比企谷八幡と黒い球体の部屋   作:副会長

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 前回、サブタイトルを入れ忘れたので、改めて入れました(笑)。

 今回から、徐々に千手編はクライマックスに向かいます。


満を持して、その刺客は現れる。

 達海が大仏を撃破したことにより、とりあえず一つの大きな関門は突破した。

 

 俺はマップを出して現状を把握する。

 

 とりあえず、9体居た2m程度の仏像は、5体にまで減っていた。

 

 そして、離れた場所に5体。残りは10体か……。大仏みたいのじゃなくて、雑魚ばかりならなんとかなる、か。

 

 残り時間は――あと、30分くらいか。それでもまだ半分残っているのか。

 今回は敵も強いし面倒くさいが、それでもエリアが狭いからな。移動時間が少ないし、大仏くらいにしか苦戦してないから、思ったよりも時間は残っている。

 

 ……よし、いける。いけるぞ。勝てる。帰れる。

 

 今回も、絶対に生き残る。

 

「――葉山。……あと、達海」

「え!?――あ、ああ。なんだ、比企谷」

「ん、なんだぁ?」

 

 俺の問いかけに、葉山は怯えが入った様子で、達海は血走った爛々とした目で答える。

 

 ……やっぱり、ここは――

 

「マップによると、残りの星人は10体だ。ここにいる5体と、離れた場所にいる5体。……時間は、残り30分だ。絶望的ってわけじゃないが、余裕があるわけでもない。――だから、思い切って2つのチームに分かれないか?」

 

 俺の意見に、葉山は難しい顔をする。

 

「――危険、じゃないか?」

「……確かに、リスクを考えると0とは言えないが、大仏のような別格の奴がいない限り大丈夫だと思う。……少なくともあの2m級どもは、スーツ組なら一対一で勝てる。……問題はまだ見ぬ5体の強さだが――」

「いいんじゃねぇか?」

 

 そう言って、達海はXショットガンを肩に背負って言う。

 

「リスクっていうなら、無駄に戦いを引き延ばすのも、十分にリスクだ。タイムオーバーになったらどうなるか分からねぇんだから。だったら、そこいらの雑魚を相手にしている間に、偵察の意味でも何人か送り込んだ方がいい」

 

 ……おお。達海がずいぶん、それっぽいこと言ってる!

 なんだ、単細胞のバトル馬鹿かと思ったら、ちゃんと頭使え――

 

「そして! その役目は俺が引き受けた!!」

 

――なんだ。ただ、戦いたいだけか。

 

「俺がその5体の強さを見定めてきてやる。ついでにアイツらも連れて行くさ。慣れない戦いで疲れてるだろうし、そろそろ限界っぽいぜ」

「……そうだな。あの2m級の相手は俺たちが代わる。……でも、危なくなったら、すぐに逃げろ。特攻仕掛けなきゃならない程には、まだ俺たちは追い詰められてねぇんだからな」

「ああ。分かってるって」

 

 ……危ねぇな。なんか。

 笑顔が完璧すぎて、逆に危うい。

 

 なんていうか、強い奴と戦いたくってしょうがねぇて感じだ。雑魚退治よりもそっちを選んだのはそういうことだろうな。なんなんだよ、コイツ。地球育ちのサイヤ人なの?

 

 そんなことを考えてると、達海は一段高いところに乗って、2m級と戦っている新人たちに向かって叫んだ。

 

「お前ら!!よく頑張った!!そいつらの相手は、ここにいる先輩たちが引き受ける!!お前たち新兵は、これから俺と一緒に新しい敵の偵察だ!!黙って俺についてこい!!」

 

 何、このキャプテンシー。麦わら帽子のゴム人間なの?もうコイツの主人公感が止まらない。惚れそう。

 

「うおおおお!!かっけーー!!!」

「ついていくぜ、ヒーロー!!!」

「オウ、アメージング!!」

「……ふっ。やはり、アイツは、俺と並ぶ強者……ごふっ」

 

 大人気だった。達海は、知らない間に新人たちのヒーローになっていた。

 まぁ、あれだけ分かりやすく活躍すればな。そうなるか。……にしても、ミリタリー勝ったのか。侮れないな。一人だけ別格にボロボロだが。

 

「じゃあ、行ってくるな!」

「ああ。……くれぐれも気を付け――って早っ!」

 

 もうあんなところに!なんなんだよ、アイツの溢れる少年感!どれだけジャンプ臭出せば気が済むんだよ!

