咲「ここが・・・地霊殿ですか?」
鉄格子の門の前に立つ咲夜の目の前にはうっすらと闇に映える白い洋館が建っていた。
高い塀に囲まれた敷地には広大なガーデンが広がっており、何処となく紅魔館に似た雰囲気を感じた。
リ「久しぶりに来たが、150年後とさほど変わらないな」
大きな鉄格子の門を開けようとすると、何故か勝手に門が開きだした。
まるで中に入れと誘導されるかのように入り口の扉までも開き、二人は歩を進めるしかなかった。
中に入ると、床や天井に大きなステンドグラスがはめ込まれており、見る者を魅了するかのようだった。
咲「なんて大きなステンドグラス!
とても綺麗に管理されていますわね・・・」
リ「中に誰も居ないのか?さっきから誰にも会わないが」
?「ミャ~」
咲「ん?猫ちゃんですか?」
鳴き声が聞こえた方を見ると、そこには一匹の黒猫がけずくろいをしていた。
しかしこの猫、尻尾が二本生えている。
リ「火焔猫燐だな?屋敷の主人はどうしたんだ?」
燐「あれ?何で私の名前知ってんのさ?
・・・・・何処かで会ったっけ?」
黒猫が喋り出したと思いきや、黒い靄に包まれて一瞬で人間の姿に変身していた。
猫又の時点で普通でないことは容易に想像できたが、まさか人間に変身できるとは思っていなかった咲夜は少し驚いていた。
咲「一瞬で猫ちゃんが人に・・・」
燐「どう?驚いた?
それにしても猫ちゃんだなんて可愛い呼び方だねぇ、ニャンニャン♪」
耳をピクピク動かしながら猫らしいポーズであどけなさをアピールすると、口を挟むようにリュウトが割って入ってきた。
リ「そんな事よりも何故こんなにも静かなんだ?
他のペット達も居たはずだろう?」
燐「いいよ、そのことは私のご主人のところに着いてから話すから」
ついて来いと言わんばかりにまた猫又に戻り、ロビーの真ん中の階段を上っていく。
長い廊下の先にある一つの部屋に着くと、ドア越しに(どうぞ)と声が聞こえた。
ノブに手を当てて押すと、その先にはデスクに肘を突く一人の少女が居た。
さ「ようこそ地霊殿へ、十六夜咲夜さん、博麗リュウトさん。
貴方方をお待ちしていました」
咲「は、初めまして・・・ですわ」
咲夜は突然名前を呼ばれて驚きつつも挨拶を返す。
少女はそんな咲夜をじっと見つめ、クスリと笑って口を開いた。
さ「フフ、私が貴女の名前を当てたことを不思議に思っていますね?
でも先ずは自己紹介からしておきましょう。
私の名前は古明地さとり、心を読み取る覚妖怪です」
咲「心を読む??」
さ「そう、貴方が心の中で思っていることを私は文章のように読み取ることが出来るんです。
そのせいで周りから気味悪がられて此処に住み着いたのですがね」
昔、人間からも妖怪からも嫌われた彼女は、ならず者たちの溜まる地底世界へと逃げ延びてきた。
今では地底世界を統括するほどの権力を得たが、それも心を覗かれる恐怖からくるものである。
さ「誰も心の中を覗かれて気分の良い者など居ないのです、皆気味悪がって近づこうとしませんでした。
私の妹も同様ですが、あの子はそんな自分の能力に絶望して心の目を閉ざしてしまいました」
咲「悲しいお話ですわ・・・」
さ「私はどうなってもいい、でも妹だけは救いたかった・・・」
哀しみに溢れた目には少しだけ涙が流れていた。
が、一つ疑問が生まれた。
リ「で?その妹は今何処に居るんだ?
