比企谷八幡と黒い球体の部屋   作:副会長

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まずはいつものお約束。脳内爆弾のお時間です。


そして、問答無用の戦争が幕を開ける。

 八幡や和人が転送される少し前。

 

「……こ、ここは?」

 

 潮田渚が目を開けると、そこは見知らぬ屋外だった。

 

 ぐるりと周りを見渡す。いや、そこは確かに屋外だったし、初めて訪れる場所であったが、知識としては知っている場所だった。

 

「……幕張?」

 

 目の前には全国的に有名な大型展示場――千葉の幕張であることはすぐに分かった。

 

「おう、渚」

「東条さん……」

 

 呆然とする渚に背後から声を掛けてきたのは東条だった。

 

「はは! やっぱり渚も来たか。それにしてもすげぇな。いつの間に瞬間移動できるようになったんだ?」

「別に自力でテレポートしたわけじゃないよ……」

 

 超サイヤ人じゃあるまいし。

 渚が苦笑していると、東条は首を傾げながら、渚が手に持っているそれを指さす。

 

「ん? お前、それどうしたんだ?」

「え……あっ! な、なんでもないよ! ははは……」

 

 渚はサッとその手に持っていたものを背中に隠し、ズボンのベルトにそれを――黒刃のナイフを差し込む。

 誤魔化すように空笑いする渚を東条は不思議そうに見ていたが、ふいに少し遠くからはしゃぎ声が聞こえて、二人ともそちらに目を移す。

 

「おい、ここ幕張じゃね? もしかして千葉じゃね!?」

「もしかしなくても助かった……?」

「なんだ普通に帰るじゃねぇか。なんだったんだよさっきのぉ~」

「どうでもいいって。もう眠ぃし帰ろう~ぜ」

「……帰れる……また家族に会えるんだ!」

 

 そこにいたのは、あの部屋に一緒に集められて、渚よりも早く転送された者達。

 程度の大きさはあれど、皆あの奇妙な部屋から解放され、無事に帰れることに安堵しているようだった。

 

 渚はそれを呆然と眺め、ポツリと呟いた。

 

「……かえ、れる……?」

 

 だが、渚の心は彼らほど爽やかな解放感に満ちているわけではなかった。

 何か胸にしこりの様なものが残っているというのか、何か大事なものを見過ごしている感じが拭えなかった。

 

 ……そう。有体に言って、嫌な予感が。

 

(……本当に、帰れる……? こんなにも、あっさりと?)

 

「……渚? どうかしたか?」

「……ううん。なんでもない」

 

 渚はその言葉と共に首をふるふると振って、自身の中の嫌な予感を吹き飛ばそうとした。

 

 すると、遠くから一際はしゃいだ声が上がる。

 

「おい! すぐそこに駅があるぞ! これで帰れる!」

 

 その若者が指さすのは、確かにそれなりの大きな駅。多くのイベントで利用される施設が近くにある関係上、ここから分かりやすい場所にそれはあった。

 

 あの展示場は全国的にも知名度の高い有名な場所だ。現に今も恐竜関係の展示会をやっているようで――イベント自体はすでに本日は終了しているようだが――公共の交通網は充実していて、乗り継いでいけば各人確実に自分の家に帰れるだろう。

 

 彼らは一様に階段を駆け下りていく。

 階段を降りて少し進めばそこはもう駅だ。近くにはタクシー乗り場もある。時間的にまだ走っているか分からないがバスの停留所もあった。

 

「どうする、渚。俺達も帰るか?」

「…………そう、だね」

 

 普通に考えたら、ここで帰らないという選択肢はないはずだ。

 もしかしたら、先程のあの部屋の光景はただの夢だったのかもしれない。

 

 あの、母親(あのひと)に首を絞められて殺されたことも……もしかしたら――

 

 渚は自分の首に手を当て、考える。

 もしかしたら、自分はまだ家に帰っていなくて、今頃家ではあの母親が鬼のような形相で待ち構えているのかも。それなら一刻も早く帰らねば。また面倒なことに――

 

――苦しい。苦し過ぎる言い訳なのは分かっている。

 だが、これだけ突拍子もない出来事が立て続けに起きたら、その信憑性は“全部夢でした”とどれほど違う? 確率でいったらほぼ同じ――いや、下手すれば後者の方がはるかに高いのでは?

