだけで、こちらも嬉しくなり自然と笑顔になる。
「ほら、もうそろそろ自分の足で立ってくれ」
「えへへ〜あったかいね〜」
会話が成り立たない。まあ、縁を含めて幼馴染の三人と話しているときは、会話が成り立たないことはよくあることだ。
今日のこれは、まだ眠たいから思った事をリアルタイムに伝えているんだろう。
そんな時の対処方もわかっている。
「春だけどまだ寒いな」
「そうだね〜」
「今日から高校生だな」
「そうだね〜」
「縁も新しい制服だな。似合ってるよ」
「ありがと〜」
「唯とゆずも新しい制服だな」
「……はっ! 唯ちゃんとゆずちゃんの制服、見たい!」
脳内で制服を着た二人を思い浮かべたのだろう。
急に元気になった縁が体を離した後、こちらに向き直って、両手を胸のところでガッツポーズのように握った。
「じゃあそろそろ学校に行くか」
「うんっ! はー何か、目ー覚めてきたかも」
縁は頭をフルフルと振った後、道路のある一点を見下ろし、手を振った。勿論そこには何もない。…………まだ寝ぼけているのだろうか?
まあ、いいか。縁が時たま、可笑しな行動をするのは見慣れているし。
「よぉーーし、柚君。唯ちゃんとゆずちゃんに、会いに行こー♪」
「そうだな……っと、その前に縁。さっき足首ぐねっただろ? 大丈夫なのか?」
「えー? 何のことー?」
すごいな、さっきの事をもう忘れてるよ。
「まあ、痛みがないなら大丈夫だろ」
「はやく行こーよー」
縁が手を引き急かしてくる。
「はいはい、じゃあ行くか」
「うんっ!」
「なあ縁、いつまで手を握っているんだ?」
「え〜? だめ〜?」
新学期早々、手をつないでの登校は少し……いや、大分恥ずかしいものがある。
だけど、にこにことこちらの顔を見ている縁に、ダメとは言えない。
「まあ、いいけど」
結局、嬉しそうな縁を見ていると、断ることが出来なかった。
そんなんだから、唯にも甘いと言われるんだろう。
「えへへ〜やったぁ!」
うん、気にしないでおこう。
「けど、握ってて寒くないか?」
俺は冷え性で、冬場は手足がものすごく冷たくなる。
もう四月とはいえ、まだまだ寒さが残っており、俺の手は冷たいだろう。
「大丈夫ー、柚君の手、冷たくて気持ちいいよー」
そう言う縁の手は暖かくて、繋いだ手からぬくもりが伝わってくる。
「それにね〜」
「うん?」
「柚君は高校生になったら、遠くに行っちゃって会えないと思ってたから、またこうして、いっしょに学校に行けるのが嬉しいの」
心の底から嬉しそうな顔をする縁を見て、本当にこっちに残ってよかったと思えた。
両親と別れて一人暮らしをすることになり、慣れない環境と、今までは母親に任せていた家事を、全部自分ですることになった。
一人暮らしをする前から、家事や炊事を手伝っていたため、一人暮らしでも何とかやっていけるだろう、と軽く見ていた俺だけれども、実際に一人暮らしをすると、そのしんどさに身を追われ、早くも一人暮らしなんてするんじゃなかったと、後悔していた。
勿論、幼馴染の三人、それにその両親までもが、色々と手伝ってくれたけども、それにも限度がある。
その度に、母親に甘えきった以前の生活を思い出し、落ち込んでいた。
だけど、またこいつらと同じ学校に通って、くだらない話をして、毎日笑って過ごせるんだと思うと、後悔なんてどこかに吹き飛ぶ。
繋いだ手を少し握ると、縁も握り返してくる。
そんな些細なことが、これからの毎日に、楽しい日々が待っていることを実感させてくれた。
「楽しみだな、学校」
「楽しみだね、学校」
二人して笑い合っていると、少し離れたところに唯とゆずの姿を見つけた。
どうやら気づかない内に、待ち合わせ場所まで来ていたみたいだ。
二人は仲良さげにはしゃいでおり、そばにあるスクーターが所在なさげに沈黙を保っていた。
騒いでる二人はまだ、こちらに気づいてないみたいで、ゆずが唯に抱きつこうとし、それを必死に止めようとしている唯。その姿が俺たちだけじゃなく、周囲の注目を集めていることにも気づいてない。
いつもと変わらない二人に苦笑が漏れる。
まあ、これからもう一人が加わって、さらに騒がしくなるんだけど。
「おーいっ! 唯ちゃんゆずちゃん! おっはよーっ!!」
思った通り、縁が二人の元へ走っていく……俺の手を引きながら。
ある程度予測できていたので、緩い駆け足で縁と歩幅を合わせることが出来たが、少し転びそうになったのは秘密だ。
軽くとはいえ、走っていることによりぐんぐんと、二人への距離が縮まる。
加えて縁は手を大きく振りながら、声を上げている。
そこまでして、ようやくこちらに気づいたのか、ゆずは大きく、唯は普通に手を振った。
そんな状態でもゆずは、抱きつこうとするのを止めない。そのため二人は、互いに押し合いながらこちらへ手を振るという、なんともシュールな光景が生まれている。
「ゆかりちゃん、ゆず、おっはよーっ!! 見てみて! 唯ちゃんの制服姿、超カワイくない!?」
「ゆ、柚彦! ゆずこを引き剥がしてくれ……って、何でお前ら手ぇ繋いでるんだよ!!」
「いや、流れで」
相変わらず、唯のツッコミにはキレがあるなぁ。
けどいいのか? ツッコミに気を取られてる間に、ゆずが抱きついてるぞ?
