そしてこの話はとある伏線を張るためのものでもあります。
まぁそれは先の話ということで
~人里~
人里の中央を一直線に伸びる大きな商店街が広がる大通り。
様々な店が連なり、連日人々で賑わう、人里でも最も人が集まる場所。
今日も多くの人が行き交っているが、いつもと雰囲気がまた違う。
連なる店以外にも屋台が立ち並び、特設の巨大な展望デッキが設けられている。
正面には巨大なスクリーンまで用意されていた。
完全にお祭りムードだが、このシーズン、昨年まではこんな行事は行われていなかった。
今年、急遽決まった大きなイベントなのだ。
事の発端は、一週間前の文々丸新聞に掲載された一つの記事だ。
{幻想郷最速を決定する為、一週間後にレースを行う。
挑戦者求む。}
その記事は、たちまち幻想郷の実力者達の耳に入る。
レースには、幻想郷でもスピードに自信のある者たちが集ってエントリーすることとなった。
現在、エントリーしたメンバーが開始までの間、休憩所で待機している最中だ。
因みに言い出しっぺでもある霊夢と咲夜は出ていない。
文や魔理沙にはスピードでは完全に劣っているから勝負にならないのだ。
しかし、このまま二人の勝負を外から指をくわえて見ているというのは癪に障るので、彼女らは同時に刺客を送り込んでいた。
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零「で?お前もあの娘に言われて出場する羽目になったのか」
リ「咲夜から話があると言われた時から何となく予感はしていた。
が、まさかおじいちゃんもいるとは思わなかったけどな」
あ、という声を出して鉢合わせた二人は、何故こんな所に居るのかと同時に尋ねた。
しかし、そんなことは聞くまでもなく、二人とも無理矢理参加させられたのだ。
しかもその時言われた言葉は・・・。
霊{文と魔理沙と咲夜には絶対負けないで!!}
咲{文と魔理沙と霊夢には絶対負けないでください!}
これは間違いなくこの前の飲み会で何かあったな。
そう二人は確信した。
でなければ仲の良い者同士でこんなにいがみ合わないだろう。
そして現在に至るところである。
リ「今更なんだが、何でレミリアは出ないんだ?
フランは出るんだろう?
吸血鬼なんだし速さ勝負なら天狗にだって負けそうにないんだが?」
大きなテントの下に置かれたベンチに座りながら靴を履きなおすリュウトはレミリアに問う。
一方のレミリアは美鈴に持って来させたのであろう、玉座に座りながら答えた。
レミ「私はこういう見世物みたいにされるものに出たいなんて思わないわ。
高貴な吸血鬼が見世物だなんて屈辱以外の何ものでもないわ」
零「その割にはフランドールは出るみたいだぞ?」
ほら、と零夜が指を差す先には楽しそうにストレッチをしているフランの姿があった。
屈伸と震脚を繰り返しながら足の筋肉をほぐしているようだが、結局飛ぶのだから必要かどうかわからない。
と、こちらの視線に気が付いたフランドールは小走りで姉の元へとやってきた。
フ「お姉ちゃん!
こんな公の場で本気出せるなんて最高じゃん!
しかも優勝したら景品が出るらしいよ!」
レミ「え?景品??
そんなのが出るの?」
フ「みたいだよ?
新聞には載ってなかったけど」
レミ「で?景品って何が出るの?」
フ「それがわかんないんだよね~。
何も書かれてなくって、ただ優勝したら何かがもらえるってだけみたい」
景品自体にはさほど興味を示さないフラン。
レースに出ることが目的なので、それ以外は楽しめればそれでいいのだ。
二人が景品の話をする中、それよりもリュウトは違うことが気になっていた。
リ「なぁ、朝見てから一回も咲夜と会ってないんだが。
何時もならレミリアのそばについてるだろう?
美鈴もいないじゃないか、どうしたんだ?」
零「お前たちいつも一緒なのに珍しいな、何かあの子を怒らせるような事したんじゃないのか?」
リ「断じてないっ!!」
今日の朝、パチュリーと小悪魔を図書館に置いて会場へ向かったはずなのだが、その際から咲夜の姿が見えなかった。
あの時はレミリアから先に行ったと言われたが、一向に姿を現さない。
それが気になって仕方がないのだ。
正直に言うと、寂しい。
レミ「あっららぁ~?
もしかしてリュウト、会えなくて寂しいのかしら~?」
リ「ウグッ!ち、違う!
