比企谷八幡と黒い球体の部屋   作:副会長

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今日は色々とやらなくてはならないことがあり、更新が遅れてしまいました。申し訳ないっ!


比企谷八幡は、無様な弱者として最強の殺害に挑む。

「……ふん、やっと来たか」

 

 グラサンの吸血鬼――黒金(くろがね)は、見渡す限り真っ直ぐに続く灰色のコンクリート製の塀の一か所にどデカくぽっかりと開いた穴から、一人の男が歩いてくるのを見て凶悪な笑みを浮かべた

 

 吸血鬼の牙を見せつけるように、笑った。

 

 その男は――比企谷八幡は、ガンツスーツの上に身に着けていたパーカーやスウェットをボロボロにしながらも、真っ直ぐに、堂々と、この夜の闇の中でも腐敗したその双眸から不気味な異彩を放っていた。

 

「――――……っっ!」

 

 その放つ雰囲気(オーラ)は、人外の吸血鬼でさえ幾人かが息を呑み、思わず後ずさりしてしまう程の、異様だった。

 

「比企谷さんッッ!!」

 

 あやせがその姿を見て、思わず駆け寄ろうと動き出すが――

 

――ジャキジャキジャキ!!! と一斉に銃口が向けられ、その場で足を止めてしまう。

 

「…………っ!」

 

 恐怖で顔を青褪めながら、膝をぶるぶると震えさせながら、それでもあやせは八幡を縋るような瞳で見据える。

 

 八幡は、そちらを一瞬見据え――

 

「下がってろ」

 

 と、すげなく言い放ち――

 

「邪魔だ」

 

――の、一言だけを冷たく告げ、あやせを視界から外す。

 

 あやせは思わず顔を俯かせるが――

 

 

「――俺が死んだら、周りを囲んでいる不審者から、大声で叫びながら逃げるんだ――いいな」

 

 

 と、八幡はあやせの横を遠り過ぎながら、一瞬どこかを見て、そのまま足を止めずに素通りした。

 

(…………え?)

 

 あやせは――昨日と今日しか関わっていないけれど――八幡らしくない物言いに違和感を覚えながらも、その遠ざかっていく背中を見送る。

 

 

 そして、比企谷八幡は、吸血鬼組織の幹部の一角――黒金と再び対峙した。

 

 

「ふん、三途の川は見えたか?」

「ああ。残念なことにやっぱり俺は地獄行きみたいでな。見るからに向こう側がヤバそうだったから、ダッシュで逃げ帰ってきちまったよ」

 

 両者とも、不敵に笑う。

 

 凶暴で、凶悪な笑みを交わし合う。

 

 八幡は既に透明化は解除している。Xガンも――持っていない。

 

 その手に握るのは、漆黒の剣――ガンツソード。

 

 対するは、相対するは――吸血鬼、黒金。

 

 正真正銘の、オニ――鬼。

 

 その構図は、まるで昔話のオニ退治のようで、だが、その両者の浮かべる笑みは、退治されるオニのようなやられ役としては余りにも傲岸不遜で、化け物を退治する桃太郎のような正義役としては余りにも極悪非道だった。

 

 両者とも、既にその目は相手にしか向いていない。

 両者とも、既にその頭は相手を殺すことにしか向いていない。

 

 殺意と殺意。殺気と殺気。

 

 どす黒い空気が、充満する。

 

 あやせも、そして取り巻きの黒服達も、何を言われたわけでもなく、誰の命令でもなく、自らの命の(りょう)に従い――生存本能に従い、目の前の怪物達から、一歩、遠ざかる。

 

 ザッ、と。

 

 それが合図となった。

 

 

「「死ね」」

 

 

 両者が同時にそう呟くと――先に動いたのは黒金だった。

 

 これは黒金が先手必勝を狙ったわけでも、八幡が後の先を取ろうと目論んだわけでもない。単純に、能力の差だった。違いだった。

 

 性能の――戦士としてのスペックの違いだった。

 

 才能の違いだった。

 

 黒金が強く、八幡が弱い――ただそれだけが齎した結果だった。

 

 両者の距離間は、たったの数メートル。黒金にとって、それは一瞬――一つの瞬きの間に零にすることが容易な世界。

 

 そんな一瞬で、八幡が出来るのは、たったの一歩だった。

 

 スーツの力を最大限に高め、己の能力を、機械の力でチートを使って強化しても、目の前の怪物の性能(つよさ)に対して、出来るのはたったの一歩――移動するだけだった。

 