 

「あ、達海くん!」

「折本」

 

 達海の後を折本が追いかけようとする。それ自体は止めはしないが、どうしても釘は刺しておきたかった。

 

 ……正直、今のアイツは死亡フラグが立ち過ぎだ。……あの時の中坊が頭を過ぎりまくる。

 

「分かってるよ」

 

 だけど、俺が何を言う前に、折本は力強く頷く。

 

「達海くんは、絶対に死なせない」

 

 そう言って、折本が達海の後を追い――その後を達海信者のルーキーズが追う。……なんか、ここだけ見ると折本のおっかけみたいだな。

 

 まあ、遊びは終わりだ。

 

 俺は、透明化を発動しXガンを構える。

 

「それじゃあ、俺たちはこの5体をさっさと倒しましょう」

「そうね。なんか、ちょこまかと動き回るから面倒くさそうだけど」

「油断せずに行こう。コイツらも星人なことには変わりないんだから」

「そうだね。……私に倒せるかな?」

 

 5体だから、屋根の上のつなぎさんも入れて、一人一体か。

 葉山の言う通り、油断しなきゃ、おそらくは大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 ……あれ?誰か、忘れているような――

 

+++

 

 

 

 

 

「おいおい、お前らおっせぇぞ。先に入っちまおうかと思ったじゃねぇか」

 

 マップが示していた場所は、敷地内の左奥にあった、本堂の4分の1程度の大きさの離れのような場所だった。

 

 その入口の前に仁王立ちする達海。彼の自由過ぎる行動についていくため全力疾走をした折本と新人4名は、膝に手を着いて息を切らしている。特にスーツを着ていない白人格闘家とミリタリーはしんどそうだ。ミリタリーに至っては人体から発せられているとは思えない奇怪な呼吸音を鳴らしている。

 

 折本は、改めて達海の様子が普段と違うと感じている。

 普段の達海は、たしかに男子達の中心で馬鹿騒ぎするような人物ではあったが、ここまで周りを振り回すような子供っぽい人物ではなかった。

 

 これが、達海の本来の姿なのだろうか。

 普段の学校生活でもキャラクターを作っているわけではないのだろうが、今の状態はいうならば欲望に素直になったというか。

 

 欲望に素直。

 その言葉が浮かんだ時、先程の狂気に憑りつかれたかのような達海の姿が頭を過ぎる。

 あれも、達海の本性の一部なのだろうか。

 

「よし、入るぞ」

 

 達海は、扉を開ける。

 折本は、強烈な不安を押し隠しながら、その背中の後に続いた。

 

 

 

 そこに、無残な死体となったリーマンがいた。

 

 

 

「――――え?」

 

 折本の掠れた声が漏れる。

 

「うわ、なんだこれ!?死んでんじゃねぇか!?」

「おいコイツ、あの部屋にいたお経唱えてたオッサンじゃね!?」

 

 ラッパーとボンバーが驚愕し、騒ぎたてる。

 白人も顔を引き攣らせ、ミリタリーは顔を真っ青にしている。

 

 無理もない。死体だ。人の死だ。

 いくら今回の新人たちが曲者揃いとはいえ、彼らが今回間近に見る死は、これが初めてだ。

 

 動揺する。混乱する。恐怖する。

 

 だが、ただ一人。

 嫌でも目を奪われざるを得ない残酷で凄惨な死体に見向きもせず、ある一点を見据えている男がいた。

 

 

 彼――達海龍也は、目の前の仏像――千手観音を、獰猛な笑みを浮かべながら凝視していた。

 

 

 その時、千手観音の目が妖しく光り――

 

 

――彼を守るように囲んでいた4体の2m級の仏像たちが始動した。

 

 

「おいおいおいおいおいおい」

「くっ、なんだよ、コイツら!」

「オーマイガッド!!」

「あばばばばばばばばば」

 

 新人たち4人は、それぞれ2m級と戦う。

 

 先程、それぞれ星人を一体ずつ撃破した彼ら(うち一人はつなぎが代わりに倒したので撃破していないが)だが、この2m級は、先程よりも明らかに強い。

 

 なぜなら彼らは、いわば千手観音の側近。特別製の個体。

 

 そして、そんな彼らを付き従える千手観音は、ゆっくりと動き出し――

 

――ふわっと、まるで浮いているかのように跳躍し――

 

――音もなく、達海の前に降り立った。

 

 殺される。

 

 達海の背に隠れるようにしていた折本は、千手観音と目が合った瞬間、そう思った。

 

 怖い、よりも。逃げたい、よりも。

 殺される、と、そう思った。真っ先にそう感じた。

 

 そして、遅れるように襲ってくる強烈な恐怖心。

 

 田中星人よりも、あの10m近くあった二体の仏像よりも、そして先程の大仏よりも。

 

 怖い。絶対に、強い。殺される。

 

 折本はそう感じ、ガタガタと恐怖し、涙がこぼれ落ちた。

 

「――折本」

 

 折本は、はっと顔を上げる。

 そうだ。ここには、達海がいる。

 

 いつだって自信満々で、不敵に笑って、ついさっきもあの大仏を打倒した。

 

(そ、そうだ。達海くんがいれば、きっとなんとか「逃げろ」――――え?)