ただ姿が見えないから気になっただけだ!」
レミ「まったまたぁ、そんなこと言って見栄張ってさ。
大丈夫だって、そろそろ来るはずだから」
そろそろ来る?
何故に別行動をとったのか分からないが、そのまま少しじっとしていると、後ろから美鈴と咲夜の会話が聞こえてきた。
振り返ると、咲夜は美鈴の後ろ影に入るように隠れていた。
リ「咲夜、今まで何処に居たんだ?
それに・・・何で隠れてる?」
美「実はリュウトさんにサプライズなんです。
ほら咲夜さん、隠れていたら折角の準備が台無しですよ?」
咲「わ、わかってるけどこの格好・・・恥ずかしいんだから仕方ないじゃない////」
恥ずかしがりながら中々前に出てこない咲夜。
その姿が少し見えてしまった零夜は、空気を読んでこの場から離れる事にした。
零「ほほう、これは邪魔しては悪いな。
咲夜さん、がんばれよ」
咲「うぅ・・・」
零夜に見られてしまい、益々赤面してしまう。
何時までもうじうじしているので、焦れったくなった美鈴はそこで強行手段に出た。
美「はぁ、仕方無いですね。
なら私が前に出してあげますよ!」
咲「きゃ!」
リ「こ・・・これは!!」
目の前に現れた咲夜は、なんとレースクイーンのセクシー姿だった。
豊満なバストと透き通るような美しい太腿を誇張する薄緑を基調としたセパレート。
これは少々刺激が強すぎる。
リ「咲夜、その恰好は一体・・・?」
咲「あの、えっと・・・。
リュウトさんを応援したくて、何が一番いいかと自分なりに考えてみたのですが・・・」
レミ「似合ってるじゃない?
張り切ってたものね~、これでリュウトさんを応援するんだ!って」
咲「////////」
顔を真っ赤にした咲夜は言葉も出なくなってしまう。
なんというか、エロかわいい。
俺に内緒でそんな事を言っていたなんて、今すごく幸せだ。
そして、羞恥心を圧し殺した結果出てきた言葉は・・・。
咲「お、応援してるので、頑張ってくださいね!」
その刹那、リュウトの中で何かが割れた。
リ「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
気合の咆哮は天を貫き、溢れ出る霊力は底なしのように止まらない。
こんなリュウトを咲夜は今まで見たことが無かった。
霊気が強力過ぎてまるで炎を纏っているかのようなその姿を咲夜は唖然としながら見ていた。
咲「・・・・・」
美「ま、まぁ何はともあれ喜んでくれたみたいでよかったじゃないですか!」
咲「思っていたような反応ではなかったけどね・・・」
魔「うっへぇ~、気合入ってんなぁリュウトのやつ。
てかお前のその恰好何なんだ?」
咲「リュウトさんを応援する為の衣装よ。
外の世界ではレースの時は女の人がこういう格好をするらしいわよ。
魔理沙もう出場手続き終わったのね」
箒を担ぎながらにししと笑う魔理沙。
今回のレースに出場する優勝候補の一人だ
あの飲み会の後、念入りに準備をしていたらしく、霖之助に頼んで軽量の服を新調してもらってからレースに出場した。
基本ベースの魔女衣装は変わらないが、フリル部分やロングスカートなどの余分な部分を取り除き、全体的にすっきりしたスタイルとなっている。
フ「魔理沙何その服!
すっごいかわいい!」
魔「だろ~?
コーリンに頼んだら即行で作ってくれたんだ!」
フランのかわいいの一言が嬉しかったのか、くるりと一回転して新調した衣装を見せてくれた。
しかし、服を作ってもらうならアリスでもよかったのでは?