 当然、この弾丸のような突進を、躱すことなど出来ない。

 右にも、左にも、ましてや後ろにも、たったの一歩を移動したところで、黒金の“ただの”突進を避けることなど出来やしない。

 

「――ッ!!?」

 

 故に、八幡は、その一歩を――前に使った。前に、進んだ。

 

 前進した。

 

 常に真正面を避け続け、真っ直ぐに向かい合うことから逃げ続け、相手の視界から消え、背後を取り、背中を狙い続けてきた、あの八幡が。

 

 真っ直ぐに、真正面から、小細工など弄さず、ただ己の才能(つよさ)に物を言わせた――全てを凌駕し、全てを黙らせる、その弾丸のような攻撃(とっしん)に対して。

 

 一歩――迎え撃つように、自分からその距離を縮めた。

 

 黙っていても一瞬で、一つの瞬きの間に零になるその距離を、自分から、さらに縮めた。

 

 己の寿命を、自分から――――否。

 

 ザシュッッ!!! と、肉を裂く音。

 

 血が噴き出る。人体が抉られる。

 

 だが、それでも――八幡は笑った。

 

 その黒金の真っ直ぐに伸びた右手が――自身の“脇腹”を抉ったにも関わらず、不敵に、素敵に、笑ってみせた。

 

「――き、さ」

 

 対して、黒金は苦々しく、ここに来て初めて、その表情を苦渋に染める。

 

 本来その右手は、八幡の心臓を貫くはずだった。

 だが、一歩、八幡が前進したことで、自分から距離を詰め、自分から“死”へと身を投げることで――結果として、“死”から、必至の死から、逃れることに成功した。

 

 あれだけのスピード。たったの一瞬で零になる距離。

 さすがの黒金でも、一度“発射”したら、細かい調整など不可能だと、八幡は踏んだ。

 

 同じスピードでも、もっと長距離だったら話は違っただろう。修正することも可能だっただろう。だからこそ八幡は、のこのこと、堂々と登場し、距離を詰めた。

 

 そして、一歩。その一歩で八幡は、決まったルート、必定のレールに自分から乗ることで、そのインパクトポイントをずらした。

 

 完全な回避は出来ない。ならば、より被害が軽い部位を抉らせることで――即死を回避する。

 

 攻撃を喰らっても、大ダメージを負っても――少しの間、動けるように。

 

 バチチッと電気のようなものを纏った黒金の手刀は、タラタラと八幡の血を滴らせているが、肝心の心臓は、その手にはない。

 

 

 そして、その手を黒金が引き戻す前に――――八幡はガンツソードを、がら空きのどてっ腹に突き刺していた。

 

 ザクッッ!! と、再び――そして、より重い、肉体を抉る音が、夜の路地裏に響いた。

 

 

 取り巻きは、何も言わない。あやせも、ただ両手で口を覆うばかりで、何も言えない。

 

 一瞬の戦闘。

 あまりにも速過ぎて、あやせには突然血が噴き出し、気が付いたら大男の身体を黒い剣が貫いただけにしか見えなかった。

 

 静寂――沈黙。

 あやせが、その硬直を解き、その口から歓喜の声を上げようとした――その瞬間。

 

「――――グッ」

 

 と、呻き声。

 

 あやせが「…………え?」と掠れた呟きを漏らし、八幡がチッと、笑みのまま大きな舌打ちを漏らした。

 

「……ふっ………ここまでの傷を負ったのは、本当に久しぶりだ」

 

 八幡は笑みを浮かべたまま、吐き捨てるように呟く。

 

「……化け物め」

 

 黒金は、自分の腹の位置にいる八幡を見下ろしながら――抱き締めるように、刈り取るように、勢いよく両手を掻き抱く。

 

「お互い――様だッ、ハンター!!」

「チッ!」

 

 八幡はそれを回避する為、剣を引き抜きながらとにかく後ろに飛ぶ。

 

「嘗めるなぁッ!!」

 

 そして黒金は、八幡が着地するのと同時に――――地面を強く踏み抜いた。

 

 瞬間――地面が、アスファルトの地面が揺れる。

 

「なっ!?」

 

 ただの踏みつけで、文字通り地面が震える。地震を人為的に――鬼為的に起こす、震脚。

 

 八幡は瞬間的に逃避した宙から、慣れ親しんだ地へと降りたその瞬間、その地面から拒絶された。八幡の着地を拒むように揺れた足場により、八幡はバランスを崩し、そして――

 

「終わりだ」

 