 

(……それともこれは、全部、この胸に渦巻く嫌な予感を否定したい、ただの僕の願望なのかな……)

 

 渚と東条はゆっくりとした足取りで、駅の方角へと歩いた。

 

 東条は両手を頭の上で組みながら「今日は星が綺麗だな」とか言っているが、渚の耳にはほとんど入っていなかった。

 

 やがて、階段を降りていると、唐突にそれは、渚の頭の中に響いた。

 

 

ピンポロパンポン ピンポロパンポン

 

 

「……え?」

「あれ? 風邪か? なんか、着メロみたいな耳鳴りが聞こえるんだが」

「いや、その耳鳴り斬新すぎでしょ。……いや、僕も聞こえるんだけど」

 

 渚が両耳を押さえ、東条が耳に入った水を抜くような動作で不快感を表していると――同じような動作を、前方にいる人達が全員しているのに、渚は気付いた。

 

「……なにこれ?」

「すげぇウザい」

「誰の着メロだよ~」

「なんかデカくなってね?」

 

 その様子を見て、渚はピタッと立ち止まる。

 

「……渚?」

「……ダメだ」

 

 渚の嫌な予感はピークに達した。

 焦りと共にどんどん大きくなる心臓の鼓動に突き動かされるように、唇を細かく震わせながら、渚は、ついに叫んだ。

 

 

「それ以上……ッ! 行っちゃダメだ!!」

 

 

 パァン、と乾いた音が響く。

 

 

 それは、まるで膨らみ過ぎた風船が破裂するような、儚い破裂音だった。

 

「――――え」

 

 誰かがポツリと呟く。

 

 一人の人間の頭部が、バラバラに吹き飛んでいた。

 

「……あ……あ……」

 

 渚は怯えるように後ずさる。

 後ろの階段に足を取られ、座りこむように倒れた。

 

 その動きにまるで合わせるかのように、頭部を失った人体が、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。

 

 それを契機に、恐怖が爆発した。

 

「キャァァァァアアアアアアアアア!!!!!」

「お、おい! なんだよ! なんなんだよコレ!!!」

「ぎゃぁぁぁああああ!!! 助けて!! 助けて!!!」

 

 彼らは完全にパニックに陥った。

 

「どうなってんだ、これ……」

 

 さすがの東条もこれには神妙な顔で戸惑う。渚は顔を青くし座り込んだままだった。

 そして他の人達は一刻も早く逃げようと――“駅に向かって”走り出す。

 

「ッ!! だ、ダメだ!! 戻って!!」

 

 そんな渚の声も届かずに、彼らは一目散に走る。

 

 そして、悲劇は連鎖した。

 

 

 バァン!! バァン!! バァン!! と、次々と頭部を炸裂させ、鮮血の華を咲かせていく。

 

 それは、まるで背後から銃撃されているかのようで、一人、また一人と、儚くその命を散らせていった。

 身近な人が死に絶える度、隣を走る人間が弾け飛ぶ度、恐慌はますます途方もなく大きくなり、取り返しがつかなくなっていった。

 

 渚が再び口を開く。が――悔しげに、何も言えずについに俯いてしまう。

 

 

「お前らこっちだ!! 戻って来いッッ!!!」

 

 

 喧騒が、止んだ。

 

 渚の傍らに立つ男――東条英虎の一声で、あれだけ収拾がつかなくなっていたパニックは完全に収まり、みな一様に東条を見上げていた。もちろん、渚も。

 

 対して東条は、それ以上何も言うことはなく、

 

「……渚、戻ろうぜ。……そうしないと不味いんだろ?」

「あ、う、うん」

 

 くるっと振り返り、階段を上って、元居た場所に引き返した。

 

 渚は一度彼らのをことを振り返ったが、恐る恐るといった感じで、みな階段を上ってきていた。

 

 それ以降、誰も頭を吹き飛ばす人間はいなかった。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 転送が終わった時に、その建物を見上げた瞬間、俺は思わず地に膝を着いた。

 

「…………ま、幕張、だと……」

 

 我が心の故郷にして体の故郷でもある愛すべきCHIBAもとい千葉の超有名スポットであり、全国的な知名度を誇る、あの幕張の大型展示場だった。

 

 ……これは、やったぜホームグラウンドだひゃほ~! とテンションを上げるべきなのか、それとも愛すべき千葉が戦争の戦場になってしまったと嘆くべきなのか。

 

 そんなことを考えていると、遠くから悲鳴が轟いた。

 

 

「キャァァァァアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 ……それを聞いて、俺の少し舞い上がった心は一気に冷めた。

 駅方向から聞こえたということは、おそらくは帰ろうとしてエリア外に出て、頭が破裂したんだろう。

 

 悲鳴が連鎖する。……一体、何人が死んだんだろうな。

 

 これは、俺が殺した人間達の断末魔の叫びだ。

 