「ホントだ〜制服、超カワイーよ〜」
「うわっ! こっち来た!」
縁が手を離し、二人の元へと駆けて行った。
何となく手持ち沙汰になった右手で、携帯を持ちカメラ機能を呼び出す。
そのまま気づかれないように、写真を何枚か撮った。
「くそっ! こいつら、頭ん中春真っ盛りか!! 柚彦、見てないで助けてくれ」
面白かったけど、もうそろそろ助けるか。
「ゆず、縁、写真撮るぞー」
その声に二人は電光石火のごとく反応した。
「はあっ!? ちょ、やめろって」
「確保」
「ラジャー」「らじゃ〜」
素早くゆずと縁が唯の両手を押さえる。
肩に顔を乗っけて、笑顔でこちらにピースする二人を、強引に振り解かないのは唯の優しさだろう。
なんだかんだで、唯も二人には甘いのだ。
観念したのか、恥ずかしがりながらも、目線はカメラに向ける唯と、腕を押さえるのをやめて、唯と片手を繋いだ二人がカメラの枠に納まったところでシャッターを切った。
「よしっ、写真は後で送るから、とりあえず学校に行こうか」
時間もまだ余裕はあるが、初日だし早めに着いておくほうがいいだろう。
「え〜、柚君は〜?」
「そうだよ! ゆずも一緒に写真撮ろうよ。すいませーん! 写真撮ってもらってもいいですか?」
「お前、こういう時には行動が早いよなー」
唯が感心したように呟くが、同感だ。
ゆずはすでに道行く女性に携帯を手渡し、こちらに戻って来ている。
まあ、別にいっか。
「ねえねえ、柚君。ちょっとしゃがんで〜?」
制服の袖を引く縁の言う通りに、少ししゃがんで中腰になる。必然的に低くなった右の肩に、両手を重ねるように乗っけて、そのまま顔を寄せてくる縁と、それに習うかのように左で同じことをするゆず。
心なしかカメラを構える女性に、微笑ましい目線を向けられ、羞恥心が溢れ返った。
「だめだぞー柚彦ー、顔はカメラに向けないとなー」
すごい棒読みなセリフとともに、下に向けた顔を強制的に上げられる。
そのまま、左右の密着ぐあいが増したことから、唯は縁とゆずの肩に手を回し、挟み込んでいるのだろう。視界の両端にピースサインをした唯の手が映っている。
道行く人達がこちらを見てくる。
さっき写真を撮った復讐だろうか? それならこれほど効果的なものはないだろう。
早く写真を撮って欲しい。一秒一秒が長く感じられたのは久しぶりだ。
「あらあら、じゃあ撮るわよ? はいっ、チーズ」
シャッター音が鳴った後、素早く包囲網から脱出した。
一秒でも早くこの場から離れたいが、三人を置いてどこかへは行けない。
ゆず達は写真を撮ってくれた女性にお礼を言っている。
普通なら俺もお礼をしないといけないのだが、恥ずかしさでどうにかなりそうな俺には無理だ。
なぜ、入学式の日に肩身の狭い思いをしているのだろうか?