 その瞬間には、黒金は、八幡の元に当たり前のように接近して――一つの瞬きの間に、既に移動し終えていて。終わっていて。

 

「まあまあ楽しかったぜ」

 

 両手を組んで作った凶器(こぶし)を、容赦なく振り下ろす。

 

 バガンッッ!! と八幡は、自分を拒んだ地面へと強制的に叩きつけられた。

 

 その痛烈な攻撃による衝撃音と重なるように響いたボギッ!! という効果音は、八幡の肩の骨が砕かれたことを示していた。

 

 そして、再びの沈黙。

 

 黒金の全力の攻撃を受けた八幡は、倒れたままピクリとも動かなかった。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

「……ぉ、ぉぉ、うぉぉおおおおお!!! 勝ったぁぁあああ!!!」

「さすが黒金さん!! マジぱねぇ!! 超強ぇええ!!!」

「これで、あのムカつく篤グループの連中に一泡吹かせられますぜ!!」

「この調子でハンター連中を皆殺しにしましょう!! 黒金さん!!」

 

 黒金の取り巻き連中は、自分達のリーダーの勝利に歓喜に沸く。

 

 当の黒金は、その取り巻き連中の騒ぎに構わず、ただじっと八幡を見下ろしていた。

 

「……比企、谷、さん?」

 

 そして、あやせは、一向に起き上がらない――まるで、死んでしまったかのようにビクともしない八幡を、呆然と見つめる。

 

「…………比企、谷……さん」

 

 あやせは、もう一度、八幡を呼ぶ。

 

 だが、八幡はまるで動かない。ピクリとも微動だにしない。

 

 地面にうつ伏せに叩きつけられた状態で、だらんと両手を伸ばしたまま――右手が剣を未だに握り締めているのは、いっそ狂気すら感じる執念を思わせたが―――それでも、まるで、現実は変わらない。

 

 比企谷八幡は動かない。死んでしまったかのように――敗北していた。

 

「ひき――ッ!?」

「さぁて、黒金さん。こいつ、どうします?」

「さっさと殺します? それとも――殺す前に、ちょっと愉しみますか?」

「――っっ!!? いやぁ!!」

 

 現実を否定するように――嘘であってくれと願うように、八幡の名前を叫ぼうとしたあやせの肩に、これまで常に一定の距離で銃口を向けていた黒金の取り巻きの黒スーツが近づき、そのうち一人があやせの肩に手を乗せた。

 

 そして耳元で囁かれるその悍ましい言葉に、あやせは反射的に身を捩り、足元に落ちていた自分の鞄を拾い上げ、胸を守るようにして抱きかかえる。

 

 だが、そのまま逃げようにも、前も後ろも黒服の連中に道を塞がれて、逃げ場はない。

 

 あやせの瞳に、じっと涙が浮かぶ。

 

「――はぁ。好きにしろ。……ただし、少し派手に暴れ遊び過ぎた。ヤんなら場所変えとけ」

「ヤッフぅぅぅうううう!!! さすが黒金さんだぜぇ!!」

「弱ぇ奴にはとことん淡泊!! 性欲よりも戦闘欲で生きてる!! そこに痺れる憧れるぅ!!」

「じゃあ、テメェの番はナシな。性欲なくすために滝にでも打たれて来いよ」

「ば、ばっか、おめぇ、こんな上玉ヤり逃す訳ねぇだろ!! 少なくとも三回は射すわ!!」

「オメェは一生黒金さんにはなれねぇなwww」

 

 自分を餌に盛り上がる周囲。さすがに彼等の言葉から、これから自分がどんな目に遭わされるのかを想像できないほど、あやせは子供ではなかった。

 

 そして、八幡にはああ言ったが、いざこの状況で、たった一人取り残されて、恐怖に負けずに気丈でいられる程――あやせはまだ、強くなかった。大人ではなかった。

 

(……怖い。怖い。怖い。嫌。嫌。嫌嫌嫌嫌!!! そんなの嫌!!!)