 俺は自分が余計な重荷を背負うのを疎んだ。それだけの理由で、これだけの人間を見殺しにした。切り捨てたんだ。

 

 少なくとも、エリア外に出る――こんな初歩的なことは前もって諌めておけば、防げた犠牲だったんだから。

 星人に殺されるなら兎も角な。

 

 ……遅かれ早かれ、生き残った連中はこっちに逃げ出してくるだろう。早めに移動しよう。

 またさっきの真っ黒達みたいに、俺のことに気づかれるのは面倒だ。

 

 そうだ。俺が何人もの人間を切り捨てたという事実は、すでに揺るがない。

 

 俺が出来ることは、さっさとこのミッションを終わらせることだ。

 

 ……それまでに、何人生き残るだろうな。

 

 そして、俺がマップを見て星人の居場所を確認していると――

 

 

「お前ら、こっちだ!! 戻って来いッッ!!」

 

 

「――!?」

 

――唐突に、悲鳴が止んだ。

 

 ……なんだ、今の。

 

 俺が思わず駅の方向を振り向くと、さっきまであれだけ轟いていた悲鳴がピタッと止んでいることに気づいた。

 

 確かに、いずれエリアの外――つまり駅などに向かって帰ろうとしたら、頭が破裂することに気づくだろう。

 

 だが、こんなにも唐突に、一気にパニックが収まるものなのか?

 

 ……もしかして、さっきの声で――

 

 そして、見た。

 

 

 一番最初に階段を上がってきたのは、水色髪の少年に、金髪巨躯の虎のような男。

 

 あの部屋に俺と共に最後まで残された、黒髪少女と真っ黒男と共に、あの部屋に一番早く送られてきた二人だった。

 

 

【こんドは いっぱい強いのも あツメたよ】

 

 

「…………」

 

 俺は、彼らがこっちに気付く前に透明化を発動し、逃げるように身を隠す。

 

 そして、マップに示された赤点へと――――目の前の巨大な展示場の中へと向かった。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 八幡が展示場内へと足を踏み入れた時、入れ違うように漆黒のスーツに身を包んだあやせと、同様のスーツを身に付けて近代SF風のモノホイールバイクと共に和人が転送されてきた。

 

「あ、あれ?」

「こ、ここは……?」

 

 戸惑う二人は辺りを見渡す。

 あやせは「……ここって、幕張?」と自らの生活圏内であることに驚き、対して和人は――

 

(……なんか、持ってきちゃったけど……大丈夫、だよな……)

 

 と、自分が想定外に持ってきてしまった大きな荷物(モノホイールバイク)にどうしようと思う反面、自らが置かれている状況を冷静に把握しようとする。

 

 まず、ここは屋外だ。それに、目の前の大きな建物からして、場所は千葉――幕張。

 

 確かに、あの男が言うように、VRMMOのようなファンタジーな仮想世界ではなく、現実の実在地のようだ。

 

 とりあえず和人とあやせは近くに寄り合い、意見を交換する。

 

「……これって、どういう状況なんでしょう? ……帰っても大丈夫、なんでしょうか?」

「……いや。詳しいことが分からない以上、迂闊な行動はしない方がいいと思う」

 

 そうして和人はあやせに向き合って答えるが、すぐに顔を背ける。

 あやせは不思議そうに首を傾げていたが、ボディラインをピッタリと表すガンツスーツは、文字通りのモデル体型であるあやせが着ると、思春期男子にとってはかなり目のやり場に困る仕様となっていた。

 

「? ……どうかしたんですか?」

「あ、いや、えっと……こ、この恰好! アイツに言われるがままに着たけど、こうして普通に屋外に出たら目立つなって思って」

「そうですね、なんか恥ずかしいです。……でも……あ、えっと」

「ん? ああ。俺の名前は桐ケ谷和人だ」

「そうですか。わたしの名前は新垣あやせです。……それで、桐ケ谷さんは……確か着替える前も真っ黒でしたよね?」

「…………」

 

 あやせは純粋に疑問を言っただけなのだろうが、和人にとってはモデルに私服をダメだしされたような気持ちになって、これからはこまめに洗濯して上下黒だけはなんとしても避けようと心に誓ったのだった。

 

 和人が自身のアイデンティティを否定されて思った以上のダメージを受ける中、和人とあやせの所にあの二人が合流した。

 

「あ、桐ケ谷さん。あれって――」

「……確か、俺達と一緒にあの部屋に集められた――」

 

 目が合った二人は、こちらに向かって歩み寄ってくる。

 一人は水色の髪の小柄な少年。

 もう一人は、逆立つ金髪で大柄な虎の様な男。

 