視線を中空に彷徨わせながら、そんな現実逃避をしていた。
「照れてるね」
「照れてる〜」
「照れてるな」
いつの間にか、近くに来ていた三人の、そんな声が聞こえるが、無視だ。
「顔があかいね」
「あかいね〜」
「そうだなー」
我慢の限界だった。
「ああっ! もうっ! 早く行くぞ!!」
地面に置かれている全員のカバンを手に取り、三人へ渡した後、そのまま背を向け歩き出した。
幸いにも三人は付いてきているようで、すぐ後ろから足音が聞こえた。
よかった、このまま付いて来なかったら、振り返って三人を待つことになる。それは恥ずかしいので勘弁して欲しい。
「かわいいねー」
「かわいーねー」
「プッ、そうだな」
「うっさい」
そのまま、弄られたり、時々反撃したりして短い距離を歩く。
四人で入れば、朝の気だるい気分も気にならなくなり、学校まではあっという間だった。
「ちょっと待ったぁー!!」
正門をくぐり、校内へ入ろうとした俺たちをゆずが止める。
「どうしたの? ゆずちゃん」
上半身を倒し、両手を突き出した格好で静止するゆずに、縁が問いかけた。
唯が頭に手を当てて、またか、と言わんばかりにため息を吐いた。
俺はというと、正門で大声出しながら、変なポーズまでとって恥ずかしく無いのかなんて、今更なことを考えていた。
「ここは今日から私達が通う学校ですね!」
ゆすが当たり前のことを言い出した。
「そうだな」
と、冷静に返す唯。
「今日は記念すべき入学式ですね!」
「そうだね〜」
と、間延びした返答の縁。
「四人で一緒に通えるんですね!!」
「……そうだな」
と、少し詰まったけど普通に返す俺。
「じゃあさ、願掛けしようよ」
「「「願掛け?」」」
三人揃って首を傾げて聞き返す。
「みんなで、せーので学校に入ろうよ!」
いやいやいや、この歳になってそれは恥ずかしいだろ?
「それいいね〜」
笑顔で肯定する縁。
まあ、こういうのは好きそうだし頷くだろうと思ってた。
けどこっちには唯さんがいるし。常識のある唯のことだ、普通に拒否するだろう。
「それいいな。なんかずっと一緒に居れそうだ」
唯さん!?
「じゃあ並んで並んで」
ゆずが唯と手を繋ぎ、唯と縁が手を繋ぐ。
そのまま、空いた方の手をゆずが差し出してきた。
周りを見てみると、この学校の生徒や先生がこちらを興味津々といった目線で見てくる。
なんの拷問だよ、これ。
「一緒に通えるんだよ」
「そうだよ〜」
ゆずと縁は期待のこもった目で見てくる。唯は恥ずかしそうにしながらも、繋いだ手を離そうとしない。
あいつらの気持ちもわかる。受験シーズンのすぐ手前で、引っ越しすることになった俺が両親と離れてまで、こっちに残って同じ学校に通うことにしたのだ。
それが嬉しくてはしゃいでいるのだ。それに、またどこかへ行ってしまうかもしれないという、不安を吹き飛ばしたいのだろう。
それがわかるから無視して門をくぐれない。
結局はのろのろと足を進め、ゆずの手を握っている。
唯の言う通りだ。
俺はこいつらに甘い。
「じゃあ行くよ?」
「「「「せーのっ!」」」」
声を合わせて、足を出す。
当然のように、全員が右足を出し同時に校内に踏み込んだ。
「私、いっちばーん!」
「あ〜ずる〜い」
「あっ! お前ら待てって」
ゆずが走り出し、それに吊られるように二人も走り出した。
途中で唯が振り返り俺を見たが、苦笑している俺を見たのだろう。同じような笑顔を浮かべ、走っていった。
「恥ずかしくなって逃げたな、あいつら」
おかけで周囲の目線は独り占めだ。
けれどもさっきまでの恥ずかしさは無い。
心の中にあるのは嬉しさばかりだ。
やっぱり俺はあいつらが好きだし、一緒にいたいんだな。
それを再確認できたとこで、苦笑を一つ、空を仰ぎ見た。
「今日からはいい日が続きそうだ」
空は晴れ渡り、桜が舞っていた。
今日の柱
野々原ゆずこ・ノノハラユズコ
割とテストの点はいい
日向縁・ヒナタユカリ
家はお金持ち
櫟井唯・イチイユイ
お金にうるさい
瀬川柚彦・セガワユズヒコ
寝るときは浴衣