 

 こんな連中に犯される。玩具にされ、嬲られる。殺されるより余程怖く、恐ろしく、現実感のある地獄だった。

 嫌悪感が体中を駆け巡り、膨れ上がる。そして、それに対する恐怖が混ざり合い、いっそ発狂してしまいそうになる程に、莫大な感情が駆け巡る。

 

 

――『本物』という言葉が、その感情の瀑布の中で、ぽっかりと悠然と存在し、台風の目のようにそこだけは無風だった。

 

 

 まるで、それだけは傷つけては駄目だというように。それだけは、失くしては駄目だというように。

 

 あやせの目が、再び八幡に向かう。

 

 比企谷八幡。あやせに――『本物』というものの素晴らしさを、教えてくれた人。

 

 それが、一体、どういうものかは分からない。

 

 だけど、それは、きっとこの世の何よりも素晴らしくて、それがあれば他には何もいらない程に美しくて――

 

(……わたしも、『本物』が欲しくなった)

 

 憧れた。心を、奪われた。

 

 その綺麗で、美しくて、きっと何よりも甘い――その果実を、手に入れたい。

 

 でも、それは、ここで、こんな奴等に犯され、穢されたら、きっと二度と、辿り着けなくなる。

 

『本物』は、二度と、手に入れられなくなる。

 

 綺麗で、美しくて――とっても甘い、その果実に、触れられなくなる。

 

(―――――嫌っ!!!!)

 

 見つけたのに。やっと見つけたのに。

 

 それを、もう失うの? やっと、やっと見つけた――新しい――なのに!!!

 

 それならば、また失うのならば――いっそ――いっそ、ここで――――ッッ!!!

 

 

『俺が死んだら、周りを囲んでいる不審者から、大声で叫びながら逃げろ――いいな』

 

 

 あやせは、その言葉を思い出す。

 

 バッと、倒れ伏せる八幡に目を向ける。

 

(……死んだら………不審者……そして、あの時――)

 

 八幡は、一瞬、視線を逸らした。

 

 あやせの足元――正確には、その鞄。

 

「ッ!?」

 

 あやせはそれに気づく。

 

 そして、下品に騒ぐ己の取り巻き達を一顧だにせず、そのまま天を仰いでいる、奴を見る。

 

 あやせはそれを確認し――必要な条件が揃っていることを確認すると。

 

 腹に力を込め――思い切り、それを“引き抜いた”。

 

 ピリリリリリリリリリリリ!!!!! という電子音が、夜になりたての路地裏に響き渡る。

 

 それに取り巻き達は、そして黒金は驚愕し――一斉に、その一点を見る。

 

 

 新垣あやせは、防犯ブザーを握り締めていた。

 

 

 昨夜、新垣あやせは不審者のストーカーの手によって――正確にはストーカーによって追い詰められて、死んだ。殺されたと言ってもいい。

 そんなことがあって、あやせは今朝、自分の部屋で目覚め、母親によって早く起きなさいと急かされている時、妙にそれが気になった。

 

 自分の机の引き出しの奥に、押し込むようにして仕舞っていた――防犯ブザー。

 かつて、京介と二人きりで会う時に――自分の身を守るためと言い、身に着けていたものだった。

 

 初恋の人との、思い出の品だった。

 

 防犯ブザーやら手錠やら恋愛ゲームやらが初恋の思い出という自分に苦笑したが――いわば、苦笑出来る程に、出来るようになっている程に、昨夜の経験は強烈だったらしい。

 

 昨夜の戦争は、あやせに影響を及ぼしたらしい。

 

 戦争と、戦場と、そして――彼は。

 

 あやせは今日、その防犯ブザーを、昨日のようにすぐに取り出せない鞄の奥深くではなく、分かりやすい外面に、見せつけるように付けて登校した。

 

 それにどんな意味があったのかは、あやせ自身にもよく分からない。

 純粋に身を守る為だったのか、それとも何かへの決別の意味もあったのか。

 

 だが、少なくとも、今、この瞬間――そのブザーは、この戦況を大きく変え、決定付けた。

 

 

 

 その男は、音を立てず、気配も立てず――ゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 死んだふり。即ち、擬死。

 弱者が強者に抗う為、騙す為――生き残る為。

 

 全ての誇りを捨て、尊厳を捨て――――逃避する。

 

 強者から――捕食者から、逃避する為の、小細工。

 

 知恵。

 か弱き弱者の、誇り高き弱者の、強者を屠る為の、小賢しき策。

 

 

 そして、八幡は、この時、遂に――背中を()った。

 

 

「――ッッ!!??」

 

 卑怯に――卑屈に、最低に、陰湿に。

 

 真正面から立ち向かわず、真っ向から相対せず、逃げ回り、隠れ、潜み――――殺す。

 

 例え、脇腹を抉られようと、肩を砕かれようと、死にざまを無様に晒そうと。

 

 試合に負けようと、勝負でも敗北しようと。

 

 それでも――殺す。

 

 殺せば――

 

 

「――勝ちだッ!!」

「嘗めるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 完全に後ろを取られた黒金だが、まさしく鬼のような形相で、殺意を剥き出しにして、強引に身体を捻り、拳を振り上げる。