 

 

「逃げろ、折本。……比企谷を、助けを呼んでこい。コイツはヤバい」

 

 

 そう言った達海は、相変わらずの獰猛な笑みを浮かべていたが、その額には(背後にいる折本からは見えなかったが)、一筋の冷や汗が浮かんでいた。

 

 そして達海は、それでも達海は、千手観音に戦いを挑む。

 Xショットガンをガシャンッと力強くリロードし、千手に向かって一気に駆け出した。

 

「ど、どういうい――「グァァァァァァァ!!!」――!!」

 

 折本は、悲鳴の上がった方向に目を向けると、あの白人の格闘家が蹲っていた。

 

 その腕は、本来関節のない部分で不自然に曲がっていて、明らかに骨折していることが分かる。

 

「ひ――」

 

 その生理的嫌悪感が生じるグロテスクな光景に、折本が思わず悲鳴を上げそうになった瞬間――

 

くき

 

 と、まるで枯れ木が折れるような、人一人の命が失われたとは思えないあまりにも呆気ない音とともに、白人格闘家の首の骨がへし折られ、顔面が在り得ない方向を向いた。

 

 その断末魔の表情が、ちょうど折本の方へと向き直り、そのまま垂れ下がる。ぶら下がる。

 もはや表皮のみで体と繋がっているその頭部は、明らかに白人格闘家の生命活動が停止していることを如実に顕していた。

 

 次々と起こるショッキングな映像に、折本の精神はすっかり悲鳴を上げるタイミングを失くす。

 

「うわぁぁぁあああああああ!!!」

 

 だが、再びどこからか上がる悲鳴。

 

 そして、その発生源とは見当違いの場所――折本かおりが棒立ちするすぐ近くに、ドゴッと何かが落下する。

 

 腕だった。

 Xショットガンを握りしめたまま、切断された両腕。

 

 遅まきながら悲鳴の上がった方向を見ると、苦悶の叫びを上げながらミリタリーがのたうちまわっている。彼に両腕はついてなかった。

 そんな彼を見下ろしていた星人は、無感情に、仏像らしい無表情で、人間が蟻を殺すように、彼の頭部を踏みつぶした。

 

 また、死んだ。

 

「がぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

「うわ!!いやだ!!やめて!!死、死にたくな――」

 

 もう嫌だ。見たくない。聞きたくない。知りたくない。死にたくない。

 

 ドサッ ドサッ と重々しく響く――――数十キロの物体が、一切の抵抗なく地に倒れ伏せる音。

 

 目を向けなくても分かる。

 

 また死んだ。殺された。みんな、みんな、殺された。

 

 あっと言う間に殺された。この部屋に入って、まだ一分経つか、経たないか。

 

 そんなわずかな時間で、4人もの人間が殺された。4つもの尊い命が失われた。

 

「い、いや……た、達海――」

 

 ドサッ

 

 折本は、自分の目の前に落ちた“それ”に目を向ける。

 

 それは、達海龍也だった。

 息が荒く、スーツも音を立てて駆動中だが、明らかに“負けていた”。

 あの、達海が。

 

 前を見ると、達海と違って“無傷”の千手観音。

 

 折本は、絶望に目の前が暗くなる。

 

 ダメだ。このままじゃ。ダメ。ダメ。いや。死ぬ。いや。いや。ダメ。いや。

 

「……ろ……」

 

 かすかに聞こえる、声。

 

 折本は、恐る恐る下を向き、耳を傾ける。

 

 やはりそれは、ボロボロの達海から聞こえるものだった。

 

 

「……にげろ……折本……逃げろ……」

 

 

 体が勝手に動いた。

 達海の言葉に感化されたのか、ガンツのミッションに適応しかけていた体が危機に自動的に反応したのかは分からない。

 

 だが、危ないと思った。何か仕掛けてくると感じた。

 

 故に折本は、Xガンを前方正面の千手観音に対して発射した。

 

 そして、そのまま特攻する。達海の前に出て。彼を背中に守るように。

 

 

 だが、千手は剣を交差するようにして、Xガンの攻撃を防いだ。

 

 

 折本は目を見開く。

 今まで、Xガンの攻撃をものともしない敵は存在した。先程の大仏がそうだ。

 