心を閉ざしただけで生きているんだろう?」
彼女の妹は心を閉ざしただけで今でも生きている、そう捉えられるニュアンスだった。
しかしどこにも妹らしき人物が見当たらないのだ。
そのことに関してさとりはこう語った。
さ「それは私にもわかりません。
時たま帰ってきますが、いつも何処かへ宛てもなく出かけているので。
それに。あの子は心を閉ざしたことで新しい能力が開花したんです」
咲「能力が開花?心を読む以外に能力を手に入れたという事ですか?」
さ「いいえ、心を読む能力を捨てたことで別の能力が芽生えたのです。
それが(無意識を操る)能力です」
咲夜はそれを聞いたとき、あまりそのイメージが出来なかった。
無意識というのは操る事が出来ないから無意識なのでは?
それに関してはさとりが簡潔に説明をしてくれた。
さ「あまりピンと来ていないようですね、説明するのは難しいのですが、あの子は他人の無意識の中に溶け込む事が出来るんです。
それと、私が唯一心が読めない相手でもあります。
行動の全てが無意識なので、ざっくり言うと何も考えていないんです」
咲「何だか凄いのか凄くないのかよくわからないですわね」
リ「いや、何も考えていないということは全ての行動が予測不可能だという事、これほど手ごわい敵はそういないだろう。
しかし分からない、何故俺たちを率先して屋敷へ入れた?」
まだ霊烏路空の事は黙っておいた方がいいだろうと思い、そのことを伏せて質問をする。
歴史通りならば八坂神奈子が霊烏路空に八咫烏の力を与えたが扱いきれずに暴走するのだが、今までの経験上何かしらのズレが生じている可能性が高い。
此処は慎重に、未来の事を明るみにしないように会話をしなければならない。
・・・・筈だったのだが、こんなことを考えていれば真っ先にさとりにバレてしまうのは必然だ。
さ「貴方の考えている通り、私のペットである
未来の世界とは違い、あの子は元々ヤタガラスの力を身に宿していますがね」
あっさりバレてしまった。
咲「リュウトさん、隠し事は通用しない事忘れていませんでした?」
リ「あぁ・・・うっかりしていた」
さ「申し訳ありません、嫌でも見えてしまうので自分でもどうしようも無いんです」
リ「いや、さとりのせいじゃない。
それで?今空はどういう状態なんだ?」
それを聞いた瞬間、さとりの顔が急に険しくなる。
どうやら事態はかなり深刻らしく、地底の入り口から暑かったのが関係しているらしい。
既に自分たちの力ではどうしようも出来ない状態で、そこに現れた唯一の助け舟がリュウト達だったというわけだ。
さ「現在
核融合を操る程度の能力らしいのですが、私にはよくわからなくて・・・一体どうすればいいのか」
核融合とは、現在世界各国で臨床実験が行われている次世代エネルギー機関である核融合炉の中核で起きる現象である。
どういったものか説明するのは簡単で、小さな太陽を人工的に作り出し、その膨大なエネルギーによって発電を行うのだ。
しかしそれを作り出すには一億度以上の熱を持つプラズマ粒子に一秒は耐えられる内壁を必要とし、他にもハイレベルな条件をクリアしなければ発生しない。
しかし成功すれば核分裂と違い、高濃度放射線廃棄物を出さずに膨大なエネルギーが手に入る夢のテクノロジーなのだ。
リ「厄介だな・・・うかつに近づこうものなら一瞬で消し炭だ」
太陽の表面は摂氏一万度以上、今お空の周辺でも同じことが起こっているとすれば並の生物では立ち入ることは許されない。
だが、止めなければ幻想郷が火の海になる可能性だってある。
リ「よし行こう、元から俺たちは空に用があったんだ、断る理由もない」
咲「私も同じく同意見ですわ」
さ「ありがとう・・・お燐、案内してあげて」
二人は燐に連れられて、お空の居る地下最深部へと歩を進めた。
そしてたどり着いた場所は・・・本物の灼熱地獄だった。
to be continue...
核融合に関しては詳しく書くと長くなりそうだったので簡単に纏めました。
誤字報告他、感想や評価まってます。