そう咲夜が質問すると、魔理沙は直ぐに答えてくれた。
どうやらその疑問は魔理沙の過去に答えがあったようだ。
咲「何でアリスでなくて霖之助さんに頼んだの?」
魔「今持ってる私の服は全部コーリンが作ったものなんだ。
採寸しなくてもサイズぴったりに作ってくれるし、マジックアイテム的な機能も付いてて結構重宝してるんだ。
いつも着てる法衣だって魔法でダメージを和らげてくれてるんだ。」
咲「へぇ~、霖之助さんってかなり起用なのね」
魔「でも店は全然繁盛してないんだぜ。
宝の持ち腐れってやつだな」
レミ「・・・何だかあの店主の趣味が若干混ざってるような気がしてならないのは私だけかしら?」
服を作ってもらっておきながら散々な言いぐさな魔理沙。
しかし、それに対して反論できないほど彼女の言う通りなので咲夜は何も言えなかった。
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開始時間が迫り、出場者は全員スタート位置につく。
そこで、司会者からエントリーナンバーの読み上げが始まった。
因みに、司会は犬走椛が勤めている。
何故かというと、本来務めるはずの人物が今回は不在な為だ。
尤も、不在と言ってもこの場に居ないわけではないのだが。
椛「大会出場メンバーを紹介します」
一列に並んだ出場者たち。
その並び順に、椛は補足と付け合わせて紹介する。
椛「エントリーナンバー1、優勝候補筆頭、博麗神社神主の博麗零夜。
エントリーナンバー2、同じくこちらも優勝候補と名高い博麗リュウト。
エントリーナンバー3、始祖吸血鬼である能力未知数の新星、フランドール・スカーレット。
エントリーナンバー4、言わずと知れた白黒スピードスター、霧雨魔理沙。
エントリーナンバー5、自称幻想郷最速の新聞記者、射命丸文。
エントリーナンバー6、白玉楼庭師兼従者の辻斬り侍、魂魄妖夢。
以上の六名がエントリーメンバーです」
妖「ちょっと最後の説明おかしくないですか!?」
リ「妖夢もいたんだな、知らなかった」
妖「最近家計が苦しいものですから。
レースに勝って賞品を売ってお金にしようと・・・」
そう言ってため息を履く妖夢。
十中八九原因は幽々子だろう。
彼女に休暇の二文字はないのだろうか、そう考えてしまう。
というか、彼女は優勝賞品が何か知っているのか?」
妖「え?優勝賞品って超歴史的価値の高い聖書なんですよね?
話では数億円の価値があるとかって聞きましたよ?」
リ「そんなお宝が賞品なのか!?
しかしなんでまたそんなものが?」
妖「さぁ?私も詳しくは知りませんが・・・。
どうやら鈴奈庵という貸本屋の店主が持っていたそうなんですが、その人も最近蔵の中でそれを発見したらしく、一体何時からあるのか良くわからないから文さんにあげちゃったらしいんです。
それで文さんが色々調べた結果、それが外の世界で魔法がまだ使われていた時代に存在した聖書だと」
リ「へぇ~、そんな大昔のものが未だに存在していたんだな」
文「あやや~、椛のやつ、完全にスルーされてますね~」
完全に椛の話を無視して私語をする二人を他所に、彼女は咳払いをして説明を続けた。
椛「ゴッホン!!えー、今大会のルール説明を行います。
一つ目、弾幕の使用は禁止です。
二つ目、レースは基本的に飛行です。
コースが空中なので飛んでください。
三つ目、スペルカードは二枚まで使用可能とします。
邪魔な相手を妨害するもよし、スピードを上げるのに使うも良し。
使い方は自由で構いません。
それと・・・これは零夜選手とリュウト選手に限定された規定ですが。
お二方は能力の使用を禁止します」
リ「なぜ俺たちだけ能力を使用禁止なんだ?」
零「そりゃあ能力使ったら誰も勝てなくなるだろ?
その気になれば光の速さで飛べるんだ、瞬間移動でも使わない限り追い越せないからな」
文「というかそんなドーピングみたいなの使うなんて反則ですよ。
いっつも思いますけど、博麗の力を持ってるやつはみんな無茶苦茶ですよね」
零「俺は神なんだが?」
文「貴方は論外です!!
しかし、能力が使えないあなた方なら私に勝算が回ってきたというもの。
優勝はこの私が頂いたぁ!!」
椛「もうっ!!!
私の話を最後まで聞きなさぁ~い!!!
司会権限で失格にしますよ!?」
またもや話を中断させられた椛の堪忍袋が切れ、三人はこれ以降完全に大人しくなった。
普段怒らない者が唐突にキレると恐ろしいものだ。
スタート時間が圧しているのもあってカリカリしている椛は、時間が無い為レース開始を急いだ。
椛「最初から大人しくしていればいいんです!
さっさと始めますよ!
カウントダウン、3・2・1・スタート!!」
椛の合図とともにスタートラインに取り付けられた信号が青く光る。
と同時に、六人全員の影はいつの間にか空の彼方へと消えていった・・・。
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