 だが、銃撃そのものを防ぐ敵などいなかった。だって、これを防がれたら、私たちは、一体どうやって――

 

 そして、それだけでは終わらなかった。

 

 千手は、交差した剣を開くようにして、銃撃を――目に見えない衝撃波を、弾き返してきた。

 

「グッ!」

「折本ぉ!!」

 

 そのまま入口横の壁まで吹き飛ばされる。

 

 折本は衝撃に息が出来なくなるも、どうやらスーツは壊れてないようだと、一安心し――

 

 

――――千手観音の手元が光ったのを感じた。

 

 

 一瞬の疑問の後、腹部を強烈な痛みが貫く。

 

「……え?」

 

 痛みの箇所に顔を向ける。赤い。腹部が真っ赤に染まっている。

 じんわりと傷口が熱を持ち、反対に体が寒くなるのを感じる。

 

 よくドラマとかで見る拳銃で撃たれた被害者とかはリアルだとこんな気持ちなのかな、なんて場違いなことを考える。

 

「……はは。マジウケる」

 

 なんだか笑えてきた。あまりに現実感がないことばかりが起き過ぎて、なにがなんだかよく分からなくなる。

 

 千手がこちらに近づいてくる。

 その数えるのも馬鹿らしくなる膨大な数の腕を広げながら。まるで威嚇するように。

 

 そして、その内の二本。多種多様の武器宝具を持ったそのたくさんの腕の中で、剣を持ったその二本を構える。

 

 折本は、もはやそれに危機感すら抱けなかった。

 

(……死ぬのかな。……だよねぇ~。私、こんなトンデモない状況でずっと生き延びられるようなスペックしてないもん。そりゃ、死ぬよ。マジ、ウケる)

 

 折本は、もはや命乞いをする気力も湧かない。

 

(……こういうのに向いてるのは、達海くんとか。……あとは、まぁ、比企谷とか。……陽乃さんは、どうやっても死ななそうだなぁ~。むしろ、一回どうやって死んだんだろう?あの人が死ぬところなんて想像できないんだけど)

 

 折本は、もはや死に対する拒否感すら湧かなかった。

 

(100点とか……無理だよ。私、まだ一体も倒してないから、0点だよ。……100点って。後、何回こんな痛い思いすればいいのさ……嫌だよ。ここいらが、私の潮時だって。……ホント、ウケる)

 

 千手は、その二つの剣を折本に向かって突き出す。

 折本は、動けない。動かない。

 

(……本当、最後まで中途半端。……何も、成し遂げてない。……笑うしかないよ。……でも、せめて――)

 

 

――しっかりと、達海くんに告白したかった。

 

 

 こんな中途半端な私が、唯一胸を張って誇れる感情だから。

 

 

 グサグサッ

 

 二つの剣は、容易くスーツを貫き、人体に二つの風穴を開けた。

 

 

 

 達海は、折本に覆いかぶさるようにして、それでも笑う。

 

 

 

「……馬鹿野郎。逃げろって言っただろ」

「……ど、どうして?」

 

 千手は荒々しく剣を引き抜き、達海はごほっと血を吐き出す。

 

 そして、その血を拭いもせずに、ふっと自嘲気味に笑って。

 

「知るか」

 

 そう言って、達海は折本にキスをした。

 

 折本は、驚きで目を瞑ることすらできず、達海はすぐに口を離し、折本の目を、優しい瞳で見つめて――ボソッと、一言告げる。

 

「――あ」

 

 折本の目から再び涙が零れ、達海は「……さっさと行け」と言い捨て、膝に力を込める。

 

「……あ……わ、わたし……」

 

 伝えなければ。この気持ちを。今、ここで。

 

 折本はそう葛藤するが、口はパクパクと開閉するだけで、音をまるで発しない。

 

 達海は、Xショットガンを杖のように突き、化け物たちと相対する。

 

 4体の星人。そして、千手観音。

 

 達海は、血を吐きながら、体に風穴をあけながら。

 

 それでも、折本を背中に守り、威風堂々と対峙する。

 

 Xショットガンを、荒々しく地に叩き付けた。

 

「――ッ!!」

 

 折本は、腹の傷を押さえながら、唇を噛み締め、涙をぽろぽろと零しながら、全速力で離れを飛び出した。

 

 達海は、口元を優しく緩ませ、そして獰猛に笑う。

 

「―――お前らは、俺の獲物だッ!!」

 

 達海は、Xショットガンを放り投げ、星人達に向かって突っ込んでいった。

 




 ……あ~。もっと上手く書けるようになりたい。

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