漸くここまで来たという感じです。
?「起きてください、総領娘様。
一体いつまで寝ていらっしゃるおつもりなのですか?」
天「う・・・う~ん」
深く、暗い眠りの湖から誰かの声が聞こえる。
私を呼ぶ声。
何だかすごく落ち着く声だ。
母親の居ない私を優しく包み込むような母性に溢れた声。
暗闇の中に一筋の光が差し込んだ。
天「んぁ・・・此処は?」
?「ようやくお目覚めですか?
全く貴方という方は、何故あのような事を?」
自分の部屋のベッドで目が覚めたと思ったら、その横には羽衣を纏った薄紫のショートウェーブが美しい女性が座っていた。
・・・デカいな、何がとは言わないけど羨ましい。
アレのデカい美女、永江衣玖は困った顔で質問してきた。
天「え?なんの事?」
衣玖「お忘れですか?
昨日、天界の一部を崩壊させてしまったというのに」
天「・・・あー、そうか。
私負けたんだ」
昨日の事である。
響華、鈴仙と戦った天子は天界の大地の一部を地上へと落としてしまったのだ。
しかも周辺の地面はボロボロ、見るも無残な姿となっており、総領はそれはそれはお怒りのようだ。
衣玖が別仕事でその場に居合わせていなかったから良かったものの、本来ならば衣玖が監督不行き届きで厳罰を食らっているところだ。
しっかりと反省してもらわなければ困る。
天「・・・どれくらい怒ってた?」
衣玖「それはそれは、鬼の形相で総領娘様に厳し~い罰を与えると」
天「き、厳しい罰とは具体的にどのような?」
衣玖「さぁ?私にも想像出来ません。
それなりの覚悟を決めてから行かれた方が良いとしか・・・」
衣玖のそれなりとは、恐らくかなりという事だろう。
それほどの覚悟を決めなければいけないほどの厳罰とは一体何なのだろうか。
衣玖は何も教えてくれない。
それだけの事をしたのだから仕方ないのだが。
衣玖「そういえば総領娘様。
博麗の巫女様から最後に伝言を預かっておりますが」
天「それを早く言いなさいよ!!」
衣玖「お約束というやつです」
天「・・・意味わからん」
衣玖が何の空気を読んで黙っていたのか分からないが、兎に角内容が気になる。
天「いいわ、さっさと聞かせて」
どうせ碌でもない伝言なのだろうが。
鼻から期待などしていない。
私は・・・嫌われ者だ。
しかし、衣玖の預かった伝言を聞いた瞬間、心の底から熱いものがこみ上げてきた。
衣玖「今度は地上に遊びに来い・・・とのことです」
天「えっ・・・私に?」
衣玖「はい、確か・・・博麗響華様がそう伝えろと」
驚いた。
こんなことがかつてあっただろうか。
比那名居家は地上人からの出で、その家柄から他の天人達から蔑まれてきた。
今は天子の父が総領となった為、多少は周りからの評価も良くなったものの、未だに父が総領となったことを認めない者がおり、幾多の嫌がらせを受けてきた。
父のせいではない、比那名居家そのものが嫌悪される家系なのだ。
響華は地上人だからそんな事は関係ないのだろうが、それでも。
天「私なんかに・・・そんな事を」
衣玖「昨日の敵は今日の友、という言葉が地上にはあるそうです。
まさしくそれなのではないでしょうか?」
天「こんな奴らがいるんだったら私、異変なんて起こさなくたって友達出来たじゃない。
ホント・・・くっだらないわね、私って」
ポタ・・・ポタ・・・・
天「ほら・・・涙が止まらないじゃないの!
ウグッ・・・ウゥぅ・・・」
大粒の涙が掛布団の上にポロポロと落ち、顔をくしゃくしゃにしながらむせび泣く。
衣玖はそれをそっと抱きしめて、優しく撫でてあげた。
天子が生まれてから使用人として片時も離れずにそばに居た衣玖は、彼女にとって母のような存在であり、その胸の中が一番落ち着く。
衣玖は天子が疲れて泣き止むまで、頭を撫で続けた。
母のぬくもりを与えながら。
しかし、その後しっかりと罰は執行され、天子は二度目の涙を流す羽目となった。
東方緋想天 完
戦闘も楽しいけど日常のドタバタも好きな俺は欲張りな男。
次回また会いましょう。