 

 だが、八幡は、それに構うことなく、それに一切ひるむことなく、己も全開の殺意を放ちながら、突き上げるように――最期まで決して離さなかったガンツソードを突き出す。弾丸のように刀身を伸ばし――

 

 

 

 

 

 その時、暗闇の黒を裂くように――――白い少年が両者の間に降り立った。

 

 

 

 

 

「――――ッ!? 貴様……っ!?」

 

 思わず黒金は拳を止め、忌々しげに歯を食い縛りながら睨み付ける。

 

 だが、その白い少年は、黒金のことなど見ておらず、見下ろすように、その男を、優しい笑みで見つめていた。

 

 

「…………中、坊?」

 

 

 八幡も、思わず剣を止めていた。

 

「きゃっ!?」

 

 その時、再び二人の邂逅を妨げるように、天から二筋の光が注ぐ。

 

 八幡はあやせが転送されるのを見て、中坊の姿をした謎の目の前の少年に向かって捲くし立てる。

 

「おいッ! お前は何者なんだ!! なんで中坊の姿をしてる!? 答えろ!! 教えてくれ!!」

 

 だが、白い少年は、八幡の質問には答えず、こう言った。

 

 

「――きっと、もうすぐ分かるよ」

 

 

 そして、八幡が更に言葉を続けようとして、それを遮るように、こう続けた。

 

 八幡の視界が、上からどんどん減っていく中、白い少年の言葉は、八幡の耳にこう届けられた。

 

 

 

「カタストロフィは近い。それまでに“彼”を生き返らせて。必ず、彼はあの終焉(クライマックス)に必要になる――――」

 

 

 

――――ブツンッと、途切れる。

 

 

 

 そして、比企谷八幡は、一つの戦争を終え――新たな戦争へと送られた。

 

 

 

 これで、八幡は三日連続の戦争(ミッション)――終わりが始まっている証拠だった。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 八幡が転送されるのを見届けると、白い少年の背後から、低い声が響いた。

 

「――おい。昨日に続いて……随分と嘗めた真似してくれるじゃねぇか」

 

 その言葉に、白い少年がゆっくりと振り向くと、そこには――見るからに激昂している最強の姿があった。

 

「……白いパーカーのガキ……ま、まさか、コイツ! 昨日、黒金さんと氷川さんの二人がかりでも殺せずに逃げられたっていうパラサイ――ひぃぃ!!」

 

 取り巻きの一人が白い少年を指さしてそう喚くが、言葉の途中で黒金が尋常ではない殺気をぶつけて黙らせる。

 

 だが、白い少年は、そんな黒金にも全く恐怖を見せず、瞬きすらせず一定の微笑みで、黒金に向かって不敵に言う。

 

「そうだね。全く持ってその通りだ。さて、どうする? 今日はお仲間もいないけど、君一人で僕を捕まえられるのかい?」

「黙れ」

 

 これだけの取り巻きに囲まれているにも関わらず、それでも仲間がいないと言い放つ白い少年。

 それは彼等の繋がりを否定するものではなく、彼等程度の戦闘力ではいないのと同義だと断じたのだ。

 

 そして、その意味を正確に汲み取って、それでも黒金は、問題など無いと殺気で応えた。

 

 メキ、メキメキメキ、と、身体から異音を発し――――その姿を、“異形”に変えながら。

 

「貴様など、俺一人で十分だ。――昨日の戦いも、お前は終始逃げ惑うばかりだったが、お前は俺より強ぇのか?」

「……………………」

 

 白い少年は、何も言わない。

 

 ただ、その張り付けられたような微笑みで、黒金が怪物へと変わるのを――戻るのを、その場でじっと見上げているだ。

 

 取り巻き達は黒金が“()()()()()”するのと同時に、一目散に逃げだした。

 

 正真正銘の一対一となったこの状況で、黒金は言う。

 

「それに、一つ言っておくぞ。――俺は、お前を捕まえるんじゃねぇ」

 

 弱者を嘲笑するように上から目線で――圧倒的な強者の自負を持って。

 

 

 

「殺すんだ」

 

 

 

 瞬間、白い少年の頭部が、花開くようにバッと裂けた。

 

 そして、その戦いの号砲の如く――――落雷が、降り注ぐ。

 

 

 

 怪物と、怪物の戦いは――――まだ、終わらない。

 




次回、ようやくあの部屋へと帰還です(笑)。

やっと主人公たちが合流です。

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