 水色髪の少年は、探るように和人に話しかける。

 

「……お二人もここに送られてきたんですね」

「ああ。っと、そういえば、自己紹介してなかったな。俺の名前は桐ケ谷和人。十七歳だ。そして――」

「わたしは、新垣あやせ。十五歳の高校一年生です」

「僕は潮田渚です。中学三年の十四歳です」

「俺は東条英虎だ。十六の高二だ」

「「十六歳!?」」

「年下!?」

「ん? そうだ」

 

 東条の年齢を聞いた瞬間、あやせと渚は大声で驚愕した。特に和人は目の前の巨漢が自分よりも年下ということに絶句している。(後で八幡も同様のリアクションをすることになるのだが、それは後の話である)

 

 見えない。貫録あり過ぎ。三人は無言で意思を疎通した。

 

「と、とにかく、今はこれからどうするか話し合いましょう」

 

 いち早く復帰した渚が、露骨に話を変える。あやせも苦笑しながら頷いた。

 

「……ところで、お二人が着ているのって……あの人が着ていたスーツですよね?」

 

 渚の言葉に、あやせと、そしてようやく衝撃から立ち直った和人が答える。

 

「……ああ。アイツが言ったんだ。これから“俺達は命懸けの戦争(ゲーム)に送られる”、“死にたくなければこれを着ろ”って。……具体的にどういう意味なのかは分からないけど」

「……ええ。ここって、どうみても幕張ですし。……帰る気になれば帰れるんじゃ――」

 

 

「――いえ、それはないです」

 

 

 あやせの言葉を、渚が青く表情を失くした冷たい顔で首を振って否定した。

 あやせはその豹変に少し怖がりながら訝しみ、和人は目を鋭く細めて問い詰めた。

 

「……どういうことだ?」

「……さっき、僕たちみたいにあの部屋からここに送られてきた人達が、帰ろうとして駅に向かって走っていったんです。……そしたら、頭の中に着メロみたいな音楽が流れて……」

「……着メロ? ……それで、どうしたんですか?」

 

「…………頭が、爆発しました……ッ」

 

 渚が俯き、震えながら言ったその言葉に、和人とあやせは困惑する。

 

「ば、爆発?」

「そ、それってどういう意味だ?」

「そのままの意味だ」

 

 震える渚に変わって、東条が答えた。

 

「駅に向かって走ってった奴等の頭が、急にバァンとふっ飛んだんだ。それで、こっちに来れば安全だって渚が気づいて、アイツ等をこっちに呼び戻したんだ」

「……呼び戻したのは東条さんですよ。東条さんのおかげです」

 

 左手で渚の頭をクシャクシャに撫でる東条が右手の親指で後ろ手に示す先には、ウロウロと、駅の方ではなく敷地内中央に向かって伸びる幅の広い階段を彷徨っている大人達がいた。だが、確かにあの部屋にいたけれど見えない顔もちらほらある。

 

「……それって、死んじゃった、ってことですか?」

「…………」

 

 あやせが呆然と呟いた言葉に、渚は痛ましげに顔を俯かせる。

 それを見て悟った和人はギリッと歯噛みし、そして――

 

「――アイツを探そう」

 

 顔を上げて、そう宣言した。

 

「アイツって……」

「あの人、ですか?」

「……僕たちよりも先にあの部屋にいて、初めからスーツを着ていた……」

「ああ」

 

 そう言って、和人は拳を握り、その手を見つめながら呟く。

 

「……アイツはきっと、この後に何が起こるのかを知ってる。その為にも、アイツを見つけて、話を聞き出すことが第一だ」

「……そう、ですね」

「……そういえば、あの人はどこにいるんでしょうか?」

「……少なくとも俺達よりは先にこっちに来てるはずなんだが。……潮田。見なかったか?」

「渚でいいですよ。……いえ。こっちに上がってきたときは、すでにお二人がいましたし」

 

 四人が八幡を探すべくプランを練っていると、不意にあやせがあるものを発見する。

 

 

「――え? あ、あれって……」

 

 

 あやせは驚愕に表情を彩りながら、展示場へと続く通路を指さした。

 

 和人や渚、東条もつられるように目を向けると、そこには――

 

 

――麦わら帽子に袖なしのTシャツを身に纏い、虫取り網を持った少年がいた。

 

 

「あ、あれって――」

「……あの、黒い球体に出てた」

 

 和人は思い出す。黒い球体に示された、あの言葉。

 

【てめえ達はこいつをヤッつけてくだちい】

 

 そして、八幡の、あの言葉。

 

『――これから俺達は、命懸けの戦争(ゲーム)に送られる』

 

「あ、あれって、人間、なんでしょうか?」

「い、いやでも……」

「なんかおかしくねぇか?」

 

 姿形は、まさしく人間――人型。

 

 だがそれは、まるで不気味の谷のように、下手に人間に似ているからこそ、恐怖と生理的嫌悪感を見る者に与える存在だった。

 

 和人は――その《かっぺ星人》が、あの黒い球体に“ターゲット”として指定された存在が、目の前に確かに存在しているのを見て、そして、あの八幡の言葉を思い出して、ある仮説を立てる。

 

(……そういう、こと、なのか)

 

 

『懸けるものは、“新たな自分の命”――死んだらそこで“死亡(ゲームオーバー)”の、命懸けの“戦争(デスゲーム)”だ』

 

 

「……戦争って……殺し合いって……まさか、そういう――」

 

 

キュィィィイイイイン

キュィィィイイイイン

キュィィィイイイイン

 

 

 突如、かっぺ星人を凝視していた四人の背後から、何かの哭き声が響いた。

 

「な、なに!?」

「一体、どうしたの!?」

 

 四人は勢いよく振り返る。そこには――

 

 

「な、なんだよこれ!?」

「どうなってんだよ!!」

「ぐぁぁぁああ!! 痛ぇぇえええ!!!」

 

 

「……恐、竜?」

 

 渚はポツリと呟いた。

 

 

 そこでは、行き場もなく彷徨っていたあの部屋にいた大人達が、無数の恐竜に襲われていた。

 

 その状況は、まるでハリウッドのパニック映画のようで、全く現実感がない。

 

 だが、紛れもなく、現実だった。

 

 現実で、目の前で起きている戦争(ゲーム)だった。

 

 人が、殺されている。

 

 恐竜――ヴェロキラプトルの鋭い牙が、爪が、尾が、人体を次々と破壊する。

 

 獰猛に、貪欲に、飽きることなく人間達に襲い掛かっている。

 

 人間は逃げ惑い、悲鳴を上げ、泣き叫ぶことしか出来ない。

 

 その惨状に、けれど間違いなく自分たちの眼前で繰り広げられている惨劇に、あやせは顔を真っ青にして口を押さえて、悲鳴を堪えている。渚は震えながらも無意識の内に背中のナイフに手を添えて、東条は無表情に、けれど悠然とその一歩を踏み出した。

 

「…………けるな……」

 

 だが、その低く冷たい呟きに、足を止めた。

 

 そして、あやせ、渚と共に、その呟きを発した――和人に目を遣る。

 

 和人はバッと顔を上げ、表情を歪め、そして大声で叫びながら、その戦場へと突っ込んだ。

 

 

「ふざけるなぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 同時刻、展示場内。

 

 バチチチチと透明化を解除した八幡は、目の前の敵を“見上げながら”呆れるように苦笑した。

 

「……まったく。出鱈目だな」

 

 そこにいるのは、世界で最も有名な恐竜の一つである、トリケラトプス。

 

 Triceratops(三本の角を持つ顔)の名の通り、特徴的な一本の鼻角と、目の上にある二本の上眼窩角は健在で、現代の生物では出せない禍々しい迫力を放っている。

 

 もう一つの大きな特徴である後頭部から首の上にまで伸びたフリルは、まるで相手を威嚇するかのように、圧倒的な威圧感を見る者に――八幡にビリビリと与えている。

 

 それはいい。それはまだいい。そこまでは、事前に知っていたトリケラトプスとなんら食い違わない。

 

 

 だが、目の前のコイツは二本足で立っていた。

 

 

 つい先程までは典型的なトリケラトプスだったのに、どこで逆鱗に触れたのか、突然二本足で立ち上がり、それに従い、腕や足がより太く逞しくなり、筋骨隆々のファイターへと生まれ変わっていた。

 

「……久しぶりだな。こんなに背筋が凍るのは」

「トリケラサン……グルルルツーテンカクコロロロロ」

「何言ってか分かんねぇよくそ」

 

 ガシャン! と、八幡はXショットガンの装填を行う。

 

 そして、不敵に笑いながら、目の前のトリケラトプスの怪物に向かって突っ込んで行った。

 

 

 

 残り時間――56分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残る星人の数――――50体。

 




 次回からはめまぐるしく視点が変わってしまいそうです。まぁ、今回もそうでしたが。
 なるべく混乱しないように、分かりやすく場面描写を書けるように頑張ります。

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